9 / 74
出会う
しおりを挟む紹介されたレストランの料理はどれも美味しくて、次々とくる料理はあっという間に消えていった。あまり野菜が好きだと感じたことがなかったが、ここの野菜なら好きかもしれない。
やはり朝採れた新鮮なものというのがいいのだろう。平和に過ごせるようになったら畑でも耕して暮らすのもいいかもしれない。
俺がボーッとそんなことを考えている間、リーナたちは次々にデザートを頼んでいた。一体どれだけ食べれば気が済むのか。女の甘いものへの情熱はこちらからすると少し怖いものがある。
それはルキも同じだったようで、次々と現れる甘いものに食べていないにも関わらずちょっと苦しそうにしていた。
「美味しかったわ、ごちそうさま!」
リーナのその言葉にようやく終わったかと会計に向かう。このレストランが気に入ったらしいリーナたちは、明日もまた来ようねとすでに次食べる物のことを考えているようだった。
明日は夜に作る予定のアクセサリーも売るし、少しくらい高いものを頼んでもいいかもしれない。
今日はあまり高いものはダメだと言って我慢させてしまったしな、と伝票をレジに置く。
「お会計37000エールになります。」
(37000エール!? 俺が食べたのは1000もしなかったし、ルキも900とかだったはず。まさか)
俺は動揺を極力出さないようにしながら支払いを済ませた。この後怒られると察したのか、リーナたちは不自然なほど遠くで待っている。
「おい、俺はあんまり高いものはダメだと言ったよな?」
「高いのは避けたんだけど、つい何回も頼んじゃったっていうか……。」
「結果的に高くなっちゃっただけで~……。」
「シンティアもつい食べすぎちゃった……。」
言い訳はするものの、流石に悪かったと思ったのか三人はすぐに謝りだした。まぁ宿屋代は残っているし、買いたいものを買ったあとなので今回だけは大目に見るとしよう。
次は気をつけろよ、とだけ言って俺はルキに案内してもらいながら今日泊まるつもりの宿屋へと歩き出した。
少しレストランから離れた位置にあるらしく、あっちの道行ってこっちの道行ってと随分いろんな道を歩く。そこの角を曲がった先だ、というルキの声にホッとしながら曲がろうとしたとき、急にルキに腕を引っ張られた。
「なんだよ?」
「しっ! ちょっとこのまま角に隠れてやり過ごすぞ。」
ルキの言葉にどういうことだろうとそっと角の向こうを覗くと、そこには数人の兵士が街の人と話しているのが見えた。
距離があるため正確に何を話しているか聞き取ることはできないが、兵士が持っているビラがどう見ても俺の手配書だった。
「あれは……。」
「まずいな、数日はいけると思ったが。急いで街から出るぞ。」
その言葉とともに来た道を走りながら引き返す。疲れが溜まっている足が痛いとかそんなこと言っている場合ではない。
巡回兵がいるとは思わなかった。いや、考えてみれば逃したときのために周辺の街に配置するのが普通なのだが、少し気が緩んでいたようだ。
「お風呂入れると思ったのに~。」
「ごはん食べれたのと買い物できただけでもマシね。」
街の出入り口まで後ろを気にしながらも必死に走る。こちらに気づいた様子はなかったし、誰かが追ってきている気配も感じられないのだが。
兵士もあの数人以外見当たらないし、たとえ本隊が来ても出入り口にさえ辿り着いてしまえばあとは一旦森に隠れてやり過ごせる。
あと少し、と出入り口が見えてきたと同時に見えてはいけないものまで見えてしまった。
「そのまま走って処刑場にでも行ってくれたら楽でいいんだがなぁ? フィン・クラウザー。あとついでにそのお仲間ども。」
そう言いながら瞬時に目の前まできたその男は剣の切っ先をこちらに向けながら続ける。
「あぁ? おまえそれなんで汚れてねえんだぁ?」
「それ……?」
「もっと汚かったろ。そりゃもう人も斬れねえくらい。」
そこまで言われてようやくこの男が双剣について言っているのがわかった。だが何故この男が双剣のことを知っている? 会ったのは確実に初めてのはずだ。まさか手配書に、双剣が汚い、と書かれているとも思えない。
一方的にこちらを知っているらしい男はそのまま雑談かのように話し続ける。
「綺麗になった剣といつの間にかできた仲間、はー、冒険って感じでいいねぇ。だからってここで簡単に見逃せねぇけど。何故かルキもいるみたいだしなぁ!?」
「くっ!」
そう言うと同時に斬りかかってくる男の攻撃をなんとかスレスレで避ける。双剣を構えないとと思ってはいるものの、男の攻撃が素早すぎて避けるだけで精一杯だ。
(なんだよこいつは! このままじゃ押しやられる!)
