外伝・世界最強の英雄王たちに愛された唯一無二の聖女〜逆ハーレム? いえ、一途です〜

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煉獄への前奏曲ープレリュードー

第五章 絡み始めた運命の糸(3)

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 そうしてエディスが平常心を取り戻したのは、執拗なキスの後で、リュシオンの膝枕で仮眠を取ってからだった。

 すぐに元の明るいエディスに戻るには、精神的な負担が酷かったのだ。

 眠っていても流れる涙。握ったリュシオンの手を放そうとしない、幼い手。

 眠るエディスの髪を続きながら、リュシオンは苦い気分を捨てきれなかった。

 限界だとそう思えた。

 エディスを隔離したまま育てるのは、そろそろ限界だと。

 急に外界に戻せないとしても、少しずつ外界と触れ合うことを覚えさせた方がいい。

 そのときがきたのだ。

 今度の出来事はリュシオンにそう判断させていた。

 このままではエディスの心が壊れてしまう。

 今のエディスなら徹底的に隔離する必要性も感じない。

 リュシオンから見ても、以前ほど似ているという印象を感じなくなったのだ。

 社交界に出しても、疑いを持つものはいないだろうと思えた。

 なによりもエディスにあんな怯えた眼をさせたくない。

 自分は孤独だときらわれることに怯えるエディスを見たくない。

 二度とあんなエディスを見たくなかった。

 決意はさっきの出来事で不動のものとなっていた。




 何度か購毛が震えて、ゆっくりエディスが験を開いた。

 現れる煙るような着い瞳に、優しい微笑を浮かべたリュシオンが映る。

 ほんの一瞬、エディスの類に朱が差した。

 何度も何度も彼が与えてくれた、優しいキスを思い出して。

「おはよう、エディスターシャ。今度こそ俺がわかるな?」

 心配に瞳を陰らせた問いだった。

 我を失ったエディスを見て、リュシオンがどれほど傷ついたのかが伝わってくる、そん声音だった。

「わかるわ。ずっとずっと待っていた兄さまよ」
 
 答えるエディスの声も涙まじりだった。

「泣かないでくれ。俺が悪かったよ。くることができないなら、連絡のひとつでも入れればよかったのに、エディスの立場を考慮して遠慮した。俺が間違っていたんだ。こんなに傷付けていたなんて思わなかったんだ。許してほしい、エディスタージャ。こんなに傷つけて追い詰めた俺を」

「兄さまのせいじゃないわ。信じることができなくて、自分の寂しさに負けたわたしもいけなかったのよ、兄さま」

 泣きながら、それでもリュシオンを責めず、自分に非があるといったエディスに、リュシオンの胸の痛みは増した。 

「本当はくるつもりだったんだ、俺は」

「兄さま?」

 すぐにはなんの話かわからなかったけれど、エディスはすぐに気づいた。

 問題となっている誕生日に関連する言葉だと。

「それが抜けられない仕事が入って、どうしてもくることができなかったんだ。エディスのことは気掛かりだったが、そこから先は別の仕事に追われていたし、自由に時間が取れなかった。贈り物に手間取っていたこともあって、完成してから逢おうと気楽に考えていたんだ、俺は。エディスがこんなに傷ついているなんて考えもせずに」

 エディスの心を気遣うことを忘れた自分を、激しく責める口調だった。

 自責の念に駆られるリュシオンの姿を目の当たりにして、エディスはそれまでの孤独が薄れていくのを感じていた。

 どうすることもできない、誤解と悲しいすれ違いだったのだ。

 お互いを気遣う心は確かにあったのに、どこかですれ違ってしまっていた。

 そう思うだけで心が軽くなるような気がした。

「きらわれていなかったのなら、もうそれたけでいいわ」

「どうして俺がエディスをきらうんだ? こんなに好きなのに」

 ささやくような告白の後で、リュシオンは何故かはっとしたように息を噛んだ。

 しかし彼の動揺の意味は、エディスには伝わらなかった。

「あなたにきらわれることが怖かったの。もう逢いにきてくださらないかもしれない。そう考えるだけで恐ろしくて眠れなかったの。馬鹿みたいね。あなたはそんなに真っ直ぐわたしを見詰めてくれるのに」

 隔離された境遇が、彼女をこんなにも臓病にしたのだ。

 人付き合いに慣れていないから、すこしのことできらわれたと思い込む。

 彼女をこんなふうに追い詰めたのは、やはりリュシオンなのかもしれなかった。

 リュシオンの膝に顔を埋めたまま、まだ震える彼女の髪をを梳く。

 そのとき慰める気持ちと同時に悪戯心が湧いてきた。

 なんの前触れもなく横髪を梳き、手作りの髪飾りを身につけさせる。

 はっとエディスは顔を上げ、手で触れてみた。

 そこに覚えた感触に端正な彼女の顔に、徐々に驚きが広がっていく。

「かなり遅れてしまったが、誕生日の贈り物だよ、エディスの」

「え?」

「エディスは着飾らないタチだからな。そのままでも綺麗だが、俺は女の子らしく着飾ってってほしかったんだ。だから、時間がかかるとわかっていたが、今回の贈り物は髪飾りにした。おかげで誕生日には間に合わなくて、大幅に遅れてしまったが」

 苦笑を刻んだリュシオンの説明に、エディスは呆然としつつ上半身を起こした。

 髪に手を当ててみれば、確かに固い感触がある。

 途惑いながら外し、掌に転がすと、それは素敵なデザインの支飾りだった。

 蒼月華の花束がモチーフなのか、薄く切られた花びらの形をした石が、風に揺れる。

 中央の紅い宝石が一際見事だった。

「これも兄さまの手作りなの?」

「ああ。世界にひとつしかないエディス専用の髪飾りさ。気に入らなかったか?」

 派手な装飾品は好きではないと、いつか冗談まじりに言ったことがある。

 そんな些細なことまで覚えていてくれたのだろうか?

 華美にならないていどに抑えられた、可憐なデザイン。

 女の子なら気軽に身につけてみたいと思わせる、そんな髪飾りだった。

 それでいて値段なんてつけられない高級品でもあったが。
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