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第11章:落星の森と紫煙の魔術師編
第18話:ルクシアの復興
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◇
——ルクシアのスタンピード騒動から約一か月後。
アルバイン王国・王都エーデルにて。
ルクシアの貴族『暁の賢者』カーネルと、王国の冒険者ギルド総団長ギンガは、アルバイン王国女王のオルフィアがいる王の間に向かっていた。
「緊張してる? カーネル?」
「うむ……あの人の前はどうしてもな……」
「だよねぇ。僕でさえ、ちょっとピリピリしちゃうからねぇ」
カーネルとギンガは深い息を吐き、王の間への扉を開く。
「失礼します」
カーネルがそう言いながら、跪き敬服のポーズをとる。
もちろん、ギンガも同じく敬服する。
「よく来たな……カーネル、ギンガ」
玉座に座るオルフィアが全てを見据えるような眼差しで二人を見る。
「……お呼び出しを頂きましたが、何用でございましょうか……?」
カーネルがおずおずと訊くと、オルフィアは「ふぅ……」と息を吐き言葉を紡ぐ。
「まずは、ルクシアでのスタンピード……対応、ご苦労であった。そして、瘴気の影響についての報告書も読ませてもらった」
ルクシアの領主がまとめた地方周辺の報告書と、ガラテア王国から上がってきた森の報告書を片手に、淡々と女王が言う。
「……なかなかに厳しい内容じゃな」
「はい……。周囲の魔物は凶暴化し、進化の兆候も方々で見られております。動物が魔物化する事象も多数上がっていており、少ない瘴気でしか生きられない生き物は軒並み姿を消しております」
カーネルは跪いたまま答える。
「うむ……じゃが、妾は諦めておらぬぞ?」
「と、申しますと?」
「ルクシアを再び人が住める場所に復興することじゃ」
女王の言葉に目を丸くするカーネルとギンガ。
「女王くん? どういうことかな?」
ギンガが疑問を投げかける。
「確かに、人や動物が住めぬほど瘴気は濃くなっておる。それにより、周囲の動物の消失や魔物の凶暴化も見られておる。だが、裏を返せば『瘴気さえ薄くなれば元に戻る可能性が高い』という事じゃ」
さも当然といったように言うオルフィア。
「アリスくんの『クリア・アトモスフィア』でも、瘴気を薄めるくらいしかできなかったんだよ?」
瘴気の扱いについては風の上位属性である『大気属性』を持つ彼女の右に出る者はいない。
そのことからも、カーネルやギンガは『ルクシアはもう元には戻らない』と思い込んでいたのだ。
「まあ、そうじゃろうな。アリスの魔法で無理なら『この国には』瘴気を取り除く方法はないじゃろうな」
オルフィアがギンガの言葉に答える。
「女王様……それは、つまり……どういうことでしょうか?」
カーネルがオルフィアに尋ねる。
「王国の密偵団に今、他国に何か良い方法がないか調べるよう命じておる」
「た、他国に……ですか?」
「……なるほどねぇ」
女王の言葉にカーネルとギンガが声を漏らす。
「今、世界中で王魔種による異変が続々と出てきておる。じゃが、悪い事ばかりではない。『王魔種』や『邪神』という共通の敵ができたことで各国が協力関係を結ぼうと繋がりを強めてきておる。他国との交流をあまり持とうとしない『マテーネ魔法王国』や『和国』、1000年先の技術を持つことで他国を見下していた『バランド機兵国』でさえ、各国に親書を送ってきておる。これを利用しない手はないじゃろう」
したたかな女王の言葉に、カーネルとギンガは思わずチラリと目を見合わせる。
「あれだけ強い言葉を使ってルクシアの民を移住させたから、てっきりルクシア地方は見捨てるのかと思っていたよ」
「あの時はああ言う他あるまい。強引にならなければ、民自身の命に関わるでな。『戻れるやもしれん』と言ったところで、戻れなかった時の落胆のほうが大きかろう」
ギンガの言葉に淡々というオルフィア女王。
どこまで本気で、どこまで虚言なのか……。
彼女の真意を推し量れる人は、おそらくこの国にはいない。
「やはり、あなたは食えない人だね。女王くん」
「誉め言葉として受け取っておこう、ギンガ」
お互いを認めつつ牽制しあう。
「ともかく、妾が言いたいことは三つじゃ。『ルクシアの復興は諦めておらぬ』『復興のために他国に協力を仰ぐ』『要らぬ希望を持たせぬように民には黙っておく』それをそちらも理解していてほしい。以上じゃ」
