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第十四章 恋愛感情
(1)
しおりを挟むマリンと会話してから、いつのまにか透はウトウトしていたようである。
頬に誰かの手を感じる。
ハッとして目を見開いた。
目の前にはエドがいた。
キスされる寸前みたいに身近に。
でも、触れてはいない。
ただ触れるほど間近から透を見下ろしているだけで。
呑まれて動けない。
こんな至近距離では無視もできない。
「お願いだから、もうぼくを避けないで」
「……エド」
「辛いんだよ。自業自得と知っていても」
なにも言えない。
エドの眼は本当に辛そうだったから。
「きみが……」
なにを言うんだろう?
透になにを伝えたいんだろう。
「きみが……好きだよ、トール」
好き?
エドが俺を?
だって俺たち男同士なのに?
ああ。
でも、エドには透と真剣な恋愛をしないと死ぬという運命が待ち受けているんだった。
透を愛するように努力するし、愛されるようにも努力するとフィーナ姫にも言っていた。
だから今こんなことを言われても……。
「でも、きみは叔父上の方ばかり見てるし、ぼくがなにを言っても信じてもくれない。それなのに叔父上は行動に出ていて尚信頼されている。そう思ったら止まらなくて……」
多分この間のことだろう。
つまりあれはランドールへのヤキモチだったということだ。
「いや。でも、俺にとってランドールは父親だし、それでヤキモチ妬かれても……」
「叔父上にとっては違うよ?」
「まだそんなことを言ってるのか? あり得ないって」
言いかけた透をエドが遮った。
「じゃあ夜にふたりきりになってみる?」
「え?」
「そうしたら叔父上がどんな行動に出ると思う? そうしたらきみにもわかるんじゃない?」
夜にふたりきりだったら、ランドールの態度が変わる?
確かにこの寝室にいるときは大抵エドがいるから、ふたりきりじゃなかったけど。
でも……。
「この間はごめん」
「……」
「きみが全くの未経験だとは思わなくて、ぼくは一通り経験済みだと誤解していたんだ。こちらの世界ではね。十五にもなれば大抵の者が経験している。中には経験豊富な者も少なくないから」
透はガーンッ!! とショックを受けていた。
「俺って子供? そんなに子供? ランドールにも十五にしては幼いとは言われたけど。俺ってそんなに子供?」
透がショックを受けているのを目の当たりにして、エドがちょっと笑っている。
それからあれ? と思った。
十五だと誰もが経験していて、中には経験豊富な者も少なくないということは、二十歳のエドや今年十八になるアスベルは?
「十五になると大抵そうなら、エドやアスベルも経験済みなのか?」
気にしてくれてはいても、特に拘ってはいない様子の透に、エドはちょっとムッとしたが、素直に答えてくれた。
「ぼくはそうだけどアスベルはどうかな。彼は邪眼の王子と誤解され疎まれていたから。経験したくてもできなかったんじゃないかな」
「じゃあフィーナちゃんの方が経験豊富?」
「きみ。兄であるぼくにそういうことを言うかい?」
エドがちょっと怒ったようにそういって否定してきた。
「残念だけどフィーナは未経験だよ」
「どうしてそんなことがエドにわかるんだよ」
「わかるよ。アスベルのために軽い出来心でも、決してフィーナが経験できないように、ぼくは注意して育ててきたから。フィーナはそういう意味では純粋な姫君だよ。アスベルに相応しい」
「もしかして周りを女性ばかりで固めてたとか?」
「まあ男は近付けなかったね」
「は?」
「ジュリアのことだよ。彼女……百合だよ?」
「え……」
「フィーナちゃんのことが好きなんだって。でも、手は出してないらしいけど」
言われていることが理解できないのか、エドは混乱しているようだった。
だから、透は自分が見聞きしたことは教えてやった。
安全だと思っているエドの誤解をなくすために。
「ジュリアとアインがそういう趣味?」
エドが低く呟く。
「まあ薔薇って言ってもアインの好みは、俺やルーイみたいな可愛い系らしいから、アスベルにはなんの心配もいらないよ。それにジュリアも王家に仕える騎士として、自分の趣味と仕事は区別しているらしいから、フィーナちゃんには手は出さないと思う」
「まあさういうことなら、ジュリアの動きにさえ注意しておけばいいから、まだ楽だけど……アインの好みがきみやルーイみたいなタイプだって?」
エドの目が据わっている。
透はちょっとビクビクした。
「そう……聞いたけど」
「わかった。アスベルさんに頼んで、きみにはアインを近付けないように手配するよ」
「おーい。エドさん? 頭大丈夫ですか?」
透が心配になって呼び掛ける。
エドはぶつぶつと計画を練っているようだった。
すると思考を切り替えたのか、いきなりエドが透の頬に両手を当てた。
彼の気持ちを聞いたばかりのせいか、ドキッとする。
瞳を真っ直ぐに見詰められて、なんだか目眩を起こしそうだった。
「ぼくの気持ち……少しはわかってくれた? 今更意味がわからないとかって逃げないよね?」
逃げ場を封じられて仕方なく頷いた。
「キス……してもいい? 今度は傷付けないようにするから」
「でも、俺は……」
エドのことそういう眼で見ていない。
そう言いたいのに言えない。
エドがあまりに真剣な目をしているから呼吸が止まる。
「大丈夫だよ。怖くないから」
抵抗したのにエドの様子を見ているとできなくて、透は仕方なく目を閉じた。
柔らかくそっと唇が重ねられる。
啄むような口付けだった。
この前みたいに情熱だけで押しては来ない。
エドのキスを受けながら透は考える。
(俺なにしてるんだろう。エドのことが好きでもないくせにキスされるのを許して。でも、あんな泣き出しそうな眼をされたら、とてもじゃないけど嫌だなんて言えない。そうしたらきっと傷付けたから)
人を傷付けるのはなによりも怖い。
自分が傷付くことなんかよりずっと。
「あっ……んっ」
キスが深くなった。
それでも激しくはない。
透を気遣っているのがわかる。
泣きたくなる。
透が誰を愛するかは透次第。
マリンから聞いた言葉がよみがえる。
ボーッとしているとエドが離れた。
真上から見下ろしてくる。
「怖くなかっただろう?」
微笑まれて頷いた。
確かに怖くはなかった。
この間はキスされる前から怖くて仕方なかったけど。
今回は平気だった。
「大丈夫。ぼくはもう二度ときみを傷付けないから。だから、お願いだよ。ぼくを……避けないで」
エドの声が切実で透は遂に「うん」と言ってしまった。
彼がそれは嬉しそうに微笑む。
だから、まあいいかと思った。
誰かと気まずくなるのは透も得意じゃないから。
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