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木の杖の魔法使い②
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「“ウィンド”!」
翌日。
エミリアは今日も特訓を行っていた。相変わらず全く成長していない。3級魔法も使えないままだ。
「彼女が例の子か――」
「はい」
「どうしたのものか。王国が“終焉の主”の脅威に蝕まれている最中で、貴重な覚醒者からまさかあんな者が出てくるとは」
訓練所の隣に位置する建物の上。
そこで数人の団員達が特訓をしているエミリアに軽蔑の視線を落としながら話していた。
「あんな奴は初めてじゃないか?」
「ああ。今までに前例がないそうだ。スキルの覚醒者で未だに訓練生どころか3級魔法も扱えない奴など見た事がないとな」
「あの子だろ? 確か“呪われた世代”とか言われた子って」
「そうだ。あの年は歴代最強と謳われる剣聖、グリード大団長の長男がスキルを与えられる年だったから全員が注目していた」
団員達の話はエミリアから一転、何時かのグリムの話になっていた。
「だが結果は残念だったよな。剣のスキルを与えられた時は流石だと思ったけどよ、まさか大団長の息子が覚醒しないなんて驚いたよな。
それだけで辺境の森に追放までしちまうんだから、本当に恐ろしい人だよ大団長も国王も」
「口を慎め。お前が如きが軽口を述べていい事情ではない。それにもう1人のご子息であるヴィル様は既にその才能を王国中に轟かせた。
騎士団史上の最年少記録で“大団長”になっただろう」
「まぁな。それは確かに驚かされたよ。だってまだ16歳だろ? グリード大団長だって19歳で就いて当時の最年少記録打ち立てた人なのによ。改めて恐ろしいよ、レオハート家の才能は――」
「後数日で正式な大団長就任式だ。そこで晴れて新たな大団長が誕生する。俺達も今一度気を引き締めないとな」
団員達はそう言いながらエミリアを横目に去って行った。
「そう言えば、呪われた世代って大団長の息子とあの子と“もう1人”いたよな? 槍かなんかが与えられた……」
「その話はもういい。それより今は王国に迫る“終焉”の対処だ。早く次の任務の準備をするぞ――」
去って行く団員達の会話など気が付く筈もなく、ひたすら特訓していたエミリアは落ち込んだ様にその場にへたり込んでいた。
「もう本当にダメだ……。これじゃあ魔法団にも入れないし“お父さん”を捜す事も出来ない」
泣きそうな声でそう言葉を漏らしてたエミリア。
彼女が魔法団にどうしても入りたい理由。
それは、この広い世界のあちこちを飛び回っている自分の父親に会う為だった――。
王国から世界に出る為には最低限の実力が必要だ。だからこそエミリアは自身の力を証明出来る1つの形として、魔法団への入団を目指していた。
もし魔法団に入る程の実力があれば外の世界で危険なモンスターと遭遇しても戦える。それに魔法団は任務で王国の外へ出る事が多い。しかも実力を証明して団長になれば、もっと遠くの王国や見知らぬ土地でさえも自由に行動する許可が貰える。
勿論自由な行動が許可される分、責任は全て自分が背負う事にもなるが、団長ともなる実力が伴っていればそうそう命を落とす事も無いだろう。エミリアは世界の何処かにいる父に会うべく毎日毎日懸命に魔法の特訓をしていた。
だが、とうとうその夢は叶わなかった。
「ハァ、もう諦めよう」
絞り出す様に呟いた彼女は木の杖を握り締め、俯いたまま訓練場を去った。
しかし次の瞬間。
「いたいた。貴方ね。ようやく見つけましたわ――」
「ッ⁉」
突如、エミリアの前に1人の女が現れた。
その女の人は魔法団の紋章が施されたローブを羽織っていた。そして彼女の紋章は覚醒者の証でもある赤色であり、手には見るからにランクの高そうな細かい装飾があしらわれた杖を持っている。
「あ、貴方は……?」
「初めまして。私の名前は“リリアン・ゾー”。第九魔法団の団長をしています」
「え!? 魔法団の団長さん?」
エミリアは予想外の言葉に驚いた。
急な事に理解が追い付かない様子であったが、リリアンと名乗った女性のローブや紋章を見てエミリアは徐々に頭の中で整理が出来ていた。
ただ、長年訓練生としてここにいたエミリアだが、リリアンという目の前の女性の名前も顔も全く見覚えがなく戸惑った表情を浮かべていると、それに気が付いたリリアンがエミリアの疑問を氷解した。
「フフフ。貴方が私の事を知らなくても無理はありませんよ。魔法団の団長と言っても、私は王都の反対側である“オレオール”の所属ですからね」
リリアンの説明によってエミリアの謎が解けた。
彼女の言ったオレオールはエミリアのいるリューティス王国の王都とは反対側に位置する“大都市オレオール”の事である。リューティス王国は王都とこのオレオールの2大都市が有名であり、国王や城のある王都には勿論オレオールにも騎士団と魔法団が存在するのだ。
そんなオレオールの魔法団、しかも団長であるリリアンが何故自分のところに来たのか不思議に思っているエミリアは彼女に尋ねた。
「そういう事だったのですね。でも、何故魔法団の団長さんが……。私に何かご用ですか?
もしかして、私正式に訓練生をクビとなってここから出て行かなければいけないのでしょうか」
最早エミリアにはそれしか思い当たる節が無かった。そうでなければ一体何の様で団長がわざわざ自分に話し掛けるのだろうと。
だがリリアンから返ってきた言葉は想定外のものであった。
「貴方をクビに? フフフフ、まさか。むしろ逆よ。今リューティス王国は、騎士魔法団共に“終焉の主”の存在のせいで戦力不足。どこの団も早急に人手が欲しいのよ。だから私は貴方をスカウトに来たって訳」
「え! わ、私をですか⁉」
「ええ。貴方の事は知っているわ。覚醒者にも関わらず3級魔法も扱えない不憫な子がいると噂になっていたからねぇ」
「まさかオレオールにまでそんな事が……」
言い訳出来ない事実であったが、まさか王国の反対側にまで自分の事が知られているとは思わなかったエミリアはガックリと肩を落としていた。
「フフフ。落ち込む事はないわ。これはある意味貴方の分岐点。
どうかしら? うちも人手に困っていてね、もし貴方にその気があるのなら私からの任務を引き受けてくれない?
噂通り行く当てもなさそうだし、損な話ではないと思うけど。それにこの任務で成果を上げれば、周りの酷評も一気に覆せるでしょう――」
願ってもいないリリアンからの提案に興奮したエミリアは、即座に「お願いします!」と返事を返そうと思ったまさにその刹那……ふと自身が握っていた木の杖の感触を感じた彼女は、一瞬にして現実へと引き戻されてしまった。
「とても嬉しいお話ですが……防御壁しか出せない、3級魔法もまともに扱えない私では、団長さんの期待に応えるなどやはり到底無理です」
「やる前から諦めているのならそれは無理ですね。いいじゃないですか、防御壁だけでも出せるなら。防御壁だって貴方の使い方でどうにかなると思いますよ。
それに貴方に任せる任務は簡単ですよ。王都から少し離れた場所に現れたモンスターの討伐に加わってもらうだけです。
それも当然1人ではなく、既に優秀な魔法団員が戦っているので、その者達の後方支援や援護に回るだけで良いのです。それでもやる気にはならないかしら?」
完全に諦めていた筈のエミリアはであったが、リリアンの言葉で少しづつ上を向き始めていた。
「私なんかでも、誰かの役に立てるのでしょうか?」
「当たり前さ。その為に貴方と話している。それに今回の討伐には、王国内でも1、2を争う魔法の使い手である“エンビア・ガルシリ”も加わっている。
彼女と共に討伐に参加すれば何か魔法のコツでも掴めるかもしれないよ」
「本当ですか? 分かりました。やっぱり私やってみます! ううん、是非私にやらせて下さい。お願いします!」
「いいわねぇ。これで契約成立よ。それじゃあ早速行くとしましょうか、エミリア――」
こうして、エミリアはリリアンより任されたモンスターの討伐任務に加わる事となった。
だがこの時、当然エミリアは知る由もなかったのだ。
突如現れたリリアンという者の真の目的を。
そして、この出来事が後にエミリア自身にどれだけの危険を被るのかを。
そんな事一切知る由もない彼女は、諦めた自分の夢を再び懸命に追おうと、リリアンに付いて行ってしまったのだった――。
「“ウィンド”!」
翌日。
エミリアは今日も特訓を行っていた。相変わらず全く成長していない。3級魔法も使えないままだ。
「彼女が例の子か――」
「はい」
「どうしたのものか。王国が“終焉の主”の脅威に蝕まれている最中で、貴重な覚醒者からまさかあんな者が出てくるとは」
訓練所の隣に位置する建物の上。
そこで数人の団員達が特訓をしているエミリアに軽蔑の視線を落としながら話していた。
「あんな奴は初めてじゃないか?」
「ああ。今までに前例がないそうだ。スキルの覚醒者で未だに訓練生どころか3級魔法も扱えない奴など見た事がないとな」
「あの子だろ? 確か“呪われた世代”とか言われた子って」
「そうだ。あの年は歴代最強と謳われる剣聖、グリード大団長の長男がスキルを与えられる年だったから全員が注目していた」
団員達の話はエミリアから一転、何時かのグリムの話になっていた。
「だが結果は残念だったよな。剣のスキルを与えられた時は流石だと思ったけどよ、まさか大団長の息子が覚醒しないなんて驚いたよな。
それだけで辺境の森に追放までしちまうんだから、本当に恐ろしい人だよ大団長も国王も」
「口を慎め。お前が如きが軽口を述べていい事情ではない。それにもう1人のご子息であるヴィル様は既にその才能を王国中に轟かせた。
騎士団史上の最年少記録で“大団長”になっただろう」
「まぁな。それは確かに驚かされたよ。だってまだ16歳だろ? グリード大団長だって19歳で就いて当時の最年少記録打ち立てた人なのによ。改めて恐ろしいよ、レオハート家の才能は――」
「後数日で正式な大団長就任式だ。そこで晴れて新たな大団長が誕生する。俺達も今一度気を引き締めないとな」
団員達はそう言いながらエミリアを横目に去って行った。
「そう言えば、呪われた世代って大団長の息子とあの子と“もう1人”いたよな? 槍かなんかが与えられた……」
「その話はもういい。それより今は王国に迫る“終焉”の対処だ。早く次の任務の準備をするぞ――」
去って行く団員達の会話など気が付く筈もなく、ひたすら特訓していたエミリアは落ち込んだ様にその場にへたり込んでいた。
「もう本当にダメだ……。これじゃあ魔法団にも入れないし“お父さん”を捜す事も出来ない」
泣きそうな声でそう言葉を漏らしてたエミリア。
彼女が魔法団にどうしても入りたい理由。
それは、この広い世界のあちこちを飛び回っている自分の父親に会う為だった――。
王国から世界に出る為には最低限の実力が必要だ。だからこそエミリアは自身の力を証明出来る1つの形として、魔法団への入団を目指していた。
もし魔法団に入る程の実力があれば外の世界で危険なモンスターと遭遇しても戦える。それに魔法団は任務で王国の外へ出る事が多い。しかも実力を証明して団長になれば、もっと遠くの王国や見知らぬ土地でさえも自由に行動する許可が貰える。
勿論自由な行動が許可される分、責任は全て自分が背負う事にもなるが、団長ともなる実力が伴っていればそうそう命を落とす事も無いだろう。エミリアは世界の何処かにいる父に会うべく毎日毎日懸命に魔法の特訓をしていた。
だが、とうとうその夢は叶わなかった。
「ハァ、もう諦めよう」
絞り出す様に呟いた彼女は木の杖を握り締め、俯いたまま訓練場を去った。
しかし次の瞬間。
「いたいた。貴方ね。ようやく見つけましたわ――」
「ッ⁉」
突如、エミリアの前に1人の女が現れた。
その女の人は魔法団の紋章が施されたローブを羽織っていた。そして彼女の紋章は覚醒者の証でもある赤色であり、手には見るからにランクの高そうな細かい装飾があしらわれた杖を持っている。
「あ、貴方は……?」
「初めまして。私の名前は“リリアン・ゾー”。第九魔法団の団長をしています」
「え!? 魔法団の団長さん?」
エミリアは予想外の言葉に驚いた。
急な事に理解が追い付かない様子であったが、リリアンと名乗った女性のローブや紋章を見てエミリアは徐々に頭の中で整理が出来ていた。
ただ、長年訓練生としてここにいたエミリアだが、リリアンという目の前の女性の名前も顔も全く見覚えがなく戸惑った表情を浮かべていると、それに気が付いたリリアンがエミリアの疑問を氷解した。
「フフフ。貴方が私の事を知らなくても無理はありませんよ。魔法団の団長と言っても、私は王都の反対側である“オレオール”の所属ですからね」
リリアンの説明によってエミリアの謎が解けた。
彼女の言ったオレオールはエミリアのいるリューティス王国の王都とは反対側に位置する“大都市オレオール”の事である。リューティス王国は王都とこのオレオールの2大都市が有名であり、国王や城のある王都には勿論オレオールにも騎士団と魔法団が存在するのだ。
そんなオレオールの魔法団、しかも団長であるリリアンが何故自分のところに来たのか不思議に思っているエミリアは彼女に尋ねた。
「そういう事だったのですね。でも、何故魔法団の団長さんが……。私に何かご用ですか?
もしかして、私正式に訓練生をクビとなってここから出て行かなければいけないのでしょうか」
最早エミリアにはそれしか思い当たる節が無かった。そうでなければ一体何の様で団長がわざわざ自分に話し掛けるのだろうと。
だがリリアンから返ってきた言葉は想定外のものであった。
「貴方をクビに? フフフフ、まさか。むしろ逆よ。今リューティス王国は、騎士魔法団共に“終焉の主”の存在のせいで戦力不足。どこの団も早急に人手が欲しいのよ。だから私は貴方をスカウトに来たって訳」
「え! わ、私をですか⁉」
「ええ。貴方の事は知っているわ。覚醒者にも関わらず3級魔法も扱えない不憫な子がいると噂になっていたからねぇ」
「まさかオレオールにまでそんな事が……」
言い訳出来ない事実であったが、まさか王国の反対側にまで自分の事が知られているとは思わなかったエミリアはガックリと肩を落としていた。
「フフフ。落ち込む事はないわ。これはある意味貴方の分岐点。
どうかしら? うちも人手に困っていてね、もし貴方にその気があるのなら私からの任務を引き受けてくれない?
噂通り行く当てもなさそうだし、損な話ではないと思うけど。それにこの任務で成果を上げれば、周りの酷評も一気に覆せるでしょう――」
願ってもいないリリアンからの提案に興奮したエミリアは、即座に「お願いします!」と返事を返そうと思ったまさにその刹那……ふと自身が握っていた木の杖の感触を感じた彼女は、一瞬にして現実へと引き戻されてしまった。
「とても嬉しいお話ですが……防御壁しか出せない、3級魔法もまともに扱えない私では、団長さんの期待に応えるなどやはり到底無理です」
「やる前から諦めているのならそれは無理ですね。いいじゃないですか、防御壁だけでも出せるなら。防御壁だって貴方の使い方でどうにかなると思いますよ。
それに貴方に任せる任務は簡単ですよ。王都から少し離れた場所に現れたモンスターの討伐に加わってもらうだけです。
それも当然1人ではなく、既に優秀な魔法団員が戦っているので、その者達の後方支援や援護に回るだけで良いのです。それでもやる気にはならないかしら?」
完全に諦めていた筈のエミリアはであったが、リリアンの言葉で少しづつ上を向き始めていた。
「私なんかでも、誰かの役に立てるのでしょうか?」
「当たり前さ。その為に貴方と話している。それに今回の討伐には、王国内でも1、2を争う魔法の使い手である“エンビア・ガルシリ”も加わっている。
彼女と共に討伐に参加すれば何か魔法のコツでも掴めるかもしれないよ」
「本当ですか? 分かりました。やっぱり私やってみます! ううん、是非私にやらせて下さい。お願いします!」
「いいわねぇ。これで契約成立よ。それじゃあ早速行くとしましょうか、エミリア――」
こうして、エミリアはリリアンより任されたモンスターの討伐任務に加わる事となった。
だがこの時、当然エミリアは知る由もなかったのだ。
突如現れたリリアンという者の真の目的を。
そして、この出来事が後にエミリア自身にどれだけの危険を被るのかを。
そんな事一切知る由もない彼女は、諦めた自分の夢を再び懸命に追おうと、リリアンに付いて行ってしまったのだった――。
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