44 / 74
嵐のように君はかき乱すけれど
しおりを挟む
「あれ、おかえりなさい。早かったっすね。」
「ちょっと、ハァ、いろいろ、ハァハァ、あって、ハァ……。とりあえずこれを置かせてくれ……。」
あれから俺の腕以外無事に入り口まで戻ってきた俺たち。流石に一日中持っていたせいで腕が限界だった俺は机の上に鉱石をドンッと置いた。腕は当分使えそうにない。
そう少し雑に置いた鉱石を眺めつつ近くにあった椅子に座り込む。ここまで腕も体力も使ったのだからこれがブルーダイヤであってほしいものだが、同じく鉱石を眺めている鍛冶屋の様子からしてそうでもなさそうだ。
「また随分と大きなものを掘り出したっすねー。反射加減も良いし、かなり上物ではあるんすけど……。」
「ブルーダイヤではない、か。」
「ですねー。随分と似てるし、これがブルーダイヤの噂の元かもっすねぇ。」
その言葉にわかりやすく項垂れる。似ていても本物でなければ意味がない。
それでもせっかくここまで運んできたことだし、何かに使いたい気持ちはある。だがこれだけ大きな鉱石、加工しようにもさすがにこの双剣で削っていくのは難しい。
加工もできないとなるともうこのまま売るくらいしかできないのだが、それも少しもったいない気がしてくる。そう思ってしまうほど他とは比べ物にならないくらいにその鉱石は魅力的だった。
(何か、何かないか使い道……)
座ったままもう一度鉱石を見る。しかし何度見てもその大きさが変わるわけでもなく、ただ綺麗だなぁという現実逃避にも近い感想しか出てこない。
いっそ半分くらい、いやできれば4分の1、いや6分の1くらいに割ることができればいろいろと使い道が出てくるというのに。
綺麗に割ることさえできれば、そう思ったとき壁にもたれかかって休んでいるアドラーの姿が目に入った。
「鉱石だけ取り出せるなら鉱石を綺麗に割ることもできるだろ、アドラー。」
「はあ?」
あの手をかざしただけで岩を砕き鉱石だけを綺麗に取り出すよくわからない技。あれの応用で鉱石を綺麗に割れたりしないものか、と考えてアドラーに話しかける。
しかしアドラーからは期待した答えとは違う、困惑の声が返ってきた。おまけに表情が完全に呆れたときのそれで少し腹が立つ。
「できたとしてもやらねぇわ。なんで俺がテメェのためにそこまでやら、げぇっ!!!」
「どうした、アドラー?」
話している途中で変な声を出して固まったアドラーの視線を追う。すると店、坑道の入り口にいつのまにか立っている1人の少女がいた。
「ようやく見つけましたわよ、アドラー!」
そう言いながら紫色の長いツインテールを靡かせアドラーに近づいていく少女。少女といっても俺と同じくらいだろうが、どことなく佇まいというか雰囲気が上品で気品がある。もしかしてどこかのお嬢様とかなのだろうか。
アドラーにもこんな知り合いがいたんだな、と謎の感心をしながら2人の様子を見ていると、少女はアドラーのすぐ隣に立って話し始めた。
「GPSには偽情報を送りやがってましたわね!? 全く、やることが小賢しいんですわ! そのせいでわたくしがどれだけ探し回ったと思っているんですの!?」
そうアドラーに怒りながら少女は壁をゴンッと殴った。いつのまにつけていたのか、手にはナックルのようなものをはめている。
その一撃により壁が一部ボロボロと崩れ落ちているのは見なかったことにしたい。こんな可憐な少女がそれだけ怪力などと信じたくないからだ。
「あ、あー、なんでここがわかったんだよ、アリーチェ……。」
「ふんっ、そんなこと今はどうでもいいでしょう。それより仕事をサボって一体何しているんですの? というかこの方達は、って……!」
アリーチェと呼ばれたその少女が周りを見渡す。それにより俺ともバッチリ目があったアリーチェは急に目を見開いたかと思うと、こちらに向かって勢いよく走ってきた。
「フィンじゃないの!」
「うわああ!?」
そのまま思い切り抱きつかれた俺は、なすすべもなく情けない声を出して頭を抱きしめられた。座っていたおかげでちょうどアリーチェの胸元に顔がきたのでご褒美と言っても過言ではない状況だ。
(ソフィアほど大きくはないがこれはこれで……! ありがとう神……!)
