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第七章 憤怒の果てに
第6話 裏切り
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俺とテレサはひたすらに魔王城を走り抜けた。
普段なら魔王城に備え付けてある転移装置で移動するのだが、今は罠が貼られている可能性も考え徒歩で行くことにした。
魔王城は入り組んでいるがその設計には俺も立ち会い、そして俺がこの手で作っているのだ。
目をつぶっていたって目的地につける自身があるぜ。
俺は何度目かわからない扉を開く。
すると目の前に大きな緑色の両開きの扉が姿を表す。
この扉の先にあるのは『女王の間』と呼ばれる大広間だ。
女王の間から伸びる通路は唯一王の間に繋がっており王の間に用のある人物は必ずここにくる必要がある。それは幹部ですら例外はなく王の間に直接転移できるのは俺だけだ。
「くく、ここまでくれば目標は目と鼻の先じゃな。はよう決着をつけてやろうぞ」
余裕綽々といった感じで言うテレサだがその顔からはわずかに疲労の色を滲ませている。
無理もあるまい。戦闘こそそれほどしてないが周りが敵だらけの状態が長時間続いているんだ、精神的な負担はすごいだろう。
無論それは俺も同じ早めに決着を着けなければ長くは持たないだろう。
「それじゃあ、開けるぞ」
女王の間の扉に手をかけ、俺はゆっくりと慎重に扉を開ける。
王の間に行くにはこの部屋を通らなければいけない。ならば確実にこの部屋であいつは俺を倒しにくるだろう。
考えられる手段としては女王の間に大量の兵を配置し一気に俺たちを倒すといったところだろうか。罠を張ってるという線も捨てがたい。
いずれにしても気をつけねば。
俺は慎重に空いた隙間から部屋の中を覗き来む。
しかし予想に反し部屋の中はもぬけの殻だった。罠が仕掛けられている様子もない。
これは想定外、いったいあいつはどういうつもりなのだろうか。
「……入るぞ」
「うむ」
俺とテレサはゆっくりと女王の間に入る。
広いそのホールは静寂に包まれており、俺たちの足音だけが寂しく響く。
「なんだか不気味じゃの。誘い込まれてる感がびんびんじゃ」
「ああ、絶対何かあるはずだ」
警戒しながら進む俺たちだったが何も怒らずに部屋の中央まで辿り着いてしまう。
もしかしたら何も起こらず先に行けてしまうんじゃないだろうか。
そんな甘い考えを一瞬抱いてしまったその瞬間、想定外の事態が起きる。
「危ないっ!!」
「え?」
不意にテレサは叫び俺を押し飛ばす。
その行動に俺は反応することが出来ず押された方向に倒れてしまう。
いったい何事かと思った次の瞬間、俺の頭があった位置を何かが通過し背後の壁に激突。轟音を立てて着弾した壁が崩れる。
いったいなんなんだ!?
「くく、よりによってお主とはな。出来れば空いたくなかったのじゃがそうはいかんよな」
俺を守ってくれたテレサは前を見ながら額に汗を浮かべる。いったいこの攻撃を行ったのは誰なのだろうか?
俺は急いで立ち上がりその人物を確認する。
「お、お前は……!!」
そこにいたのは……俺の腹心であり、最大の理解者。
最初の仲間にして俺の全てを知る最強の人造人間《ホムンクルス》。
俺はどこかで彼女の助けを期待していた。
姿を見せずとも俺を助けるため裏で動いているのだと信じて疑わなかった。
しかし違った。
彼女は明確な殺意を持って俺を攻撃した。
もしテレサが気づくのが遅れていたら俺の頭部は深刻なダメージを受けていただろう。
つまり最高の味方であった彼女は今や最悪の「敵」になってしまったということだ。
いったいなぜ。
なんで。
どうして……!
「なぜなんだ! マーレ!!」
「……」
俺の言葉にマーレは返さずじっと俺を見つめ返すのみ。
その顔にいつもの笑顔はなく、まるで人形のような表情で俺を見てくる。
「お前なら今何が起きているか理解しているだろ!? それともあいつに操られているとでもいうのか!?」
「……いえ。今私がここにいるのは私の意志です。元々ここに兵を集結させる予定でしたが私が変わりました。あなた達の相手など私一人で十分ですから」
そう言ってマーレは青い大きな宝石が先端についた杖を俺たちに向ける。
あれは俺が作った魔道具『海神王の宝杖』だ。
準神話級《デミ・ミトロジー》の一品であり、非常事態の時だけに使用を許したマーレの最強装備だ。
あれを持っているということはマーレは間違いなく本気だ。
本気で俺たちを潰す気だ。
「やるしか……ないんだな」
「ええ。たとえあなた達が無抵抗でもここで死んでもらいます」
俺はその言葉に、自分が思っている以上にショックを受けていた。
マーレだけは何があっても味方だと思っていた。しかしそれは幻想だったのだ。
いやよく考えてみればこれも当然なのかもしれない。マーレから見たら俺の方こそ偽物。
もう一人の生身の方の俺の方が本物だ。
だとすればこの展開も必然。
やはり消えるべきは俺の方なのだろうか……
そんなことを考えているとツカツカとテレサがこちらに近づいてくる。
彼女は膝を折り倒れる俺に目線を合わせるとニッコリと笑いながら言う。
「歯ぁを食いしばるのじゃ!」
「え?」
次の瞬間、彼女の全力の張り手が俺の頬を直撃する。
その一撃はこれ以上ないほどに綺麗にきまり、あたりに「パアンッッ!!」と音を響かせる。
「て、てれさ?」
彼女は事態を理解できない俺に詰め寄ると服の襟を掴み持ち上げる。
なんだかカツアゲされてるみたいな体勢になってしまった。
「何を惚けておるのじゃ、昔の女に見捨てられたくらいで情けない!」
「いやでも……」
「言い訳無用! お主は一体誰のために戦っておるのじゃ!? あの女一人だけのためか? 違うじゃろが!!」
その言葉に俺はハッとする。
そうだ。俺は魔王国全員を救うため、そして何よりもう一人の俺には国を渡したくないという自分のエゴのために戦っていたのだ。
「それに一度振られたくらいでなんじゃ。男なら何度でも振り向かせてみんかい!」
テレサはそう言って俺に優しい笑みを一瞬見せると、掴んでいた手を離しマーレに向かい合う。
「あら、お話は終わったかしら?」
「くくっ待たせてすまんのう。お詫びにわしがたっぷり相手をしてやろう」
テレサの体から魔力が溢れ出す。
彼女はやる気だ。一人でマーレとやり合う気なんだ。
「待て! 俺も……」
助太刀しようとする俺だがテレサは手のひらを俺に向けそれを制止する。
「手助け無用じゃ。お主にはお主のやることがあるように、わしにはわしがせねばならぬことがある」
「……わかった。じゃあここは任せる。その代わり絶対に無事でいてくれ」
俺はそう言ってテレサの背中を優しく抱きしめる。
なんでこんなことをしたのかは自分でもわからない。でもそうしなければ二度と彼女に会えなくなってしまいそうな気がしたのだ。
「くくくっ! こんな状況じゃなければ熱い抱擁のお返しをしてやるのだがのう。残念じゃがその機会は次回にとっとくかとするかの」
頬をほんのり赤くしながらテレサは首に回された俺の腕を優しく掴む。
俺たちは数秒、お互いの存在をそうして確かめ合った後名残惜しむようにお互いの体を離す。
そして何も言わず俺は走り出す。
もう言葉は不要だ。俺は俺のやることを為す。それだけだ!
