これはきみとぼくの出逢い〜黎明へと続く夜明け前の物語〜

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序章

異世界へ

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 外は一面、雪で真っ白だ。

 真宮綾都は登校途中で立ち止まり、両手に白い息を吹きかけた。

 凍っていた手が微かに温かくなる。

 そんな弟に気付いて先を歩いていた双生児の兄、朝斗が駆け寄る。

「綾っ!! どこか具合が悪いのかっ!?」

 心配性な兄の言葉に綾都はニコリと笑う。

「違うよ、兄さん。ちょっと寒くて。今日は雪がスゴいから」

 そういう綾都の息は真っ白である。

 心配そうに朝斗は瞳を陰らせた。

「学校休むか? 家に戻るなら送るけど」

「なに言ってるの。この程度の雪で休んでいられないでしょ」

「でも、綾は身体弱いんだし」

 実際にこんな寒い中に1時間もいれば、すぐに風邪を引いてしかも拗らせてしまう綾都である。

 兄の心配も無理はなかったが、学校を休めというのは従えなかった。

 身体が弱くて外で遊べない綾都にとって、学校は唯一の外の世界なのだ。

 学校はとても楽しみにしていることなのである。

「平気だってばっ」

 元気に言って歩き出そうとする弟に、過保護な兄は仕方なさそうな顔になる。

 それでも悴んだ手が見えて、朝斗は弟に駆け寄るとそっと手を繋いだ。

「兄さん?」

 綾都が振り返る。

「手袋忘れたんだろ? 手袋代わりだよ。それからこれ」

 そう言って一度だけ繋いだ手を放すと、朝斗は弟に自分がしていたマフラーを身に付けさせた。

 うっかり者で支度してもよく家に忘れてくる綾都は困ったように笑う。

「ごめんね? 寒いでしょ?」

「大したことないって。綾が寒い方が俺はいやだから」           

 朝斗は手袋はしない主義だが、こう何度も忘れられるとした方がいいかな? という気もする。

 朝斗がしていれば手を繋がなくても弟の手を暖かくできるからだ。

 朝斗は精悍な顔立ちをしていて、美少年というより美青年に見えるほど大人びているが、綾都はやはり生来の体質が堪えているのか、体格は華奢で身長も低くどう見ても美少年。

 顔立ちも違うせいで双生児には見られたことがない。

 高校生だというのに高校生と中学生の兄弟に見られるのが常だった。

 但しよくてと条件はつくが。

 朝斗は非常に過保護なので、過保護すぎてよく誤解されるのだ。

 綾都との仲を。

 いくら双生児でも兄弟としては仲が良すぎるのだそうだ。

 綾都が女の子でも通るような顔立ちをしていることや、朝斗が愛称で「綾」と女の子みたいに呼んでいることもあって、普通に解釈されるときは大抵恋人同士だったりした。

 朝斗が綾都を構う様子が、か弱い恋人を構っているように見えるらしいのだ。

 これには朝斗は苦笑するしかなかった。

 誤解されても、そういう目で見られても、弟の世話をだれかに譲る気はなかったので。

 綾都は虚弱な体質なので病院と学校をいったり来たりしていて、朝斗はそれに付き合っているので、留年するときは一緒だったりもする。

 綾都は兄のことを心配して付き添わなくていいと言うのだが、朝斗が受け入れたことがないのだった。

 ふたりは今年17になるが、実は高校1年生をまたやり直すはめになっている。

 それも綾都が去年の半分を病院で過ごしたせいだ。

 朝斗には申し訳なかったが、彼はほとんどそういうことを気にしない。

 それどころか自分だけ進級して、綾都の面倒をみられなくなる方を気にする。

 そのせいだろうか。

 綾都も朝斗の構い方に慣れてしまって特別違和感は持っていない。

 しかし高校生にもなって男兄弟が手を繋ぐってどうよ? などと綾都も思わないでもない。

 立場が弱いので口には出さないが。

 新年もあけて真冬の真っ只中。

 学校に行く意味は勿論ない。

 留年が決まっているので。

 それでもふたりは学校に向かう。

 綾都が級友たちと別れるのを惜しむから。

 信号の手前で赤になったので立ち止まる。

 すると走り出した車の影で子猫が飛び出したのが綾都の目に入った。

 条件反射的に朝斗の手を振り切って駆け出す。

 勿論運動できない綾都なのでスピードはそんなに出ない。

 間に合う保証もなかったが、間一髪で子猫を反対側に放り投げる。

 そのときには車は綾都の真正面まできていた。

「っ!!」

 身体が強張る。

 強張って動けない。

 動いたのは朝斗だった。

 突然の綾都の行動に呑まれていた朝斗だけが正気に返って動いた。

 綾都の下へ駆け寄る。

「綾都!!」

 甲高い急ブレーキを踏む音が響く。

 綾都の身体に朝斗の腕が伸びる。

 すべてをスローモーションのように感じながら綾都は目を閉じた。

 最後に視界に映ったのは灰色の空。

 朝斗がしっかり抱いてくれているのを感じながら、綾都は宙に放り投げられたのだった。
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