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第4章:エルゼリアと無骨なエルフ騎士編
第14話:クラン
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「さ、三大、クラン?」
ケイティの言葉に俺は思わず聞き返す。
「ああ……ルクシアから来たばかりじゃあ馴染みがないかもしれないねぇ。『クラン』っていうのは『パーティ』より大きな集まり。構成メンバーが十名を超えたパーティがクランって呼ばれるのさ。通常冒険者は、敵が強くなるにつれてメンバーを増やしていくから高いレベルの冒険者ほどクランに属する感じになるんだよ」
カリーナが説明してくれる。
「そう、それでこのエルゼリアには百を超えるクランがあるんだけど、その中で私たち、どうもギルド貢献度が上位三番以内のクランって事らしくて。三大クランの一つ、なんて呼ばれてるの!」
ハルカが少し得意げに教えてくれる。
「まあ、自分で名乗るほど恥ずかしいことは無いのですが、これだけ人の目を引いてしまう理由としましては、お伝えした方がいいかと思いまして」
ケイティの方は、少し迷惑そうにあっけらかんと言う。
いやいやいや、エルゼリアにある百を超えるクランの内の上位三組の一つ?
俺たちみたいな、クランになってないパーティも含めれば、おそらく膨大な冒険者の中のトップクラスにハルカたちはいるってことだろう?
「あ、あのー……今からでも敬語で話した方がよろしいでしょうか……」
「あはははは! レオくん面白ーい!! そんなの気にしないでいいよ! タメ口でしゃべってよ、タメ口で!」
俺の言葉にハルカが爆笑しながら言う。
「そうさ! あたしら、結構あんたを気に入ってんだからさ! ルーキー!」
カリーナが肩を組んで頭をウリウリと小突いてくる。
豊満な胸が薄い布越しに腕に当たって気恥ずかしい。
「話を戻すわよ……」
ケイティが呆れ顔で俺たちを見る。
「ハルカは三大クラン『赤の女王』の総団長。私、ケイティが参謀兼魔法部隊隊長。カリーナが戦闘部隊隊長。って感じよ……ってどうしたの? 固まって?」
「い、いや……エルゼリアにはそんな大きな規模で活動している冒険者がいるんだと思って驚いてしまって……ルクシアでは普通はパーティを組むといっても何というか、メンバー同士、必要最小限の交流しか持たないなんて話をよく聞いてましたし……」
ケイティの問いかけに俺は答える。
冒険者をなめていたわけではないが、簡単に見過ぎていたような感覚にとらわれた。
「そりゃあ、まあ、ルクシアは初心者の町だからねー。初級冒険者は立場的にも強さ的にも弱いから、裏切りなどのリスクも多い。みんな他の冒険者と関わらないようにピリピリしてるから。私もルクシアにいた頃は、ほぼ一人で冒険してたし……。でも、ルクシアを出てからの魔物はそうも言ってられない。背中を預けられる仲間がいないと簡単にお陀仏よ」
ハルカが俺に言い聞かせてくる。
「でも、まあ、赤の女王は確かに特殊かもな。他のクランじゃ隷属関係だの、売り上げノルマ作るだの、メンバーは幹部に上納金を収めるだの、一度入ったら脱退不可能だの。ルール作って縛り付けてるってのもよく聞くし。うちはそんなの一切なくて自由にやってるからな」
「ギルドを介さないで、あくどい仕事を受けているクランもあるみたいだしね……」
カリーナとケイティが神妙な顔で言う。
なるほどな。
『クラン』というのは冒険者にとって、人間関係が密な会社のような存在らしい。
ホワイト企業、ブラック企業……日本にも色々あったが『赤の女王』は『自由な社風のホワイト企業』なのだろう。
「あ、いたいた! おーい! ハルカさーん、すまねえっすー! 遅れちゃってー!」
オレンジ髪のサイドテールの派手な女の子が、ハルカを呼ぶ。
「あ、連れが来たみたい。じゃあ、私たちは行くわね。じゃあ、また」
「ああ。また」
ワイワイと歩くハルカたちの威風堂々とした背中を見つめる。
武装しているわけでもないのに、隙が無く、ベテラン冒険者ならではの覇気や余裕、凄みを感じる。
あれが、トップクラスの冒険者……。
駄目だな、町に来たばかりなのに弱気になっているようだ。
「なに考え込んでるの?」
「ん?」
顔を上げると、リズが立っていた。
「あれ? シレイドとキアラは?」
「シレイドはよほど楽しかったのか風呂場でまだ泳いでる。キアラは私の分も飲み物を買ってきてくれてるわ」
「そうか……あとで、テルマエでは泳ぐなってシレイドを注意しないとな」
「あはは、そうだね」
そう言うと、リズはピトリと肩を寄せてくる。
「で? 何があったの?」
「分かるのか?」
「当たり前じゃん、第一彼女だよ? あたし、レオのこといつも見てるんだから、どんなこともお見通し」
「ははっ、そうか」
俺はハルカさんたちに会ったことを話した。
「へえ、あの人たちそんなすごかったんだ。それにパーティの形態も随分変わるのね」
「ああ」
「で、あたしの愛しの彼氏様は、それを見て、焦りを感じていると……」
「ま、まあ、端的に言ってそうだな。これからの冒険者活動にビビってるのかもしれない」
「ふふ……いきなり大きな世界に飛び込んだら誰でもそうだよ?」
「……リズ」
「今まではルクシアっていう小さな世界にいて超優秀な成果を収めてきて自信がついて、でもエルゼリアっていう冒険者の宝庫に来たら、自分よりすごい人がゴロゴロいて……。でもね? そこで焦ったり落ち込む必要はないんだよ」
リズは俺の手を細くキレイな手でそっと握る。
「私たちのここでの冒険は始まったばかりなんだから……これから、少しずつ力をつけて立派な冒険者になればいい。他の人を目標にするのはいいことだけど、張り合う必要はないんじゃない♪」
リズのおかげで不安めいた焦燥感が解けていく。
そうだ。俺たちはこれから少しずつ、大きくなればいい。
そして、いつか追いつく。
今はそれでいいんだ。
「あ、あの! ふ、二人でイチャイチャしているのはズルいのではないか……?」
「ん……ずるい。ご主人様はみんなの彼氏……あと、テルマエは面白いけど暑い」
飲み物を両手に持ったキアラが悔しそうに立っている。
その隣には、髪の毛をべちゃべちゃに濡らしたシレイドが、ミルクらしきものを木のストローでチューチュー飲んでいた。
「ごめんごめん、二人とも。あーあー、シレイドちゃん。いつもちゃんと身体を拭いてから上がってきなさいって言ってるでしょ? ふふふっ」
「ん……シレイド不覚……」
リズがタオルでシレイドの髪を拭いてやっている。
シレイドもまんざら悪い気はしてないらしく甘えるようにリズに身体を寄せる。
その様子を見て、キアラが笑っている。
俺の彼女たちのそんな平凡な光景を見て、今日はいつも以上に心が軽くなるのだった。
ケイティの言葉に俺は思わず聞き返す。
「ああ……ルクシアから来たばかりじゃあ馴染みがないかもしれないねぇ。『クラン』っていうのは『パーティ』より大きな集まり。構成メンバーが十名を超えたパーティがクランって呼ばれるのさ。通常冒険者は、敵が強くなるにつれてメンバーを増やしていくから高いレベルの冒険者ほどクランに属する感じになるんだよ」
カリーナが説明してくれる。
「そう、それでこのエルゼリアには百を超えるクランがあるんだけど、その中で私たち、どうもギルド貢献度が上位三番以内のクランって事らしくて。三大クランの一つ、なんて呼ばれてるの!」
ハルカが少し得意げに教えてくれる。
「まあ、自分で名乗るほど恥ずかしいことは無いのですが、これだけ人の目を引いてしまう理由としましては、お伝えした方がいいかと思いまして」
ケイティの方は、少し迷惑そうにあっけらかんと言う。
いやいやいや、エルゼリアにある百を超えるクランの内の上位三組の一つ?
俺たちみたいな、クランになってないパーティも含めれば、おそらく膨大な冒険者の中のトップクラスにハルカたちはいるってことだろう?
