12 / 50
第三章 精霊使い
(4)
しおりを挟む
「貴方の気持ちはわかるが、それは逆にロベール卿を傷付ける」
「え?」
「貴方がどれだけ隠そうと貴方が精霊使いであることは事実だ。何れ隠せなくてバレるときがきっと来る。そのとき否応なしに貴方の精霊使いとしての高い能力を見せ付けられた方が、ロベール卿にはきっと衝撃的なことだろう」
「ボクのやり方はロベールを逆に傷付ける?」
頼りない声に瀬希は頷いた。
「貴方は……見たんだろう? 綾が精霊に触れてなにが起きたか。ふたりが精霊とどんな会話をしたか、全て見たし聞いた。だから、ロベール卿や他のルノール人とは感じ方が違う。違うか?」
「そうです。ですからボクが意識しているのは朝斗様ではなく綾都様です。あんな現象はボクは知らない。精霊に触れただけで光輝かせ、その力を増幅させる。そんな加護を与えられる人間なんてボクは知りません。まして精霊に敬語を使われ、敬意を払われた上に永遠の忠誠を誓われるなんて、既に常識の枠を越えている」
「……なるほど」
瀬希はため息をついて綾都を見た。
それが本当なら見ていたのが、理解できたのがレスターひとりで助かったかもしれない。
人々は朝斗という目眩ましに引っ掛かって、本当に驚異を抱くべき綾都には注意していないということだから。
「でも、意識してしたわけじゃないんだよ? ぼくだってなにがなんだか」
「それは知るべきことかどうか、それを判断するのはボクではなくあなた方です、綾都様」
「ぼくら?」
「力があるのは事実。その力故にあなた方は、これから国々の争いに巻き込まれていくでしょう。まずは朝斗様」
「俺?」
朝斗が自分を指差す。
頷いてレスターはため息をつく。
「貴方はご存じないかもしれませんが、精霊が貴方にしたことは、貴方に加護を与えること。そして最初に全ての精霊が、貴方の頬に口付けたのは、最上級の精霊使いに対する精霊たちの親愛の情の表現です」
「俺が最上級の精霊使い? 有り得ないだろっ!!」
「貴方にとってはそうかもしれない。でも、あの場面を見ていたロベールにとっては、驚異だということを理解してください」
断言されて朝斗は言葉を詰まらせた。
「こんなことを言うのは、国の軍事事情を打ち明けるようで躊躇われるんですが、現在最上級の精霊使いというのは、ボクを除いて存在しません」
「凄いな。レスター王子は最上級の精霊使いだったのか。それはまああの場で起きたことも、全て理解できるだろうな」
最上級の精霊使いとは、ある意味で召還師でもあると聞く。
精霊たちの力を借りて召還術をも行使する者。
それこそが最上級の精霊使い。
上級との区別はそこにあった。
それだけに力は段違いで、最上級の精霊使いひとりで、一軍以上の働きができる。
この王子はルノールのただひとりの最上級の精霊使いなのだ。
それを隠しているのだから、並々ならぬ努力をしているのだろう。
「ですからロベールは貴方を狙うかもしれないと、そう言っているんです。朝斗様」
「俺にはそんな力なんて……」
「そうですね。あるかもしれないしないかもしれない。寧ろボクが恐れているのは綾都様の方ですし。綾都様の力こそ常識では推し量れない」
「ぼくは普通だよ?」
理解しない綾都の無邪気な瞳にレスターは笑う。
「貴方は不思議な人ですね。でも、瞳に独特の光がある。力があるのは事実でしょう」
「力があっても綾は役立たずだろう」
瀬希が無情なくらいにキッパリと断言する。
綾都はムッとしたがレスターは不思議だった。
綾都を護るためでもなさそうな、本心から言った言葉に聞こえたからだ。
「どうしてですか?」
「そちらが秘密を明かしたから、こちらも打ち明けるが、綾は……身体が弱いんだ」
「虚弱体質?」
見られて綾都は眼を逸らす。
「もし本当に綾都がそれだけ脅威的な力を秘めていても宝の持ち腐れだ。おそらく体力が続かなくて、ろくに使えないだろう」
「そうだったんですか」
確かにそれでは宝の持ち腐れだ。
折角の力も発揮できないのでは意味がない。
「取り敢えず忠告は感謝する。朝斗が狙われているとなると、綾が狙われる確率も増すからな。朝斗を従えるために弱点となる綾を先に狙う可能性もあるし、ひとりよりふたりと判断されても不思議はないから」
「それと朝斗様にもうひとつ忠告が」
「なんだよ?」
「貴方は精霊の四大と言われる四精霊に加護を与えられました。おそらく全世界精霊教の理の影響は、貴方には通じない。それだけ異端視される恐れがあるということを常に意識しておいて下さい。ボクも出来る限り庇いますが、あなた方は余りにも普通ではない。庇いきれる自信はないので」
「全世界精霊教の理の影響……ねえ」
その知識なら朝斗の中にはある。
こちらで学んだからだ。
それはすべての精霊を操れる上に、全ての精霊の力を無にできるということだ。
それは最上級の精霊使い以上に求められている存在だと歴史書には書いていた。
なんてことだ。
あのときの加護がそんなものになるとは。
頭が痛くて朝斗はため息をついた。
