51 / 74
男湯で語り合うあれこれ
しおりを挟む「いい機会だし、オレみんなに聞きたいことあるんだよね。」
湯船に浸かりながらルキがそう切りだした。どこか真剣そうな表情でお湯を見つめつつ言う姿に、俺もアドラーも何も言わずルキに向き合う。
「あのさ……。」
いつもならスッと言いたいことを言うルキが珍しく言い淀んだ。そんなに言いにくいことなのか、それとも言う言葉を選んでいるのか。
別に今更何を聞かれたところで怒ったりしないし、困りもしない。いややっぱり困りはするかもしれない。記憶がない間のこととかは正直答えようがないから困る。
だがアドラーと俺に対してならそういう類の話ではないだろうし、一体何をそんなに言い淀んでいるのか。あー、だの、んー、だの言いながらアヒルさんを沈めたり握ったりしている姿はカッコよくなさすぎて、できれば見たくなかったと思う。
「んだよ、さっさと言えや。男がモジモジしても可愛くねえわ。」
「そうだぞ、ルキ。おまえがイケメンなのはわかるが、流石にそのアヒルさんと戯れる姿は厳しいぞ。」
「2人とも酷いね? 言っとくけどオレだって好きでモジモジしてるわけじゃないから!」
あまりに言わないルキにアドラーと2人で早くしろとせかす。そんなに言いにくいなら今度でも、と思うが、ルキとしては今言いたい気持ちはあるらしい。
早くしないと内容によっては長引いてのぼせるぞ、とだんだんと温まってきた体を心配し始める。こんなにゆったりと湯船に浸かるのも久々だし、できるだけ長く浸かっていたいが体はそうもいかない。
現にアドラーはもう体が赤くなってきているように見える。あれはもってあと数分だろう。
そう思う俺の体もきっと数分で限界がくるだろうし、なんとしてでも早く話してもらわないと困る。あまりにルキが握りつぶすからかアヒルさんももうズタズタになっていた。
「ルキ、俺そろそろのぼせると思う。多分アドラーももうやばい。」
「じゃあ言うわ……。あのさ、2人はヒンメルにいたわけじゃん? ……、シュタール家って知ってるか?」
「シュタール家?」
初めて聞く言葉に俺は首を傾げる。過去の俺は知っていたのだろうか。
残念ながら知らない、と言うとルキは疑うような目をしてこちらを見てきた。もしかしてヒンメルではみんな知ってるレベルの有名な家なんだろうか。
しかし仮にそうだとしても今の俺に心当たりはない。過去の俺なら知っていたのかもしれないが、それを確かめる術は今はない。
アドラーはどうなんだろう、とアドラーを見るとビックリするくらい真剣な顔でルキを見ていた。
「これでも一応軍の所属だしなぁ? ヒンメル軍最高司令官の名字くらい知ってるぜ。ま、あの司令官殿のあまりイイ噂は聞かねえが。」
バレたら不敬罪かな、と言いながらアドラーは湯船から出て椅子に座った。それに続いて俺も湯船に足だけ浸かりながら浴槽のふちに座る。
「そう、ヒンメル軍最高司令官のこと。さすがにアドラーは知ってるか……。」
「金のためなら何だってやる、女癖が悪い、犯罪してはもみ消す。真実か単なる噂か、はわからねぇけどなぁ? その辺はテメェのが詳しいだろうよ、ルキ・シュタール?」
アドラーがそう言った瞬間、ルキの表情がわかりやすく強張った。ついでにアヒルさんは完全に握りつぶされた。
「その表情見るにアタリか。昔から、そうだ、俺と殺りあったあん時からもしかしてと思ってはいたがなぁ。」
「……オレ、オヤジに似てないと思うけど。使う武器だって違うしシュタールを名乗ったこともない。気づく要素ゼロだったはず。」
ルキはそう言いながらアドラー睨んだ。睨みついでに砕け散ったアヒルさんの破片も集めている。
俺はというと話の展開についていけずただ黙ることと、アヒルさんの無残な姿を見つめることしかできない。ルキがヒンメル軍の最高司令官の息子、なのはわかったがそれが何故2人をこんな張り詰めた空気にしているのかはわからなかった。
「それでも隠し切れない染み付いたモンがあんだろ? 例えば暗……。」
「それ以上言ったら今ここで殺すから!」
急に大声を出してアドラーの言葉を遮ったルキ。同時に放たれた強い殺気に俺は思わず少し2人から離れた。こんなに怒ったルキを見たことがないし、武器がなくても本当に殺しかねない勢いだ。
そんなルキに俺は完全にビビって何も言えないでいるが、アドラーはそれを軽くあしらうようにして手のひらをヒラヒラさせている。こんな状況下でその態度、一体アドラーのメンタルはどうなっているのか。
「オレ本気で言ってるからね。」
「ハイハイ、一旦落ち着けや。俺としてはテメェがシュタールで好都合だし……。で、テメェ何か聞きたいことがあったんじゃなかったのか?」
好都合、と言う言葉が気になったのはルキも同じのようで怪訝そうな表情をしながらアドラーを睨んでいる。だがアドラーはそれに答えるつもりはないのか、ジッとルキを見て言葉を待っていた。
ついでにアヒルさんはもう救いようがないくらいに掬えなくなっている。これはお風呂掃除が大変なやつだ。
「……、今どうなってんのかなって思っただけ。まぁ、評判は相変わらずみたいだし、そのうち失脚すればいいぜ。」
「実際それを願ってる奴は多そうだが、クーデターなんざ起こせるような国じゃねぇしなぁ。当分はこのままだろうよ。」
そう2人は深いため息をついた。確かに軍事国家でクーデターなんて簡単に起こせはしないだろう。仮に起きたところですぐ鎮圧されて終わりだ。
「はーあ、オレほんと顔も身体も声も性格も良いのに家がなー。唯一の汚点すぎてイヤになっちゃうぜ……。てわけでずっと置いてけぼりのフィン、オレがシュタール家の息子ってのは誰にも言うなよ!」
「よくわからんがわかった。これからもルキって呼ぶし大丈夫だ。」
そう言うとルキはいつもの表情に戻って浴槽のふちに腰かけた。ずっと浸かっていたしやはり熱かったようだ。
それを見つつ俺はルキと初めて会った日のことを少しだけ思い出していた。あの日、鍛冶屋で会ってからみんなでリンドブルムを出たとき。みんな自己紹介をしていたとき唯一ルキはルキとだけ名乗って名字は言わなかった。
特に疑問を持つこともなくスルーしていたが、知られたくなくて故意に隠していたとは。ヒンメル軍の最高司令官の息子、ただそれだけのことなのにと思うのはきっと俺が何も知らないからなんだろう。
「さーてと! なんか暗い話になっちゃったお詫びに、オレとっておきのモテる口説き方講座でも。」
「ぜひ教えてくれルキ! なんでもする!」
「食いつき方が非モテ表してて悲しすぎんだろ、フィン・クラウザー……。」
可哀想な目で見てくるアドラーをよそに、俺は必死になってルキの講座を受けていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜
難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」
高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。
だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや——
「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」
「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」
剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める!
魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」
魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」
神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」
次々と編み出される新技術に、世界は驚愕!
やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め——
「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」
最強の頭脳戦が今、幕を開ける——!
これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語!
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~
shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて
無名の英雄
愛を知らぬ商人
気狂いの賢者など
様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。
それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま
幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる