天則(リタ)の旋律

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第二章 新たなる土地で

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 ガヤガヤ、ガヤガヤ。

 男子高校生ばかりが集まった食堂というのは、それなりに騒がしい。

 女子生徒のような賑やかな騒がしさではないが、男子特有のそれは慣れるまでは、かなり疲れるものがある。

 甲斐はそういう普通の高校生活に憧れて、わざとこの湘南を受験し、おまけに必要のない入寮までしてのけたのだが。

 入学式であり始業式でもある今日は、やはりみんな浮かれているのか、いつもの3倍は騒がしい。

 初々しい1年が上級生にからかわれる場面などは、去年の自分を見ているようだ。

 それからふと気付く。

「修羅の奴まだ寝てるのか? もうすぐ時間だってのに食堂に姿を見せないが」

 初対面のときはなまじな美少女顔負けの美貌に呆気に取られ、その外見とあだ名や態度、それに口調などのアンバランスさに驚いた。

 しかし、しばらくするとあだ名の方が合っているんだと痛感させられたものだ。

 あまりに存在感がありすぎるのと、上級生に目をつけられやすい美貌の主であることから、入寮してそう日が経たないあいだに問題を起こしたのだ。

 ペットにしてやるとか、上級生(それもだれもが避けて通る不良生徒だ)にコナをかけられた。

 実際のところ人気のないところに誘い込んで、周りを取り囲んだ上での暴言だったので、ほとんど決定権のない脅迫のようなものだった。

 それをあいつは……。

『あんたらさあ。なに勘違いしてんだよ? そんなこと言われて、はいそうですかって、有り難がって受ける奴がいるとでも思ってんのかよ? 鏡を見て出直してきな。ゲスには用はねえよ』

 と、正面から言い返したらしい。

 全く。

 見事なほどの啖呵だ。

 度胸のよさが痛いほど伝わってくる。

 もちろん入学すらしていない1年に、そんなことを言われて黙っていられる集団ではなく、当然のように乱闘騒ぎになった。

 呼び出されてから乱闘騒ぎになるまで僅か10分。

 甲斐や三枝薫が駆け付けたときには、すでに決着はついていた。

 外見から見ればどうやっても静羅に勝ち目はないはずで、だから、甲斐も寮長の三枝も焦ったのだ。

 しかし実際には余裕綽々の静羅に遊ばれて、全員が重軽傷を負いのたうち回るという、予想外の結果となった。

 一方の静羅は無傷で、ふたりともあんぐりと口を開けたまま、どんな反応も見せられなかったほどである。

『ああ。いいところにきた。こいつらの後始末頼むわ。俺はそろそろ部屋に戻らないといけないし』

 おい、ちょっと待て、と言いたくなるような、あっけらかんとした口調だった。

『全く。冗談じゃないぜ。あんなところで邪魔してくれて。あいつが心配してキレたらどうしてくれるんだよ? 入学する前に連れ戻されるなんてごめんだぜ、俺は』

 ぶつぶつ言いながら去っていった。

 思わずふたりして目撃した場面が信じられず、唖然として見送ってしまった。

 静羅があまりにも平然と何事もなかったかのような態度を取ったので、反応の返しようがなかったのだ。

 実際この事件は負傷者が出たために教師に報告されたのだが、騒がれたのは事件の最初の方だけだった。

 教師陣が総代をやる生徒が問題を起こしたため、慌てているところへ、突然の上からのお達しで静羅に関する処罰はなし、という結果になった。

 それだけではなく以後こういう問題で、静羅に関わった生徒は厳重に処すべき、という厳命まであったらしい。

 これらを通達された甲斐と三枝は、再び口が開いたまま塞がらない気分を味わった。

 処罰の対象とされた負傷者は、あまりに理不尽な結果に食って掛かった者もいるらしいが、それらが通ることはなく、それでも食い下がってきた者は(信じられないが)他校へと転校させられてしまった。

 すべてが片付くまで、それほど時間はかからず、一部始終に立ち会う形になった甲斐と三枝は顔を見合わせてしまった。
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