「行かせると思いまして?」
王の間に続く扉へ走り出した俺へマーレが迫る。
しかしテレサはそれに先回りし、自身も木でできた大きな杖を取り出し先端をマーレに向け牽制する。
さすがにマーレも杖を向けたテレサに近づけずそのスピードを緩める。
「かかっ! 始めようではないか、わしらの女子会をのう!」
俺はその言葉を最後に女王の間を後にしたのだった。
普段なら魔王城に備え付けてある転移装置で移動するのだが、今は罠が貼られている可能性も考え徒歩で行くことにした。
魔王城は入り組んでいるがその設計には俺も立ち会い、そして俺がこの手で作っているのだ。
目をつぶっていたって目的地につける自身があるぜ。
俺は何度目かわからない扉を開く。
すると目の前に大きな緑色の両開きの扉が姿を表す。
この扉の先にあるのは『女王の間』と呼ばれる大広間だ。
女王の間から伸びる通路は唯一王の間に繋がっており王の間に用のある人物は必ずここにくる必要がある。それは幹部ですら例外はなく王の間に直接転移できるのは俺だけだ。
「くく、ここまでくれば目標は目と鼻の先じゃな。はよう決着をつけてやろうぞ」
余裕綽々といった感じで言うテレサだがその顔からはわずかに疲労の色を滲ませている。
無理もあるまい。戦闘こそそれほどしてないが周りが敵だらけの状態が長時間続いているんだ、精神的な負担はすごいだろう。
無論それは俺も同じ早めに決着を着けなければ長くは持たないだろう。
「それじゃあ、開けるぞ」
女王の間の扉に手をかけ、俺はゆっくりと慎重に扉を開ける。
王の間に行くにはこの部屋を通らなければいけない。ならば確実にこの部屋であいつは俺を倒しにくるだろう。
考えられる手段としては女王の間に大量の兵を配置し一気に俺たちを倒すといったところだろうか。罠を張ってるという線も捨てがたい。
いずれにしても気をつけねば。
俺は慎重に空いた隙間から部屋の中を覗き来む。
しかし予想に反し部屋の中はもぬけの殻だった。罠が仕掛けられている様子もない。
これは想定外、いったいあいつはどういうつもりなのだろうか。
「……入るぞ」
「うむ」
俺とテレサはゆっくりと女王の間に入る。
広いそのホールは静寂に包まれており、俺たちの足音だけが寂しく響く。
「なんだか不気味じゃの。誘い込まれてる感がびんびんじゃ」
「ああ、絶対何かあるはずだ」
警戒しながら進む俺たちだったが何も怒らずに部屋の中央まで辿り着いてしまう。
もしかしたら何も起こらず先に行けてしまうんじゃないだろうか。
そんな甘い考えを一瞬抱いてしまったその瞬間、想定外の事態が起きる。
「危ないっ!!」
「え?」
不意にテレサは叫び俺を押し飛ばす。
その行動に俺は反応することが出来ず押された方向に倒れてしまう。
いったい何事かと思った次の瞬間、俺の頭があった位置を何かが通過し背後の壁に激突。轟音を立てて着弾した壁が崩れる。
いったいなんなんだ!?
「くく、よりによってお主とはな。出来れば空いたくなかったのじゃがそうはいかんよな」
俺を守ってくれたテレサは前を見ながら額に汗を浮かべる。いったいこの攻撃を行ったのは誰なのだろうか?
俺は急いで立ち上がりその人物を確認する。
「お、お前は……!!」
そこにいたのは……俺の腹心であり、最大の理解者。
最初の仲間にして俺の全てを知る最強の人造人間《ホムンクルス》。
俺はどこかで彼女の助けを期待していた。
姿を見せずとも俺を助けるため裏で動いているのだと信じて疑わなかった。
しかし違った。
彼女は明確な殺意を持って俺を攻撃した。
もしテレサが気づくのが遅れていたら俺の頭部は深刻なダメージを受けていただろう。
つまり最高の味方であった彼女は今や最悪の「敵」になってしまったということだ。
いったいなぜ。
なんで。
どうして……!
「なぜなんだ! マーレ!!」
「……」
俺の言葉にマーレは返さずじっと俺を見つめ返すのみ。
その顔にいつもの笑顔はなく、まるで人形のような表情で俺を見てくる。
「お前なら今何が起きているか理解しているだろ!? それともあいつに操られているとでもいうのか!?」
「……いえ。今私がここにいるのは私の意志です。元々ここに兵を集結させる予定でしたが私が変わりました。あなた達の相手など私一人で十分ですから」
そう言ってマーレは青い大きな宝石が先端についた杖を俺たちに向ける。
あれは俺が作った魔道具『海神王の宝杖』だ。
準神話級《デミ・ミトロジー》の一品であり、非常事態の時だけに使用を許したマーレの最強装備だ。
あれを持っているということはマーレは間違いなく本気だ。
本気で俺たちを潰す気だ。
「やるしか……ないんだな」
「ええ。たとえあなた達が無抵抗でもここで死んでもらいます」
俺はその言葉に、自分が思っている以上にショックを受けていた。
マーレだけは何があっても味方だと思っていた。しかしそれは幻想だったのだ。
いやよく考えてみればこれも当然なのかもしれない。マーレから見たら俺の方こそ偽物。
もう一人の生身の方の俺の方が本物だ。
だとすればこの展開も必然。
やはり消えるべきは俺の方なのだろうか……
そんなことを考えているとツカツカとテレサがこちらに近づいてくる。
彼女は膝を折り倒れる俺に目線を合わせるとニッコリと笑いながら言う。
「歯ぁを食いしばるのじゃ!」
「え?」
次の瞬間、彼女の全力の張り手が俺の頬を直撃する。
その一撃はこれ以上ないほどに綺麗にきまり、あたりに「パアンッッ!!」と音を響かせる。
「て、てれさ?」
彼女は事態を理解できない俺に詰め寄ると服の襟を掴み持ち上げる。
なんだかカツアゲされてるみたいな体勢になってしまった。
「何を惚けておるのじゃ、昔の女に見捨てられたくらいで情けない!」
「いやでも……」
「言い訳無用! お主は一体誰のために戦っておるのじゃ!? あの女一人だけのためか? 違うじゃろが!!」
その言葉に俺はハッとする。
そうだ。俺は魔王国全員を救うため、そして何よりもう一人の俺には国を渡したくないという自分のエゴのために戦っていたのだ。
「それに一度振られたくらいでなんじゃ。男なら何度でも振り向かせてみんかい!」
テレサはそう言って俺に優しい笑みを一瞬見せると、掴んでいた手を離しマーレに向かい合う。
「あら、お話は終わったかしら?」
「くくっ待たせてすまんのう。お詫びにわしがたっぷり相手をしてやろう」
テレサの体から魔力が溢れ出す。
彼女はやる気だ。一人でマーレとやり合う気なんだ。
「待て! 俺も……」
助太刀しようとする俺だがテレサは手のひらを俺に向けそれを制止する。
「手助け無用じゃ。お主にはお主のやることがあるように、わしにはわしがせねばならぬことがある」
「……わかった。じゃあここは任せる。その代わり絶対に無事でいてくれ」
俺はそう言ってテレサの背中を優しく抱きしめる。
なんでこんなことをしたのかは自分でもわからない。でもそうしなければ二度と彼女に会えなくなってしまいそうな気がしたのだ。
「くくくっ! こんな状況じゃなければ熱い抱擁のお返しをしてやるのだがのう。残念じゃがその機会は次回にとっとくかとするかの」
頬をほんのり赤くしながらテレサは首に回された俺の腕を優しく掴む。
俺たちは数秒、お互いの存在をそうして確かめ合った後名残惜しむようにお互いの体を離す。
そして何も言わず俺は走り出す。
もう言葉は不要だ。俺は俺のやることを為す。それだけだ!
「行かせると思いまして?」
王の間に続く扉へ走り出した俺へマーレが迫る。
しかしテレサはそれに先回りし、自身も木でできた大きな杖を取り出し先端をマーレに向け牽制する。
さすがにマーレも杖を向けたテレサに近づけずそのスピードを緩める。
「かかっ! 始めようではないか、わしらの女子会をのう!」
俺はその言葉を最後に女王の間を後にしたのだった。
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