悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

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二頁 アジサイの涙

23話 なぜこんなにも遭遇するのか

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 ……はあ、ほんっと憂鬱なんだけど。
 麗らかな放課後の陽気にのんびりと日向ぼっこ……の最中に、なんで俺はこいつの顔を見ているのだろうか。

「また意見を聞かせてくれないだろうか?」

 という言葉と共にやってきたアウル・オルニスは現在俺の前に綺麗な姿勢で座っている。あの、クラルテは放っておいていいんですかね。誰かと一緒にいないとアレの周囲がうるさくなると思うんですが。……と面と向かって馬鹿正直に言う勇気はなく、冷や汗ばかりが垂れている。

「なぜ貴方は私に構うのですか? よもやあの平民に飽きたわけではないでしょう」
「彼とは友人と呼べる程度には仲良くさせてもらっている」
「左様でしたか。それは失敬。そうでないのならなぜこちらにいらしたのかお伺いしても?」
「……もう堅苦しい言い方は必要ない。これでもクラスメイトだろう?」
「あいにくと私は編入生が関わるまで貴方と口を聞いたことすらありませんので」
「確かにそうだ。クラスメイトになってすでに一年少々経過しているというのに君はほとんど誰とも言葉を交わさなかったから、俺とも昨日が初めての会話になるのか」
「……そうですね」

 なんでもないことのように話していますけど、クラスメイトとこんなに長い間口聞かないってなかなかないよな。シュヴァリエの無関心さには恐れ入る。まあ今は自分のことなんだけどさ。

「だったらお互い改めて自己紹介をしよう。俺はアウル・オルニス。隣国のアウィス王国からの留学生だ」
「シュヴァリエ・アクナイトです」

 唐突な自己紹介終了。別に話すことなんか特にないし形式上のものだろ。
 しかしなんでこいつは俺の意見なんか求めるんだろう。俺だって情報を持っているって訳でもないのに、いやある意味情報は持っているけど明かすことは絶対にないから意味ないんだよな。第一クラルテたちならすぐに犯人を見つけるだろ。そもそも本編の序盤なんてほぼ謎解き要素なんてないようなものだし。
 となると益々俺のところに来る必要性を感じない。

「……ところで意見が聞きたいと仰いましたが貴方の私用のことに私の意見などお役に立つのでしょうか」
「昨日のことでだいぶ絞れたんだ。充分役に立っているよ」
「そうでしたか。目星がついているのならいっそ接触してみてはいかがです?」
「それがまだ証拠らしいものが見つからないんだよ。予想で動くのは危険だからな」

 まあそうだよな。いきなり突撃して逃げられても困るし感情に任せて花をあんなにする人間だ。癇癪持ちでもおかしくない。それに万が一違っていた場合はまた調査のやり直しになるから証拠を揃えてからというのもわかる、けど正直今回の犯人はそれほど気を使わなくてもいいと思うよ……なんていちいち言ってやる義理ないけど、そこまで念入りにする必要はないだろうな。
 なんて思案している俺の耳にアウルの声が入ってきた。

「犯人が昨日言った通り恨みを抱いているとして君だったら次はどんな行動を取るだろうか」
「答えると言った覚えはありませんが」
「ただの雑談と思ってくれていい」
「……」

 引いてくれる、わけないよね。アンタとは関わりたくないってのに。……くそ、逃げられない。

「……私に聞くのでしたらまずそちらの考えを伺いたい。そもそも私は事情を知りません。そんな状況下で私にだけ喋らせるのは公平とは言い難いですね」
「それもそうだ。失礼、別に隠すようなことでもないしな」

 そう言ってアウルは咳払いをした後、自分の調べている内容について話し出した。まあ俺が盗み聞き……偶々聞いてしまった内容そのままだったんだけど。要するに例の小箱の持ち主をクラルテが追っていてその手助けをしているというものだ。持ち主を探すだけならやり方はいくらでもあるが、もしも複雑な理由があった時のために秘密裏に調べているらしい。それで昨日現場に行ったところで思いがけず俺と遭遇したとのこと。

「大まかなところはこんな感じだ。そして俺たちは持ち主はあまり身分の高くない女性、恋人に振られたことを恨んでいるのではと推測しているが君はどう思う?」

 どうもこうも答えを知っている俺から言わせればハズレだ。
 事件の顛末はよくあるような昼ドラ系の話だから、ありふれすぎて面白味も何もないわけだけど。ある意味では問題なのか? まあ俺の預かり知らぬ話だしな。……とりあえず。

「身分があまり高くないという部分は私も同意する。だが女性ではないだろう」

 俺の答えが予想外とでもいうように目を見開き、アウルは真剣な顔つきでこちらを伺うように目を細める。

「君は小箱の持ち主は男性だと言いたいのか?」
「あくまでも可能性の一端に過ぎない。私はその小箱を実際に見たわけではないからなんとも言えないが、女性だと断言してしまうのは少々危険だろ」
「なるほど……かなり綺麗な箱だったから持ち主は女性かと思ったが男という可能性もあるのか。先入観でものを見てはいけないな」
「だからと言って私の話を鵜呑みにはするなよ。余計拗れる可能性もある」

