竜のおくりびと

蒼空チョコ@モノカキ獣医

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一時帰宅

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 ミコトが竜の大地に帰還したのは出発から二時間後というところだ。日差しも高くなってきたので、いつもみたく竜が丘に集まってきている。
 寝入るにもまだ陽気が足りないため、ごろごろと戯れていた彼らは大きな羽ばたきでこの地に戻ってくるグウィバーの姿を見つけたのだろう。出迎えに飛んでくると、着地まで飛行を共にしてきた。

 そんなことをしていると、他の視線も集まってくる。竜騎衆だ。
 別れる際に約束した通り、ベネッタが連絡してくれたらしい。彼らは土の魔術で壁を作ったり、肩に担いだ材木で梁を補強したりと壊れた家の応急修理をしてくれている。
 彼らのもとに歩くと作業の手を止めて集まってきた。

 先頭に立つのは見た目も堂々たる屈強さのグランツだ。
 その他、彼を事務面で補佐する女性、見習いなどここにいるだけで五人が見える。

「おう、嬢ちゃんお疲れ様。表情を見る感じ、竜の見送りは無事こなせたようだな」
「はい。なんとかなってホッとしていま――」
「衆長! だから御子様にはもっと敬意を払えと言っています!」

 竜騎衆の長だから衆長だ。
 親戚の娘に対するような態度のグランツにキッと鋭い目を向けた女性はその副長を担っている。グランツは続く説教に、わかってるわかってると疲れた表情を浮かべて返す。
 そんなやり取りが愉快でミコトは口元を緩めた。

 いつもならこのまま和やかに竜の世話やピクニック気分での食事と行くのだが、そうもいかない。表層世界で起こっていた事態をすぐに思い出す。

「竜のことはなんとかなったんですが、ややこしいことも起こってしまったので師匠と相談してきます。家の中にいますか?」
「はい。アルヴィン様はコーティ様と一緒に竜の世話をしておられます」

 これが御子に対する態度の手本ですとでも言いたげに振る舞う副長に、グランツはげんなりした顔だ。
 あまり堅苦しいのは好きではないが、そういう規律が大切になることもあるのだろう。ミコトはその点には口を挟まず、用件を告げる。

「わかりました。あと、その件については皆さんも一応話を聞いてくれますか?」
「ん? そりゃ構わんが」

 グランツがいつもの調子で答えると、副長はまたも鋭い視線だ。
 そんな指摘には諸手で降参を示し、彼らは元の用件に戻って意外そうな顔をする。竜の大地に関わる大事は少ないため、一体何事かと驚いているのだろう。
 詳しいことは話の中で語った方が早い。ミコトは早速家に戻る。

「……おや? おかえり、ミコっちゃん。お土産はありますか」

 アルヴィンは居間の椅子に座ってうとうととしていたところだ。
 仲睦まじい彼とコーティはしばしば夜更かし・・・・をするので、朝が弱い。だというのに竜の世話で呼び出してしまったので寝不足なのだろう。

「はい、もちろんです。それとコーティさんも含めて、度々ありがとうございます。おかげで助かりました」
「気にしない。これくらいしかやることがないから」

 ミコトはアルヴィンからコーティに視線を向ける。
 彼女はミコトたちがぞろぞろとやってきた物音で目を覚まし、鳴き声を上げ始めた竜の世話をしているところだ。

 湯を絞ったガーゼを手に取ると、ぴーぴーと鳴く竜を抱いてお尻を撫でる。
 この辺りは生まれたばかりの子犬の世話と同じだ。まだ自発的に排泄ができないので、母犬は舐めて刺激して排泄を促す。それと同じことをしている。

 あとは以前作った竜の素嚢乳ドラゴンズミルクを温めて与えようとするのだが、まだ哺乳というものを理解していないので口に近づけてやってもなかなか咥えようとしない。
 けれども寒かったり、空腹だったりするといつまでも鳴き続けるので根気強い世話が必要だ。

 最も手がかかる期間を任せることになってしまったため、お土産もできるだけ奮発している。普段なら缶入りのクッキーなどだが、今回は菓子屋が作った少しお高めの菓子折りだ。
 アルヴィンの目の前に差し出すと、「これはこれは」とお気に召してくれた。

「うんうん。後でいただきましょう。ところでミコっちゃん。続く話があるようですがその前に、汚れを落としてきた方がいいのでは?」
「それは確かに……」

 ミコトはアルヴィンの視線を追い、ゲリとフレキを見やる。
 首輪が嫌いな通り、この二頭はレインコートも含めて何かを身に着けること自体を嫌う。そのために豊かな毛皮は雨でぼさぼさな上、足元はでろでろだ。

 歩けば肉球のスタンプがつき、下手に乾けば乾いた泥があちこちに落ちてしまうことだろう。ソファーやベッドに飛び乗ったらどうなるかなんて考えたくもない。
 確実に丸洗いが必要である。

「手っ取り早く終わらせてきます。ゲリ、フレキ、お風呂!」
「うぉふっ!」

 このまま室内をダッシュされてはたまらないので風呂までの道は結界によって作る。
 二頭も泥でがびがびとする感覚は好むところではないのですぐに応じて走っていったのだった。
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