青い薔薇と金色の牡丹【BL】

水月 花音

文字の大きさ
19 / 147
第二章【旅立ち】

第十八話 水の精霊

しおりを挟む
 気づいたら、エリオネルと色々と喋っていた。
 優しくて、嫌な顔一つせず聞いてくれる。俺が、地球の事を話す約束だったのに、逆に色々教えてもらっていた。

「マリヤ、こっちへ」

「ん?何?」

 休憩に止まった先で、エリオネルに呼ばれる。

「隊から離れていいの?」

「ああ、大丈夫だよ。実は、この中で一番強いから」

 軽く言われて、冗談かどうかわからなくて、微妙な返事になってしまった。
 いや、エリオネルは貴族にしたら良い体つきしてるけど、護衛の人たちはムキムキだし、専門だよね?

「信じてないな」

「いやー、だって護衛の人めっちゃ強そう」

「まあ、確かに強くなければ雇ってはいないけど……」

 エリオネルについていくと、川に出た。
 苔むす樹々が不思議な雰囲気を醸し出している。

 小さな小川は、すごく綺麗で、樹の間から差す光でキラキラしていた。


 エリオネルがその小川に手をひたす。
 綺麗な見目と、不思議な藍色の髪が光ってすごく神秘的だ。

「…………《顕現けんげん》」

 エリオネルは、何かをボソボソ呟くと《顕現》と発した。顕現の前は何と言ったのか聞き取れなかったが、呪文なのだろうか。

 流れる水が波立ち、エリオネルの右腕にまとわりつき始める。
 そのうち、その水は小さな生き物のような形になり、四匹くらいがエリオネルの腕から出たり消えたりしていた。

「そ……れは、何?」

「水の精霊」

 エリオネルに左手を差し出され、無意識に近くに寄る。

 俺が近づくと、エリオネルの右腕の精霊たちが、活発になり、鈴の音のような音を出し始めた。

「え……、大丈夫?これ」

「悪さはしないよ」

 エリオネルの右手が、俺の左手をそっと包む。

 水の精霊たちは、エリオネルから伝わって、俺の体を走っていく。

 勢いを増した精霊が、リィンリィンと鳴りながら増え始めた。

「えっ、ちょっ、増えてる!」

 水に濡れそうだが、水の精霊たちは何の感触もなく、服も濡れない。

 エリオネルは、自分がやったことなのに、驚いた顔をしてる。

 何匹になったかわからない精霊たちは、俺の体を好きに這うと、気が済んだのか唐突にツプンと体に入って居なくなった。

「居なくなった……」

「あんなに精霊に好かれてるのを見るのは、初めてだ」

「そうなの?何か喜んでたもんね?」

「マリヤ、もし自分が凄い力を持っていたらどうする?」

「凄い力かー……、想像がつかないけど、別にどうもしないかな」

 だって、地球に帰る予定だし。まあ、帰らなくても、元々ここに居る人たちの生活を踏みにじるようなことはしないかな。

「お金持ちになれるとしても?」

「んー、まあ、金持ちになりたくないわけじゃないけど、困ってもないし」

「そうなんだ……」

 エリオネルが少し驚いたような顔をする。お金に群がってくる人は、この世界にも居るらしい。

「でも、エリオネルにはお世話になってるし、これからもなるから、何かできることがあったら言って」

「マリヤ」

 エリオネルが破顔する。

 あまりの威力に、一瞬頭が真っ白になった。

 おかしい。エリオネルに会ってから、自分が完全におかしい。

「……とりあえず帰ろ」

 やっとそれだけ絞り出すと、フラフラと歩き出した。

 エリオネルは機嫌が良さそうに、隣でニコニコしている。

 その様子を見て、頭痛がする。良くしてもらって、こんなにもお世話になってるのに、こんな自分が少し嫌になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...