「え?」
「貴方がどれだけ隠そうと貴方が精霊使いであることは事実だ。何れ隠せなくてバレるときがきっと来る。そのとき否応なしに貴方の精霊使いとしての高い能力を見せ付けられた方が、ロベール卿にはきっと衝撃的なことだろう」
「ボクのやり方はロベールを逆に傷付ける?」
頼りない声に瀬希は頷いた。
「貴方は……見たんだろう? 綾が精霊に触れてなにが起きたか。ふたりが精霊とどんな会話をしたか、全て見たし聞いた。だから、ロベール卿や他のルノール人とは感じ方が違う。違うか?」
「そうです。ですからボクが意識しているのは朝斗様ではなく綾都様です。あんな現象はボクは知らない。精霊に触れただけで光輝かせ、その力を増幅させる。そんな加護を与えられる人間なんてボクは知りません。まして精霊に敬語を使われ、敬意を払われた上に永遠の忠誠を誓われるなんて、既に常識の枠を越えている」
「……なるほど」
瀬希はため息をついて綾都を見た。
それが本当なら見ていたのが、理解できたのがレスターひとりで助かったかもしれない。
人々は朝斗という目眩ましに引っ掛かって、本当に驚異を抱くべき綾都には注意していないということだから。
「でも、意識してしたわけじゃないんだよ? ぼくだってなにがなんだか」
「それは知るべきことかどうか、それを判断するのはボクではなくあなた方です、綾都様」
「ぼくら?」
「力があるのは事実。その力故にあなた方は、これから国々の争いに巻き込まれていくでしょう。まずは朝斗様」
「俺?」
朝斗が自分を指差す。
頷いてレスターはため息をつく。
「貴方はご存じないかもしれませんが、精霊が貴方にしたことは、貴方に加護を与えること。そして最初に全ての精霊が、貴方の頬に口付けたのは、最上級の精霊使いに対する精霊たちの親愛の情の表現です」
「俺が最上級の精霊使い? 有り得ないだろっ!!」
「貴方にとってはそうかもしれない。でも、あの場面を見ていたロベールにとっては、驚異だということを理解してください」
断言されて朝斗は言葉を詰まらせた。
「こんなことを言うのは、国の軍事事情を打ち明けるようで躊躇われるんですが、現在最上級の精霊使いというのは、ボクを除いて存在しません」
「凄いな。レスター王子は最上級の精霊使いだったのか。それはまああの場で起きたことも、全て理解できるだろうな」
最上級の精霊使いとは、ある意味で召還師でもあると聞く。
精霊たちの力を借りて召還術をも行使する者。
それこそが最上級の精霊使い。
上級との区別はそこにあった。
それだけに力は段違いで、最上級の精霊使いひとりで、一軍以上の働きができる。
この王子はルノールのただひとりの最上級の精霊使いなのだ。
それを隠しているのだから、並々ならぬ努力をしているのだろう。
「ですからロベールは貴方を狙うかもしれないと、そう言っているんです。朝斗様」
「俺にはそんな力なんて……」
「そうですね。あるかもしれないしないかもしれない。寧ろボクが恐れているのは綾都様の方ですし。綾都様の力こそ常識では推し量れない」
「ぼくは普通だよ?」
理解しない綾都の無邪気な瞳にレスターは笑う。
「貴方は不思議な人ですね。でも、瞳に独特の光がある。力があるのは事実でしょう」
「力があっても綾は役立たずだろう」
瀬希が無情なくらいにキッパリと断言する。
綾都はムッとしたがレスターは不思議だった。
綾都を護るためでもなさそうな、本心から言った言葉に聞こえたからだ。
「どうしてですか?」
「そちらが秘密を明かしたから、こちらも打ち明けるが、綾は……身体が弱いんだ」
「虚弱体質?」
見られて綾都は眼を逸らす。
「もし本当に綾都がそれだけ脅威的な力を秘めていても宝の持ち腐れだ。おそらく体力が続かなくて、ろくに使えないだろう」
「そうだったんですか」
確かにそれでは宝の持ち腐れだ。
折角の力も発揮できないのでは意味がない。
「取り敢えず忠告は感謝する。朝斗が狙われているとなると、綾が狙われる確率も増すからな。朝斗を従えるために弱点となる綾を先に狙う可能性もあるし、ひとりよりふたりと判断されても不思議はないから」
「それと朝斗様にもうひとつ忠告が」
「なんだよ?」
「貴方は精霊の四大と言われる四精霊に加護を与えられました。おそらく全世界精霊教の理の影響は、貴方には通じない。それだけ異端視される恐れがあるということを常に意識しておいて下さい。ボクも出来る限り庇いますが、あなた方は余りにも普通ではない。庇いきれる自信はないので」
「全世界精霊教の理の影響……ねえ」
その知識なら朝斗の中にはある。
こちらで学んだからだ。
それはすべての精霊を操れる上に、全ての精霊の力を無にできるということだ。
それは最上級の精霊使い以上に求められている存在だと歴史書には書いていた。
なんてことだ。
あのときの加護がそんなものになるとは。
頭が痛くて朝斗はため息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる