18 / 74
名付ける
しおりを挟む「なぁフィン、マクシムに完全に言いくるめられてるが大丈夫なのかよ。」
集落から少し離れたところまで歩き出したとき、ルキが不安そうに話しかけてきた。その言葉はもっともで、俺ももちろん言いくるめられたことはわかっている。
しかし人集めをするだけで使える拠点が手に入るというのは今の状況からするととてもありがたいことだ。
もちろん俺があそこにいると一回敵に知られてしまえば、下手したら逃げ続けているよりも危険かもしれないのはわかっている。下手したらリンドブルムのときみたいに軍で攻められるかもしれないし、数で押し切られるかもしれない。
だがだからこそ、今は言われた通りに人を集めることに集中すべきだ。拠点にいろんな人を集めれば、ヒンメルに対抗する力もそれだけ大きくなるだろう。
俺は少し考えてからルキの方を向いて返事を返した。
「この先ヒンメルを倒すならそれなりの設備が必要だ。そして人も。せっかく自由に使える拠点ができるんだから、マクシムのお使いくらいやるさ。」
「会って間もないのにマクシムのこと信用してるのかよ? まぁオレらも会って間もないけど。」
「しかも怪しさでいったらルキの方が上ね。」
「顔が良いから余計にね~。」
「なっ、オレは怪しくないですう!」
心外だったのか、女性陣の言葉にルキが言い返してじゃれあい始めた。会ってまだ数日なのに仲良いな、とその様子を見ながらもただひたすら北へと歩いて行った。
そう、北に歩いてると思っていた。絶対にそうだって。
「そう言えばみんなよく北とかわかるね! シンティアそういうの全然わかんない。」
突然シンティアがそう言うと、みんながピタッと足を止めた。そういえばマクシムに地図とかもらっていない。
俺は残念ながら方向がパッとわかるタイプではないし、やけに迷いなく歩いていくみんなに着いて行ってるだけである。
「私はルキについて行ってるだけよ。」
「お姉さんも~。」
「オレはなんとなくこっちが北かな、で歩いてるだけだぜ。正直わかんねえ! でも真っ直ぐ歩いてるから帰り道だけはわかるぜ。」
凄いだろ、と自慢気に話しているルキ。着いてもないのに帰り道がわかる宣言をされても困るのだが。とりあえず困ったことに、全員北がわからず歩いていたことは確かみたいだ。
「マクシムに地図でも貰ってまた出直そう。このまま歩いたところで、どこに着くかわからないし。」
そう言ってわりと情けないが、来た道を引き返すことにした。
「で、戻ってきたわけですか。確かにこの周辺の地図を渡しておくべきでしたね……。」
「すまない……。」
なんとなく憐れな者を見るような視線を投げられながら俺たちはマクシムから地図を受け取った。シンティア以外この土地にくるのは初めてだし、方向感覚がわからないのも仕方ないだろう。
それでも少し情けないなと思いながら俺は地図を広げた。
「で、ここが今いる場所です。そして向かっていただきたいのはこちら。」
そう言いながらマクシムがペンで丸を付けていく。今いる場所は名前がないと前に言っていたが、本当に地図にも表記がなかった。
「貿易が盛んな集落、コリエンテ。この鉱山の国にしては珍しく、運河があり船での貿易をしている場所です。昔の名残で集落とは言ってますが、実質貿易港ですね。」
また戻ってこないようになのか、先程出発したときよりも詳しく説明してくれるマクシム。船での貿易が盛んなら、うまくいけば航海士にも出会えるかもしれない。
この国から出るつもりは当分ないが、お金を集めるのに船はとても役に立つだろう。それこそここで交易ができるようになれば、情報とともにいろんな品が手に入る。
問題は船を手に入れたところでここは山の上。川はあるが船が通れる広さではない。当然海は離れているし、船が行き来する場所がないということだ。
そう思うとこの場所よりも海に近いところに拠点を作った方が良い気がするが、それはまた後々考えるとしよう。船は手に入らなくても、航海士と知り合いになっておくのはいいかもしれない。
「今回探していただくのは道具屋と鍛冶屋ですが、別に他にもここの仲間になりたいという方がいれば連れてきてくれて構いません。とにかく今は仲間が多く必要ですから。」
仲間、と言ってもヒンメルと戦いたいという人がどれだけいるだろうか。軍事国家に喧嘩を売っても勝機があるだけの人を集めるなら、やはりこの場所では狭すぎる気もする。
そんなことを思っていると、そのことを見抜いたかのようにマクシムが話を続けた。
「ある程度人数が集まったら場所は移動するつもりです。アテがあるわけではありませんがね。というわけで仲間を集める際は私たちのそうですね、軍の名前で勧誘していただけると助かります。」
土地同様に名前ありませんけど、と言いながらマクシムはため息をついた。名前がないことの不便さを実感しているのか、少し顔から哀愁を漂わせている。
そんなマクシムとは正反対に、謎にテンションが上がってしまったルキがここぞとばかりに主張してきた。
「どうせならカッコいいのにしようぜ! オレ的にはそうだな、翼、そう、フリューゲル軍とか!」
「いや俺たちどっちかというと翼もがれてるからな。ヒンメルが聞いたら一様に首を傾げるぞ。」
あとおまえここに戻ってくるまで信用がどうこう言っていたのにノリノリじゃないか。
順応性高すぎるのにネーミングセンスは低いのな、と少し失礼なことを思いながらルキを見ていると、感化されてしまったらしいリーナが手を上げながら言った。
「マッスル・エンジェル・イン・アビス軍。略してマエイア軍とかどうかしら。」
「筋肉質の天使に一体何があって奈落に落ちたんだよ。あと略称言いづらすぎてビビる。」
普段のリーナからは想像できないような言葉に若干戸惑った。もっと可愛らしい名前を言ってくると思っていたのに、何故筋肉が出てきたのか。
これは残り2人もやっかいなものを言ってきそうだな、とシンティアとソフィアを見ると、思いついてしまったらしいシンティアが口を開いた。
「漆黒の闇より出し漆黒の堕天使、そう漆黒騎士団軍、つまりブラック軍。」
「漆黒推しすぎだろ。あと軍名で説明すんな。」
元気で明るいシンティアからこういう言葉が出てくると、もしかして病んでるのかと不安になってくる。ここ数日無理をさせているし、たまにはゆっくり休む日を作るべきなのかもしれない。
あと残るはソフィアだが、この中でも歳上だしまともなセンスをしているだろう。穏やかでゆったりとした独特の空気を持つ彼女が変な名前を思いつくとも思えない。
頼むぞ、と期待してソフィアを見ると彼女はいつも通りの雰囲気で口を開いた。
「もがれた翼、そして奈落へと落ちゆくマッスルエンジェル、あぁ、彼らは漆黒に染まってしまったのでしょうか、ブラックになりながらも散りゆく運命を変えようとするマッスルエンジェル、その手には常に鶏肉があった軍。」
「なんて?」
長い上に今までの集大成みたいになったそれはもはや名前ではなかった。もしこの名前に決まってしまったら常に手に鶏肉を持っていないといけなくなるのか。今から殺し合いますってときに敵が鶏肉片手に突っ込んできたら冷静でいられる気がしない。
随分とシュールな絵面になるだろうな、と今度は俺がため息をついた。
「で、フィンはどういう名前がいいのよ?」
「俺か? 俺は……。」
正直なんでもいいが、だからと言ってこいつらの名前は言う勇気がない。この先長く言っていくのなら、言いやすくてわかりやすい、そんな名前がいいだろう。
俺も含めて理不尽に攻撃を受ける人々をヒンメルから解放する、そんな俺たちを表す名前。
「リベラシオン。全てを、解放する。」
「リベラシオンねえ……。ま、一番この中じゃまともだな。」
「てっきりフィンも大喜利でくるかと思っていたのに、至極真面目ね。」
「ようやくまともな意見が出ましたか。では今から私たちはリベラシオンということで。仲間の勧誘と名前の布教よろしくお願いします。」
他が酷かったせいかあっさりと決まり、少しキザな言い方をしたことが今更ながら恥ずかしくなってきた。だがこれで名前もできたことだし、仲間集めもしやすくなったのは確かだ。
今度こそコリエンテに向かうべく、俺たちは地図を片手に集落を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
湖畔の賢者
そらまめ
ファンタジー
秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。
ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。
彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。
「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」
そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。
楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。
目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。
そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
合成師
盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる