130 / 147
第八章【旅の果て】
第百二十九話 賢者
しおりを挟む船が出航して18日経った時、事件が起こる。それは、1枚の手紙で。
それは、ビオルナさんの訃報だった。
手紙には、シズルの村が全滅し、生存者は居ないとの記載がされていた。たまに送っていた手紙の返事だった。
息が急にできなくなり、倒れる。
近くに居たエリオネルが抱き起こしてくれた。冷たくなった手を握って、揉んでくれる。
「エリオネル、これ……」
エリオネルに手紙を渡す。彼はさっと目を通した後、もう一度よく読んで、そして首を振った。
手紙には、魔族による全滅と書かれていた。
俺が、もっと早く決心していれば、結末は変わっていたのだろうか。元々、グリードを殺すのは賢者に会ってからという話だった。賢者に会えるまで、あと8日ある。決心したとして、グリードが同意してくれなければ、意味がない。
グリードの元へ行って、尋ねてみたい。でも、どちらの答えでもビオルナさんは帰ってこない。
エリオネルとグリードの間の往復で、元気が無くなっていた俺は、もっと塞ぎ込むようになった。元気の無くなった俺を心配してか、エリオネルとはしなくなった。
そんな俺を見て、グリードはもう一緒に居てくれなくてもいいと言ったが、俺が拒否した。
残りの8日は、地獄のようだった。
「マリヤ、着いたよ」
エリオネルとグリード、ユリアーノさんと一緒に、賢者の居る塔に入った。
エリオネルに支えられる形で、塔の中に入る。塔は、森から抜けても頂上が見えなくて、すごく大きいのがわかった。小さな窓が所々にあるが、開くのかは謎である。
扉は、叩く前に勝手に開いた。一階は、沢山の本が壁一面に置かれており、薄暗い。階段を上がる壁面も本棚になっていて、所々にランプが置いてあった。
何の苦行なのだろうか。上がっても上がっても辿り着く気配がない。
休み休み階段を上がると、やっと扉が見えてきた。
部屋に入ると、椅子に帽子が座っていた。
もくもくと緑色の煙が帽子と椅子の間から上がり、少年の形になる。
「賢者様、お初にお目にかかります」
エリオネルが優雅に一礼をした。どう見ても小学生くらいの少年にしか見えないが、この人が賢者らしい。
「エリオネルだね。いいよ、顔を上げて」
薄暗かった部屋にぶわっと明かりが点く。階下と違い、そこにはポーションらしき沢山の瓶や薬草などがあった。よく分からない物も沢山置かれている。
「聖者と魔王か、久しぶりだね」
久しぶりという言葉に引っかかるが、多分聖者と魔王という肩書きの人に会うのは久しぶりだという意味だろう。
「沢山、聞きたいことがあるよね。そこへ掛けて」
人数分の椅子が、大釜を囲んで輪になっていた。何故ピッタリ5席なのか、不思議に思ったものの、促されるままに座る。
「答えられないこともあるけど、いいかな?不文律を破ることは、言えないことになってる。例えば、グリードのマリヤと一緒になれるかという問いには答えられない。わかるね?」
賢者は、グリードの目を見て言った。何故その問いが不文律を破ることになるのかはわからなかったが、グリードは納得したみたいだった。
「まず、エリオネルからいこうか。君は、自国の王になりたいが、傍らにマリヤが居なければ諦めようと思っているね」
「はい」
「安心するといい。君は次代の王になるし、二人は老衰するまでずっと一緒だよ」
エリオネルが椅子から立ち上がって、俺に抱きついてきた。
「ちょっと、エリオネル」
嬉しいのはわかるし、俺も嬉しいけど!え、待って、泣いてるの?しばらく抱きついていたエリオネルは、賢者に座るよう促されて席に戻った。
「次にユリアーノ、君には先に答えを言ってしまったね。マリヤとは一緒になれない。でも、生涯の伴侶には出会えるよ」
「わかってました。ずっと脈なしだったので」
ユリアーノさんが泣きそうな顔をして、こちらを見ると寂しそうに微笑む。それに胸がギュッとしたけど、俺にはどうすることもできなかった。
「次はグリード。大丈夫、次回の魔王復活は無い。マリヤに《永眠》を掛けてもらいなさい」
そう言うと、賢者はグリードの方へ向かって行って、耳元で何かを囁く。囁き終わると、賢者は席に戻った。
3
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
処刑されたくない悪役宰相、破滅フラグ回避のため孤独なラスボス竜を懐柔したら番として溺愛される
水凪しおん
BL
激務で過労死した俺が転生したのは、前世でやり込んだBLゲームの悪役宰相クリストフ。
しかも、断頭台で処刑される破滅ルート確定済み!
生き残る唯一の方法は、物語のラスボスである最強の”魔竜公”ダリウスを懐柔すること。
ゲーム知識を頼りに、孤独で冷徹な彼に接触を試みるが、待っていたのは絶対零度の拒絶だった。
しかし、彼の好物や弱みを突き、少しずつ心の壁を溶かしていくうちに、彼の態度に変化が訪れる。
「――俺の番に、何か用か」
これは破滅を回避するためのただの計画。
のはずが、孤独な竜が見せる不器用な優しさと独占欲に、いつしか俺の心も揺さぶられていく…。
悪役宰相と最強ラスボスが運命に抗う、異世界転生ラブファンタジー!
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる