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魔王vs巫女姫
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俺はこの女が苦手だ。
人間の巫女姫のカサンドラは、事あるごとに城にやってきては婚姻を迫ってくる。
「私達が婚姻すれば平和条約は確固たるものになり、周辺諸国への牽制に繋がるはずです。」
「その場合我が国ヴェステルダール側のメリットがないも無い。話にならないな」
「王国一の美姫と謳われた私と婚姻できるのです。何の不満がありますの?」
確かに顔の造形は美しい。
でもそれだけだ。
カサンドラは美貌に加えて王女で巫女姫という地位もあるのだから、下位の貴族階級の者ならなんとしてでも婚姻したがるだろう。
俺は真っ平ゴメンだが。
だが敢えて政略結婚の駒としてヴェステルダールに送り込むのには政治的な意図がある。
そもそも我が国は魔族という戦闘力の高い民族が住まう国だから、この国に侵略してこようなどという愚かな国は存在しない。
ベロニウス王国との平和条約は、あくまで侵略する意思はないと示すために結んだだけのものだ。
王国側にメリットはあってもこちらには無い。
平和条約に加えて王女を差し向けてくるのは、他国より優位に立ちたいという思惑があるのだ。
我が国の騎士が百人くらいいれば、人間で千人くらいの兵力になる。
カサンドラが王妃となり軍を動かす実権を握れれば、戦争でかなり優位に立てるだろう。
だがいい迷惑だ。
魔族とは本来温厚な民族で、領地拡大や人民の制圧など望んでいないからだ。
なによりカサンドラはずっとのらりくらりと俺の要望を躱してきた。
魔性の力を持つというアンジェリカの幽閉だ。
会ったこともない少女が、何の確証もないのに塔に幽閉されるいうのだ。
彼女の人権を侵害する行為に、何度も取りやめるよう要望を伝えてきたのだが聞き入れられなかった。
信用するに足りない女だ。
「それにもし私と婚姻すれば、オークランス公爵家のご令嬢を解放して差し上げられますわ。」
おそらく解放する気などない。
四年の歳月をかけようやく森まで辿り着いたが、塔の周囲の森には人間に限らず魔族が侵入できないよう結界が幾重にも張り巡らされていた。
猫に変化できるヴァラクに食料箱から侵入してもらい、結界を内側から破壊してもらうのにまた一年もかかってしまった。
アンジェリカと俺を引き合わせたくない理由が、政略的な結びつき以外にもカサンドラにはあるのだ。
もし国王がこちらの要望を無視しているなら、平和条約を破棄されても何ら文句の言えない案件だ。
「ねぇ、ルシフェル様。結婚式はいつにしましょうか?」
勝手に話を進めるな。
「いい加減にしてくれないか?こちら側にはなんのメリットもないと言ったはずだ」
「そんなにあの娘がいいんですの?」
「なに?」
「ルシフェル様はあの娘の魔性の力には抗えません。あの娘が国を滅ぼせと言ったらその通りになってしまうのですよ?それは貴方の本意ではないでしょう?」
「………アンジェリカ嬢が国を滅ぼす娘だという根拠はなんだ?」
「………はい?」
「まるでアンジェリカ嬢が国を滅ぼしたがっているように言うが、貴女は彼女に会ったことがあるのか?」
「あ、ありますわ。彼女は強欲で支配欲の強い人でしたわ」
「遂にボロが出たな」
「え?」
「アンジェリカを塔から解放させてもらった。彼女は貴女が言うような人物ではなかったよ」
「……………………」
当然会ったことなどないだろう。
あんな無垢な娘が、国の支配を望むわけがない。
「なによ!もう魔性の力で籠絡されてんじゃない!小娘にいいように操られて悔しくないの!?」
「別に?」
「え?」
「寧ろ気持ちイイ」
「!!!!?」
「お取り込み中すみませんがドン引きですから、それ」
ん?そうか?
我ながら漢らしくキメ台詞を言ってやったと思ったんだがな。
というかいつのまに入ってきた、ヴァラク。
「バカ!!」
カサンドラは癇癪を起こして出ていってしまった。
どれだけ容姿が整っていようが、やはりあの性格だけは好きになれない。
「カサンドラは何故会ったこともないアンジェリカを邪険にするんだ?政略的な意図もあるだろうが、やり方が強引すぎる」
「乙女心じゃないですか?」
「………あれがか?」
高慢に婚姻を迫られ、我儘を言われた記憶しかない。
そしてもしそんな理由でアンジェリカを幽閉したのなら、尚更カサンドラと婚姻するわけにはいかない。
「ところでルシフェル様、お嬢が部屋にいないんですが、何か用でもいいつけてるんですか?」
「いや、何も頼んでなどいないが………」
「そうですか………、アーノルド、ビリエル、クラース、お嬢を見なかった?」
すると護衛として扉の前にいた三人は微妙な顔をした。
「不潔です!ルシフェル様」
「…………はぁ?」
「巫女姫と婚姻するくせに、お嬢さんに淫らな行為をするなんて酷すぎます!!」
「はぁ!?」
「安心してください!お嬢さんは俺が必ず幸せにします!」
「「お前はいい加減諦めろ!!」」
何が何だか分からない。
取り敢えず最期の主張は却下する。
「お嬢さんは巫女姫が来ていると聞いて気になってきたようで、扉の外から少しだけお二人の会話を聞いたようでした。ルシフェル様が巫女姫と婚姻すると聞いて、可哀想なくらいションボリされてたんです」
「いや待て、そんな話………」
『ねぇ、ルシフェル様。結婚式はいつにしましょうか?』
………まさかアレか?