謎の感謝をしつつ、俺はアリーチェからの抱擁を顔には出さないが嬉々として受け入れていた。しかし痛いほど、いや本当に痛いほど抱きしめてくるこのアリーチェという少女は一体何者なのだろうか。
そう疑問に思っているこちらのことなど考えてもいないのか、アリーチェはさらに力を強くしながら一方的に話し出す。
「怪我とかしてません? きちんとご飯は食べていますの? わたくしずっとずっと会いたくて、あら?」
言いたいことを早口で言いながら、アリーチェは俺の双剣を見た。マジマジと見ながらも抱き締める手はゆるまず、俺のいろんなものが限界を迎えそうになっている。
「綺麗に、なって……? まさかついにわたくしと結婚する気になったんですわね!? でもわたくしはまだ17歳、もう少し大人の女性としての振る舞いを学んでから、ってちょっとなにするんですのアドラー!」
「悪りぃな、フィン・クラウザー。コイツがこうなるだろうから連れて来なかったんだが、どうやって嗅ぎつけたんだか……。ま、暴走しだしたし連れて帰るわ。クライノートに行きたかったんだがなぁ。」
そう言ってアドラーは俺から無理矢理アリーチェを引き剥がした。それによりようやく楽になった体から力が抜ける。
急に見知らぬ少女に抱きつかれ、顔が幸せを感じつつ、何やら一方的に語られ。正直何だったのだろう今の数分間はという気持ちでいっぱいだ。
ふぅ、と息をついて少女とアドラーの様子を見る。帰るぞ、と言っているアドラーに嫌ですわと拒否するアリーチェ。何回かの同じやり取りの後、よほど帰りたくないのか、アリーチェは近くにいたルキに抱きついた。
「オレは今幸せを感じている。」
「だろうな。よかったな。」
「おいルキ離れろや。今度は心臓を狙うぜ。」
「オレは今絶望を感じている。」
「だろうな。死ぬかもな。」
大剣を器用にもルキの顔スレスレで振ったアドラーにルキは真っ青になっていた。だが離れろと言われてもくっついているのはアリーチェの方なのでルキにはどうすることもできない。助けてくれ、と目線だけで訴えかけてくるが俺にもどうすることもできないのでただ祈るのみだ。
そんなやりとりの中アリーチェはというと未だに離す気配を見せないでいる。その様子に早くも痺れを切らしたらしいアドラーが大げさにため息をつきながらアリーチェに話しかけた。
「大人しく帰ればこの数日で隠し撮りしたフィン・クラウザーの写真をやろう。」
「何をモタモタしていますの? 帰りますわよ!」
恐ろしいほどの速さでルキから離れてアドラーの側に行くアリーチェ。その姿にホッとしつつもルキは少し寂しそうにしている。
とりあえずルキの心臓が切り裂かれる心配はなくなったし良かった。良かったのだが、俺としては聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。
この数日で隠し撮りしたフィン・クラウザーの写真、と。
一体いつ撮ったんだ、と俺は立ち上がってアドラーの近くに行った。そんなものは消してもらいたいものだ。
「待て、なんだ俺の隠し撮り写真て。消せ。」
「あぁ? いいじゃねぇか500枚くらい。なぁ、アリーチェ。」
「そうですわよ。わたくしとフィンの仲じゃないの。何を今更恥ずかしがることがありまして?」
恥ずかしいとかそういう問題ではないのだが、2人とも何を言っているのかと首を傾げてこちらを見ている。普通に考えておかしいということが何故わからないのか、俺の方が首を傾げたい。
「いや、犯罪だしな? あとすまないが、アリーチェ、でいいのか、その、記憶になくて。」
そう少し申し訳なく思いながら言うと、アリーチェはショックを受けたような顔を一瞬した。しかしその表情は見間違いだったかと疑うほど瞬時に先ほどまでと同じに戻っている。
「わたくしとの思い出が0だなんて……。でもこれはチャンスですわ。いいかしら、フィン。わたくしとあなたは将来を誓い合った仲で、それはそれは毎日ラブラブに過ごし……。わたくしのことも部屋ではアリーチェではなく、特別にアーチェと呼んで……。」
「最後以外嘘だから安心しろや、フィン・クラウザー。じゃ、そろそろ止まらなくなるだろうし帰るわ。またな、俺が捕まえに来るまで生きてろよ。」
「ちょっとわたくしまだフィンと……!」
そう言いながらアドラーとアリーチェは消えていった。それにより急に静かになった空間に謎の疲れがドッと押し寄せてくる。嵐のように現れて嵐のように去っていくとは彼女のようなことを言うのだろう。
