スキル「共感覚」のおかげで最強の魔法使いになったので魔人を集めて魔王になることにしました 〜最恐魔王の手さぐり建国ライフ!〜

熊乃げん骨

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第五章 氷獄に吠ゆ

第3話 行軍

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「これでラスト……っとぉ!!」

 俺は迫りくる狼の牙を紙一重で避け、その腹に渾身の蹴りを打ち込みながらそう叫ぶ。
 俺の蹴りをくらった狼、正確には狼の魔獣はスゴい勢いで吹っ飛び岩に激突し、小さくうめいた後昏倒する。
 これで気絶しただけなのだから魔獣は恐ろしいぜ。

「ふう……やはり手強いですね。一体一体の強さはそれほどですが、こうも立て続けに襲われると消耗してしまいます」

 そう呟く火凛の肩は疲労のせいか上下に揺れている。戦闘タイプじゃない彼女にとってこの旅はそうとう過酷なものだろう。申し訳ない。

「にしても思ったより時間を食っちまったな。早く出発するとしようぜ大将」

 吹雪の中の移動自体は問題なく出来た俺たちだったが、魔獣のせいで想定よりも距離を稼ぐことが出来ずにいた。
 襲ってくる魔獣は様々だったがダントツで多いのは狼だ。
 奴らはその発達した嗅覚で視界の悪い吹雪の中でもこちらの位置を正確に見極め襲ってくる。
 一匹だけならそれでも問題ないのだがなにせ数が多い。
 奴らの群れは少なくても十匹を超すためどうしても戦いが長引いてしまう。おまけに隠れて隙を伺う個体もいるため戦闘が終わっても気が抜けないときたもんだ。

「急ぎたいのは山々だが狼魔獣こいつらはしつこい。ちゃんと警戒しながら進もう」
「うっす。何か異変があったらすぐに知らせるぜ!」

 俺の言葉に任せてくれとばかりに胸を叩くヴォルク。
 肉弾戦の能力に特化したヴォルクだが、優秀な嗅覚と野生の感による気配の察知の合わせ技で索敵能力も非常に高い。
 こいつを今回の旅に抜擢したのもロシアが出身地だからという理由ではな、くそれらの能力を評価しての所が大きい。

 過酷な環境であればあるほど力を発揮できる。

 それが我が幹部にして切り込み隊長『ヴォルク・ヴィクトロヴィチ・コロリョーフ』なのだ。

「あっちの方角なら少し遠回りになるが獣の匂いが少ねえ」

 そう言って俺の想定していたルートから少しズレたルートを指すヴォルク。
 確かにあっちは地形の隆起が激しく獣が住むには適してないかもしれない。

「分かった、その案を採用しよう。だがその前に……」

 俺は座り込んでいる火凜に近寄る。

「高位回復《ハイ・ヒール》、上昇する体温ヒートボディ
「!!」

 俺の手から放たれる緑と赤の光が火凜の体を包み込む。
 緑の光は回復魔法。ダメージだけでなく疲労も回復してくれる優れものだ。
 そして赤い光は寒さへの耐性を高める魔法だ。体の芯からポカポカするため無駄な体力の低下を防ぐことが出来る。
 本当なら出発前にかけるべきなのだが火凜に断られてしまったのだ。
 忠誠心の高い彼女の事だ、俺の手を煩わせたくなかったのだろう。

「そんな……! 私ごときに貴重な魔力を割かれるなんて……!」

 自己評価の低い奴だ。
 少しお灸をすえてやらなくちゃな。
 魔王モード、オンだ。

「ごときだと!? お前はこの魔王直属の使用人をごとき・・・と言ったのか!?」

「そ、そういうつもりでは……!」

「よく聞け。お前たち部下はみな私の宝だ。だから自分を卑下することは許さん。それは私を愚弄することと同義としれ」
「ジーク様……!!」

 火凜は瞳を潤ませながら顔を真っ赤にし俺を見る。
 どうやら己の過ちに気づいて恥ずかしくなったみたいだな。よかったよかった。

「へへ、カッコよすぎんだよ大将は」

「はい。ズルいです」

 なんだそりゃ。
 俺よりダサい奴を俺は知らんぞ。

 だけどまあ、嬉しくはある。
 こいつらの期待を裏切らないように頑張んなきゃな。

「そろそろ行くぞ!! 各自警戒を怠るなよ!!」
「「はい!!」」

 俺は魔王モードをオフにすると移動を再開する。

 先はまだ、長い。






 ◇





「……ん? この音は……?」

 ロシアに来てから三日目。
 雪道にも慣れてきたころ移動中にヴォルクが突然立ち止まり辺りを警戒し始める。

「どうした?」

「獣の吠える音……それにこれは銃声か。どうやら近くで戦闘が行われているみたいだな」

 俺には吹きすさぶ風の音しか聞こえないがヴォルクには聞こえる様だ。
 どうやら鼻だけでなく耳もいいらしい。

「どうする大将。幸いルートから外れたところみたいだから無視することもできるぜ」
「むう……」

 正直なところ無視したい。
 しかしこんなところに人がいる理由も知りたい。それにもし目的地の村人だとしたら助けないといけない。

「ひとまず様子を見に行こう。もちろん最大限警戒してな」
「了解だぜ。こっちだ」

 ヴォルクは俺たちを先導するように走り出す。
 それを追いかけながら雪道を三分も走ると音の発生するところに辿り着く。

「これは……」

 そこではたった一人で数十匹の狼魔獣たちと戦う男の姿があった。
 軍服を着ているその男はアサルトライフルと思わしき銃を振り回しており、時に銃で爪をいなし時に銃で殴り、そしてここぞというところで頭を打ち抜いていた。

「あいつ戦い慣れてるな。動きに無駄がねえ」

「ええ。それにあの銃……普通の銃ではありませんね」

 火凜の言う通り普通の銃では魔獣を一撃では仕留められない。
 しかしあれは魔道具でもない。なぜならあの男からは魔力を感じないからだ。

 つまりあの銃は魔兵器。
 おそらくロシア軍の開発したモノだろう。

「で、どうするんだ大将? 今なら気づかれずに離れられるぜ」
「……このままだとどっちが勝つと思う?」
「そりゃあ魔獣が勝つだろうな。あの男も強えが数が多すぎる。いずれ弾が尽きてお終いだ」

「そうか……」

 正直魔人でないただの人がどうなろうと知ったこっちゃない。
 しかしだからと言って見殺しにするのも後味が悪いな。
 だから、これはしょうがなくだ。

「何か情報を得れるかもしれない。あまり気は進まないが助けるとしよう」

 俺がそう命令を出すと二人は何故かニヤニヤしながらこっちを見てくる。
 俺の顔に何かついているのだろうか?

「はは! 全く、大将もとんだお人よしだぜ」
「ええ。でも私はそういうところ、好きですよ」

「ぐぬ……」

 やれやれ、どうやら親しまれ過ぎたみたいだな。

 当初の想定とは変わってしまったが、不思議と俺は嫌な気分ではなかったのだった。
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