人間の巫女姫のカサンドラは、事あるごとに城にやってきては婚姻を迫ってくる。
「私達が婚姻すれば平和条約は確固たるものになり、周辺諸国への牽制に繋がるはずです。」
「その場合我が国ヴェステルダール側のメリットがないも無い。話にならないな」
「王国一の美姫と謳われた私と婚姻できるのです。何の不満がありますの?」
確かに顔の造形は美しい。
でもそれだけだ。
カサンドラは美貌に加えて王女で巫女姫という地位もあるのだから、下位の貴族階級の者ならなんとしてでも婚姻したがるだろう。
俺は真っ平ゴメンだが。
だが敢えて政略結婚の駒としてヴェステルダールに送り込むのには政治的な意図がある。
そもそも我が国は魔族という戦闘力の高い民族が住まう国だから、この国に侵略してこようなどという愚かな国は存在しない。
ベロニウス王国との平和条約は、あくまで侵略する意思はないと示すために結んだだけのものだ。
王国側にメリットはあってもこちらには無い。
平和条約に加えて王女を差し向けてくるのは、他国より優位に立ちたいという思惑があるのだ。
我が国の騎士が百人くらいいれば、人間で千人くらいの兵力になる。
カサンドラが王妃となり軍を動かす実権を握れれば、戦争でかなり優位に立てるだろう。
だがいい迷惑だ。
魔族とは本来温厚な民族で、領地拡大や人民の制圧など望んでいないからだ。
なによりカサンドラはずっとのらりくらりと俺の要望を躱してきた。
魔性の力を持つというアンジェリカの幽閉だ。
会ったこともない少女が、何の確証もないのに塔に幽閉されるいうのだ。
彼女の人権を侵害する行為に、何度も取りやめるよう要望を伝えてきたのだが聞き入れられなかった。
信用するに足りない女だ。
「それにもし私と婚姻すれば、オークランス公爵家のご令嬢を解放して差し上げられますわ。」
おそらく解放する気などない。
四年の歳月をかけようやく森まで辿り着いたが、塔の周囲の森には人間に限らず魔族が侵入できないよう結界が幾重にも張り巡らされていた。
猫に変化できるヴァラクに食料箱から侵入してもらい、結界を内側から破壊してもらうのにまた一年もかかってしまった。
アンジェリカと俺を引き合わせたくない理由が、政略的な結びつき以外にもカサンドラにはあるのだ。
もし国王がこちらの要望を無視しているなら、平和条約を破棄されても何ら文句の言えない案件だ。
「ねぇ、ルシフェル様。結婚式はいつにしましょうか?」
勝手に話を進めるな。
「いい加減にしてくれないか?こちら側にはなんのメリットもないと言ったはずだ」
「そんなにあの娘がいいんですの?」
「なに?」
「ルシフェル様はあの娘の魔性の力には抗えません。あの娘が国を滅ぼせと言ったらその通りになってしまうのですよ?それは貴方の本意ではないでしょう?」
「………アンジェリカ嬢が国を滅ぼす娘だという根拠はなんだ?」
「………はい?」
「まるでアンジェリカ嬢が国を滅ぼしたがっているように言うが、貴女は彼女に会ったことがあるのか?」
「あ、ありますわ。彼女は強欲で支配欲の強い人でしたわ」
「遂にボロが出たな」
「え?」
「アンジェリカを塔から解放させてもらった。彼女は貴女が言うような人物ではなかったよ」
「……………………」
当然会ったことなどないだろう。
あんな無垢な娘が、国の支配を望むわけがない。
「なによ!もう魔性の力で籠絡されてんじゃない!小娘にいいように操られて悔しくないの!?」
「別に?」
「え?」
「寧ろ気持ちイイ」
「!!!!?」
「お取り込み中すみませんがドン引きですから、それ」
ん?そうか?
我ながら漢らしくキメ台詞を言ってやったと思ったんだがな。
というかいつのまに入ってきた、ヴァラク。
「バカ!!」
カサンドラは癇癪を起こして出ていってしまった。
どれだけ容姿が整っていようが、やはりあの性格だけは好きになれない。
「カサンドラは何故会ったこともないアンジェリカを邪険にするんだ?政略的な意図もあるだろうが、やり方が強引すぎる」
「乙女心じゃないですか?」
「………あれがか?」
高慢に婚姻を迫られ、我儘を言われた記憶しかない。
そしてもしそんな理由でアンジェリカを幽閉したのなら、尚更カサンドラと婚姻するわけにはいかない。
「ところでルシフェル様、お嬢が部屋にいないんですが、何か用でもいいつけてるんですか?」
「いや、何も頼んでなどいないが………」
「そうですか………、アーノルド、ビリエル、クラース、お嬢を見なかった?」
すると護衛として扉の前にいた三人は微妙な顔をした。
「不潔です!ルシフェル様」
「…………はぁ?」
「巫女姫と婚姻するくせに、お嬢さんに淫らな行為をするなんて酷すぎます!!」
「はぁ!?」
「安心してください!お嬢さんは俺が必ず幸せにします!」
「「お前はいい加減諦めろ!!」」
何が何だか分からない。
取り敢えず最期の主張は却下する。
「お嬢さんは巫女姫が来ていると聞いて気になってきたようで、扉の外から少しだけお二人の会話を聞いたようでした。ルシフェル様が巫女姫と婚姻すると聞いて、可哀想なくらいションボリされてたんです」
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