マイペースな最強禁術使い~命より大事な本を燃やされたので、記憶喪失の妖精少女とのんびり復讐旅に出る~

きょろ

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第34話 二重人格

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 小さな貝。すり身にした魚が乗った小さめのピザ。並ぶ料理を食べながら、アッシュはカルミオの話を聞き終える。

「資料に関してはカルミオさんが提供し、本の査読とパンフレットの原案、デザインの作成の依頼。こちらの資料も適宜利用しつつ、資料代として別途計算、支払われる、と。私が持っているのはほぼ希少本です。資料代は相当な金額になりますよ?」

 再度の確認の念を込めて、アッシュが聞き直す。

「構わん。金貨三百枚までは出せる。それ以上となると即金では無理だが」
「何故そこまで?」

 クラバウ神は船乗りにとって非常に優秀な権能魔法を持つが、サウスボンス以外にも教会が建っている。権能魔法が目当てなら、サウスボンス教会にこだわる必要はない。
 カルミオがシェリー酒を傾ける。店の入り口をちらりと見た。まだ開店時間になっていない。他に入ってくる客はいなかった。

「ウルさんから言われているのだ。教会を潰させるな。魔物の大氾濫の引き金になる、と」

 カルミオの言葉に、目を開かせたアッシュ。

「それは本当ですか?」
「分からん。根拠を尋ねたが、はぐらかされた」
「話の真贋ではなく、ウル氏がそれを言ったのかを聞きたいんです」
「君、何かを掴んでいるのか?」

 カルミオが探るようにアッシュを見て、すぐに目頭を揉んだ。

「ああ、いかん。陸で政争に関わりすぎた。つい疑ってしまう。すまなかった」

 港湾議会で派閥を束ねているだけあって、腹の探り合いばかりしていたのだろう。無礼を詫びるカルミオに対し、アッシュは気にしていない、と軽く手を振った。
 ヴェロニカから渡された燻製鮭の薄切りが乗ったクラッカーを口に入れつつ、どこまで目の前の老人に話すべきかと思案する。

「確認したいことがいくつかあります。ウル氏が発言したので、間違いはないですか?」
「ああ、間違いないな」
「港湾議会で、クラバウ教会取り壊しを主張する一派の背景に、リッパー教会はいますか?」
「いるとも。お陰で我々は苦戦している」

 確認が取れたアッシュは「内密にお願いします」と断りを入れた。
 気を利かせたヴェロニカが、エディルに一曲ねだる。エディルをアッシュ達から遠ざけた。
 アッシュは目くばせでヴェロニカに礼を言い、カルミオに口を開いた。

「申し遅れました。私はバヤジット王国男爵、アッシュ・ジングスマンです」
「バヤジット禁書庫の──、主か?」

 驚いたカルミオは、アッシュを舐めまわすように見る。

「異端として殺されたと聞いたが?」
「御存知でしたか。禁書庫に火を放たれまして、頭に来たのでリッパー教会と枢機卿会議に火をつけてやろう、とネタを探しています」
「う、うむ、そうか。まぁほどほどにな。しかし、共にリッパー教会を仮想敵にしているのは分かった」

 共通の敵がいるなら利害関係も構築しやすい。政争に疲れているカルミオは、楽が出来ると肩の力を抜いた。
 アッシュは続けて、除虫の神『ガランドウワーム』の教会と周辺の森の状況を説明した。カルミオの顔が険しくなる。

「同様の事がクラバウ神の教会でも起こり得る、そう言いたいのだな?」
「恐らく、ですが。狙っている者がいます。それもリッパー教会内部に」
「昔から、リッパー教会には他の教会を潰そうとする動きがある。だが、少し腑に落ちんのだ。ガランドウワームの件で、リッパー教会の司者はアッシュ殿に魔物の討伐のきっかけを作った礼を言ったのだろう?」

 カルミオの疑問に、アッシュは深く頷いた。

「ええ、そこなんですよ。リッパー教会の内部で二派があり、意見が割れているのではないか、とも思ったのですが」
「それならば魔物との関係を暴露すればよい。そうすれば、教会を取り壊すだのと言った話は出なくなる」
「つまり、二派は教会の取り壊しについて意見が一致していて、片方は魔物の大氾濫を阻止したい、もう片方は大氾濫を誘発したい。この形かな、と?」
「妥当だな。とすれば、クラバウ教会の取り壊しに関して、リッパー教会の内部争いは利用出来ないか」

 残念そうな顔をするカルミオに、アッシュはストレートに尋ねる。

「カルミオさんはクラバウ教会の本を編纂したとして、取り壊し反対派に勢いがつくと思いますか?」
「さざ波が浜に寄せる程度には、な」
「『浜辺の貝の娘』ですか。意外な本を読みますね」
「ウルさんが好きだった本でな」

 前に進もうと勇気を出すも、怖気づいて後退。そしてまた前に進む勇気を出すも、また――、そんな少女の恋物語『浜辺の貝の娘』にある一文だ。
 クラバウ神の本が完成して勢いがつくとしても、一過性のモノ。すぐに後退することになるとカルミオも考えているらしい。

「だが、打てる手は打ち尽くさねばならない。アッシュ殿の話を聞いた今は、なおさらだ」
「私としても、妙案がある訳ではないです。ご依頼はお受けしましょう。しかし、報酬について相談させていただきたい」
「聞こう」

 交易で財を成した大商人だけあって、大概の要求を叶えられる自信があるのだろう。カルミオは悩みもせずに要求を聞く姿勢を取った。
 アッシュの要求はシンプルだ。

「ウル氏の手による暗号文書『フォイフォラフォンデーユ』の原本、ないしは写本を持っていたら、複製させていただきたい」

「途端に目が輝きだしたな」と苦笑いするカルミオ。

 エディルの曲を聞いていたヴェロニカも、呆れたようにアッシュを見ていた。
 カルミオは鞄に手を入れる。

「写本売りだと聞いていたから、交渉材料になるかもと持ってきておいて正解だった」

 そう言って、カルミオが取り出したのは大きめの手帳が二冊。
 紙を追加してページ数を調整できるバインダー式の手帳。だが一冊は非常に古びている。もう一冊は比較的新しく作られたもののようだ。
 カルミオはテーブルに並べた二冊を同時に捲った。

「ウルさんから譲り受けた手帳、巷では暗号文書『フォイフォラフォンデーユ』と呼ばれるものの原本と、それを忠実に模写した写本だ」
「おおッ!」

 思わず腰を浮かせたアッシュに、カルミオは二冊の手帳を差し出す。

「両方持って行くといい。写本の内容に偽りがないか、確認材料が必要だろう」
「ありがとうございぃぃひゃっほー!」
「本当に先ほどまでの理知的な君か? 二重人格?」

 狂喜乱舞するアッシュ。カルミオは懐疑的な視線を送っていた。

「恐ろしいことに、どっちも素なのじゃ」

 ヴェロニカがフォローにならないフォローを入れた。

 エディルの心地よい曲が酒場中に響いていた。
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