それにより一体アリーチェが来るまで何の話をしていたのかもわからなくなった俺は、ここまで一言も喋っていないリーナたちを見た。ソフィアとシンティアはまさに呆気に取られているといった表現が似合うように口を開けてボーッとしている。そりゃあ目の前であんなことが起きたらこうもなるだろう。
リーナもそうだろうな、と顔を見ると隠す気が微塵も感じられないほど不機嫌ですを表情に出していた。あからさまに頬を膨らませながらこちらを睨んでいるリーナは、ドシドシと可愛くない音をさせながらこちらに歩いてくる。
その様子にそんなに放置されていたのが寂しかったのかと少し笑うと、リーナはさらに目を釣り上げながら抱きついてきた。
「誰よ、あれ。結婚とか言ってたし随分と仲良かったみたいだけど。」
「そう言われても俺も知らないからな。よしよし。」
リーナの頭を撫でながらアリーチェのことを考える。あんな少女と仲が良かったと言われても記憶がないが、アドラーとのやりとりからすると友人ではあったのだろう。
それにアリーチェの仕事をサボってという言葉やアドラーの帰るという言葉、彼女もヒンメルの軍所属だったりするのだろうか。ナックルをつけていたしわからなくもないが、軍人にしては違和感を感じるほど気高さがあった。もちろん今の世の中、貴族の軍人がいたところでおかしくはないのだが。
「あああああああ! 思い出したわ~!」
「うおっ! オレ今心臓止まりかけた……。」
急に大声で叫び出したソフィアに思わず撫でていた手を止めてそちらを見る。一体何を思い出したのか知らないが、ソフィアはかなり興奮しているようだ。
「彼女、どこかで見たことあると思ったわ! アリーチェ・フォスキーア! ヒンメルの皇女様じゃない~!」
その言葉にソフィア以外の全員が絶句した。
「ちょっと、ハァ、いろいろ、ハァハァ、あって、ハァ……。とりあえずこれを置かせてくれ……。」
あれから俺の腕以外無事に入り口まで戻ってきた俺たち。流石に一日中持っていたせいで腕が限界だった俺は机の上に鉱石をドンッと置いた。腕は当分使えそうにない。
そう少し雑に置いた鉱石を眺めつつ近くにあった椅子に座り込む。ここまで腕も体力も使ったのだからこれがブルーダイヤであってほしいものだが、同じく鉱石を眺めている鍛冶屋の様子からしてそうでもなさそうだ。
「また随分と大きなものを掘り出したっすねー。反射加減も良いし、かなり上物ではあるんすけど……。」
「ブルーダイヤではない、か。」
「ですねー。随分と似てるし、これがブルーダイヤの噂の元かもっすねぇ。」
その言葉にわかりやすく項垂れる。似ていても本物でなければ意味がない。
それでもせっかくここまで運んできたことだし、何かに使いたい気持ちはある。だがこれだけ大きな鉱石、加工しようにもさすがにこの双剣で削っていくのは難しい。
加工もできないとなるともうこのまま売るくらいしかできないのだが、それも少しもったいない気がしてくる。そう思ってしまうほど他とは比べ物にならないくらいにその鉱石は魅力的だった。
(何か、何かないか使い道……)
座ったままもう一度鉱石を見る。しかし何度見てもその大きさが変わるわけでもなく、ただ綺麗だなぁという現実逃避にも近い感想しか出てこない。
いっそ半分くらい、いやできれば4分の1、いや6分の1くらいに割ることができればいろいろと使い道が出てくるというのに。
綺麗に割ることさえできれば、そう思ったとき壁にもたれかかって休んでいるアドラーの姿が目に入った。
「鉱石だけ取り出せるなら鉱石を綺麗に割ることもできるだろ、アドラー。」
「はあ?」
あの手をかざしただけで岩を砕き鉱石だけを綺麗に取り出すよくわからない技。あれの応用で鉱石を綺麗に割れたりしないものか、と考えてアドラーに話しかける。
しかしアドラーからは期待した答えとは違う、困惑の声が返ってきた。おまけに表情が完全に呆れたときのそれで少し腹が立つ。
「できたとしてもやらねぇわ。なんで俺がテメェのためにそこまでやら、げぇっ!!!」
「どうした、アドラー?」
話している途中で変な声を出して固まったアドラーの視線を追う。すると店、坑道の入り口にいつのまにか立っている1人の少女がいた。
「ようやく見つけましたわよ、アドラー!」
そう言いながら紫色の長いツインテールを靡かせアドラーに近づいていく少女。少女といっても俺と同じくらいだろうが、どことなく佇まいというか雰囲気が上品で気品がある。もしかしてどこかのお嬢様とかなのだろうか。
アドラーにもこんな知り合いがいたんだな、と謎の感心をしながら2人の様子を見ていると、少女はアドラーのすぐ隣に立って話し始めた。
「GPSには偽情報を送りやがってましたわね!? 全く、やることが小賢しいんですわ! そのせいでわたくしがどれだけ探し回ったと思っているんですの!?」
そうアドラーに怒りながら少女は壁をゴンッと殴った。いつのまにつけていたのか、手にはナックルのようなものをはめている。
その一撃により壁が一部ボロボロと崩れ落ちているのは見なかったことにしたい。こんな可憐な少女がそれだけ怪力などと信じたくないからだ。
「あ、あー、なんでここがわかったんだよ、アリーチェ……。」
「ふんっ、そんなこと今はどうでもいいでしょう。それより仕事をサボって一体何しているんですの? というかこの方達は、って……!」
アリーチェと呼ばれたその少女が周りを見渡す。それにより俺ともバッチリ目があったアリーチェは急に目を見開いたかと思うと、こちらに向かって勢いよく走ってきた。
「フィンじゃないの!」
「うわああ!?」
そのまま思い切り抱きつかれた俺は、なすすべもなく情けない声を出して頭を抱きしめられた。座っていたおかげでちょうどアリーチェの胸元に顔がきたのでご褒美と言っても過言ではない状況だ。
(ソフィアほど大きくはないがこれはこれで……! ありがとう神……!)
謎の感謝をしつつ、俺はアリーチェからの抱擁を顔には出さないが嬉々として受け入れていた。しかし痛いほど、いや本当に痛いほど抱きしめてくるこのアリーチェという少女は一体何者なのだろうか。
そう疑問に思っているこちらのことなど考えてもいないのか、アリーチェはさらに力を強くしながら一方的に話し出す。
「怪我とかしてません? きちんとご飯は食べていますの? わたくしずっとずっと会いたくて、あら?」
言いたいことを早口で言いながら、アリーチェは俺の双剣を見た。マジマジと見ながらも抱き締める手はゆるまず、俺のいろんなものが限界を迎えそうになっている。
「綺麗に、なって……? まさかついにわたくしと結婚する気になったんですわね!? でもわたくしはまだ17歳、もう少し大人の女性としての振る舞いを学んでから、ってちょっとなにするんですのアドラー!」
「悪りぃな、フィン・クラウザー。コイツがこうなるだろうから連れて来なかったんだが、どうやって嗅ぎつけたんだか……。ま、暴走しだしたし連れて帰るわ。クライノートに行きたかったんだがなぁ。」
そう言ってアドラーは俺から無理矢理アリーチェを引き剥がした。それによりようやく楽になった体から力が抜ける。
急に見知らぬ少女に抱きつかれ、顔が幸せを感じつつ、何やら一方的に語られ。正直何だったのだろう今の数分間はという気持ちでいっぱいだ。
ふぅ、と息をついて少女とアドラーの様子を見る。帰るぞ、と言っているアドラーに嫌ですわと拒否するアリーチェ。何回かの同じやり取りの後、よほど帰りたくないのか、アリーチェは近くにいたルキに抱きついた。
「オレは今幸せを感じている。」
「だろうな。よかったな。」
「おいルキ離れろや。今度は心臓を狙うぜ。」
「オレは今絶望を感じている。」
「だろうな。死ぬかもな。」
大剣を器用にもルキの顔スレスレで振ったアドラーにルキは真っ青になっていた。だが離れろと言われてもくっついているのはアリーチェの方なのでルキにはどうすることもできない。助けてくれ、と目線だけで訴えかけてくるが俺にもどうすることもできないのでただ祈るのみだ。
そんなやりとりの中アリーチェはというと未だに離す気配を見せないでいる。その様子に早くも痺れを切らしたらしいアドラーが大げさにため息をつきながらアリーチェに話しかけた。
「大人しく帰ればこの数日で隠し撮りしたフィン・クラウザーの写真をやろう。」
「何をモタモタしていますの? 帰りますわよ!」
恐ろしいほどの速さでルキから離れてアドラーの側に行くアリーチェ。その姿にホッとしつつもルキは少し寂しそうにしている。
とりあえずルキの心臓が切り裂かれる心配はなくなったし良かった。良かったのだが、俺としては聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。
この数日で隠し撮りしたフィン・クラウザーの写真、と。
一体いつ撮ったんだ、と俺は立ち上がってアドラーの近くに行った。そんなものは消してもらいたいものだ。
