最強最悪の悪役令状に転生した私は、不思議な主人公に恋をする

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悪役令状11歳(すべての始まり)

悪役令状は状況を整理する

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 にしても、これからどうしていくべきだろうか……まさかローズ様に転生してしまうとは思ってもみなかった。

 ……ん?転生?あれ、確か転生って死んだ者の魂が別の者の肉体へと移りかわること……だったよね。つまり……?



「え!?私死んだの!?っていうか何で!」



 記憶はとても曖昧なのだが何故か昨日の夜のことまでは思い出せた。



「私は…確か喉が渇いたから水を飲んで……そしたらその水が苦くて……そこから記憶が……って、ん?」



 何となく聞いたことがある気がする。苦くて、どんどん体がぽかぽかしてくる水の話。



「……うっすらとしか見えなかったけど確かあれはお父さんのコップ……で?苦くて、体がポカポカして、そこから記憶が無いまま……って絶対あれ酒じゃん!通りでとてつもなく苦いわけだよ!……で、そこから死んだわけだから考えられるのは……いや、まさか、ねぇ?……急性アルコール中毒で死んだなんて……」



 我ながらなんて馬鹿馬鹿しい死に方をしてるんだろう私は。ほんとに呆れるほどにダサいな。



「けど……この状況に驚いてる場合じゃない!何とかしてこれから生きる為の計画を立てないと!」



 ローズ様は、いわゆる悪役令嬢というものだ。

 主人公やほかのヒロイン達をたくさんいじめている。そして、結末は必ず攻略対象もしくは主人公から糾弾されて国外追放か死刑のみ。つまり、まず第一に私はこの破滅を迎える結末を回避しなければならない。

 その為にもまずは今が何日なのかを把握しておこう。



「本来のローズ様は毎日日記を書いていた。でそれで私が生まれ変わったのがおそらく…十一歳のはずだからまだ日記は残ってる……?いや、確かこの辺から書き始めてた気がする……頼むから置いてあって……私の日記!!」



 そして私は屋敷……コフィール邸を歩き回り、やがて『rose』と書かれた看板が付けられている部屋に辿り着いた。



「……こればかりはどうしようもない事だけどやっぱり間違いなく……寸分違わずローズ様だ……。いくら今の私がローズ様だとはいえ流石に緊張する~~!!」



 緊張しながらも、ドアノブを握ってその部屋へ入る。

 するとそこには、もうたくさん見慣れた景色があった。

 猫や犬のぬいぐるみが置いてあるベッド、可愛らしい花柄のカーテン、少し壊れた時計。

 それらは、どんなルートを辿るにしろお目にかかれるローズ様の部屋そのものだった。



「……あ、あった!良かった~~!!とりあえず今がいつ頃かを知りたいんだけど……どんな感じだっけ」



 私が求めていたローズ様の日記は、やはり置いてあった。ピンクのカバーで丁寧にしおりも挟まれている日記帳。



「……いくら私のとはいえ、人の日記帳を勝手に見るのって何かこう、すごい申し訳ない気分になるわね……」



 申し訳ない気分は物凄くある。けどこのまま何も知らないままで居たらどんなイベントが待ち受けてるか整理できない……ので喜び半分申し訳なさ半分でその日記帳を開く。



『四月五日。 今日は嬉しいことがあったわ。お母様から、ラーベル様によって開かれるパーティーの招待状をもらったの。はぁ……一週間後が待ち遠しいわ。』



「……四月五日か。どおりでこんなにも涼しいわけだ」



 ……それから少し、語尾が行方不明なのが気になった。

 なんでだろうか?茨 峰華とローズ・コフィールの話し方がごっちゃになってしまっている。……うーん、今の私はローズ様なんだし、ひとまずシナリオを正当に進めるためにも口調は丁寧である方がいいからちゃんと話し方はローズ様に合わせようか。そしてふと、私はある人物の名前に目が行く。



「……ん、待って?ラーベル?ラーベルってあの第二王子のラーベル・ムースの事よね?」



 第二王子ラーベル・ムース。本作の攻略対象の一人であり、少々気弱系かと思いきや裏表が激しい腹黒系で、本来のローズ様の婚約者。……確かバッドエンド(私がそう呼んでるだけ)のひとつに、ローズ様がラーベルに狂ったように依存してしまい、ラーベルにもてあそばれて罪を着せられ、精神崩壊を起こして自害するってルートあった気がする!



「まずいまずいまずいまずい!これはだーいぶまずいわ!確か来週のパーティーで私はラーベルとの婚約を結ぶことになるはず……そしてそれはどんなルートでも変わることの無い不変の事実!!!まずい、まずいわ!本当にだいぶまずいわ!」



 前世で私も紗蘭も、何度やってもローズ様とラーベルとの婚約は止められなくて、ものすごい絶望していた覚えがある。確かラーベルは気弱で、自分を変えたいと強く願っていた。そしてそこに現れた黒魔道士の魔法にかかり、愛さえあれば何をしても相手はとがめてこない、という腹黒思考へと染まり、女遊びを始めてしまう。そして実は、もうラーベルは魔法にかかっている。のだが……



「確かこの頃のラーベルはまだ女遊びはしてなかったはず……」



 まだ誰一人として女性と会っていない。そして私が誘われたこのパーティーは、ラーベルが玩具を見つける為だけに開かれたパーティーだ。そして、本来のルートではローズ様はこのパーティーでラーベルと婚約を結ぶ。



「……とりあえずラーベルとの婚約を避けるためには……この一週間誰か他になすりつけた方がいいわ……ね……?」



 ……いた。まさにうってつけの人材が、あのパーティーにいた。その彼女の名はイリア・ミシェンス。幼い時からそのラーベルに恋心を抱いていた人物だ。実は、バッドエンドには続きがある。それは、ラーベルはローズ様が死んだ後、イリアによって呪いを解かれる。そして自分のしてきたことに絶望したラーベルに対してイリアはどんなラーベルも受け止める、と言い今度こそラーベルは本当の愛を手に入れ、そのままずっと幸せに暮らす、といったラーベルのハッピーエンドその一と呼ばれるものだ。



 そしてそのハッピーエンド一を迎える上で鍵となってくるのが、イリアの存在だ。つまり、早くイリアとラーベルをくっつければこの時間軸ではずっとハッピーエンドその一のままで進行していくということ。よってこれは回避できる……はず!



「ひとまず私の記憶を頼りにパーティーで起きる従来の展開と、これから起きるイベントをまとめて整理しておくことにしましょう。初めての試みだからどうなるかわからないけど……きっとこのローズ様のとてつもない魔力であればなんとかなるはずだわ!」



 たまたま近くにあった白紙に向けて私は魔力を送る。すると、私が曖昧にでも覚えていた記憶の関連するすべてが紙に浮かび上がってくる。



「……そうだわ。まだリリーは人見知りが激しくてパーティーには不参加だったわね。確かパーティーで重要といえるワルツに子供は子供としか踊れない、なんてルールはなかったはず。そういえばラーベルは愛の認識がおかしくなってしまっているものの、その根本は人見知りで、相手も最後に余った私になった。イリアもたまたま一人のモブが声をかけなければ最後の余り枠になるはずだった、と。……はっ!ならば私がそのイリアと踊るはずだったモブと踊ればいいのだわ!そうすれば必然的にイリアとラーベルが踊ることになるわ!」



 と、我ながら名案を思い付き、ひとりで喜んでいた。

 ふと時計を見ると、針は一時を指していた。

「あら、もうこんな時間なのね……。なら今日はもう寝て、明日は従来のビッグイベントには一通り目を通して、個人的に危ないと思う箇所には何か印をつけておきましょう」



 と、私はベッドに入る。めちゃくちゃふっかふかで驚いたが、あまりにも気持ち良すぎたので速攻で眠りに落ちた。

 そして私の頭にふと疑問が浮かぶ。



 ──沙蘭、今何してるのかな
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