「一度滅んだ土地を復活させるのは簡単なことじゃないですよ? 女王陛下?」
「解っておる。何年かかるか……何十年かかるか……妾にも分からん。じゃが、あっという間に方法が見つかる可能性もあるじゃろう?」
カーネルの言葉に僅かに口角を上げるオルフィア。
「して、女神とかいう奴の様子は?」
「エルゼリアの教会で保護してるよ。女王くんの言うように警戒と軽い監視も怠ってない。もっとも、彼女たちは僕らが監視していると解ったうえで生活しているみたいだけど」
「ふふふ、そうか。聡いものは嫌いではない。妾と同じくらい食えぬやも知れんな」
ギンガの報告に愉快そうに笑うオルフィア。
「どの道、あのアブランとかいう者を倒すのは彼女たちに頼るしかないでしょうな。ギンガですら倒してしまうほどの実力です。先の戦いでも、あの女神たちの攻撃でしかダメージを与えられておりませんでしたし」
「ふむ……アブランは『邪神』と名乗っておったそうだな。『女神』といい『邪神』といい……なんとも仰々しい肩書を名乗るの。傲慢な者たちじゃ」
カーネルの言葉に女王が考え込む。
「そして……あの場におった冒険者、レオとハルカと言ったの?」
「あーそうだね。異界人で……適正SSS持ちの冒険者たちだよ。レオくんはワープも使えてね。スタンピードの際、エルゼリアから冒険者たちをルクシアに送ってくれたんだ」
「そこまで、使える奴なのか?」
「はっはっは、その言い方はあまり良くないねぇ、女王くん。冒険者ギルド総団長として、冒険者の中に使えない冒険者なんていないと思っているからさ」
「そちほど妾に忌憚のない意見をくれる部下はいないぞ、ギンガ」
「僕も、女王くんは何時も正しくて強いと評価してるよ」
ピリピリとした空気がオルフィアとギンガの間に流れる。
カーネルは緊張を誤魔化すように息を吐く。
「何にせよ、今後の活躍次第での判断じゃな」
女王は、終始淡々と語る。
「使える者だったら、どうする気ですか?」
「決まっておろう……妾の『お気に入り』になるだけじゃ」
カーネルの問いかけに女王がニヤリと笑う。
その言葉を聞いたギンガは「やっぱり食えない人だねぇ……」と小さく呟くのだった。
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——ルクシアのスタンピード騒動から約一か月後。
アルバイン王国・王都エーデルにて。
ルクシアの貴族『暁の賢者』カーネルと、王国の冒険者ギルド総団長ギンガは、アルバイン王国女王のオルフィアがいる王の間に向かっていた。
「緊張してる? カーネル?」
「うむ……あの人の前はどうしてもな……」
「だよねぇ。僕でさえ、ちょっとピリピリしちゃうからねぇ」
カーネルとギンガは深い息を吐き、王の間への扉を開く。
「失礼します」
カーネルがそう言いながら、跪き敬服のポーズをとる。
もちろん、ギンガも同じく敬服する。
「よく来たな……カーネル、ギンガ」
玉座に座るオルフィアが全てを見据えるような眼差しで二人を見る。
「……お呼び出しを頂きましたが、何用でございましょうか……?」
カーネルがおずおずと訊くと、オルフィアは「ふぅ……」と息を吐き言葉を紡ぐ。
「まずは、ルクシアでのスタンピード……対応、ご苦労であった。そして、瘴気の影響についての報告書も読ませてもらった」
ルクシアの領主がまとめた地方周辺の報告書と、ガラテア王国から上がってきた森の報告書を片手に、淡々と女王が言う。
「……なかなかに厳しい内容じゃな」
「はい……。周囲の魔物は凶暴化し、進化の兆候も方々で見られております。動物が魔物化する事象も多数上がっていており、少ない瘴気でしか生きられない生き物は軒並み姿を消しております」
カーネルは跪いたまま答える。
「うむ……じゃが、妾は諦めておらぬぞ?」
「と、申しますと?」
「ルクシアを再び人が住める場所に復興することじゃ」
女王の言葉に目を丸くするカーネルとギンガ。
「女王くん? どういうことかな?」
ギンガが疑問を投げかける。
「確かに、人や動物が住めぬほど瘴気は濃くなっておる。それにより、周囲の動物の消失や魔物の凶暴化も見られておる。だが、裏を返せば『瘴気さえ薄くなれば元に戻る可能性が高い』という事じゃ」
さも当然といったように言うオルフィア。
「アリスくんの『クリア・アトモスフィア』でも、瘴気を薄めるくらいしかできなかったんだよ?」
瘴気の扱いについては風の上位属性である『大気属性』を持つ彼女の右に出る者はいない。
そのことからも、カーネルやギンガは『ルクシアはもう元には戻らない』と思い込んでいたのだ。
「まあ、そうじゃろうな。アリスの魔法で無理なら『この国には』瘴気を取り除く方法はないじゃろうな」
オルフィアがギンガの言葉に答える。
「女王様……それは、つまり……どういうことでしょうか?」
カーネルがオルフィアに尋ねる。
「王国の密偵団に今、他国に何か良い方法がないか調べるよう命じておる」
「た、他国に……ですか?」
「……なるほどねぇ」
女王の言葉にカーネルとギンガが声を漏らす。
「今、世界中で王魔種による異変が続々と出てきておる。じゃが、悪い事ばかりではない。『王魔種』や『邪神』という共通の敵ができたことで各国が協力関係を結ぼうと繋がりを強めてきておる。他国との交流をあまり持とうとしない『マテーネ魔法王国』や『和国』、1000年先の技術を持つことで他国を見下していた『バランド機兵国』でさえ、各国に親書を送ってきておる。これを利用しない手はないじゃろう」
したたかな女王の言葉に、カーネルとギンガは思わずチラリと目を見合わせる。
「あれだけ強い言葉を使ってルクシアの民を移住させたから、てっきりルクシア地方は見捨てるのかと思っていたよ」
「あの時はああ言う他あるまい。強引にならなければ、民自身の命に関わるでな。『戻れるやもしれん』と言ったところで、戻れなかった時の落胆のほうが大きかろう」
ギンガの言葉に淡々というオルフィア女王。
どこまで本気で、どこまで虚言なのか……。
彼女の真意を推し量れる人は、おそらくこの国にはいない。
「やはり、あなたは食えない人だね。女王くん」
「誉め言葉として受け取っておこう、ギンガ」
お互いを認めつつ牽制しあう。
「ともかく、妾が言いたいことは三つじゃ。『ルクシアの復興は諦めておらぬ』『復興のために他国に協力を仰ぐ』『要らぬ希望を持たせぬように民には黙っておく』それをそちらも理解していてほしい。以上じゃ」
「一度滅んだ土地を復活させるのは簡単なことじゃないですよ? 女王陛下?」
「解っておる。何年かかるか……何十年かかるか……妾にも分からん。じゃが、あっという間に方法が見つかる可能性もあるじゃろう?」
カーネルの言葉に僅かに口角を上げるオルフィア。
「して、女神とかいう奴の様子は?」
「エルゼリアの教会で保護してるよ。女王くんの言うように警戒と軽い監視も怠ってない。もっとも、彼女たちは僕らが監視していると解ったうえで生活しているみたいだけど」
「ふふふ、そうか。聡いものは嫌いではない。妾と同じくらい食えぬやも知れんな」
ギンガの報告に愉快そうに笑うオルフィア。
「どの道、あのアブランとかいう者を倒すのは彼女たちに頼るしかないでしょうな。ギンガですら倒してしまうほどの実力です。先の戦いでも、あの女神たちの攻撃でしかダメージを与えられておりませんでしたし」
「ふむ……アブランは『邪神』と名乗っておったそうだな。『女神』といい『邪神』といい……なんとも仰々しい肩書を名乗るの。傲慢な者たちじゃ」
カーネルの言葉に女王が考え込む。
「そして……あの場におった冒険者、レオとハルカと言ったの?」
「あーそうだね。異界人で……適正SSS持ちの冒険者たちだよ。レオくんはワープも使えてね。スタンピードの際、エルゼリアから冒険者たちをルクシアに送ってくれたんだ」
「そこまで、使える奴なのか?」
「はっはっは、その言い方はあまり良くないねぇ、女王くん。冒険者ギルド総団長として、冒険者の中に使えない冒険者なんていないと思っているからさ」
「そちほど妾に忌憚のない意見をくれる部下はいないぞ、ギンガ」
「僕も、女王くんは何時も正しくて強いと評価してるよ」
ピリピリとした空気がオルフィアとギンガの間に流れる。
カーネルは緊張を誤魔化すように息を吐く。
「何にせよ、今後の活躍次第での判断じゃな」
女王は、終始淡々と語る。
「使える者だったら、どうする気ですか?」
「決まっておろう……妾の『お気に入り』になるだけじゃ」
カーネルの問いかけに女王がニヤリと笑う。
その言葉を聞いたギンガは「やっぱり食えない人だねぇ……」と小さく呟くのだった。
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