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第十一章 因縁の対決
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「あなたが……お兄ちゃんのお父さんを、前王陛下を殺したの?」
前王を殺した相手と聞いてエルが息を呑む。
それは弑逆の大罪人という意味だ。
「あの男が愚かなのだ。育ててやったワシを裏切るから。宰相から引きずり下ろそうとするから」
言っている間に当時のことを思い出したのか、老人は勝手にひとりでに話し出した。
「賢王と呼ばれるように育てたのはワシなんだぞっ!! なのに裏切りおったっ!! ワシを裏切ってリドリス公を宰相に迎えようとしおったっ!! だから、殺したのだっ!!」
「「狂ってる……」」
そんな理由で人を殺せるこの老人がふたりは怖かった。
身を寄せあって肩を抱く。
「過去の亡霊は殺さねばならぬ。同じ顔でワシの前に立つから。目障りなのだっ!!」
そう言って短刀を抜いた老人がふたりに斬りかかろうとする。
間一髪でそこに割り込んだのは、さっきまでひとりで奮闘していたマリンだった。
走りながら公爵に向かって短刀を投げる。
それは公爵の腕を傷つけ短刀を落とさせた。
公爵が跪きマリンを睨む。
「あなたを捕らえます、アドレアン公爵」
息を切らせて駆けつけてきたマリンがそう言った。
剣を公爵の喉元に押しつけて。
「護衛騎士ごときが血迷ったか」
「血迷ったのはどちらか。あなたを捕らえるように、すでに国王陛下からお触れが出ています。あなたを庇う者はもうひとりもいませんよ?」
「あの若造がっ。どこまでもワシを足蹴にしおってっ!!」
「足蹴にしているのはあなたの方だっ。あなたのためにアベルは……アルベルト王子は何度苦しんだかっ」
マリンの厳しい声にふたりはアベルの身になにかがあったことを知る。
王女たちの護衛であるマリンが動いているのも、国王から命令が出ているから。
ふたりとも助かったのだとほうと息を吐いた。
「マリン。ご苦労でした」
「これは宰相閣下っ!!」
その場に優雅に現れたリドリス公爵にマリンは会釈を投げた。
公爵に逃げられた後、劣勢だったマリンが勝てたのは、リドリス公爵が援軍を引き連れてきたから。
それがなければふたりを助けられたかどうか怪しい。
「危険な橋を渡ったが、王子の身元を明かした価値はあった。あなたは焦ってボロを出した。それほどご自分が殺した前王の忘れ形見である王子が……怖かったのですか?」
「王子ではないっ。あれは亡霊だっ!!」
現実を見据えていない公爵に、リドリス公爵は痛ましい眼を向ける。
彼にはもう現実を把握する思考力さえ残っていないのだと知って。
「残念ですよ、公爵。わたしはあなたを良き好敵手だと思っていた。あなたには……そう思われてなかったでしょうが」
「ワシの好敵手だと? 若造のくせに生意気なっ」
「……それがあなたの本音ですか? あなたを信じた我々が愚かだったのか。前王陛下がどれほど悔しい想いを噛みしめて亡くなったか、あなたに知ってもらいたかったのに……それさえも望めないのですね、公爵」
そこまで言ってからリドリス公爵はアドレアン公を捕まえている騎士団に声を投げた。
「前王陛下、弑逆の大罪人だ!! 連行しろっ!!」
「「はっ」」
騎士団に引っ立てられて公爵が連行されていく。
それをフィーリアたちは黙って見送っていた。
「お兄ちゃんっ。お兄ちゃんっ!!」
泣きそうな声が名を呼んでいる。
ゆっくりと目を開く。
そこでフィーリアが泣いていた。
「フィーリア」
「よかった。目が覚めたんだね? 心配したんだから」
「それはこっちの科白だよ。無事でよかった」
そう言って頬を撫でる。
涙を拭って。
「すまない、乱暴な手を使って」
「叔父さん」
寝台に腰を掛けて髪を撫でてくるのはケルト叔父だ。
済まなそうな眼をしていた。
「ああでもしないとそなたを止められないと思ったのだ。だが、心配したぞ? 3日も目覚めないんだから」
「旦那様が薬など使うからじゃ。弱った心臓がもたなかったのじゃ。すこしは反省しなされ」
「爺。そなたが用意をしておいて自分だけ逃げるな」
「ワシはほれ。命じられただけだからして」
「爺」
じっとり睨むケルトにローエンは声をあげて笑った。
それはもうアベルの容態が落ち着いた証拠だった。
心臓が弱って倒れたときに薬などを使用され、アベルは一時的に昏睡状態に陥っていたのだ。
その間爺は甲斐甲斐しく世話をしていた。
だから、本気では責められないケルトである。
「しばらく若は絶対安静じゃ」
「え? なんで?」
「心の臓の後遺症が治るまで絶対安静じゃと言うておるのじゃ」
「横暴だよ、爺」
「患者を治すのがワシの仕事じゃ。反論は聞かんぞ」
アベルはちょっと怒ったが言ってることは確かだったので食い下がることもなかった。
なにがあったのか訊こうかとも思ったが、ケルトの落ち着いた様子や無事だったフィーリアの様子を見ても、すべてが片付いていることは察することができたので、アベルはなにも言わなかった。
後はエル姉と和解できて、アベルが国王になるために相応しくなれればいいのだが、こちらは時間が掛かりそうだった。
