弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

文字の大きさ
116 / 140
第十四章 たったひとつの真実

(5)

しおりを挟む
「少なくとも取引の材料にはなると思ってる。それだけの価値もあると思うし。そちらが受け入れないなら、オレにも考えがある」

「取引の次ぎは脅しか。さすがに普通の人間ではないらしい。一体何者だ?」

「さあ?」
 
 亜樹があっさり言ったので、五人の神々はみんな面食らったような顔になった。

 それは見守っているエルシアたちにしても同じだったのだが。

「オレが何者か、確認したければマルスのようにオレの血でも飲んでみる? そうしたらその身でわかるかもしれないよ?」

「一部縄ではいかぬか。とりあえず条件を聞こう」

「ふたつめは水不足が起きる具体的な時期と、そして回避に必要な最低限の期限を知りたい」

「なぜだ?」

「さっきオレにならマルスの力を完璧に引き出せると言ったけど、それにはすこし時間がいる
んだ」

「時間が?」

「すぐにと言われてもちょっとできない。だから、どのくらいの猶予があるのか、それを知りたい。今すぐと言われてもちょっとできない。だから、どのくらいの猶予があるのか、知りたいんだ」

「なるほど。まだあるのか?」

「これで最後だよ。さっきも言ったけど事が終わったら、マルスは解放してやってほしい。神々の長として東縛するのはなしだ」

「それは出すぎた真似ではないのか? これは神々の問題だ」

「そのマルスが力を発揮するために、オレの存在が不可欠でも?」

「‥‥‥」

「オレが無関係だとは言わせない。今回のことにしたって、例えオレがマルスの力を蘇らせても、大体オレが同行しないと意味がないはずだ。そちらもそうやってオレを縛りつけるのに口出しするなって? 神っていうのは人の心を無視するほど徹慢なのか?」

 亜樹の指摘にエルダは悔しそうな顔をした。

 長代理であるエルダが直接、受け答えしているので、他の神々は口を出さないが、みんなたぶん事が終わっても一樹を解放する気はなかったのだろう。

 案の定だ。

「その代わり創世のころのように、オレひとりが束縛することもしない」

「どういう意味だね?」

「どう動こうとマルスの自由ということだ。オレの傍にいたいというならいればいいし、どこか違うところに行きたければ行けばいい。選択権はマルス本人のもの。それを忘れないでもらいたい」

「ふむ」

 どこか面白がるような眼で亜樹を見つめてから、エルダは笑いながら口にした。

「今回の危機を回避できるというなら、確かに条件を呑むだけの価値はある。だが、それはふたつめの条件に関してだけだ」

「なぜだ?」

「マルスに関しては神々の領域。そなたがどう言おうと簡単に諦めるわけにはいかぬのだ。大賢者殿。マルスがいなくてはもうどうしようもないところまできている。代償としては大きすぎるな。我らの長をそのていどだと思ってもらっては困る」

「そのマルスの力を引き出すために、オレが払う代償だって決して小さなものじゃないんだ。なにも犠牲にせずに引き出せるわけじゃない。それでも?」

「できぬ相談だ。マルスは我等にとって欠かせぬ存在だからな」

「なら、世界の存続を秤にかけてもマルスを選ぶ、か? 風神エルダ?」

 低く笑った亜樹の脅しに、エルダは息を呑んだ。

「なんと?」

「マルスを束縛しないと誓うなる、オレはどんな代償を払っても、もしそのために死ぬようなことになっても、世界は救ってみせる。そのために必要だというなら、力も覚醒させる。記憶も取り果す。どんな手段を使かってもかつての力を取り戻して、世界を救済することを誓う。世界が均衡を取り戻せるようにしてみせる」

「そなたにならそれができると?」

「できるかできないか、それはやってみないとわからない。不確定な約束をするほど無責任なことはないと思うからな。だが、マルスから聞いた話を総合し、自分なりに予測するとおそらく可能だ」

「大した自信だな。記憶もない身でありながら。それが大賢者と呼ばれた所以か? 人の子よ」

「人、か」

 俯いた亜樹にエルダが怪訝そうな顔になる。

「もしそうならオレがマルスを傷つけることはなかった」

「‥‥‥」

「たぶんオレは人間じゃない。もしかしたら世界の理から外れた存在かもしれない。そのくらいの自覚はオレにだってあるん
「だから、断言できると?」

「言ったはずだ。断言はできないと。だが、生命と引き換えでも叶える努力はする。それにオレは言ったはずだ。オレはもうマルスを束縛しないと。どうしてもマルスの力が必要なときは直接マルスと連絡を取ればいい。炎の女神、レダの説明によれば、マルスが神殿という場に縛られるほどの事態は、よほどのことでないと起きないとのことだった。だったらマルスがどこにいようと関係ないはずだ。それこも長子のマルスがいないと、神としての統一さえ取れないのか?」

 皮肉の笑みを投げる亜樹に睨まれ、エルダが無然とした顔になる。

 風神が小さな子供にされている様を、弟妹たちは驚いた顔で見ていた。

「条件はマルスの身柄を指束しないこと。代償はオレの生命と世界の存続。それでは不足か?
風神エルダ?」

「参ったな。この小さな子供がそこまで言うとは」

 大袈裟に肩を求めてからエルダは亜樹の顔を覗き込んだ。

「そなたにとってマルスはなんなのだ、大賢者殿? ただマルスを自由にするためだけに、命も捨てるとは」

「かつてオレがマルスに与えた苦痛に比べれば大したことではないと思う。それがオレの責務だと思うから果たすだけだ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...