紅の神子

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第二十二章 宿命が交差するとき

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 フィオリナは結局儀式が終わるまで、ふたりが神になったことは、打ち明けなかった。

 こなされていく儀式と幸せそうなフィーナをみていて、打ち明ける気が失せたのだ。

 打ち明けたら彼女の幸せに影を落としそうで。

 だから、こっそりトールに頼んでいた。

 後でアスベルに彼が神になっていることを打ち明けてほしい、と。

 そのあとの宴の席にもフィオリナは出たのだが、そこでエドワードと対面して顔を陰らせてた。

「お久しぶりです、叔母上」

『エドワード。あなた』

 フィオリナにはわかる。

 彼にヴァルドの気配が付きまとっていることが。

 だが、まだ目覚めてはいない。

 フィオリナはそっとエドワードの頭を抱き込んだ。

「叔母上?」

『あなたがヴァルドに負けないように祝福を』

 そういってフィオリナは彼の額にキスをした。

 神の祝福のキスだ。

 当然だが結界の役目を果たす。

 エドワードは急に身体が軽くなって驚いた。

「今、なにを」

『神の祝福のキスよ。これでヴァルドはそう簡単に貴方には近づけない。あとは貴方が心を強く持てば、もう付け込まれることはないはずよ』

「叔母上」

『辛いでしょう? でも、その辛さに負けたらダメよ? あなたが本当に宿命の年齢までに死ぬことがあるとしたら、それはトールに愛されなかったからじゃない。ヴァルドに心を乗られたせいなの。そのことを意識していなさい』

「それはヴァルドに負けなければ、生き残る術もあるということですか?」

『少なくともヴァルドに打ち勝てる人間を、神々はそう簡単に死なせないわ』

「叔母上」

『それはあなたの望む形ではないかもしれない。でも、そういう生き延び方もあるということを心に刻んでおきなさい』

 人としては生き残れないかもしれない。

 でも、手段が絶たれたわけじゃない。

 そういわれてエドワードはすこし肩から力が抜けた。

「母上」

 婚礼の夜、初夜の前にアスベルは母の前に立っていた。

 ルーイは長椅子に腰掛けた母の膝で安らかに寝ている。

『どうかしたの、アスベル?あ。まだおめでとうを言っていなかったわね。成人おめでとう。それから結婚おめでとう』

「ありがとうございます。気が早いとは思うんですが、母上とはいつ逢えるのかわからないの
で、今の間に頼みたいことがあるんですが」

『なにかしら』

「おれとフィーナの間に子供が産まれたら、母上が名付けてくれませんか?」

『わたしが?』

 フィオリナは驚いた。

 普通、初めて得る子供にしろ二度目に得る子供にしろ、親が自分で名付けたいものではないだろうか。

 だが、アスベルは言うのである。

「是非、母上に名付けてもらいたくて。おれのアスベルという名は母上が各付けてくれたと聞いています。だから」

「わたしからもお願いします、叔母様。あ。いえ。お母さま。是非名付けてください」

『アスベル、フィーナ』

 ふたりの気持ちが嬉しくてフィオリナは微笑んだ。

『ありがとう。だったら喜んで名付けさせてもらうわね。戦女神としてではなく母として』

「「ありがとうございます」」

 ふたりが微笑み合うのをフィオリナは嬉しそうにみている。

 エドワードはすでに部屋に引き上げている。

 透とは逢っていない。

 透は逢って謝りたぞうにしていたが、ヴァルドに付け狙われている身だと知っていたから、エドワードは彼にヴァルドを近づけないため、わざと近づかなかったのである。

 それに気になる人がいると告げたばかりの彼と逢う勇気もなかった。

 エドワードがさっさと部屋に引き上げてしまったので、透はどこか気もそぞろで宴の席に出ている。

 透はフィオリナと談笑している。

 チラリとフィーナがそんなふたりに視線を投げる。

 今日は祝いの日だから我慢しよう。

 そう思っていたはずなのに気がついたら、ふたりの目の前に立っていた。

『「フィーナ」』

 ふたりが気まずそうな声を出す。

 挨拶回りをしていたアスベルが慌てて妃の元へ駆け寄った。

「どろしてお兄様以外を選んだの、トール?」

「どうしてって」 

「お兄様をどうして選んでくれなかったの? お兄様にもしものことがあったら、わたしは」

 フィーナの瞳から涙が溢れる。

 透の気持ちを知っても、今日は祝いの日だから泣くまいと思っていたのに、実際に彼と顔を合わせることもできずに部屋に引き上げた兄をみて、どうしても言わずにはいられない。
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