追われる身にもなってくれ!

文月つらら

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知らないあの子

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 ライトがないのが逆に良かったのか、前のような大惨事は起きず無事に蜂のモンスターを倒すことができた。正直また俺の腕や足が血だらけになると思っていたのでこれは嬉しい誤算だ。
 それに倒した瞬間にどういう仕組みなのか出入り口が現れ、水晶は見つけられなかったものの洞窟の外に出ることもできた。あちこちぶつかったためかすり傷などはあるが、ほぼ無事だ。俺とリーナのぎこちなさ以外は。

「で、耐えられなくてオレの部屋に逃げてきたってワケ? 惚気聞かされるこっちの身にもなってくれる?」

「惚気てなどいないが。」

「いや十分惚気だからね、ここまでのキミの説明。」

 モンスターと戦う直前のやりとりのせいで俺とリーナはかなりギクシャクしていた。俺は俺でなんとなく相手の男に罪悪感を感じているし、リーナはどういう感情かわからないが明らかに距離を取って話すこともしてこない。
 別に付き合っているわけでもないし、キス未遂なんて何も気にしなくていいのかもしれない。だが俺はもう正直脳内パニックになっているのでこういうときはルキだろ、とルキの部屋に直行した。相棒の手入れで忙しいのか、あまりこちらを見てもくれないが仕方ない。

「あのさぁ、女の子に、リーナにそこまでされてなんで気づかないワケ? どういう神経してんの?」

「本当にな。なんで相手の男は気づかないんだろうな。」

「いや、うん、もしかしてワザと? その言葉全部そのまま返すわ。オレマジでビックリだし一度殴られてほしいわ。むしろオレが殴りたい気分だわ。」

「よくわからんが、そうだな。」

「わかってないのに同意しないでくれるぅ!?」

 ホントなんなの、と俺に怒りをぶつけるルキ。いつのまにか部屋にいたアドラーも俺の顔を見てため息をついている。

「大体リーナも恥ずかしくて話しかけてこれないっていういつものやつでしょ。まぁ、キミが気まずいってんなら気晴らしにどっか行く?」

「その前に、ちょっときていただけますか?」
 
 ガチャッという音と共にマクシムは扉を開けて俺たちにそう伝えた。その顔は神妙で、何か良くないことが起きたのかと思ってしまう空気を纏っている。
 内心ビクビクしつつも、行かないわけにはいかず俺たちはマクシムの後に続いて広間に向かった。


「すみません、皆さん集まっていただいて。実は上空からリンドブルムの西海岸を見ていたら、妙なものを見つけまして……。」

「妙なもの?」

「正確にはわたしもアドラーさんもアリーチェさんも知っているものです。他の方々はどうかわかりませんが。まぁ、とりあえず見ていただければと。」

 マクシムがそう言うと同時に印刷したらしい写真が俺たちの目の前に現れた。そこにはメイド服のようなものを着た1人の女性がうつっているが、他に何か変わった様子はない。
 メイド服を着た女性が1人で海岸にいたって別におかしなことではないだろう。一体これの何がそんなに深刻なんだと顔を上げると、アドラーは机に突っ伏し、アリーチェはなんとも言えない表情でため息をついた。

「最悪だ……。軍を抜けて単独行動してやがんなアイツ……。せっかく巻き込まないように隠してたってのにどうすっかなぁ……。」

「あの子のことですから地の果てまで追ってくると思いますし、こちらから迎えに行って仲間にしてしまえばいいんじゃないですの?」

「ヒンメル軍を抜け出して単独行動ともなれば戻ったところで処刑ですしね。あの方を味方にできれば戦力だけでなく家事が楽になるのでぜひ迎えに行ってほしいです。というわけでお願いします。」

 俺に向かってそう言うマクシムだが、俺にはこの写真の女性が何者なのかもわからない状態だ。どうもヒンメル軍の関係者ということだけはわかったが、迎えに行ってスッと仲間になってくれるような人物なのだろうか。
 気になることしかないが、ここで聞いてもマクシムのことだから詳細は省くだろう。諦めてリンドブルム西海岸に向かい、道中でアドラーに聞くのが良さそうだ。

「よくわからんが、リンドブルム西海岸に行くか。西海岸ということはとりあえず……徒歩、だな……。」

「あ、わたくしとシンティアとリーナはやる事があるので今回はお留守番いたしますわ。」

「ごめんね、フィン。シンティアたちちょっとマクシムからの頼まれごとがあって……。」

「そういうことだから。あちこちで女の子誑かしたりしないでよね。」

 いつもどおりみんなで行くと思っていただけに、シンティアたちの言葉に少しショックを受けた。一緒に行動が当たり前になっていたが、マクシムから頼まれごとをされているのなら仕方ない。

「って、誑かすとしたらルキだろ。俺はそんなことしないからな。」

「ちょっと、オレは誑かしてるんじゃなくて平等に愛してるんですう!」

「わりと最低な発言ね~。」

「おいルキなんてどうでもいいからさっさと行くぞテメェら。アイツは変なヤツに捕まりやすいから急がねえと。」

 その言葉に思わず俺たちはアドラーを見た。いつもなら気怠げについてくる男の発言とは思えない焦り様だ。

「まぁでも急いだ方がいいかと。このあとすぐに映し出されたのがこちらなので。」

 そう言って出された写真にアドラーはわかりやすく動揺した。そこには先ほどの女性が複数の柄の悪そうな男たちに囲まれている様子が写っている。
 明らかにそれは絡まれているような様子で、女性は腕を掴まれて嫌がっているようだ。

「このクソ野郎どもが! 一体誰のモンに手ぇ出したのか、思い知らせてやらねぇとなぁ……!」

「誰のって、おい、アドラー待て!」

 見たことがないくらいに殺気だちながら出て行ったアドラーに少しビビりながら俺も慌ててついていった。
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