紅の神子

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第十四章 恋愛感情

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 エドの気持ちを聞いた後、彼は意外な行動に出た。

「叔父上」

「どうした?」

 着替えのため部屋を移ろうとしていたランドールが、甥の呼び掛けに振り返る。

 透も寝台の上からそんなふたりを見ていた。

「わたしは今夜はフィーナに呼ばれているので一晩部屋を空けます。トールのこと、よろしくお願いしますね」

「えっ!? エド!?」

 透が焦って声を出すと、彼は意味深な目を向けてきた。

 どうやらエドの指摘が勘違いかどうか、自分で思い知れという魂胆らしい。

 お前それでも透が本気で好きなのかっ!? と訊きたい。

 ランドールが本当に行動に出たらどうする気なんだか。

 まああり得ないけどさ。

「夜でないといけないのか? 昼にでも……」

 何故だかランドールの方が引き止めている。

 なんだか透とふたりきりになりたくないとも取れる。

 不安がいや増した。

「昼に人目のあるところではしにくい話らしいです。わたしも妹姫のことは放り出せないので。宜しいですか?」

「……わかった。そういうことなら」

 ランドールが頷いて、エドは一度頭を下げると部屋を出ていった。

 彼はどこに行く気なんだろう?

 本当にフィーナに呼ばれているとは思えないし、そもそも彼はこの寝室で夜を過ごすようになって、来訪した当時に与えられた部屋は片付けられている。

 行く宛なんてないはずなのに。

 そんなことを考えていると、ランドールが気まずそうに振り向いた。

 どうして気まずそうなんだろう?

 一時透とふたりきりになるというだけで。

「着替えてくるから少しだけ待っていなさい」

「うん。今日もなにか読んでくれる?」

「そうだな。今夜は戦女神フィオリナの伝承でも読んで聞かせようか」

「母さんの伝承? うんっ!! 聞きたい!!」

 透がはしゃいで返事をするとランドールが髪を撫でてくれた。

「では待っていなさい。すぐに戻ってくるから」

「はーい」

 無邪気に答える透から、ランドールが遠ざかっていく。

 最初こそ気まずそうだったが、その後はいつも通りのランドールだ。

「なんだ。やっぱりエドの勘繰りすぎじゃないか」

 透はそう思ってホッと安堵した。





 服を着替えるために衣装室に移って、透の視界から消えるとランドールは深々とため息をつく。

 こういうことにならないように注意して避けていたのに、今夜をどうやって乗り切れと?

 ふたりのラブシーンを見てしまってから、ランドールは辛いのを我慢して透に接している。

 エドも寝付いてしまった夜などは、眠れずに透の寝顔を見ていることも、何度もあった。

 触れたくて触れたくて我慢するのが辛かった。

 突然訪れた好機。

 でも、透はランドールのことを信じきっている。

 透を傷付けたくはない。

 だが……。

 思考は堂々巡り。

 服を着替え終わると、これ以上待たせるわけにはいかないと、思い切って寝室に戻った。

 寝室では透は既に眠っていた。

 話をねだっていたくせに寝るのが早い。

 賢者殿に言わせれば、それだけ体調に影響が出ているためだという。

 あのときに振るった力の影響が。

 だから、透はすぐに疲労を訴える。

 さっき起きていたかと思ったら、もう寝ているのもそのせいだ。

 そのくせ本人には眠気が晴れないという以外に自覚がない。

「どうして起きていられないのかな?」

 これが最近の透の口癖である。

 寝台を覗き込んで寝顔を眺める。

 ビクトリアにそっくりなその寝顔を。

 触れようとして思い止まり、自分も寝台に潜り込んだ。

 彼を腕に抱いて寝ようとする。

 するとなにを思ったのか。

 透がピタッとしがみついてきた。

 甘えるように寄り添う。

「トール。起きているのか?」

 呼び掛けても返事はない。

 穏やかな寝息が漏れるだけで。

 この唇にエドワードが触れた。

 この項に。

 この耳朶に。

 この胸元に彼は触れたのだ。

 そう思うとジワジワと怒りのような感情が沸き上がってくる。

 あのとき透は同意していなかった。

 嫌がっていたとも発言している。

 だから、透のせいじゃない。

 わかっている。

 エドにしてもやむにやまれぬ事情があったのだろうと、自分を何度も納得させようとした。

 だが、できない。

 この唇に、この肌に、この躯に、他の男が触れたのだと思うと、それだけで気が狂いそうな嫉妬に悩まされる。

「そなたは罪作りだな……」

 我慢できそうにない。

 起きていないのを承知でそっと唇を盗んだ。

 欲しくて欲しくて我慢できなくて。




 そのとき透が感じていたのは、ジワジワと煽られるような微熱だった。

 唇が、躯が熱い。

 肩にヒヤリとした熱を感じる。

 なにかおかしいと思うのに起きることができない。

 強烈な睡魔。

 眠くて眠くてどうしても起きれない。

 でも、なにかおかしいと思って、必死になってぼんやりと目を開けた。

 それが限界だったが。

 意識は半覚醒といったところである。

 ランドールに……キス……されてる。

 これ、夢だよな?

 顎に手をかけられて強引に唇を開かれ、深いキスをされてる。

 なんで?

 なんでこんな夢。

 ボタンを外す音が響く。

 背中に腕が回って器用に衣服を脱がされた。

 肩に背中にシーツの感触がする。

 これ、ほんとに夢?

 キスしていたランドールが唇を項へと落とす。

 項に顔を埋めたランドールに何度もキスされて身を捻る。

 それはやがて耳朶を項を伝い喉元へと降りていった。

 そこかしこで微熱が生まれる。

 触れられる度に躯が熱い。

 やがてランドールの愛撫は下肢へと下りていった。

 透が自分でも触れないところをその口に含む。

 これ、ほんとに夢!?

 呼吸ができない。

 ただ追い上げられて気が狂いそうな快感を与えられ、それに振り回されるだけで。

 唇から荒い息が漏れる。

 こんなリアルな夢……アリなのか!?

 触れられていることがわかる。

 唇で指で扱かれて追い上げられて、そうしてイケないようにされていることまで感じ取れるのに、これ、ホントに夢なのか!?

「あっ……!!」

 どこかわからない場所でビリっときた。

 電流のような痛み。

 裂かれるような気がして泣いた。

 夢の中で。

 もう嫌だと言って泣いた。

 するとランドールが困ったように見下ろしていた。

(嫌なのか?)

 そう問われたような気がする。

 だから、痛いのも辛いのも嫌だと、そう答えたような気がする。

 するとイケないようにされていたはずなのに、指で扱かれるリズムが強く激しくなった。

 頭の中でなにかがスパークする。

(何度でもイケばいい。感じているときの顔をわたしにだけ見せてくれ)

 そんな声を聞いた気がした。

 でも、後はよく覚えていない。

 何度も高められて、何度も解放を迎えて、ぐったりと疲れきったから。

 リアルな生々しい夢。

 触れられた唇の感触も指の感触もすべて覚えてる。

 全身を伝った愛撫の感触もすべて覚えてるのに。

 でも、これが現実だとはどうしても思えなかった。

 こんな願望が透にあったのだろうか?

 そんなわけはないのに、ただ疲れていて、ただ眠りたくて、すべてが終わって気絶するように眠った。
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