歴代最強のおっさん暗殺者は引退したいのにずっと引退できない

きょろ

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第14話 愚痴

「凄まじいわね」

 サシミの呟きには、驚嘆の色が混じっていた。

「まぁ死体が十体も転がっているからな。普通なら目を覆いたくなる光景だろう」

 ヤニマルが淡々と言う。

「いえ、あなたの強さのことよ。確かに話には聞いていたけど、まさかこれほどなんて」としみじみサシミが言った。

 彼女が驚く一方、当のヤニマルはどうでもよさそうな表情を浮かべていた。
 十人殺した直後だが、ヤニマルの心には何の高揚もない。
 
 火に薪をくべるように。埃を払うように。
 ただ、いつもと変わらない日常の動きをしたまでだ。

「毒があるなら、前回戦った時に使えばよかったのに」

 足元に転がる死体を見ながら、サシミが率直に言った。

「前回は持っていなかった。それに元々、毒の持ち合わせがあまりないんだ。『殺されたと分かるように殺せ』という依頼内容でもあったからな。少量しか持参していない」
「なるほど。毒殺だと、殺されたと分からないものね」
「そういうことだ」

 納得したサシミが頷いた。

「それより、死体を始末するぞ」

 徐に動き出すヤニマル。

「始末?」
「そうだ。このままにしておけば、こいつらが死んだことはすぐに知れ渡る」
「十人もいなくなれば、死んだことはどの道バレると思うけど」
「そうだが、すぐにバレるより、少しでも時間を稼げたほうがいい」

 死体を引きずり、一箇所に集めた。

「ここからどうするの」とサシミが聞く。

 十の死体、それも成人した男性をたった二人で運び出すのは難しいだろう。

「ちょうどここは川だ。幸い、それなりに深そうだから沈める」
「えげつないわね。でも、死体は浮くでしょう?」

 川を見ながらサシミが吐露。

「カイリースの鎧と、こいつら全員が持っている剣が重しになる。後は適当に石ころでもポケットに詰めておけばいい」
「それはまた面倒ね」
「人気はないが、誰かが通りかからないとも限らない。急ぐぞ」
「ええ」

 集めた十の亡骸のポケットに石を詰める。服で剣を結び、重しにした。
 ヤニマルが川に入り、死体を一体ずつ深い場所まで引いて、沈める。また次の死体を引いて、沈める。十回繰り返した。

 全てが終った時には、すっかり日が沈んでいた。夜になっていた。

「今日から夜間の外出禁止令が発令されているんだけど」

 サシミが呟く。

「王国軍の兵隊達も各所に張り込んでいる筈だ。そいつらと巡回の衛兵に見つからないよう、帰るしかないな」

 たっぷり水の含んだ服を絞るヤニマル。広げて皺を伸ばす。
 もちろんまだ濡れているが、滴ることもない。

「私はあまり自信がないわ」
「なら、今夜は俺の宿に来い。誘導する」
「そうさせてもらおうかしら」

 二人は川を後にした。
 夜の闇に紛れて、誰にも見つからないように街を駆けて行く。

 暗殺をする訳ではない。ただ移動するだけだ。
 ヤニマル達は誰の目にも留まらず、宿へと戻った。

**

「散々な一日だった」

 宿の自室で着替えながら、ヤニマルが愚痴を零した。

「ごめんなさい。私が足を引っ張ったわね」とサシミ。

「リフレッシュ出来たのは事実だから問題ない。それに結果論とは言え、カイリースを始末出来たのも大きかった」
「今日で一気に十人も殺せたわね」
「いや、あいつらは元々、暗殺の標的じゃないんだ。やむなく戦闘になっただけだから、依頼の数にカウントすべきじゃないだろう」

 ヤニマルが着替え終える。

「そう。それは残念」

 サシミが小さく溜息を零した。
 一段落したヤニマルとサシミは、一緒に宿の一階に下りた。ようやく夕食の時間だ。

「ここの夕食って、パンとスープだけなのね」

「安宿だからな。その代わり、誰が泊まっても宿の主人は気にしない」とヤニマルが返した。

 部屋に戻ると、ヤニマルは壁際に腰を下ろした。

「寝ないの?」

 サシミが首を傾げながら問う。

「寝る。お前はベッドを使うといい」
「え、でも」
「俺はどこでも寝られる。そうじゃないと困るからな」
「そう。じゃあお言葉に甘えるわ」

 ヤニマルと違い、サシミは着替えがない。こんな予定になるとは思わなかったから当然だ。水色のワンピースのまま、ベッドに横になった。

「ねぇ」

 サシミがすぐに口を開いた。

「何だ」
「このベッド、硬いんだけど」
「安宿だからな」
「そうよね」

 長く、予想外のことが起きた一日だったが、サシミは久しぶりに楽しい一日だと思えていた。
 戦闘もあった。命を落とす危険もあった。それでも、終わりがよければいいのだ。

「ヤニマル」
「何だ」
「今日はそれなりに楽しかった?」
「ああ、まぁな」

 外出禁止令のせいもあって、外からはほとんど騒音が聞こえなかった。部屋は静かだ。

 サシミの呼吸音は聞こえる。だが、ヤニマルは呼吸も静かだ。耳を済ませても、息をする音がほぼ聞こえない。

「ヤニマル」
「今度は何だ」
「今日は付き合ってくれてありがと」
「お互い様だ」

 部屋は暗い。
 窓から差し込む僅かな月明かりだけでは、ヤニマルがどんな表情をしているのかも分からなかった。

「ヤニマル」

「もう寝ろ」と食い気味にヤニマルが制した。

「はい」とサシミも素直に聞き入れた。

 それから二人は言葉を交わすこともなく、眠りについた。
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