「あ、あのー……今からでも敬語で話した方がよろしいでしょうか……」
「あはははは! レオくん面白ーい!! そんなの気にしないでいいよ! タメ口でしゃべってよ、タメ口で!」
俺の言葉にハルカが爆笑しながら言う。
「そうさ! あたしら、結構あんたを気に入ってんだからさ! ルーキー!」
カリーナが肩を組んで頭をウリウリと小突いてくる。
豊満な胸が薄い布越しに腕に当たって気恥ずかしい。
「話を戻すわよ……」
ケイティが呆れ顔で俺たちを見る。
「ハルカは三大クラン『赤の女王』の総団長。私、ケイティが参謀兼魔法部隊隊長。カリーナが戦闘部隊隊長。って感じよ……ってどうしたの? 固まって?」
「い、いや……エルゼリアにはそんな大きな規模で活動している冒険者がいるんだと思って驚いてしまって……ルクシアでは普通はパーティを組むといっても何というか、メンバー同士、必要最小限の交流しか持たないなんて話をよく聞いてましたし……」
ケイティの問いかけに俺は答える。
冒険者をなめていたわけではないが、簡単に見過ぎていたような感覚にとらわれた。
「そりゃあ、まあ、ルクシアは初心者の町だからねー。初級冒険者は立場的にも強さ的にも弱いから、裏切りなどのリスクも多い。みんな他の冒険者と関わらないようにピリピリしてるから。私もルクシアにいた頃は、ほぼ一人で冒険してたし……。でも、ルクシアを出てからの魔物はそうも言ってられない。背中を預けられる仲間がいないと簡単にお陀仏よ」
ハルカが俺に言い聞かせてくる。
「でも、まあ、赤の女王は確かに特殊かもな。他のクランじゃ隷属関係だの、売り上げノルマ作るだの、メンバーは幹部に上納金を収めるだの、一度入ったら脱退不可能だの。ルール作って縛り付けてるってのもよく聞くし。うちはそんなの一切なくて自由にやってるからな」
「ギルドを介さないで、あくどい仕事を受けているクランもあるみたいだしね……」
カリーナとケイティが神妙な顔で言う。
なるほどな。
『クラン』というのは冒険者にとって、人間関係が密な会社のような存在らしい。
ホワイト企業、ブラック企業……日本にも色々あったが『赤の女王』は『自由な社風のホワイト企業』なのだろう。
「あ、いたいた! おーい! ハルカさーん、すまねえっすー! 遅れちゃってー!」
オレンジ髪のサイドテールの派手な女の子が、ハルカを呼ぶ。
「あ、連れが来たみたい。じゃあ、私たちは行くわね。じゃあ、また」
「ああ。また」
ワイワイと歩くハルカたちの威風堂々とした背中を見つめる。
武装しているわけでもないのに、隙が無く、ベテラン冒険者ならではの覇気や余裕、凄みを感じる。
あれが、トップクラスの冒険者……。
駄目だな、町に来たばかりなのに弱気になっているようだ。
「なに考え込んでるの?」
「ん?」
顔を上げると、リズが立っていた。
「あれ? シレイドとキアラは?」
「シレイドはよほど楽しかったのか風呂場でまだ泳いでる。キアラは私の分も飲み物を買ってきてくれてるわ」
「そうか……あとで、テルマエでは泳ぐなってシレイドを注意しないとな」
「あはは、そうだね」
そう言うと、リズはピトリと肩を寄せてくる。
「で? 何があったの?」
「分かるのか?」
「当たり前じゃん、第一彼女だよ? あたし、レオのこといつも見てるんだから、どんなこともお見通し」
「ははっ、そうか」
俺はハルカさんたちに会ったことを話した。
「へえ、あの人たちそんなすごかったんだ。それにパーティの形態も随分変わるのね」
「ああ」
「で、あたしの愛しの彼氏様は、それを見て、焦りを感じていると……」
「ま、まあ、端的に言ってそうだな。これからの冒険者活動にビビってるのかもしれない」
「ふふ……いきなり大きな世界に飛び込んだら誰でもそうだよ?」
「……リズ」
「今まではルクシアっていう小さな世界にいて超優秀な成果を収めてきて自信がついて、でもエルゼリアっていう冒険者の宝庫に来たら、自分よりすごい人がゴロゴロいて……。でもね? そこで焦ったり落ち込む必要はないんだよ」
リズは俺の手を細くキレイな手でそっと握る。
「私たちのここでの冒険は始まったばかりなんだから……これから、少しずつ力をつけて立派な冒険者になればいい。他の人を目標にするのはいいことだけど、張り合う必要はないんじゃない♪」
リズのおかげで不安めいた焦燥感が解けていく。
そうだ。俺たちはこれから少しずつ、大きくなればいい。
そして、いつか追いつく。
今はそれでいいんだ。
「あ、あの! ふ、二人でイチャイチャしているのはズルいのではないか……?」
「ん……ずるい。ご主人様はみんなの彼氏……あと、テルマエは面白いけど暑い」
飲み物を両手に持ったキアラが悔しそうに立っている。
その隣には、髪の毛をべちゃべちゃに濡らしたシレイドが、ミルクらしきものを木のストローでチューチュー飲んでいた。
「ごめんごめん、二人とも。あーあー、シレイドちゃん。いつもちゃんと身体を拭いてから上がってきなさいって言ってるでしょ? ふふふっ」
「ん……シレイド不覚……」
リズがタオルでシレイドの髪を拭いてやっている。
シレイドもまんざら悪い気はしてないらしく甘えるようにリズに身体を寄せる。
その様子を見て、キアラが笑っている。
俺の彼女たちのそんな平凡な光景を見て、今日はいつも以上に心が軽くなるのだった。
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