前王を殺した相手と聞いてエルが息を呑む。
それは弑逆の大罪人という意味だ。
「あの男が愚かなのだ。育ててやったワシを裏切るから。宰相から引きずり下ろそうとするから」
言っている間に当時のことを思い出したのか、老人は勝手にひとりでに話し出した。
「賢王と呼ばれるように育てたのはワシなんだぞっ!! なのに裏切りおったっ!! ワシを裏切ってリドリス公を宰相に迎えようとしおったっ!! だから、殺したのだっ!!」
「「狂ってる……」」
そんな理由で人を殺せるこの老人がふたりは怖かった。
身を寄せあって肩を抱く。
「過去の亡霊は殺さねばならぬ。同じ顔でワシの前に立つから。目障りなのだっ!!」
そう言って短刀を抜いた老人がふたりに斬りかかろうとする。
間一髪でそこに割り込んだのは、さっきまでひとりで奮闘していたマリンだった。
走りながら公爵に向かって短刀を投げる。
それは公爵の腕を傷つけ短刀を落とさせた。
公爵が跪きマリンを睨む。
「あなたを捕らえます、アドレアン公爵」
息を切らせて駆けつけてきたマリンがそう言った。
剣を公爵の喉元に押しつけて。
「護衛騎士ごときが血迷ったか」
「血迷ったのはどちらか。あなたを捕らえるように、すでに国王陛下からお触れが出ています。あなたを庇う者はもうひとりもいませんよ?」
「あの若造がっ。どこまでもワシを足蹴にしおってっ!!」
「足蹴にしているのはあなたの方だっ。あなたのためにアベルは……アルベルト王子は何度苦しんだかっ」
マリンの厳しい声にふたりはアベルの身になにかがあったことを知る。
王女たちの護衛であるマリンが動いているのも、国王から命令が出ているから。
ふたりとも助かったのだとほうと息を吐いた。
「マリン。ご苦労でした」
「これは宰相閣下っ!!」
その場に優雅に現れたリドリス公爵にマリンは会釈を投げた。
公爵に逃げられた後、劣勢だったマリンが勝てたのは、リドリス公爵が援軍を引き連れてきたから。
それがなければふたりを助けられたかどうか怪しい。
「危険な橋を渡ったが、王子の身元を明かした価値はあった。あなたは焦ってボロを出した。それほどご自分が殺した前王の忘れ形見である王子が……怖かったのですか?」
「王子ではないっ。あれは亡霊だっ!!」
現実を見据えていない公爵に、リドリス公爵は痛ましい眼を向ける。
彼にはもう現実を把握する思考力さえ残っていないのだと知って。
「残念ですよ、公爵。わたしはあなたを良き好敵手だと思っていた。あなたには……そう思われてなかったでしょうが」
「ワシの好敵手だと? 若造のくせに生意気なっ」
「……それがあなたの本音ですか? あなたを信じた我々が愚かだったのか。前王陛下がどれほど悔しい想いを噛みしめて亡くなったか、あなたに知ってもらいたかったのに……それさえも望めないのですね、公爵」
そこまで言ってからリドリス公爵はアドレアン公を捕まえている騎士団に声を投げた。
「前王陛下、弑逆の大罪人だ!! 連行しろっ!!」
「「はっ」」
騎士団に引っ立てられて公爵が連行されていく。
それをフィーリアたちは黙って見送っていた。
「お兄ちゃんっ。お兄ちゃんっ!!」
泣きそうな声が名を呼んでいる。
ゆっくりと目を開く。
そこでフィーリアが泣いていた。
「フィーリア」
「よかった。目が覚めたんだね? 心配したんだから」
「それはこっちの科白だよ。無事でよかった」
そう言って頬を撫でる。
涙を拭って。
「すまない、乱暴な手を使って」
「叔父さん」
寝台に腰を掛けて髪を撫でてくるのはケルト叔父だ。
済まなそうな眼をしていた。
「ああでもしないとそなたを止められないと思ったのだ。だが、心配したぞ? 3日も目覚めないんだから」
「旦那様が薬など使うからじゃ。弱った心臓がもたなかったのじゃ。すこしは反省しなされ」
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「ワシはほれ。命じられただけだからして」
「爺」
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それはもうアベルの容態が落ち着いた証拠だった。
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その間爺は甲斐甲斐しく世話をしていた。
だから、本気では責められないケルトである。
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「え? なんで?」
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「横暴だよ、爺」
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アベルはちょっと怒ったが言ってることは確かだったので食い下がることもなかった。
なにがあったのか訊こうかとも思ったが、ケルトの落ち着いた様子や無事だったフィーリアの様子を見ても、すべてが片付いていることは察することができたので、アベルはなにも言わなかった。
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