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第二章【旅立ち】
第十八話 水の精霊
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気づいたら、エリオネルと色々と喋っていた。
優しくて、嫌な顔一つせず聞いてくれる。俺が、地球の事を話す約束だったのに、逆に色々教えてもらっていた。
「マリヤ、こっちへ」
「ん?何?」
休憩に止まった先で、エリオネルに呼ばれる。
「隊から離れていいの?」
「ああ、大丈夫だよ。実は、この中で一番強いから」
軽く言われて、冗談かどうかわからなくて、微妙な返事になってしまった。
いや、エリオネルは貴族にしたら良い体つきしてるけど、護衛の人たちはムキムキだし、専門だよね?
「信じてないな」
「いやー、だって護衛の人めっちゃ強そう」
「まあ、確かに強くなければ雇ってはいないけど……」
エリオネルについていくと、川に出た。
苔むす樹々が不思議な雰囲気を醸し出している。
小さな小川は、すごく綺麗で、樹の間から差す光でキラキラしていた。
エリオネルがその小川に手を浸す。
綺麗な見目と、不思議な藍色の髪が光ってすごく神秘的だ。
「…………《顕現》」
エリオネルは、何かをボソボソ呟くと《顕現》と発した。顕現の前は何と言ったのか聞き取れなかったが、呪文なのだろうか。
流れる水が波立ち、エリオネルの右腕にまとわりつき始める。
そのうち、その水は小さな生き物のような形になり、四匹くらいがエリオネルの腕から出たり消えたりしていた。
「そ……れは、何?」
「水の精霊」
エリオネルに左手を差し出され、無意識に近くに寄る。
俺が近づくと、エリオネルの右腕の精霊たちが、活発になり、鈴の音のような音を出し始めた。
「え……、大丈夫?これ」
「悪さはしないよ」
エリオネルの右手が、俺の左手をそっと包む。
水の精霊たちは、エリオネルから伝わって、俺の体を走っていく。
勢いを増した精霊が、リィンリィンと鳴りながら増え始めた。
「えっ、ちょっ、増えてる!」
水に濡れそうだが、水の精霊たちは何の感触もなく、服も濡れない。
エリオネルは、自分がやったことなのに、驚いた顔をしてる。
何匹になったかわからない精霊たちは、俺の体を好きに這うと、気が済んだのか唐突にツプンと体に入って居なくなった。
「居なくなった……」
「あんなに精霊に好かれてるのを見るのは、初めてだ」
「そうなの?何か喜んでたもんね?」
「マリヤ、もし自分が凄い力を持っていたらどうする?」
「凄い力かー……、想像がつかないけど、別にどうもしないかな」
だって、地球に帰る予定だし。まあ、帰らなくても、元々ここに居る人たちの生活を踏みにじるようなことはしないかな。
「お金持ちになれるとしても?」
「んー、まあ、金持ちになりたくないわけじゃないけど、困ってもないし」
「そうなんだ……」
エリオネルが少し驚いたような顔をする。お金に群がってくる人は、この世界にも居るらしい。
「でも、エリオネルにはお世話になってるし、これからもなるから、何かできることがあったら言って」
「マリヤ」
エリオネルが破顔する。
あまりの威力に、一瞬頭が真っ白になった。
おかしい。エリオネルに会ってから、自分が完全におかしい。
「……とりあえず帰ろ」
やっとそれだけ絞り出すと、フラフラと歩き出した。
エリオネルは機嫌が良さそうに、隣でニコニコしている。
その様子を見て、頭痛がする。良くしてもらって、こんなにもお世話になってるのに、こんな自分が少し嫌になった。
優しくて、嫌な顔一つせず聞いてくれる。俺が、地球の事を話す約束だったのに、逆に色々教えてもらっていた。
「マリヤ、こっちへ」
「ん?何?」
休憩に止まった先で、エリオネルに呼ばれる。
「隊から離れていいの?」
「ああ、大丈夫だよ。実は、この中で一番強いから」
軽く言われて、冗談かどうかわからなくて、微妙な返事になってしまった。
いや、エリオネルは貴族にしたら良い体つきしてるけど、護衛の人たちはムキムキだし、専門だよね?
「信じてないな」
「いやー、だって護衛の人めっちゃ強そう」
「まあ、確かに強くなければ雇ってはいないけど……」
エリオネルについていくと、川に出た。
苔むす樹々が不思議な雰囲気を醸し出している。
小さな小川は、すごく綺麗で、樹の間から差す光でキラキラしていた。
エリオネルがその小川に手を浸す。
綺麗な見目と、不思議な藍色の髪が光ってすごく神秘的だ。
「…………《顕現》」
エリオネルは、何かをボソボソ呟くと《顕現》と発した。顕現の前は何と言ったのか聞き取れなかったが、呪文なのだろうか。
流れる水が波立ち、エリオネルの右腕にまとわりつき始める。
そのうち、その水は小さな生き物のような形になり、四匹くらいがエリオネルの腕から出たり消えたりしていた。
「そ……れは、何?」
「水の精霊」
エリオネルに左手を差し出され、無意識に近くに寄る。
俺が近づくと、エリオネルの右腕の精霊たちが、活発になり、鈴の音のような音を出し始めた。
「え……、大丈夫?これ」
「悪さはしないよ」
エリオネルの右手が、俺の左手をそっと包む。
水の精霊たちは、エリオネルから伝わって、俺の体を走っていく。
勢いを増した精霊が、リィンリィンと鳴りながら増え始めた。
「えっ、ちょっ、増えてる!」
水に濡れそうだが、水の精霊たちは何の感触もなく、服も濡れない。
エリオネルは、自分がやったことなのに、驚いた顔をしてる。
何匹になったかわからない精霊たちは、俺の体を好きに這うと、気が済んだのか唐突にツプンと体に入って居なくなった。
「居なくなった……」
「あんなに精霊に好かれてるのを見るのは、初めてだ」
「そうなの?何か喜んでたもんね?」
「マリヤ、もし自分が凄い力を持っていたらどうする?」
「凄い力かー……、想像がつかないけど、別にどうもしないかな」
だって、地球に帰る予定だし。まあ、帰らなくても、元々ここに居る人たちの生活を踏みにじるようなことはしないかな。
「お金持ちになれるとしても?」
「んー、まあ、金持ちになりたくないわけじゃないけど、困ってもないし」
「そうなんだ……」
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「でも、エリオネルにはお世話になってるし、これからもなるから、何かできることがあったら言って」
「マリヤ」
エリオネルが破顔する。
あまりの威力に、一瞬頭が真っ白になった。
おかしい。エリオネルに会ってから、自分が完全におかしい。
「……とりあえず帰ろ」
やっとそれだけ絞り出すと、フラフラと歩き出した。
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