24 / 103
第七章 秘密
(4)
しおりを挟む透の言葉に振り向いてマリンが苦笑する。
「残念ながら違うよ、トール様」
「でも、普通は母親が同じなら」
「この場合母親が同じとは言えないからだよ」
「どういう意味なんだ? 母上もフィオリナも同一人物なんだろう?」
アスベルも混乱している。
「イーグルの王子たちは人間としてのフィオリナ様、つまりビクトリア妃の子供で、トール様は戦女神としてのフィオリナ様、つまり神としてのフィオリナ様の子供なんだよ」
人間としての彼女の子がアスベルとルーイ。
神としての彼女の子が透。
だから、同一人物であってもアスベルたちと透とは兄弟にはなれない。
透の知識的には遺伝子が一致しないから。
別人だから。
「もちろんフィオリナ様にとっては3人とも子供だよ? だれのことも特別扱いしないで愛してる。だけど、神としての力と資格を受け継いでいるのはトール様。あなただけなんだよ」
「俺……ひとり」
透が呆然と呟けばアスベルがハッとしたように両目を押さえた。
「おれのこの瞳の意味は」
「うん。神としてのフィオリナ様の名残だと思う。神子を招くための呼び水としての存在。そうして生まれたのがイーグルの王子なんだ」
「おれは……多少なりとも神としての母上の、フィオリナの血を引いている?」
「少なくとも第二王子よりは強いと思うよ。素質はね」
話が混乱してきて皆はしばらく黙り込んだが、ランドールと透が同時に口を開いた。
「そのことと妃が早くに亡くなったことと、なにか関係があるのか? ビクトリアがフィオリナの化身であったことと」
「最初に生まれたのはだれ?」
同時に言ってしまってふたりは顔を見合わせる。
譲り合うように黙ってしまう。
そんなふたりを見て簡単に答えられる方からマリンは答えた。
「最初に生まれたのがトール様、あなただよ」
「俺? だってアスベルの方が年上……」
透は混乱している。
アスベルも自分より年上と言われて驚いて彼を見ていた。
「神として生まれてから、あなたは永い間眠っていた。目覚めることなくね」
「……」
「神は特殊な存在だから寿命とか成長期とか、人間とは重ならない。フィオリナ様はずっとトール様を護っていたけど、どうしても護りきれなくなった。ご自身が人として生まれることになってしまって、トール様の傍にいられなくなったんだ」
「そんな……。俺が生まれたのは15年前じゃない?」
信じられない。
この自分がそんなに昔から生きているなんて。
「だから、術を仕掛けた。安全な間は今のまま護る。けれど神子が目覚めたりして、もうこのままではいられなくなったら、神子を安全な場所に送る、と。それが神子の育った世界だよ」
あの世界で育ったのは母の思いやりと愛情だった?
「だから、最初に生まれたのがトール様。次に生まれたのがイーグルの第一王子。最後が第二王子だよ」
なにも言えない透を見てマリンは答えを待つイーグル王、ランドールを振り返る。
「フィオリナ様は元々が神なんだ。人として生まれていても、長くはいきられない宿命。しかもフィオリナ様は神なのに人間として生まれていたから、言いにくいけど出産は無理だったんだ」
「……それは知っている。だから、アスベルが生まれた後、わたしたちはとても喜んだ。子は得られないかもしれないとわかっていたから」
「それってもしかしたら母上はルーイを生んだときじゃなく、おれを生んだときに亡くなった可能性もあったって意味ですか、父上?」
そうだ、と、ランドールは頷く。
初めて聞く事実にアスベルは打ちのめされる。
まさか母がそこまで身体が弱かったなんて。
「フィオリナ様はね。神の座に戻られた後におっしゃっていたよ。子供を産めば長く生きられないことはわかっていたと」
「……ビクトリア」
「それでもイーグル王を愛していたから、あの人の子を産みたかったと。こうして神に戻らなければならなくなっても、あの人の子を産んだことは決して後悔していないと」
それはランドールにとっても、また彼女の子であるアスベルたちにとっても、とても嬉しい言葉だった。
母の生は無駄ではなかったわけだから。
「フィオリナ様は……初めて愛した人とは結ばれない宿命でね」
透が反応した。
それが透の父親?
「かなり傷付かれたんだ。もうだれも愛さないとまでおっしゃっていた。でも、フィオリナ様は人となって、あなたと出逢ったんだ、イーグル王」
「わたし?」
「生まれて初めて愛し愛され、結ばれて子を得るという幸せを知ったんだ。フィオリナ様がビクトリア妃として生きている間、ぼくも様子を見守っていたけど、フィオリナ様はどんなときも幸せそうに微笑んでいらした。あんなに安らいだ笑顔はぼくは知らない」
「わたしを愛し愛されたことで、ビクトリアは幸せだった?」
「だから、あなたには謝らなければならないと思っていたんだ。フィオリナ様はあなたを傷付けたことだけを、ずっと気にされているから。もう逢えないかもしれなくても、今もたぶんあなたを……」
声にならない声が言葉を繋ぐ。
あなたを愛されているよ、と。
ランドールはなにも言えなかった。
最愛の妃が実はフィオリナ自身だったと知らされて。
「わたしは……フィオリナにも愛されているのだろうか」
だったら透への未練は断ち切ろうとランドールは決めていた。
だが、この問いに対するマリンの答えは……。
「どちらも同一人物なんだ。当然、今だってフィオリナ様が愛されているのは、イーグル王。あなただよ」
「なら」
逢いたいと言いかけた言葉をマリンが遮る。
「でも、神に戻られたフィオリナ様が、もう一度あなたと生きることは叶わない」
「……」
「だから、これはもしいつかあなたと逢うことがあったら伝えてほしいと言われていたフィオリナ様からの伝言だよ。『わたしのことはどうかもう忘れてほしい』と」
愛しても結ばれないから忘れてほしい。
その望みを受け止めてランドールは、しばらく身動きできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった
水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。
そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。
ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。
フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。
ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!?
無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~
水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。
「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。
しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった!
「お前こそ俺の運命の番だ」
βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!?
勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる