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55 猪と大猩々の仲
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「はあッ!」
――ズガァン!
降り注いでいたフーリンの猛攻。
恐らくこの戦いに終止符を打つ時が来たのだろう。
フーリンは身を屈めるラウアーを起こす様に、下から石突きでラウアーを突き上げた。
「がッ!」
この一撃により、モロウと同じ5m以上はあるラウアーの巨体が宙に浮いた。そこを狙ったフーリンは勢いよく体を1回転させると、遠心力を利用したその勢いのままラウアーに強烈な突きを食らわせた。
「はッ!」
フーリンの凄まじい攻撃でラウアーの巨体は吹っ飛ばされ数十メートル先の岩に衝突。磔状態で岩に体が埋まったラウアーは、辛うじて保たれていた意識の中で頭だけをゆっくりと上げた。
「ぐッ、人間め……な!?」
驚きを隠せないラウアー。
ラウアーの眼前にはフーリンの姿が迫っていた。
吹っ飛ばした直後、既にフーリンはラウアーとの距離を詰めていたのだ。
互いに相当のダメージを負っている。
だがラウアーはもう動ける体力も気力も残っていない。
歯を食いしばり、眉を顰める苦悩の表情のラウアーに対し、フーリンはまるでこの瞬間が楽しいと言わんばかりに口元だけが僅かに微笑んでいるのが確認出来た。
「ラウアー、これで終わりだ」
「待て……。死ッ――」
フーリンは小さくそう言い放ち、振り上げた槍の穂先を勢いよくラウアー目掛けて突き刺した。
――ズガァァン!
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「楽しかったぞ。強者との手合わせは」
ラウアーに言葉を掛けるフーリン。
ラウアーは激しい息遣いをしながら、自身の顔の真横に突き刺さった槍を横目で見ている。
直後、刺さった槍はパキンと折れて半分が地面に落ちた。
フーリンの最後の一撃。
わざと外されたその攻撃は、ラウアーを捉える事なく後ろにあるただの岩を貫いていた。
フーリンにはラウアーを殺す理由も無ければ当然殺したいとも思っていない。彼は純粋に強者との戦いを求めているだけなのだから。
この勝負はここで終了。
最後の一撃、ラウアーは間違いなく死を感じ取っていただろう。フーリンに殺す気は無いと言え、フーリンの中では真剣勝負だったという事に変わりはないからな。
「ふざけるな。何処まで侮辱する気なのだ人間……! 俺に止めを刺せ!」
状況を改めて理解したラウアーは苦悩の表情を浮かべながらも、力を振り絞って怒号を発した。
「お前を殺す気はない。恨みもないからな。俺はただ強者と手合わせしたいだけだ」
「そ、それがふざけていると言っているのだッ……! こんな生き恥を晒して生きてなどいけるものか!」
戦い終わって尚怒るラウアーに、そっと駆け寄ったハクが声を掛けた。
「ラウアー」
「シシガミ様……」
「どう? フーリンは強かったでしょ」
「……」
「確かに貴方も強いわラウアー。だけど、恨みや憎悪から生まれた力では、フーリン達の真の強さの前には敵わないのよ」
鋭くハクを睨みつけながらも、ラウアーは最初と違ってハクの言葉に耳を傾けている様に伺えた。
「ラウアー、貴方には元から真の強さが備わっている。よく思い出して。リューティス王国と戦争になった時、仲間達の為に最前線で奮闘する貴方には確かに真の強さが宿っていたわ。
でも、今の貴方からはその強さを感じられない。その差が今のフーリンとの戦いで勝敗を分けたのよ。
私が知っている本当の貴方なら、強くなったフーリンとも互角で戦えていたでしょうね――」
まるでこうなる事が分かっていたかの如く、ハクは優しく暖かい言葉でラウアーを包み込んだ。
話している間も変わらずラウアーはハクとフーリンを睨みつけていたが、今のフーリンとの戦いとハクの言葉は少なからずラウアーの気持ちに変化を生ませていた。
いや、俺達はラウアーの事を知らないだけだが、本来はハクの言った通りにラウアーもまた真の強さとやらを持っていた気高い獣人族であったのだ。
ラウアーは多くの仲間を傷付けられ殺され失ってしまった。そのどうしようもなく行き場の無い負の感情が、彼をみるみるうちに蝕んでいってしまったのだろう。
過去を無かった事には出来ない。過去を変える事も出来ない。だが、これから起こる未来はまだ自分達の手で変える事が出来るのだ。
「もういい……。それ以上神の綺麗事など聞いていられぬ……」
ラウアーはそう言うと、ゆっくりと体を動かし地面に降りた。ラウアーはいつの間にか何処か付き物が落ちた様な顔つきを見せており、殺伐としていた冷酷な殺気も消え去っていた。相変わらずまだ眼光は鋭く威圧感も纏ったままであるが、明らかにラウアーの雰囲気が変わっている。
「おい人間、貴様名は何と言う」
「俺はフーリン。フーリン・イデントだ」
「成程、フーリンか……。命を取らぬとは最後まで舐めた真似をしてくれたが、貴様の強さだけは認めてやろう」
「ありがとう。お前もかなりの強者だったぞラウアー」
言葉を交わす2人。フーリンが何気なく握手を求めて手を差し出したが、ラウアーはそれに応えない。
「馴れ馴れしくするんじゃねぇ。勘違いしてもらっちゃ困るが、貴様に負けたからと言って俺の気持ちは簡単に変わらん。人間への恨みもな。
だが、本当だったら俺は貴様の最後で確実に死んでいた。人間なんぞに施しを受けたと思うと自害したくなるぜ全く」
「ちょっとラウアー。貴方ずっと言い過ぎよ」
「シシガミ様、俺は数百年前にこの未来を告げられた時、貴方の力を与えられるのが何故下級生物である人間なんだと納得がいかなかった。いや、今でも納得していない。
しかし、シシガミ様が力を与える事を選んだこのフーリンという男の実力だけは少なからず認めねばならん。ガキの様に駄々をこねては、俺に付いて来てくれた同胞達にも示しが付かんからな」
ハクとフーリンに語るラウアーの姿はついさっきまでの復讐に染まった恐ろしい獣でなく、神聖で気高い存在である獣人族本来の姿がそこにはあった。
そこへモロウも歩み寄る。
俺とエミリアも自然とモロウの後に続きハク達の所に向かっていた。
「どうやら少しは正気に戻ったみたいであるな、ラウアー」
「上から偉そうに言うんじゃねぇ。俺は元から正気だ。それにいい機会だからついでに言ってやるが、俺は昔から貴様の優等生ぶったその態度が大嫌いだモロウ」
「ハハハハ、そうか。我も其方の脳筋ぶりに頭を悩ませていた」
「何ッ⁉ 今何て言いやがったクソ猪ッ!」
「我も其方の脳筋ぶりに頭を悩ませていたと言ったのだデカゴリラ」
「人間の前に貴様を殺す!」
モロウとラウアーのやり取りを遮る様にハクが一喝入れた。
「止めなさい2人共ッ!」
モロウとラウアーは本気で殺り合うつもりだったのかお互い凄まじい魔力を練り上げていたが、神であるハクの言葉で落ち着いた。
「貴方達は昔からそうね。何百年も経ってまだそんな事しているの?」
どうやらモロウとラウアーは古くからの腐れ縁らしい。犬猿の仲と言うのか、喧嘩する程仲が良いと言うのか。2人は昔から何かと張り合っていたそうだ。
あ、この場合は犬猿の仲じゃなくて猪大猩々の仲……? と言った方が正しいのかな。って、そんな事はどうでもいいだろ。
「ちっ。お前がいると苛立ちが収まらん」
「我も良い気分ではない」
「だったら早く“用を済ませる”ぞ」
そう言ってラウアーは徐に体の向きを変えると、そのまま何処かへ向かって歩き出して行った。
「ちょっとラウアー、何処行くのよ」
「何言ってるんだシシガミ様まで。貴方達が祖の王国に来た理由は1つしかないだろう――」
「「……!」」
ラウアーのその一言で、俺達は皆ハッと顔を見合わせた。
「解放しに行くぞ。置いてある“シシガミ様の力”を――」
――ズガァン!
降り注いでいたフーリンの猛攻。
恐らくこの戦いに終止符を打つ時が来たのだろう。
フーリンは身を屈めるラウアーを起こす様に、下から石突きでラウアーを突き上げた。
「がッ!」
この一撃により、モロウと同じ5m以上はあるラウアーの巨体が宙に浮いた。そこを狙ったフーリンは勢いよく体を1回転させると、遠心力を利用したその勢いのままラウアーに強烈な突きを食らわせた。
「はッ!」
フーリンの凄まじい攻撃でラウアーの巨体は吹っ飛ばされ数十メートル先の岩に衝突。磔状態で岩に体が埋まったラウアーは、辛うじて保たれていた意識の中で頭だけをゆっくりと上げた。
「ぐッ、人間め……な!?」
驚きを隠せないラウアー。
ラウアーの眼前にはフーリンの姿が迫っていた。
吹っ飛ばした直後、既にフーリンはラウアーとの距離を詰めていたのだ。
互いに相当のダメージを負っている。
だがラウアーはもう動ける体力も気力も残っていない。
歯を食いしばり、眉を顰める苦悩の表情のラウアーに対し、フーリンはまるでこの瞬間が楽しいと言わんばかりに口元だけが僅かに微笑んでいるのが確認出来た。
「ラウアー、これで終わりだ」
「待て……。死ッ――」
フーリンは小さくそう言い放ち、振り上げた槍の穂先を勢いよくラウアー目掛けて突き刺した。
――ズガァァン!
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「楽しかったぞ。強者との手合わせは」
ラウアーに言葉を掛けるフーリン。
ラウアーは激しい息遣いをしながら、自身の顔の真横に突き刺さった槍を横目で見ている。
直後、刺さった槍はパキンと折れて半分が地面に落ちた。
フーリンの最後の一撃。
わざと外されたその攻撃は、ラウアーを捉える事なく後ろにあるただの岩を貫いていた。
フーリンにはラウアーを殺す理由も無ければ当然殺したいとも思っていない。彼は純粋に強者との戦いを求めているだけなのだから。
この勝負はここで終了。
最後の一撃、ラウアーは間違いなく死を感じ取っていただろう。フーリンに殺す気は無いと言え、フーリンの中では真剣勝負だったという事に変わりはないからな。
「ふざけるな。何処まで侮辱する気なのだ人間……! 俺に止めを刺せ!」
状況を改めて理解したラウアーは苦悩の表情を浮かべながらも、力を振り絞って怒号を発した。
「お前を殺す気はない。恨みもないからな。俺はただ強者と手合わせしたいだけだ」
「そ、それがふざけていると言っているのだッ……! こんな生き恥を晒して生きてなどいけるものか!」
戦い終わって尚怒るラウアーに、そっと駆け寄ったハクが声を掛けた。
「ラウアー」
「シシガミ様……」
「どう? フーリンは強かったでしょ」
「……」
「確かに貴方も強いわラウアー。だけど、恨みや憎悪から生まれた力では、フーリン達の真の強さの前には敵わないのよ」
鋭くハクを睨みつけながらも、ラウアーは最初と違ってハクの言葉に耳を傾けている様に伺えた。
「ラウアー、貴方には元から真の強さが備わっている。よく思い出して。リューティス王国と戦争になった時、仲間達の為に最前線で奮闘する貴方には確かに真の強さが宿っていたわ。
でも、今の貴方からはその強さを感じられない。その差が今のフーリンとの戦いで勝敗を分けたのよ。
私が知っている本当の貴方なら、強くなったフーリンとも互角で戦えていたでしょうね――」
まるでこうなる事が分かっていたかの如く、ハクは優しく暖かい言葉でラウアーを包み込んだ。
話している間も変わらずラウアーはハクとフーリンを睨みつけていたが、今のフーリンとの戦いとハクの言葉は少なからずラウアーの気持ちに変化を生ませていた。
いや、俺達はラウアーの事を知らないだけだが、本来はハクの言った通りにラウアーもまた真の強さとやらを持っていた気高い獣人族であったのだ。
ラウアーは多くの仲間を傷付けられ殺され失ってしまった。そのどうしようもなく行き場の無い負の感情が、彼をみるみるうちに蝕んでいってしまったのだろう。
過去を無かった事には出来ない。過去を変える事も出来ない。だが、これから起こる未来はまだ自分達の手で変える事が出来るのだ。
「もういい……。それ以上神の綺麗事など聞いていられぬ……」
ラウアーはそう言うと、ゆっくりと体を動かし地面に降りた。ラウアーはいつの間にか何処か付き物が落ちた様な顔つきを見せており、殺伐としていた冷酷な殺気も消え去っていた。相変わらずまだ眼光は鋭く威圧感も纏ったままであるが、明らかにラウアーの雰囲気が変わっている。
「おい人間、貴様名は何と言う」
「俺はフーリン。フーリン・イデントだ」
「成程、フーリンか……。命を取らぬとは最後まで舐めた真似をしてくれたが、貴様の強さだけは認めてやろう」
「ありがとう。お前もかなりの強者だったぞラウアー」
言葉を交わす2人。フーリンが何気なく握手を求めて手を差し出したが、ラウアーはそれに応えない。
「馴れ馴れしくするんじゃねぇ。勘違いしてもらっちゃ困るが、貴様に負けたからと言って俺の気持ちは簡単に変わらん。人間への恨みもな。
だが、本当だったら俺は貴様の最後で確実に死んでいた。人間なんぞに施しを受けたと思うと自害したくなるぜ全く」
「ちょっとラウアー。貴方ずっと言い過ぎよ」
「シシガミ様、俺は数百年前にこの未来を告げられた時、貴方の力を与えられるのが何故下級生物である人間なんだと納得がいかなかった。いや、今でも納得していない。
しかし、シシガミ様が力を与える事を選んだこのフーリンという男の実力だけは少なからず認めねばならん。ガキの様に駄々をこねては、俺に付いて来てくれた同胞達にも示しが付かんからな」
ハクとフーリンに語るラウアーの姿はついさっきまでの復讐に染まった恐ろしい獣でなく、神聖で気高い存在である獣人族本来の姿がそこにはあった。
そこへモロウも歩み寄る。
俺とエミリアも自然とモロウの後に続きハク達の所に向かっていた。
「どうやら少しは正気に戻ったみたいであるな、ラウアー」
「上から偉そうに言うんじゃねぇ。俺は元から正気だ。それにいい機会だからついでに言ってやるが、俺は昔から貴様の優等生ぶったその態度が大嫌いだモロウ」
「ハハハハ、そうか。我も其方の脳筋ぶりに頭を悩ませていた」
「何ッ⁉ 今何て言いやがったクソ猪ッ!」
「我も其方の脳筋ぶりに頭を悩ませていたと言ったのだデカゴリラ」
「人間の前に貴様を殺す!」
モロウとラウアーのやり取りを遮る様にハクが一喝入れた。
「止めなさい2人共ッ!」
モロウとラウアーは本気で殺り合うつもりだったのかお互い凄まじい魔力を練り上げていたが、神であるハクの言葉で落ち着いた。
「貴方達は昔からそうね。何百年も経ってまだそんな事しているの?」
どうやらモロウとラウアーは古くからの腐れ縁らしい。犬猿の仲と言うのか、喧嘩する程仲が良いと言うのか。2人は昔から何かと張り合っていたそうだ。
あ、この場合は犬猿の仲じゃなくて猪大猩々の仲……? と言った方が正しいのかな。って、そんな事はどうでもいいだろ。
「ちっ。お前がいると苛立ちが収まらん」
「我も良い気分ではない」
「だったら早く“用を済ませる”ぞ」
そう言ってラウアーは徐に体の向きを変えると、そのまま何処かへ向かって歩き出して行った。
「ちょっとラウアー、何処行くのよ」
「何言ってるんだシシガミ様まで。貴方達が祖の王国に来た理由は1つしかないだろう――」
「「……!」」
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