紅の神子

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第十ニ章 嫉妬

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 それはやはりランドールに対しては、今のところは嫉妬から襲っているだけだが、透にとっては明確な殺意を向けている、という違いによるものかもしれない。

 それでもこのところ、透に対しては奇妙なくらい動きがない。

 ランドールの寝室にいるから襲えないという事情はわかるが、何故昼間も襲われないのか?

 普通なら夜に襲えないのだから、昼に襲いそうだが、最近はパッタリ途絶えている。

 その代わりランドールが集中的に狙われている状態だが。

「トール」

 呼び声に振り向けばエドだった。

「なに?」

「また叔父上の様子を見ているのかい?」

「まあね」

「本当に最近の叔父上はどうしたんだろうね? なんだか良くないものにでも憑かれているような、魔に魅入られてでもいるような状態だよ?」

「アスベルはなんて言ってる?」

「なるべく傍を離れないようにするとは言っていたね。今も執務室にいるんじゃないか? 心配で離れられないって言ってたから」

 確かにアスベルなら心配するかもしれない。

 彼は半人半神の身だ。

 普通の人間よりは気配にも敏感だろう。

 おそらく無意識の内にわかっている。

 ヴァルドに父が狙われていることを。

 そんなことを考えていると、エドが表情を陰らせて言ってきた。

「これはぼくの勝手な予測だけれどね。叔父上……ヴァルドに狙われているんじゃないか?」

「エド?」

「叔父上の身に不幸が起きるようになったのは、叔母上がフィオリナ様だと明かしてからだろう? もしあの場をヴァルドが覗いていたなら、叔父上に仕掛けてくるなも納得できるからね。まあヴァルドが狙っているにしては、やり方が子供じみている気はするけれど」

「それ……誰かに言った?」

「言えないよ。こんな不吉なこと。当たっていたら大騒ぎになりかねないから」

 黙っていてくれてよかったと透はホッとする。

「そこでそういう顔をするってことは、もしかして当たっていたのかな?」

「……」

「だとしたらきみが自らの従者を叔父上の護衛につけるのもわかるし、こうして付かず離れず見守っているのも、理解できるからね」

 こうして見守っていても、透にはなにもできない。

 わかっているのだ、それは。

 でも、自分の決断のせいかと思うとじっとしていられない。

 母には護ってみせると大見得を切ったが、実際の透はそう言い切るには実力不足。

 いや。

 力ならあるのだ。

 それをコントロールできないことが問題なだけで。

「隠さないで教えてくれないかい? きみがひとりで抱え込んでいるのは、見ていてぼくも辛いんだ」

「エド」

 隠せる限界はとうに越えている。

 それはマリンにも言われていた。

 マリンの結界では完全にはヴァルドの侵入を防げない。

 それは事が起きるまで手出しできないことを意味した。

 透の結界なら通用した。

 でも、それはできない。

 なにかが起きる度にマリンが庇っていたら、何れ噂になるだろう。

 そう言われている。

 実際もう噂になり始めているのだ。

 戦女神の夫であるイーグル王が、何故か不幸な目ばかりに遭っていると。

 透さえ力を使えたら……。

 そう思って唇を噛む。

「それはやめてほしい」

 スッと指先が唇に触れた。

 さりげなく噛んでいたのをやめさせられる。

 不思議そうにエドを見た。
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