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第36話 ネタ帳日記
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他人に見られて詐欺のネタをパクられるの嫌だ。その為に暗号にしておく。
これはいわゆるネタ帳だ。でも、日記でもある。
私はこれからムカつく連中を全員詐欺ってみようと思っている。腐った世の中を作っている連中が裁かれないのだから、私も好き放題にやらせてもらう。
多分、私が詐欺師を引退するか死ぬかした後に、このネタ帳を解読しようとする者が現れるだろう。
どんな動機か知らないが、この暗号を解いた暇人へ。
私が無事に詐欺師を引退した暁には、ネタ帳の末尾に言葉を送ろうと思う。
初めに名乗っておこう。
私はウル。本名はリリエル・ユーノ・ブルーランド。
貴族達の不正を糾弾したことで政治闘争に敗れて没落、取り潰しとなったブルーランド伯爵家の長女だ。
だから、最初の標的は決まっている。ディーマニー家だ。
楽しくいこう。失うものは何もない。
持っている連中から奪い取ってやろうじゃないか。
**
実に楽しい詐欺だった。
ディーマニー家の令嬢と偽り、宝石商ヨドインから首飾りを代理購入してきた。手付金のバヤジット金貨四十枚はなかなかの出費だったけれど、バラし売りしたら二十倍になって帰ってきたのでまぁ、良しとしよう。
「残りの代金はディーマニー家の本邸にてお支払致します」
と言えた時はぞくぞくした。
残りのバヤジット金貨八百五十枚をディーマニー家が支払うとは思えないけど、これでディーマニー家は宝石購入が面倒になるだろう。十八番にしていた賄賂宝石の調達が大変でしゅねぇ?
ついでに、宝石商ヨドインが働かせていた鉱夫に、首飾りを売り払ったお金の半分をばら蒔いて故郷に帰してみた。借金で縛り付けていたみたいだけど、金利が明らかにバヤジット国法違反ですわよ。
次はディーマニー家御用商人のゲバーラ。ディーマニー家に賄賂を貢いで密輸を見逃してもらっている、ディーマニー家の裏の資金源。
楽しんでいこうか。
**
軍船を用立てた。まぁ、張りぼてだけど。乗っているのは兵士ではなく鉱夫だし。
ゲバーラの貿易船に近づけて臨検した。密輸品は珍しい東方の魔物の毛皮や、はく製が主だった。
他にも薬になるという植物の球根や顔料があった。あと、何かの石版があった。リッパー教会が欲しがっているらしい。
裏面に一覧を書いておく。
密輸品を押収し、口止め料をせしめて仲良く握手した。
鍛えた鉱夫達による快速な偽軍船で先に港へ帰り、押収品を売却した。魔物の毛皮などは売り先に困ったので、持ち主ゲバーラの名前を書き込んで港に陳列しておいた。
持ち物には名前を書いた方がいいよ?
口止めしたのに、って言われてもさ、私、詐欺師なのよね。
**
この間使った偽軍船、密輸取締船として運用するから買い取りたい、とサウスボンスの議会から持ちかけられた。
変な縁起を担がれてもなぁ。まぁ、持っていてもしょうがないから売ったけど。
**
石版が女の子になった。意味が分からない。
名前はヴェロニカ。
神らしい。
意味が分からない。
でもめっちゃ可愛いから許す。
**
石版はタタール語で書かれた『神の在処』というものらしい。
いまいちよく分からない。もうちょっと調べてみる。
ヴェロニカとはかなり気が合う。一緒に酒造の神『コッチ』教会とバヤジット王国蒸留酒公社を相手に詐欺を働いてみる。
コッチ教会の作る酒に遅行性の毒が入っている。バヤジット王国上層部に掛け合って作られた、蒸留酒の専売公社から販売されているモノに使われる香料のハーブが原因だ。
ボレ教会の廃神の件でリッパー教会と徒党を組んでいたから、その関係だとは思うけれど、まだ証拠は足りない。
鉄分があると毒と反応して蒸留酒が白濁する。勿論、売り物にはならない。
サウスボンスの議員と手を結び、蒸留酒公社から問題の酒を大量購入する契約を取り付けた上で、蒸留酒公社に納入する香料のハーブに砂鉄を少量混ぜておいた。
茎にちまちまと砂鉄を入れていく作業は面倒くさい。
契約不履行による賠償金を頂いて、シェリー酒で祝杯を挙げるのだ。
**
激烈にヤバい。
この石版『神の在処』も少女ヴェロニカも、存在が知れると戦争になる。
それも権能魔法を使える教会同士の争奪戦に。
道理で、リッパー教会が密輸入しようとする筈だ。
最近、私の周囲をリッパー教会が嗅ぎ回ってる。コッチ教会を嵌めたのだけが原因ではないだろう。
あ、蒸留酒専売公社は倒産した。国営でも潰れるのね。
私、ボレ教会のシェリー酒『ドッタリュード』が好きだったのよ。ボレ教会を潰しやがったコッチ教会は絶対に許さないからな。
**
前回の記述から一年ほど経っている。
魔物の大氾濫により、かなりバタバタしていた。この状況で社会を混乱させる訳にもいかないので、詐欺も自粛していた。
暇な時間で魔物の大氾濫に関して調べておいた。
ヴェロニカと『神の在処』にも関係する話だ。
まず、大前提。
“神はシステム”──だ。
教会で祈ると儀式が発動。
魔力が高次元に蓄えられると同時、権能魔法に使用出来る性質へと変質させられる。
故に、魔力の収支が合わなくなればシステムは崩壊する。
現在、崩壊しかけているシステムがある。
快癒の神、リッパーだ。
これに焦ったリッパー教会は信者獲得に躍起になると共に、廃神の教会に蓄えられている、余った魔力を引き出せないかと考えた。
その方法が、ヴェロニカと『神の在処』だ。
『神の在処』は魔力を高次元上に蓄えてヴェロニカを具現化。そして彼女を通して魔力の入出力を可能とする。
ヴェロニカがどこかの教会で祈れば、神の在処で蓄えられた魔力を引き出せる。また、ヴェロニカがどこかの教会の権能魔法を取得すれば、その教会に祭られる神の魔力を自在に引き出せる。
つまり、教会の間で魔力のやり取りが可能となる。
廃神を生まないようにするタタール人の知恵の結晶が、ヴェロニカと『神の在処』の正体だ。
気付くのが遅過ぎた。
今回の魔物の大氾濫の起点は全てボレ教会となっている。
ボレ教会から権能魔法用の魔力が流出して魔力の溜まり場となり、魔物の大発生を引き起こした。
つまり、魔物の大氾濫はリッパー教会とコッチ教会の行動で引き起こされたことになる。
だが、連中もこの事態は望んでいなかったようだ。結果的にリッパー教会の信者は増えたが、目的であったボレ教会の魔力は得られず終いだったのだから。
**
やられた。
異端者狩りとの戦闘で『神の在処』が割れ、半分が紛失した。
持ち去られた訳ではないようだけど、どこに行ったのか完全に分からなくなった。
ヴェロニカも現れない。
『神の在処』が完全ではないからか。
現在、サウスボンスに匿ってもらっている。このまま永住することになりそうだ。
**
ヴェロニカ、または『神の在処』断篇の所持者へ。
もしもこのネタ帳を見つけたら、クラバウ教会地下へ行け。
カルミオ・キュベティにこのネタ帳の原本を託し、写本を定期的に市場へ流すよう伝えた。
クラバウ教会地下に張った結界の合言葉は、奴が知っている。
私の好きな本のタイトルだ。
**
カルミオへ。
お前は大成する器だ。くだらないことで死んであの世に来ても、私が蹴り出すから、つまらない死に方をするなよ。
巻き込んだことは詫びるが、詐欺や商売の手口を色々教えてやった授業料だと思え。
他人に見られて詐欺のネタをパクられるの嫌だ。その為に暗号にしておく。
これはいわゆるネタ帳だ。でも、日記でもある。
私はこれからムカつく連中を全員詐欺ってみようと思っている。腐った世の中を作っている連中が裁かれないのだから、私も好き放題にやらせてもらう。
多分、私が詐欺師を引退するか死ぬかした後に、このネタ帳を解読しようとする者が現れるだろう。
どんな動機か知らないが、この暗号を解いた暇人へ。
私が無事に詐欺師を引退した暁には、ネタ帳の末尾に言葉を送ろうと思う。
初めに名乗っておこう。
私はウル。本名はリリエル・ユーノ・ブルーランド。
貴族達の不正を糾弾したことで政治闘争に敗れて没落、取り潰しとなったブルーランド伯爵家の長女だ。
だから、最初の標的は決まっている。ディーマニー家だ。
楽しくいこう。失うものは何もない。
持っている連中から奪い取ってやろうじゃないか。
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実に楽しい詐欺だった。
ディーマニー家の令嬢と偽り、宝石商ヨドインから首飾りを代理購入してきた。手付金のバヤジット金貨四十枚はなかなかの出費だったけれど、バラし売りしたら二十倍になって帰ってきたのでまぁ、良しとしよう。
「残りの代金はディーマニー家の本邸にてお支払致します」
と言えた時はぞくぞくした。
残りのバヤジット金貨八百五十枚をディーマニー家が支払うとは思えないけど、これでディーマニー家は宝石購入が面倒になるだろう。十八番にしていた賄賂宝石の調達が大変でしゅねぇ?
ついでに、宝石商ヨドインが働かせていた鉱夫に、首飾りを売り払ったお金の半分をばら蒔いて故郷に帰してみた。借金で縛り付けていたみたいだけど、金利が明らかにバヤジット国法違反ですわよ。
次はディーマニー家御用商人のゲバーラ。ディーマニー家に賄賂を貢いで密輸を見逃してもらっている、ディーマニー家の裏の資金源。
楽しんでいこうか。
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軍船を用立てた。まぁ、張りぼてだけど。乗っているのは兵士ではなく鉱夫だし。
ゲバーラの貿易船に近づけて臨検した。密輸品は珍しい東方の魔物の毛皮や、はく製が主だった。
他にも薬になるという植物の球根や顔料があった。あと、何かの石版があった。リッパー教会が欲しがっているらしい。
裏面に一覧を書いておく。
密輸品を押収し、口止め料をせしめて仲良く握手した。
鍛えた鉱夫達による快速な偽軍船で先に港へ帰り、押収品を売却した。魔物の毛皮などは売り先に困ったので、持ち主ゲバーラの名前を書き込んで港に陳列しておいた。
持ち物には名前を書いた方がいいよ?
口止めしたのに、って言われてもさ、私、詐欺師なのよね。
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この間使った偽軍船、密輸取締船として運用するから買い取りたい、とサウスボンスの議会から持ちかけられた。
変な縁起を担がれてもなぁ。まぁ、持っていてもしょうがないから売ったけど。
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石版が女の子になった。意味が分からない。
名前はヴェロニカ。
神らしい。
意味が分からない。
でもめっちゃ可愛いから許す。
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石版はタタール語で書かれた『神の在処』というものらしい。
いまいちよく分からない。もうちょっと調べてみる。
ヴェロニカとはかなり気が合う。一緒に酒造の神『コッチ』教会とバヤジット王国蒸留酒公社を相手に詐欺を働いてみる。
コッチ教会の作る酒に遅行性の毒が入っている。バヤジット王国上層部に掛け合って作られた、蒸留酒の専売公社から販売されているモノに使われる香料のハーブが原因だ。
ボレ教会の廃神の件でリッパー教会と徒党を組んでいたから、その関係だとは思うけれど、まだ証拠は足りない。
鉄分があると毒と反応して蒸留酒が白濁する。勿論、売り物にはならない。
サウスボンスの議員と手を結び、蒸留酒公社から問題の酒を大量購入する契約を取り付けた上で、蒸留酒公社に納入する香料のハーブに砂鉄を少量混ぜておいた。
茎にちまちまと砂鉄を入れていく作業は面倒くさい。
契約不履行による賠償金を頂いて、シェリー酒で祝杯を挙げるのだ。
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激烈にヤバい。
この石版『神の在処』も少女ヴェロニカも、存在が知れると戦争になる。
それも権能魔法を使える教会同士の争奪戦に。
道理で、リッパー教会が密輸入しようとする筈だ。
最近、私の周囲をリッパー教会が嗅ぎ回ってる。コッチ教会を嵌めたのだけが原因ではないだろう。
あ、蒸留酒専売公社は倒産した。国営でも潰れるのね。
私、ボレ教会のシェリー酒『ドッタリュード』が好きだったのよ。ボレ教会を潰しやがったコッチ教会は絶対に許さないからな。
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前回の記述から一年ほど経っている。
魔物の大氾濫により、かなりバタバタしていた。この状況で社会を混乱させる訳にもいかないので、詐欺も自粛していた。
暇な時間で魔物の大氾濫に関して調べておいた。
ヴェロニカと『神の在処』にも関係する話だ。
まず、大前提。
“神はシステム”──だ。
教会で祈ると儀式が発動。
魔力が高次元に蓄えられると同時、権能魔法に使用出来る性質へと変質させられる。
故に、魔力の収支が合わなくなればシステムは崩壊する。
現在、崩壊しかけているシステムがある。
快癒の神、リッパーだ。
これに焦ったリッパー教会は信者獲得に躍起になると共に、廃神の教会に蓄えられている、余った魔力を引き出せないかと考えた。
その方法が、ヴェロニカと『神の在処』だ。
『神の在処』は魔力を高次元上に蓄えてヴェロニカを具現化。そして彼女を通して魔力の入出力を可能とする。
ヴェロニカがどこかの教会で祈れば、神の在処で蓄えられた魔力を引き出せる。また、ヴェロニカがどこかの教会の権能魔法を取得すれば、その教会に祭られる神の魔力を自在に引き出せる。
つまり、教会の間で魔力のやり取りが可能となる。
廃神を生まないようにするタタール人の知恵の結晶が、ヴェロニカと『神の在処』の正体だ。
気付くのが遅過ぎた。
今回の魔物の大氾濫の起点は全てボレ教会となっている。
ボレ教会から権能魔法用の魔力が流出して魔力の溜まり場となり、魔物の大発生を引き起こした。
つまり、魔物の大氾濫はリッパー教会とコッチ教会の行動で引き起こされたことになる。
だが、連中もこの事態は望んでいなかったようだ。結果的にリッパー教会の信者は増えたが、目的であったボレ教会の魔力は得られず終いだったのだから。
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やられた。
異端者狩りとの戦闘で『神の在処』が割れ、半分が紛失した。
持ち去られた訳ではないようだけど、どこに行ったのか完全に分からなくなった。
ヴェロニカも現れない。
『神の在処』が完全ではないからか。
現在、サウスボンスに匿ってもらっている。このまま永住することになりそうだ。
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ヴェロニカ、または『神の在処』断篇の所持者へ。
もしもこのネタ帳を見つけたら、クラバウ教会地下へ行け。
カルミオ・キュベティにこのネタ帳の原本を託し、写本を定期的に市場へ流すよう伝えた。
クラバウ教会地下に張った結界の合言葉は、奴が知っている。
私の好きな本のタイトルだ。
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カルミオへ。
お前は大成する器だ。くだらないことで死んであの世に来ても、私が蹴り出すから、つまらない死に方をするなよ。
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