「待て、なんだ俺の隠し撮り写真て。消せ。」
「あぁ? いいじゃねぇか500枚くらい。なぁ、アリーチェ。」
「そうですわよ。わたくしとフィンの仲じゃないの。何を今更恥ずかしがることがありまして?」
恥ずかしいとかそういう問題ではないのだが、2人とも何を言っているのかと首を傾げてこちらを見ている。普通に考えておかしいということが何故わからないのか、俺の方が首を傾げたい。
「いや、犯罪だしな? あとすまないが、アリーチェ、でいいのか、その、記憶になくて。」
そう少し申し訳なく思いながら言うと、アリーチェはショックを受けたような顔を一瞬した。しかしその表情は見間違いだったかと疑うほど瞬時に先ほどまでと同じに戻っている。
「わたくしとの思い出が0だなんて……。でもこれはチャンスですわ。いいかしら、フィン。わたくしとあなたは将来を誓い合った仲で、それはそれは毎日ラブラブに過ごし……。わたくしのことも部屋ではアリーチェではなく、特別にアーチェと呼んで……。」
「最後以外嘘だから安心しろや、フィン・クラウザー。じゃ、そろそろ止まらなくなるだろうし帰るわ。またな、俺が捕まえに来るまで生きてろよ。」
「ちょっとわたくしまだフィンと……!」
そう言いながらアドラーとアリーチェは消えていった。それにより急に静かになった空間に謎の疲れがドッと押し寄せてくる。嵐のように現れて嵐のように去っていくとは彼女のようなことを言うのだろう。
それにより一体アリーチェが来るまで何の話をしていたのかもわからなくなった俺は、ここまで一言も喋っていないリーナたちを見た。ソフィアとシンティアはまさに呆気に取られているといった表現が似合うように口を開けてボーッとしている。そりゃあ目の前であんなことが起きたらこうもなるだろう。
リーナもそうだろうな、と顔を見ると隠す気が微塵も感じられないほど不機嫌ですを表情に出していた。あからさまに頬を膨らませながらこちらを睨んでいるリーナは、ドシドシと可愛くない音をさせながらこちらに歩いてくる。
その様子にそんなに放置されていたのが寂しかったのかと少し笑うと、リーナはさらに目を釣り上げながら抱きついてきた。
「誰よ、あれ。結婚とか言ってたし随分と仲良かったみたいだけど。」
「そう言われても俺も知らないからな。よしよし。」
リーナの頭を撫でながらアリーチェのことを考える。あんな少女と仲が良かったと言われても記憶がないが、アドラーとのやりとりからすると友人ではあったのだろう。
それにアリーチェの仕事をサボってという言葉やアドラーの帰るという言葉、彼女もヒンメルの軍所属だったりするのだろうか。ナックルをつけていたしわからなくもないが、軍人にしては違和感を感じるほど気高さがあった。もちろん今の世の中、貴族の軍人がいたところでおかしくはないのだが。
「あああああああ! 思い出したわ~!」
「うおっ! オレ今心臓止まりかけた……。」
急に大声で叫び出したソフィアに思わず撫でていた手を止めてそちらを見る。一体何を思い出したのか知らないが、ソフィアはかなり興奮しているようだ。
「彼女、どこかで見たことあると思ったわ! アリーチェ・フォスキーア! ヒンメルの皇女様じゃない~!」
その言葉にソフィア以外の全員が絶句した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
湖畔の賢者
そらまめ
ファンタジー
秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。
ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。
彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。
「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」
そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。
楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。
目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。
そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる