紅の神子

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第十九章 囚われ人の抗い

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 あの子は。

「どういう背景かはちょっとわからないよ? ただアキラがあの子を連れて逃げたのは、自分の子だとわかっているからだ。自分の子をヴァルドの手元に残せば、トール様の足枷となる。
それがわかっているから、無理だとわかっていでも一緒に逃げた。そういうことなんだと思うよ」

「子供なんてひとりじゃ無理だよな? 相手の女性は? 一緒じゃなかったのか?」

 アスベルが首を傾げる。

「これはぼくの推測だけど合意の上じゃ、なかったんじゃないかな」
「「‥‥‥」」

「どちらにとって合意の上じゃないのか、そんなことはぼくも知らないよ? でも、合意してできた子じゃないから、アキラにできたのは、おそらく相手を逃がすこと。でも、一緒に逃げれば、ヴァルドに追われるから、自分たちにヴァルドの手下を引きつけること。だったんだと思うよ。だから、トール様が助けたとき、どこかで女の人も逃げてたのかも」

「辛いな」

 暁を募っているルーイの顔が浮かんで、アスベルは苦い気分だった。

 似通った立場にいるのに、どうしてこんなに結果が違ってしまったんだろう。

「詳しいことはアキラたちの意識が戻って元気になってから訊ねるしかないよ。タカシは知らないみたいだったけど。アキラは認識しているようだったから、アキラに訊けばわかるん
ないかな。今はそれを待つしかない」

「トールには」

 最愛の少年の心を気遣うランドールに、マリンは苦い顔になる。

「言えないよ。言ったりしたら、トール様の力が暴走しかねない。だから、アキラたらに訊ねるときは、トール様を引き離した方がいい」

「そうだな。ルーイにでも任せるか。アキラのことを心配していると訊けば、トールも素直に
従うはずだ。ふたりは仲が良かったから」

「でも、神なら親子関係はわかるんだろう? 今は混乱していてもトールにもあの子がアキラ
の子だってわかるんじゃないのか?」

 アスベルの問いにふたりとも黙り込んでしまう。

 常識的に考えればそうなのだ。

 今気づいていないのは混乱しているからに過ぎない。

 親子関係は隱せないだろう。

「どういうふうに打ち明けるか、それはアキラと相談して出すしかない答えだよ。確かに隠せないだろうけど、どういう事実が語られるにしても、それをそのまま教えることはできないから。トール様の力が暴走したら、人間たちの世界なんて一瞬で消し飛んでしまうからね」

「厄介なことになったな」

 思わずため息をつくランドールに残りのふたりも気掛かりそらに、暁たちが寝かされている
病室の方をみた。

 そこには透がいるはずである。

 どこまで彼に隱せるか。

 そのことを考えると暗くなる。

 辛い目に遭ったらしい暁たちの身も心も心配だ。

 これからどうするべきなのだろう。

 それだけがみえなかった。

「章。隆」

 ふたりの寝顔をみていると涙が流れそうになる。

 どうしてふたりを地球に帰そうなんてしたんだろう。

 わかっている。

 きっとふたりは透に対する人質として、ヴァルドに捕まっていたのだ。

 そこでどんな扱いを受けていたかはわからない。

 でも、きっとむごい目に遭っていたのだ。

 でなければこんなに表弱するはずがない。

 ふたりに合わせる顔がなかった。

 我慢していたのに涙が溢れてくる。

 暁の手を握って泣いていると、その手がそっと離れ、涙を拭ってくれた。

「暁?」

 顔をあげる。

 暁は確かに瞳を開いて透をみていた。

「泣かないで、兄きん」

「暁」

 透が立ち上がって顔を覗き込む。

 まだ顔色は書かったが、意識はしっかりしているようだった。

 じっと兄をみている。

「あの子どうしてるの?」

「え? あ。暁が抱いてた子?あの子ならアスベルやルーイの乳母をやってくれた女の人がみてくれてるよ。でも、それがどろしたんだ?」

「元気?」

「あれ? 暁や隆が心配で聞いてなかった。訊いてこようか?」

「できたら頼めるかな?」

「いいよ。じゃあ行ってくる」

ホッとして言い返しながらも、透は今まで通りのやり取りが暁とできて、心底ホっとしていた。

「安静にしていろよ?」

 それだけを言い残して出ていく。

 その後ろ姿に暁の方が泣きそうだった。

 もう逢えないと思っていたのに逢えた。

 それだけで嬉しい。

「暁」

 呼び声に振り向けば隆が起きていた。

「起きたの、隆?」

「今、目が覚めた。さっきの透なのか?女の子みたいだったけど」
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