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第9章:風神の谷と宿の看板娘編
第16話:闇の代償
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◇
——エルゼリア査問騎士団・詰所、地下牢。
「おい!! 誰か!! 儂を誰だと思っている!! エルゼリア商会幹部レアードだぞ!! こんなことをして、タダでは——!!」
「うるさいぞ、囚人。貴様が魔物召喚をしたのは、分かっているのだ。お前の身柄は王都に送られる。本部の査問騎士団が連行しに来るまで、大人しくしていろ」
牢の中で喚くレアードに見張りの看守が言う。
「くそっ!! くそっ!! どうして、儂がこんな目に!!」
レアードは悔しそうに歯噛みする。
——その時。
甘ったるい歌声が地下牢に響いてくる。
「こ、これは……!!」
レアードはすぐさま耳を塞ぐ。
——直後。
「な、なんだ……この歌声は……!? ぐっ……急に、眠気が……ぐー……ぐー……」
看守が突然バタリと倒れ、眠ってしまう。
そこに、ふっと現れたのは黒づくめのフードの男。
「お、おお!! 助けに来てくれたのか!! ご苦労だ!! 早く、この牢を開け——」
「何を勘違いされているのですか? レアードさん」
色めきだすレアードにぴしゃりと言い放つフードの男。
「え……!? お前、儂を助けに来たんじゃ——」
「とんでもない。今日はお別れを言いに来たのです」
「お、お別れ……?」
フードの男の言葉が理解できていない様子のレアード。
「あれだけ、魔物の召喚は足がつきやすいから注意しろと言ったのに、安易に使って結局捕まってしまって……困ったお人だ」
「ぐ……うぐっ……」
「私がお願いしたのは『風神の墓』の破壊です。それがどうして召喚石を失い、投獄される羽目になっているのですか……?」
「そ、それは……」
「それに、あなた……私たちに負債があるのをお忘れですか? エルゼリア商会の幹部の座に収まるまでに、私たちがどれだけあなたの商売敵を消してきて差し上げたと思っているのですか?」
「う、うぐぅ……」
フードの男の冷めきった言い方に、思わずレアードがたじろぐ。
「あなたは遂に、とんだヘマをやらかし、私たちが作り上げた地位さえ追われてしまった。もはや、あなたには何の期待も価値もない」
「ま、待て……!! 待ってくれ!! 話を聞いてくれ!! あと一度、もう一度だけ、チャンスを……!!」
「無理ですねぇ……これ以上、あなたに付き合っていては、私たちにも被害が及びます」
レアードの言葉はフードの男には届かなかった。
男はレアードに向かい、手を翳し——。
「『ギガファイア』」
厳重な鉄格子さえも簡単に焼き尽くしてしまう業火の球を発射する。
「ぎやあああああああああああああっ————!!」
その火球はレアードに直接当たるまでもなく、彼の身体を焼き尽くし、蒸発させてしまった。
後に残ったのは、溶け切った鉄格子と、レアードが着ていた衣服の灰のみ。
「さてさて、処理は終わりました……適当に辻褄を合わせないといけないですが……そうですねぇ、魔物召喚を行い罪人となった哀れな商人が、自らを悲観して自爆……ということにしましょうか」
フードの男はそう呟き、眠りこけている看守に任意の記憶を植え付ける催眠魔法をかける。
「ふむ……これで、記憶も改ざんできたでしょう……やれやれ、馬鹿の尻拭いは面倒ですねぇ」
男は呟いて、羽のようなものを投げる。
直後、男は光に包まれて、消えてしまったのだった。
◇
翌日、町はちょっとした騒ぎが起きていた。
査問騎士団の詰所で、罪人であるレアードが自爆したというのだ。
見張りをしていた看守によれば、なんでも、奴は自らの罪をひどく悲観していたのだとか。
それに耐えきれなくなり、自分で命を絶ったという。
「ふむ……」
「どうしたの? レオ?」
考え込む俺にリズが尋ねる。
「い、いや……あのレアードとかいう商人、自分の罪を悲観するようなタイプではないと思っていたのだが……。どちらかといえば、開き直るタイプかと」
「ああー……まあ、そうだねぇ。ギルドでの言動を見ていたら、そんな感じには見えなかったもんねー」
リズも同意見のようだ。
「ん……自爆の方法も、よく分からない……。アイテムを使ったにしても、捕まるときに持ち物検査する……そんなに危ないものを持っていたら、絶対に没収される……」
「魔法、にしても変ですわねぇ。そんな強力な魔法が使える人には思えなかったのですが……」
シレイドとセーラも不思議そうだ。
「レオ。奴は自分の犯した罪から逃げただけだ。レオが責任を感じる必要はないのだぞ?」
「だぜ、ご主人様。『悲劇に自分の心を奪われちゃダメ』……だろ」
キアラとロウナが俺に諭すように言う。
自分の行動がきっかけで捕まった男が、獄中自殺。
悪人だったとはいえ、平和の国日本で生まれた俺からすれば、目覚めが悪い話である。
俺の心の機微は、みんなにバレているらしい。
「……大丈夫だ。それが、奴自身が選んだ道ということだろう」
「うんうん! それがいいよ。さ、今日はどうする?」
気持ちを切り替えよう。それが一番だ。
リズがこれ以上引きずらないように話題を変えてくれる。
「ああ。今日はヴィヴィの店に行こうと思ってる。『灼炎の祠』から『風神の谷』までに得た魔物素材を換金しようと思ってな」
「うん! 賛成! あたしもかなり素材が溜まってるからね」
「私もだ。これだけ売れば大金持ちになれるかもしれん」
「私もかなり溜まっていますね。断捨離のような感じで、スッキリしたいです」
俺の言葉に、リズ、キアラ、セーラが力強く頷く。
「ご主人様がリッチになるなら、あたしらも嬉しいぜ!」
「……嬉しいぜ!」
ロウナとシレイドが笑う。
レアードのこともあり、エルゼリア商会会長のヴィヴィの様子も気になるからな。
素材換金の名目で、顔を見に行くとしよう。
俺たちはヴィヴィの店『白兎の福耳』に向かった。
——エルゼリア査問騎士団・詰所、地下牢。
「おい!! 誰か!! 儂を誰だと思っている!! エルゼリア商会幹部レアードだぞ!! こんなことをして、タダでは——!!」
「うるさいぞ、囚人。貴様が魔物召喚をしたのは、分かっているのだ。お前の身柄は王都に送られる。本部の査問騎士団が連行しに来るまで、大人しくしていろ」
牢の中で喚くレアードに見張りの看守が言う。
「くそっ!! くそっ!! どうして、儂がこんな目に!!」
レアードは悔しそうに歯噛みする。
——その時。
甘ったるい歌声が地下牢に響いてくる。
「こ、これは……!!」
レアードはすぐさま耳を塞ぐ。
——直後。
「な、なんだ……この歌声は……!? ぐっ……急に、眠気が……ぐー……ぐー……」
看守が突然バタリと倒れ、眠ってしまう。
そこに、ふっと現れたのは黒づくめのフードの男。
「お、おお!! 助けに来てくれたのか!! ご苦労だ!! 早く、この牢を開け——」
「何を勘違いされているのですか? レアードさん」
色めきだすレアードにぴしゃりと言い放つフードの男。
「え……!? お前、儂を助けに来たんじゃ——」
「とんでもない。今日はお別れを言いに来たのです」
「お、お別れ……?」
フードの男の言葉が理解できていない様子のレアード。
「あれだけ、魔物の召喚は足がつきやすいから注意しろと言ったのに、安易に使って結局捕まってしまって……困ったお人だ」
「ぐ……うぐっ……」
「私がお願いしたのは『風神の墓』の破壊です。それがどうして召喚石を失い、投獄される羽目になっているのですか……?」
「そ、それは……」
「それに、あなた……私たちに負債があるのをお忘れですか? エルゼリア商会の幹部の座に収まるまでに、私たちがどれだけあなたの商売敵を消してきて差し上げたと思っているのですか?」
「う、うぐぅ……」
フードの男の冷めきった言い方に、思わずレアードがたじろぐ。
「あなたは遂に、とんだヘマをやらかし、私たちが作り上げた地位さえ追われてしまった。もはや、あなたには何の期待も価値もない」
「ま、待て……!! 待ってくれ!! 話を聞いてくれ!! あと一度、もう一度だけ、チャンスを……!!」
「無理ですねぇ……これ以上、あなたに付き合っていては、私たちにも被害が及びます」
レアードの言葉はフードの男には届かなかった。
男はレアードに向かい、手を翳し——。
「『ギガファイア』」
厳重な鉄格子さえも簡単に焼き尽くしてしまう業火の球を発射する。
「ぎやあああああああああああああっ————!!」
その火球はレアードに直接当たるまでもなく、彼の身体を焼き尽くし、蒸発させてしまった。
後に残ったのは、溶け切った鉄格子と、レアードが着ていた衣服の灰のみ。
「さてさて、処理は終わりました……適当に辻褄を合わせないといけないですが……そうですねぇ、魔物召喚を行い罪人となった哀れな商人が、自らを悲観して自爆……ということにしましょうか」
フードの男はそう呟き、眠りこけている看守に任意の記憶を植え付ける催眠魔法をかける。
「ふむ……これで、記憶も改ざんできたでしょう……やれやれ、馬鹿の尻拭いは面倒ですねぇ」
男は呟いて、羽のようなものを投げる。
直後、男は光に包まれて、消えてしまったのだった。
◇
翌日、町はちょっとした騒ぎが起きていた。
査問騎士団の詰所で、罪人であるレアードが自爆したというのだ。
見張りをしていた看守によれば、なんでも、奴は自らの罪をひどく悲観していたのだとか。
それに耐えきれなくなり、自分で命を絶ったという。
「ふむ……」
「どうしたの? レオ?」
考え込む俺にリズが尋ねる。
「い、いや……あのレアードとかいう商人、自分の罪を悲観するようなタイプではないと思っていたのだが……。どちらかといえば、開き直るタイプかと」
「ああー……まあ、そうだねぇ。ギルドでの言動を見ていたら、そんな感じには見えなかったもんねー」
リズも同意見のようだ。
「ん……自爆の方法も、よく分からない……。アイテムを使ったにしても、捕まるときに持ち物検査する……そんなに危ないものを持っていたら、絶対に没収される……」
「魔法、にしても変ですわねぇ。そんな強力な魔法が使える人には思えなかったのですが……」
シレイドとセーラも不思議そうだ。
「レオ。奴は自分の犯した罪から逃げただけだ。レオが責任を感じる必要はないのだぞ?」
「だぜ、ご主人様。『悲劇に自分の心を奪われちゃダメ』……だろ」
キアラとロウナが俺に諭すように言う。
自分の行動がきっかけで捕まった男が、獄中自殺。
悪人だったとはいえ、平和の国日本で生まれた俺からすれば、目覚めが悪い話である。
俺の心の機微は、みんなにバレているらしい。
「……大丈夫だ。それが、奴自身が選んだ道ということだろう」
「うんうん! それがいいよ。さ、今日はどうする?」
気持ちを切り替えよう。それが一番だ。
リズがこれ以上引きずらないように話題を変えてくれる。
「ああ。今日はヴィヴィの店に行こうと思ってる。『灼炎の祠』から『風神の谷』までに得た魔物素材を換金しようと思ってな」
「うん! 賛成! あたしもかなり素材が溜まってるからね」
「私もだ。これだけ売れば大金持ちになれるかもしれん」
「私もかなり溜まっていますね。断捨離のような感じで、スッキリしたいです」
俺の言葉に、リズ、キアラ、セーラが力強く頷く。
「ご主人様がリッチになるなら、あたしらも嬉しいぜ!」
「……嬉しいぜ!」
ロウナとシレイドが笑う。
レアードのこともあり、エルゼリア商会会長のヴィヴィの様子も気になるからな。
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