悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

文字の大きさ
1 / 141
一頁 覚醒のロベリア

1話 悪役令息の目覚め

しおりを挟む
「うっ……」

 瞼を開けると同時に全身に痺れと痛みが走った。頭がぐらぐらする。なんだこれ。

「坊っちゃま! お目覚めになられましたか!?」
「すぐに医者を! 旦那様と奥様にも知らせて!」
「は、はい!」

 なんかぼやけている視界の向こうで数人がバタバタ動いているんだが、これはどういう状況だ?

「シュヴァリエ様! お分かりになりますか?サリクスです」

 サリクスって……そんな奴は知らんぞ。誰だよ。というかシュヴァリエとか聞こえたがもっと誰? 俺はそんな名前じゃねえ。俺の名前はーー。

「ーーっ!!!!!」

 突如頭が割れるような痛みが起こった。サリクスとか言っていた奴がなんか叫んでいるがそれどころではない。尋常ではない激痛のなか、俺の頭に何かの映像が流れてくる。

…………

……



 思い出した。
 俺の名前は柊紅夏ひいらぎこうか。どこにでもいる専門学生だ。……中学の途中から高校の途中までそこそこいろいろやりすぎてめっちゃ補導された記憶があるが、先に言っておく。俺はそこまで不真面目ってわけではない。断じて。ただちょっとあることに夢中になりすぎただけだ。
 さて、そんな俺には5つ上の兄がいる。これがまた変わった兄で俺よりも両親が頭を抱えていた。まあ子どもの頃は親父もお袋も忙しくてほとんど兄貴といた記憶しかない。その影響か俺もバッチリ兄貴の影響を受けた変人になってしまったと両親に嘆かれた。……全力で否定したいところだが自覚があるので何にも言えん。
 ……そんな俺はある日、兄貴に頼まれて少し離れた町にある書店へ向かった。そこで売っている限定品を買ってきてくれだと。兄貴も社会人になって忙しいし、ちょっとしたご褒美も用意してくれたので了承したんだが、この選択で俺の運命は決まった。
 向かった書店の隣のビルが突然火を吹いて俺がいた書店に燃え移ってしまった。で、俺は逃げ遅れて煙に巻かれてご臨終。意識がなくなる途中で三途の川らしきものが見えたから死んだのは間違いないと思う。

…………

……


 
 ……で、俺は多分転生というものを果たしたんだろう。そうじゃなきゃこんな豪勢な部屋で寝ていない。
 ここでの俺はシュヴァリエ・アクナイト。アクナイト公爵家の次男らしい。しかしこの次男いかんせん冷酷な性格で、慈悲とか思いやりとかそうものは母親の胎の中に置いてきましたと言わんばかりの性格をしていた。記憶が眠っていたとはいえ今の俺とはどうにも相容れない。冷酷すぎる性格のため高位貴族にありがちの取り巻きすらいないという状況だ。……まあ冷酷になってしまうのはある意味仕方ないのかもしれないんだが。
 ……それにしてもシュヴァリエ・アクナイトか。なんか聞き覚えのある名前なんだよな。
 俺が思考を飛ばしてぼうっとしていると、威厳のある中年の男性と冷たい印象を受ける女性が入ってきた。……この世界での俺の両親だ。

「目覚めたようだな」
「はい。ご心配をおかけしてーー」
「あの程度の毒で倒れるなど情けない。お前はアクナイトなんだぞ。我が家にはこんな軟弱な人間は必要ない」

 ……。
 おい、もっと他に言うことあるだろ。仮にも息子だぞ? 人の心ねえのかお前は。

「そのとおりですよ。まったく何故こんなに出来損ないなのかしら? お前の兄はあの程度の毒で倒れたりしませんよ。この恥晒し」

 …………そう。これが両親だ。アクナイト公爵夫妻は揃ってシュヴァリエに対して当たりがきつい。理由はわかりきっているがそれは俺が悪いわけではない。むしろ公爵の責任だと思う。というかそんなこと言うんならいっそ部屋に来んなよウザいな。
 扉のところで医者が気まずそうに立っているのが見えてちょっと申し訳なくなった。いつからいたかは知らないがこんな殺伐とした言葉が平然と飛び出るところになんかいたくねえよな。俺だって嫌だわ。……とりあえず。

「申し訳ありません、父上、義母上」
「ふん」

 それだけ言うと2人は踵を返してさっさと部屋を出て行った。入れ替わりにおずおずと顔を覗かせた医者はどことなく顔色が悪い。

「えーっと、お坊ちゃま。目覚めて何よりです。意識が戻ったばかりですから安静にしてくださいね」

 少し気の弱そうな初老の先生が俺のそばに寄ってきて診察を始めた。

「俺どのくらい寝ていた?」
「5日です」
「5日ねえ……」
「スティルペース学園の方には既に連絡を回しているそうですのでお坊ちゃまはお身体を治す方に専念してください」
「ああ。わかった」

 スティルペース学園はシュヴァリエが通っている全寮制の王立学園で12歳から18歳までの令息令嬢、そして試験に合格した平民が通っている。今のシュヴァリエは15歳なのであと3年通う必要があるわけだが。
 ……それにしてもシュヴァリエ・アクナイトといいスティルペース学園といい、やっぱり聞き覚えのある単語だ。もちろんこの世界での俺の名前で俺の通う学園だから知っているのは当たり前なんだが、それよりも以前に俺はこの名前を知っている気がするんだよな。多分、柊紅夏の時に聞いたことがあるんだ。なんだろう、もう少しで思い出せそうなんだが、ぼうっとする頭のせいか出てこない。

「悪いんだけど、ちょっと1人にしてくれ」
「わかりました。ゆっくりお休みください」
「ああ」

 久しぶりの目覚めで疲れたと判断したのか、医者は頷き一礼してすぐに部屋を出て行った。
 1人になった部屋で俺は蘇ったばかりの記憶を整理することに。やっぱ考え事する時は1人で静かな空間にいるに限る。
 そういや倒れたのって確か夕飯食った後だったよな? 食事はさすが金持ちというべきか元庶民の俺からはやたらと豪華だったっけ。いや、シュヴァリエになってからは日常だったんだけど、記憶が戻った今となっては豪華すぎるほどだ。確かサラダを食べていた息苦しくなったんだよな……。
 ……毒でも入っていたんだろうか。というか絶対それしか思いつかねえんだけど。
 あーあ、せっかく記憶が戻ったっつーのに最悪な気分なんだが。
 
「兄貴……心配してるよな……」

 兄はあれでも情に厚い上長兄として責任感もあるから、俺が死んだのは自分のせいとか思ってそうなんだよな。こんなことになった以上なにを言っても意味ねえんだけど。せっかく兄貴と一緒にプレイしていたゲームの新作も発売間近だったんだがな……。

「……ん?」

 今なんか引っかかったぞ? ……ゲーム? 
 そういや兄貴から借りてプレイしていたゲームの中に学園ものがあったはずだ。確かジャンルはBL×謎解き×学園アドベンチャーで学園で起こる様々な事件を解きながらキャラクターと恋を育む18禁のBLゲームだったはず。
 ……何故そんなものをやっていたかって? 兄貴の気まぐれに決まっているだろ。中学の同窓会に行ったら女子たちがやっていたのを聞いて、興味本位で自分も始めたら、エロのところはともかくストーリー自体はなかなか楽しかったって言って俺に押し付けてきたんだよ。
 恋愛ゲームなんて普段はやらないからお試しでやってみたんだよな。やるからには本編番外イベント含めて全部回収しないと気が済まない性分なもので、とりあえず全キャラ一周は済ませたんだっけ。……まあ兄貴が横で盛大にネタバレしまくったから面白さ半減だったが。
 ……で、だ。そのゲームの主要舞台となる学園の名前はスティルペース学園という全寮制の王立学園。そして、恋愛ゲームあるあるの悪役令嬢令息も登場。その人物の名前は………………シュヴァリエ・アクナイト。

「……………………はっ!」

 うん、今の俺と同姓同名だね。なんという奇遇、しかも通っている学園の名前も同じとはなんとも素敵な偶然じゃねえか。
 ……なんて呑気なこと考えている場合じゃねえじゃん。なにが悲しくてゲームの悪役に転生せにゃならんのだ! 嫌がらせかっつーの! 
 ……待てよ? このゲームのシュヴァリエの末路って……。
 そこまで思い出した俺は天井をしばし見つめ、そして叫んだ。

「やってられっかクソッタレ!!!!!」






しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

役立たずと捨てられた万能建築士、隣国で「聖域」を造って無双する。今さら復興のために戻れ? ご自分たちで瓦礫でも積んでいればよろしいのでは?

しょくぱん
恋愛
「お前の魔法は石を積むだけの土木作業だ」と婚約破棄されたので、城を支えていた『構造維持結界』をすべて解除して出て行きますね。今さら「城が崩れる!」と泣きつかれても、私は隣国で氷結の皇帝陛下と「世界最高の聖域」を造っていますので、一切知りません。 王国唯一の建築魔導師アニエスは、その地味な見た目と能力を理由に、王太子シグムンドから婚約破棄と国外追放を言い渡される。 彼の隣には、派手な光魔法を使う自称聖女の姿があった。 「お前の代わりなどいくらでもいる。さっさと出て行け!」 「……分かりました。では、城にかけていた『自動修復』『耐震』『空調』の全術式を解約しますね」 アニエスが去った直後、王城は音を立てて傾き、噴水は泥水に変わり、王都のインフラは崩壊した。 一方、アニエスは隣国の荒野で、呪われた皇帝レオンハルトと出会う。彼女が何気なく造った一夜の宿は、呪いを浄化するほどの「聖域」だった。 「君は女神か? どうか私の国を救ってほしい」 「喜んで。ついでに世界一快適な住居も造っていいですか?」 隣国がアニエスの力で黄金の国へと発展する一方、瓦礫の山となった母国からは「戻ってきてくれ」と悲痛な手紙が届く。 だが、アニエスは冷ややかに言い放つ。 「お断りします。契約外ですので、ご自分で支えていればよろしいのでは?」 これは、捨てられた万能建築士が隣国で溺愛され、幸せを掴む物語。 そして、彼女を捨てた者たちが、物理的にも社会的にも「崩壊」し、最後には彼女が架ける橋の『礎石』として永遠に踏まれ続けるまでの、壮絶な因果応報の記録。

処理中です...