追われる身にもなってくれ!

文月つらら

文字の大きさ
61 / 74

ねぇねぇ気づいて私の想いに

しおりを挟む
 リーナとともに洞窟へ入って数分。俺は当然のように困っていた。まさかこんなところにくるとは思っていなかったのもあり、ライトがなく足元があまりよく見えないのだ。
 入る前にライトを持ってくれば良かったのだが、今までの洞窟はなんだかんだ明るかったのもあって完全に油断していた。暗いのも最初だけで、きっと奥は灯りがあるのだろうというよくわからない自信もあった。実際にあったのは薄暗闇だったのだが。
 そんなわけでライトもないくせに突き進んでしまった俺たちは、正直言って帰り道もわからない状態だ。正確には一本道なのだから、今向かっている方向と逆に行けば入ってきた出入り口があるはず。あるはずなのだが何故かあったはずの出入り口が見当たらない。それもあってここから出るためには先に進むしかない状態だ。
 わりと絶望的な状況だがリーナは神経が図太いのか、困っていても仕方ないのだからとどんどん先へ進んで行く。しかし薄暗闇を臆せず進むせいかあちこちにぶつかっているので、わりと怪我をしていないかが心配だ。しかもそれを確認しようにも見えなくてわからないので少し腹が立ってくる。
 どうしたものかと考えていると、いきなりリーナがこちらを勢いよく振り返った。

「ねぇ、何か話してよ。こうも暗いと水晶に辿り着く前に気が滅入っちゃうわ。」

 なんという雑な無茶振り。俺はルキやアドラーと違って口下手でしかも話題も豊富に持っていない。そんなこと今まで一緒に過ごしてきた中でわかっているはずだろう。

「俺が何か面白い話題を持っていると思うのか? 残念ながら何もないぞ。」

「でも記憶もだんだんと戻ってきてるんでしょ? 昔のこととか何かないの?」

 昔のこと。アドラーやアリーチェに聞いて朧げに、切り取ったかのように断片的になら思い出しつつはある。だがそれも全てが綺麗につながっているわけではない。

「戻った記憶なんて……。そういえば、俺とアドラーとアリーチェ、幼い頃に俺たちは丁度こんな洞窟の中で出会ったんだ。」

 そう、あの日も俺は助けられた。あの2人に。

「あの日は……。俺はスパイではなく暗殺の方で初任務だった。スパイだと人を殺さず終わるが、暗殺任務は文字通り標的を殺さなきゃいけない。凄く嫌だったが失敗して帰ったら俺が今度は殺されるから、初めてそこで人を殺したんだ。」

 まだ12歳かそこらでシンティアくらいの年齢だった。嫌だという感情はあったし、避けることができるのなら避けたかった。だが当時の俺はどうすることもできず、ただ言われたことをやるしか道はなかった。

「そこは薄暗い洞窟で、俺は初めて人を殺した興奮と死体から流れる血、そして暗さでパニックを起こした。湧き上がってくる感情を抑えられなくて、大声で叫んで壁に双剣を何度も突き刺した。そしたら、凄い勢いで押さえつけられたんだ、あの2人に。」

「いつのまにかアドラーたちが後ろにいたってこと?」

「いや、最初からずっといて俺の様子を伺っていたらしい。あの2人はその日俺の監視が任務だったらしくてな。なんでも初めて人を殺すと大体興奮して壊れるから見張っておけ、と。まぁ、まさに俺はそうなっていたわけだ。」

 あの時もし無理矢理押さえつけられなかったら俺はきっと今ここにいない。ここにどころか、この世にさえいないだろう。そう思うと本当にあの2人に任務とはいえ出会えたのは最大の幸運だった。

「その後は……、こっそり3人で隙間時間に遊んだり……。と、まぁ、俺が思い出すことなんてこんな暗い話題ばかりだな、残念ながら。」

 もっと明るい思い出でもあればよかったが、そんなのスパイや暗殺者として生きてきた俺には無理な話だ。

「リーナの方が明るい話題あるだろ。そうだ、前に言ってた気になってる人の話とかでもいいぞ。」

「は、え、そ、その話はもういいの!」

「なんでだよ。好きだろ、恋バナ。前は俺に執拗に聞いてたじゃないか。」

 少しからかいつつ、リーナの顔を覗き込むように見る。すると暗くてもわかるくらい顔を赤くさせてこちらを睨んできた。

「あれはもう広げようがないからいいの! その“気になってる人”はどれだけわかりやすくアピールしても気づいてさえくれないし!」

「そうなのか。そんなに鈍い奴だと大変だな。」

「ええ、本当にね……。」

 どこか疲れたように言うリーナに少し同情した。たくさんアピールしているのに気づいてもらえないのはかなり自信をなくすだろう。
 この世にはびっくりするくらい鈍感なやつがいる。俺もかなりアリーチェとアドラーに怒られてきたが、リーナの想い人もきっと一筋縄ではいかないタイプなんだろう。
 そう思うとなんだか可哀想に思えてきて、思わずリーナの頭をヨシヨシと撫でていた。

「……。イケメンで、強くて、優しくて、器用で。そばにいると安心するしドキドキするの。」

「あぁ、前も言ってたな。」

「最初は一目惚れだったの。でも話してるうちに性格も好きになって、誰にもとられたくなくて、たくさん、アピールしてるのに……! ねぇ、一体どうしたら気づいてくれるの……?」

「そんなの、俺に聞かれても……ってうわっ!」

 急に抱きついてきたリーナに、どうしていいかわからず手が宙を彷徨った。いつもなら喜んで抱きしめるが、想い人への愛を聞いた直後に抱きしめる勇気なんて俺にはない。なんとなくその相手に悪い気がするからだ。
 かといって引き剥がす勇気もなく、手はどうすることもできないでいる。

「キスでもしたら、気づいてくれる?」

「そりゃあ、まぁ、気づくんじゃないか多分……っておい、服を引っ張るなよ何しようとしてんだコラ。」

「キスだけど。」

「俺にしたって意味ないだろ。やるならちゃんとそいつにしろよって危ねえ!」

 一体いつのまに近くまできていたのか、目の前には殺気だった蜂のモンスターがこちらに向かって針を飛ばしていた。リーナも俺から離れて急いで武器を手に取る。
 あと一歩気づくのが遅ければ額に穴があいていたな、と少し冷や汗をかきつつも俺も双剣を手に立ち向かった。
 暗い洞窟、蜂のモンスター、過去にもあったなと嫌な出来事を思い出しながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

処理中です...