紅の神子

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第十九章 囚われ人の抗い

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「ごめんなさい」

 幾らヴァルドに操られていたからとはいえ、ボクたちはあなたたちに許されない真似をした。

 そう言って暁は深々と頭を下げる。

 なにがなにやらわからないが、隆も付き合いで一緒に頭を下げた。

 許されないことってなんだろう? と、心の中で考える。

「あなたたち今は正気なの?」

「うん。正気だよ。謝って許されることじゃないとは思ってる。でも、ごめんなさい。許してくださいとは言いません。でも、忘れた方がいいです」

「忘れられるものなら忘れたいわっ!」

「ここから逃げることもできないのにっ」

「それに彼女は」

 すべての女性たちの眼がひとりの赤ん坊を抱いた女性に注がれた。

 暁もその女性をみる。

 その眼がよけいに辛そうになったと隆は感じた。

「その子はあなたの望んだ子じゃないよね? ボクが責任をもって引き取るから、貸して? あなたがその子と一緒にいたら、またヴァルドに狙われるから」

「暁っ? 無茶苦茶いうなっ! その歳で子供なんてっ」

「仕方ないでしょっ? ボクの子なんだから」

 口にする暁は泣きそうである。

 意外すぎる内容に隆は絶句した。

 あの子が暁の子?

「それから隆の子を妊娠してる四人の女性に言います」

「えっ!」

 隆が真っ青になった。

 だが、暁はそんな彼を振り向かない。

 青ざめて口を喋む女性たちをしっかりと見据える。

 そうして口を開いた。

「ここから逃げたら、その子はおろした方がいいです。産まれたら彼女みたいに利用されるから」

「でも」

「ここから逃げられたらいいですね?」

「逃げたらって。どうやって」

「もうすぐ大きな爆発が起こります」

「ばくはつ?」

「衝撃を伴った大きな音と判断してください。それによりこの城は倒壊を起こします。その隙に逃げてください。ボクにできるのはここまでです。後はあなたたちが自分で頑張るしかない」

「そんなっ」

「ボクらが逃げればヴァルドの手先は、絶対にあなた方ではなくボクらを追ってきます。だか
ら、大丈夫。逃げきれますよ」

 安心させるように微笑む暁に、女性たちが顔を見合わせる。

「さあ。その子を貸して」

 暁が腕を伸ばす。

 女性はおそるおそる赤ん坊を彼に手渡した。

「名前、ありますか?」

「いいえ」

「男ですか? 女ですか?」

「男の子です」

「わかりました。この子の名はボクが名付けます。だから、あなたはこの子のこともボクのことも忘れてください。すみませんでした」

 暁がペコリと頭を下げる。

 隆はなにがなんだかわからなかったが、暁が歩きだしたので慌てて彼の後を追った。

「暁。どういうことなんだ? その子がおまえの子って。それにさっき四人もおれが」

「後で説明するから今は聞かないで、隆」

 暁の声は震えていた。

 それで事実なのだとわかる。

 あの子は本当に暁の子で、あの女性たちの中に四人も隆の子を身籠もっている女性がいる。

 記憶がない間、意識がないときになにをさせられていたのか、隆は今更のように怖くなった。

 暁の指示に従って赤ん坊を気遣いながら走っていると、暁がさっき言っていた爆発が起こった。

 理数系が暁の得意だったから、多分お手製の爆弾でも作っておいたんだろう。

 暁は自分の背で爆発の衝撃を受け止めると、赤ん坊が無事なのを確認して、隆についてくる
ように指示した。





 逃避行はそれほど長く続かなかった。

 ふたりとも、元々体力を使い果たしていたし、なによりも産まれたばかりの子供を抱えていた。

 そんな状態で早く逃げられるはずがない。

 あっという間に獣人たちが追いかけてくる。

「暁っ! くるっ!」

 途切れそうな呼吸を繰り返しながら、晩はもつれる足を懸命に動かす。

 呼んではいけない。

 わかっていた。

 護りたいなら巻き込みたくないなら呼んではいけない。

 わかっていたのに。

「さん。助けて、兄さん! 助けで、兄さんっ!」

 気がつくとそう繰り返していた。

 誰よりも愛した人の名を呼んでいた。

「暁?」

 高い透明な声が響く。

 中空にその人は浮いていた。

 暁は泣きだしそうにその人をみて、隆は絶句していた。

「暁。隆。一体どうして」

 驚いた透の眼がふたりを追う獣人たちに向けられる。
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