追われる身にもなってくれ!

文月つらら

文字の大きさ
26 / 74

変装も突き詰めればきっとそこに行きつく

しおりを挟む
「で、また帰ってきたわけですか……。」

 早く帰りたい、その一心だけで早歩きをしながらリベラシオンに戻った俺たちを待っていたのは、呆れた表情でため息を吐くマクシムの姿だった。ここを出てすぐに戻ったときと同じ反応に、今は少し嬉しささえ感じる。
 帰って早々変装グッズをくれ、と言われたマクシムの気持ちを考えると、ため息で済んだあたりマクシムも大概人が良い。普通ならそんなことより人探しをしろ、と再び追い出されていただろう。
 文句を言いたそうにしつつも倉庫を探してくれるマクシムに感謝しながら、俺たちも一緒になって漁っていた。

「フィンだけ変装したところで意味ないと思いますがね。なんせあなたがたは全員キャラが濃いですし。一回出会ったら忘れられないでしょう。」

 確かにマクシムの言う通り、俺がバレなくてもルキやソフィアでバレる可能性はかなり高い。ただでさえ五人で騒がしく歩いているし、ここにいますと言わんばかりにお互い名前を呼び合っている。
 それでも人通りが多いところやヒンメル軍がいる場所では、せめて俺だけでも変装していればうまく切り抜けられるかもしれない。

「してないよりマシ、というのであればこのような度なしメガネもありますが……。」

「メガネですって? ちょっと見せて!」

 俺が確認するより先に素早くメガネを奪うリーナ。それまで黙々と探していたというのに一体何があったのか、リーナは興奮しながらいろんな角度でメガネを見ていた。
 若干その様子に引きつつも、俺もメガネは興味があるのでよく見させてもらう。暗い緑のスクエアフレームのそれは、落ち着いた男性なら似合うのだろう。

「自分で言うのも悲しいが、俺には合わなすぎて逆に目立ちそうだ。」

「そうね……。なかなかのメガネだけれど、フィンではないわね。フィンにはやっぱ王道に黒縁、いやあえてそこは外して赤……。ううん、やっぱ暗い青
も捨てがたい……。」

「形もいろいろあるもんね! シンティアはやっぱスクエアが好きだなー! 大人の男性って感じでかっこいいもん。」

 丸はかわいくなっちゃうものね、とリーナとシンティアは俺を置いて熱く二人で語り出す。あくまで変装用のものを探しているのに、まるで普段用のものを探すかのようだ。
 メガネはひとまずこの二人に頼むとして、俺は不気味なくらい静かに漁っているソフィアとルキのところへ向かった。
 なんとなくこの二人が静かだと嫌な予感しかしないのは何故なんだろう。

「ソフィア、ルキ、何か良さそうな物は見つかったか?」

 恐る恐るそう声をかけると、二人は神妙な面持ちでこちらを振り返る。変装グッズ漁りで何故そんな表情になるのか理解ができないが、ロクなもの見つけていないことだけはなんとなくわかってしまった。
 やっぱ一番の常識人であるマクシムと一緒に探そうと二人に背を向けると、肩を今までにない力強さで引っ張られた。

「聞いてくれるか、フィン。オレは、オレたちはある結論に至った。」

「悪い、ちょっとマクシムが呼んでる気がするからまた今度な。」

「お姉さんたちは気づいてしまったの。変装という概念に囚われすぎていたってことに……。」

「俺の声にも気づいてくれるか? 定期的にみんな俺を無視して話し出すのなんなんだ。」

 これ以上は付き合ってられない、と逃げようとするが、肩に置かれていた手は今や肩を組むようにがっしりと腕ごとまわされている。
 道具屋の少年も捕まったときこんな気持ちだったんだろうな、と軽く同情しながら、俺は逃げるのを諦めて話の続きを待った。

「フィン、変装と言われて思いつくものはなんだ?」

「そんなの、メガネとか帽子とかマスクとか……。」

「それがいけなかったのよ~! お姉さんたちもね、必死にそれらを探していたの。」

 じゃあ何ならいいというのか、何故かアンニュイな表情をして話す二人に疲れさえ感じてきた。なんだか少し腹ただしくもある。

「いいか、変装とは何も着ることだけが変装ではない。つまり、逆に脱いだっていいってことだ! 変装という文字も、変態の装いと書く。そう、全裸こそが変装なんだ。」

「それに考えてもみて? 遠くから歩いてくる五人組の中に一人だけ全裸の男がいたらどう~?」

「その状況で捕まる以外の選択肢があるなら知りたいが。」

「まさかその全裸の男がフィンだとは誰も思わないだろ? それに全裸の男なんていたらみんな目を逸らす。つまりフィンだとバレない!」

「バレるし全裸で捕まる俺のこと考えてほしいんだが。」

 てわけで脱げよ、と変態みたいな要求をしてくる二人に絶対嫌だと腕を離そうとする。しかしどう動いても必死にしがみついてくるその腕は一向に離す気配を感じられない。
 わりと本気で肩から腕を離そうとしているのに、ビクともしないルキの腕に焦りを感じた。
 こうなったら二人を説得するしかない、と俺はかつてないくらい頭をフル回転させながら二人に話しかけた。

「てか全裸の俺を囲んで歩くおまえらも側から見たら大概シュールだからな。それに俺の全裸を見ながら歩かないといけないとかキツイだろ? やめておくべきだ。」

「フィン……。オレたちのことをそこまで考えてくれてたんだな……。でも心配すんなよ。フィンのためならオレたち、頑張れるから。」

「頑張んなやめろ。」

「大丈夫よ~、頑張れるわよ~!」

 何を言ってもこの二人には話が通じないのか、全て大丈夫だからで返されてしまった。全くもって大丈夫ではないし、このままではマジで犯罪者になってしまう。
 助けてくれ、とリーナとシンティアの方へ目を向けるが、まだメガネについて語っているし助けてくれるどころか気づいてさえくれていなかった。
 これはもう脱がされるしかないのか、と絶望しながらルキたちの顔を見ていると、どこから持ってきたのか分厚い本を掲げたマクシムがルキの背後に立ち、勢いよく振りかぶった。

「まじめに探したらどうなんですか。」

「いってえ! 何すんだよマクシム! んなもんで頭を殴るかぁ?」

 ルキが痛みに怯んだ隙に俺はマクシムの背後に逃げた。物凄く痛そうだが自業自得だと思う。
 痛みに悶えているルキを気にもとめず、マクシムはポケットに入れていたらしいメガネをこちらに差し出した。

「フィン、もうこちらの黒縁メガネでどうです? 今使えそうなのはこれくらいしかなさそうですし。」

「あ、ああ……。ありがとう、これで行くよ。」

 とりあえず危機は脱したしあとでマクシムにはお礼をしようと心に決め、同時にこの二人には当分近寄らないでおこうと俺は固く誓った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」 高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。 だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや—— 「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」 「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」 剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める! 魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」 魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」 神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」 次々と編み出される新技術に、世界は驚愕! やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め—— 「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」 最強の頭脳戦が今、幕を開ける——! これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語! ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

合成師

盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

処理中です...