一瞬、一瞬の隙でいい、双剣さえ構えることができれば。
なまってんじゃねぇかぁ? とこちらを挑発しながらも攻撃の手はやめない男。剣の切っ先はどれも首ギリギリを掠めていて、少しでも反応が遅れたら確実に生首ができあがるに違いない。
まずい、と思っていると男の後ろに回り込みこちらに向かって魔法銃を構えているシンティアの姿が見えた。
「シンティアが助ける! いっけえ!」
シンティアの銃弾が背後から男を狙い、続いてソフィアのクナイが放たれる。しかしそれらは見えない壁のようなものに阻まれ、男には傷ひとつ与えられなかった。
「それならこれはどう!」
すかさずリーナがスピアを構えて見えない壁に突き刺し、力技で壁を壊そうとするも壊れる気配さえない。
この男は何かに守られているのか、それともこういう魔法があるのかわからないが、このままでは一方的にやられるだけだ。
(どうする、これじゃあ双剣で斬りつけたところで勝ち目はないぞ……)
いっそこのまま逃げ切るか、と考えていると急にルキに体を押し飛ばされた。
「少しオレが相手してやっから、今のうちに双剣出しとけよ!」
ルキがそう言って男の前に立ちはだかると、魔法弓を片手に持ちながら何やらブツブツと唱えながら攻撃を防御している。その間も男は攻撃対象をルキに変更しただけで、先ほどと同じように剣技を繰り出していた。
(魔法ならあいつの壁を壊せるのか? でも詠唱する魔法なんて一体なんの魔法を……)
火や水など一般的な魔法なら詠唱なしですぐに出せる。詠唱しないと出せない魔法なんてあまり聞いたことがないし、見たこともない。
何をするつもりなんだと双剣を構えつつルキを見ていると、詠唱が終わったらしいルキが急に叫び出した。
「こいつでくたばっちまいな! 突き刺せハリヴァスッ!」
その言葉とともに無数の金属のようなものが男の周りを取り囲み、瞬時に見えない壁へと突き刺さる。これでも壊れないのかと思っていると、あちこちから軋むような音が聞こえ、見えない壁だったものは確かに砕け散ったのを感じた。
「今だフィン!」
この瞬間を逃すわけにはいかない。
俺は思い切り力を込めて男に斬りかかる。しかし刃は相手を斬ることなく、キンッという音とともに流されてしまった。続けてルキが魔法弓を射つも全て弾き落とされてしまう。
「やっぱり死んでおくべき人間だよおまえは。せっかくの壁が台無しになっちまった。」
「キミよりは生きていてもいい人間だと思ってるけどな。」
「まぁそう言われると否定もできねぇなぁ……。まぁ今日はもういいや、壁もなくなっちまったし帰るとするわ。またなフィン・クラウザーと仲間ども。あとついでにルキもな。」
「待てアドラー!」
「次会う時まで死ぬんじゃねえぞ、お前らを処刑台送りにするのは俺だからなぁ。」
そう言うと次の瞬間男の姿は消えていた。逃したか、とルキは悔しそうにしているが、俺は助かって安心している。壁を壊せても、あの只者ではない剣技を凌ぐことは容易ではないだろう。
実際俺は一太刀も浴びせることができなかった。それどころか双剣を構えることもままならず、ルキが突破口を開いてくれなければ押し負けていただろう。
「いろいろ2人には聞きたいことがあるけど、とりあえずここから逃げましょう。」
そうだ、このままこの街にいるわけにもいかない。
俺を一方的に知るあの男、そしてあの男と知り合いのようなルキ。気になることしかないが、リーナの言う通り今は立ち止まって話しているときではない。
俺たちはひとまず今夜キャンプができそうな場所を探しに再び森の中へと走り出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
湖畔の賢者
そらまめ
ファンタジー
秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。
ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。
彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。
「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」
そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。
楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。
目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。
そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる