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第二十二章 宿命が交差するとき
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「おい、暁。透が連れてくる人ひょっとして?」
「戦女神フィオリナ様だね。兄さんの実の母の」
隆は純粋に驚いているが、暁は挑むような眼差しを向けていた。
「暁! 隆!」
「式典の方はいいのか? 透? 母親まで連れてきて」
「どちらも俺にとって大事な家族だから、三人を引き合わせたくてさ。横にいるのが俺の母さんの戦女神フィオリナ。この国ではビクトリア妃とも呼ばれてる。母さん。向かって右側に立ってるのが水無瀬の従兄弟の隆。左側にいるのが弟の暁」
隆には会釈と笑みを投げて、フィオリナの視線は、真っ直ぐに暁に向かう。
暁は幼いながらも女神の視線を真っ向から受け止めた。
『貴方には、いえ、あなた方には謝罪しなければと感じていました』
「母さん! そのことはもういいって!」
『貴方が考えている動機ではないのよ、トール。従者の独断を止めることも諌めることもできなかった。そのことは主人として謝らなければ』
被害を被ったふたりには、その権利があると言われて、透は口を噤んだ。
「今更?」
「「暁?」」
「今更謝罪されても、なにも変わらないよ。それとも貴女はなにかが変わると思ってるの?」
『変わる変わらないではなく、変わらない運命を独断で捻じ曲げたあの子の過ぎた忠義心を許してあげてほしい。償いのためにあの子も命を投げ出す覚悟だった。だから』
「やめてよ。狡いよ。兄さんが見ている前で、実の母にそんな風に言われたら許すしかない。卑怯だよ」
「暁」
「そもそも貴女の言う権利って義理の家族としてのもの?」
『いいえ?』
「「「え?」」」
『確かにタカシに対しては、そういう意味で謝っています。でも、貴方が持つ権利は違う。もっと強固な絆故の権利です』
「なんのこと?」
暁が首を傾げる。
『今は意味がわからないでしょうね。だから、私は謝罪している。貴方に対しては従者が良い感情を持っていないと気付くのが遅すぎて申し訳なかったと』
「それってあの時点で地球には帰れなくなっていたとか、あの行為には意味などなかったと、そういう意味?」
『ごめんなさい』
「ちょっと待ってくれよ、母さん! マリンにはそんな悪意は!」
『悪意ではないのよ。従者の計算する仕えるべき主人のためになる行動。あの子は表面に騙されて、それを誤ってしまった。
だからこそ、ひとりで救出に向かったのでしょう。死の危険を承知して。自分の過ちを知っているからこそ』
だからこそ、フィオリナもまたマリンを止められなかった。
彼の気持ちがわかったから。
「そんな」
「あの時点でもう帰れなかったなんて」
すべてあのときの決断が招いた悲劇だって?
もしあの時点で帰還できないことを三人が知っていたら、少なくとも透はマリンが、なんと言おうとも、ふたりを庇って傍に置いただろう。
マリンに悪意がなくても、あまりにも致命的なミスだ。
死にかけたマリンを見た透は、攻めるわけにも行かなくて、荒れる感情の処理に困っていた。
「変えられない運命を独断で捻じ曲げた結果なら、どんな道を辿ろうと正しい未来に辿り着けばいい。それだけのことじゃない?」
「「暁?」」
『そうね。貴方は聡明だわ、アキラ。早く大人になりなさい』
「え?」
『兄を追い越すほどに大人になりなさい』
「いやなこと言うなよ、母さん! 俺はこれ以上変われないんだから!」
騒ぐ透を微笑んで眺めてから、フィオリナは最後の一言を暁に告げた。
『お詫びに良いことを教えてあげるわ。長く変わらない国名は覚えても、短命な人の名前は覚えられないあの子が、貴方のことはなんて呼んでいるか、一度考えるといいわね』
「なんてって普通に名前でアキラって。あれ?」
「確かランドールさんのこともイーグル王だし、アスベル王子もイーグルの王子。エドワード様だってログレスの王子だ。ひょっとしてそれ凄い特別扱いじゃないのか? 俺なんてそこの従兄弟の人扱いなのに」
「えー? 特別扱い? ないよ! 特別扱いされてたら、なんで追い出すような真似」
『特別だから』
フィオリナに肯定されて暁は黙るしかなかった。
納得できなくて。
「確かにマリンが俺と母さんと例外でヴァルドを入れても、名前呼びしてるの暁だけだ。気付かなかった。理由はなんなんだろう?」
透の呟きにも返る声がない。
マリンにとって暁は短期間で名前を覚えるほど特別。
でも、邪魔だった?
その動機は?
暁に早く大人になりなさいと言ったフィオリナ。
大人になればなにかが変わるのだろうか。
自分がこんな子供であることを、暁は初めて心の底から悔しいと感じていた。
「戦女神フィオリナ様だね。兄さんの実の母の」
隆は純粋に驚いているが、暁は挑むような眼差しを向けていた。
「暁! 隆!」
「式典の方はいいのか? 透? 母親まで連れてきて」
「どちらも俺にとって大事な家族だから、三人を引き合わせたくてさ。横にいるのが俺の母さんの戦女神フィオリナ。この国ではビクトリア妃とも呼ばれてる。母さん。向かって右側に立ってるのが水無瀬の従兄弟の隆。左側にいるのが弟の暁」
隆には会釈と笑みを投げて、フィオリナの視線は、真っ直ぐに暁に向かう。
暁は幼いながらも女神の視線を真っ向から受け止めた。
『貴方には、いえ、あなた方には謝罪しなければと感じていました』
「母さん! そのことはもういいって!」
『貴方が考えている動機ではないのよ、トール。従者の独断を止めることも諌めることもできなかった。そのことは主人として謝らなければ』
被害を被ったふたりには、その権利があると言われて、透は口を噤んだ。
「今更?」
「「暁?」」
「今更謝罪されても、なにも変わらないよ。それとも貴女はなにかが変わると思ってるの?」
『変わる変わらないではなく、変わらない運命を独断で捻じ曲げたあの子の過ぎた忠義心を許してあげてほしい。償いのためにあの子も命を投げ出す覚悟だった。だから』
「やめてよ。狡いよ。兄さんが見ている前で、実の母にそんな風に言われたら許すしかない。卑怯だよ」
「暁」
「そもそも貴女の言う権利って義理の家族としてのもの?」
『いいえ?』
「「「え?」」」
『確かにタカシに対しては、そういう意味で謝っています。でも、貴方が持つ権利は違う。もっと強固な絆故の権利です』
「なんのこと?」
暁が首を傾げる。
『今は意味がわからないでしょうね。だから、私は謝罪している。貴方に対しては従者が良い感情を持っていないと気付くのが遅すぎて申し訳なかったと』
「それってあの時点で地球には帰れなくなっていたとか、あの行為には意味などなかったと、そういう意味?」
『ごめんなさい』
「ちょっと待ってくれよ、母さん! マリンにはそんな悪意は!」
『悪意ではないのよ。従者の計算する仕えるべき主人のためになる行動。あの子は表面に騙されて、それを誤ってしまった。
だからこそ、ひとりで救出に向かったのでしょう。死の危険を承知して。自分の過ちを知っているからこそ』
だからこそ、フィオリナもまたマリンを止められなかった。
彼の気持ちがわかったから。
「そんな」
「あの時点でもう帰れなかったなんて」
すべてあのときの決断が招いた悲劇だって?
もしあの時点で帰還できないことを三人が知っていたら、少なくとも透はマリンが、なんと言おうとも、ふたりを庇って傍に置いただろう。
マリンに悪意がなくても、あまりにも致命的なミスだ。
死にかけたマリンを見た透は、攻めるわけにも行かなくて、荒れる感情の処理に困っていた。
「変えられない運命を独断で捻じ曲げた結果なら、どんな道を辿ろうと正しい未来に辿り着けばいい。それだけのことじゃない?」
「「暁?」」
『そうね。貴方は聡明だわ、アキラ。早く大人になりなさい』
「え?」
『兄を追い越すほどに大人になりなさい』
「いやなこと言うなよ、母さん! 俺はこれ以上変われないんだから!」
騒ぐ透を微笑んで眺めてから、フィオリナは最後の一言を暁に告げた。
『お詫びに良いことを教えてあげるわ。長く変わらない国名は覚えても、短命な人の名前は覚えられないあの子が、貴方のことはなんて呼んでいるか、一度考えるといいわね』
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納得できなくて。
「確かにマリンが俺と母さんと例外でヴァルドを入れても、名前呼びしてるの暁だけだ。気付かなかった。理由はなんなんだろう?」
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