 一応釘を刺しておく。まさかそのまま聞き入れたりはしないだろうが、後から俺のせいにされても困るしその話を聞いた誰かが話にヒレをつけないとも限らない。

「ああ理解している。しかし男性となると相当絞れてくるな。君はこの件恋愛沙汰の延長だと考えるか?」
「ああ。だがその内容は割とありふれているものだと思う」
「たとえば令嬢のちょっとしたを本気にして振られた、とか」
「あるいは妄想を膨らませ過ぎた痛いロマンチスト」
「もしくは両想いだったのを誰かに意図して壊されたが双方はそれを知らず見事に拗れた。……どれだろうか」
「令嬢のお遊戯」

 即答した。むしろ今回はこれ以外にない。アウルも同じだったようで同意するように頷いた。

「先に言っておくが私は手を貸さない。小箱を返すのに身分は必要ないと思うがもし必要になる場合は殿下に付き添ってもらうんだな」
「そうなるだろう。クラルテもまさか君が動いているなんて思いもしないだろうから」

 そうそうそれでいいんだ。俺の預かり知らないところで勝手に解決してくれ。俺はあくまでも確認程度しか動かんのだよ。本来ならこんな場所でこいつと話をする必要性すら皆無なんだから。

「随分とお邪魔してしまったようで悪かった。俺はそろそろ失礼しよう」
「はい。できればもう来ないでいただきたい」
「……善処しよう」

 善処だと? 断言してくれないんかお前! その言葉まともに信じる奴いねえよ。善処っていうのはやりませんしませんの言い換えなんだからな!? もう来ないでくれよ頼むから!
 やばい全身に鳥肌立ったんだけど。顔引き攣っていないよね大丈夫だよね!?

「それではアクナイト公子また……」

 その時、ガサリと草を踏む音が複数聞こえたと思ったら数名の生徒が顔を覗かせた。

「あれアウルこんなところで何をしているの?」

 ……。
 ちょっと待て? なんでお前らがそこに居るんだよ! 
 ひょっこりと顔を覗かせた無邪気な少年は屈託のない笑顔で友人に視線を向けて、俺が居ることに気づくと心底驚いた顔をした。

「え!? どうして貴方がここにいるんですか!?」

 クラルテの声に彼を囲んでいたリヒト、エヴェイユも顔色を変えた。一瞬のうちにリヒトはクラルテを背に隠し、エヴェイユはいつも通りの笑みを浮かべる。
 だ~か~ら嫌だったんだよアウルと関わるのは! 絶対誰かしらやってくるんだから! ほんとマジで勘弁してくれ!!!
 今の俺目が死んでいる自覚がある。うっかり気を抜いたら現実逃避で気絶しそうだ。

「これは珍しい組み合わせですね。まさかシュヴァリエ公子もご一緒とは」
「不肖シュヴァリエ・アクナイトがエヴェイユ第二王子殿下にご挨拶申し上げます」
「お久しぶりですシュヴァリエ公子。アウル公子と仲が良かったのですね」
「偶々お話しする機会があっただけでございます」
「まあお二人はクラスメイトですし、何かとご縁がありますよね」

 思ってもいないことがよくもまあそんなすらすら出てきなさる。

「ところでアウル公子、持ち主の情報はどうでしたか?」
「それなんだが、持ち主が男という可能性も考慮すべきだと思う」
「男……ですか?」
「ああ。これまで女性ばかりを当たってきたが、男性の方も調べてみるべきだろう」
「……ああ、なるほど。綺麗な小箱でしたから女性をずっと念頭に置いていましたが、あの小箱が女性からの贈り物である可能性もあるわけですか」
「これの持ち主が男の人……」

 クラルテがそっと小箱を取り出した。シンプルなデザインの小箱だが、一目で高級品だとわかるほど艶めかしく光を反射している。へえ、蓋との境の部分をよく見ればうっすらとだけど花模様が細工されているんだ。所々途切れているけど、光の反射角度によって形が……?
 あれ同じものが蓋の内側にまで続いていそうだな。……もしかして。
 俺はゆっくりとクラルテに近づいていく。遮るようにしてリヒトがあからさまに進路を塞いだ。

「どうしましたかシュヴァリエ様。クラルテに何かご用でも?」
「そこをどいてもらおうか。君に用はない」
「貴方がクラルテに良からぬことをしないという保証はありませんので」
「私が良からぬことをするという保証もない。それから私はそこの編入生に用があるのではなく持っているものに用がある」
「だったら尚更お通しするわけにはいきませんよ」
「殿下への点数稼ぎなら他所でやってくれ」
「なんですって?」

 突っかかってくることは予想できたけどここまで融通効かないとちょっとうざいな。声をかければ一発で大人しくなるというのに当の第二王子は面白そうに眺めるだけだし。
 面倒だな~と思っていたら思わぬところから助け船が二隻出た。

「り、リヒト。僕は大丈夫だよ。だからそんなに怖い顔しないで」
「クレマチス公子、アクナイト公子なら大丈夫だ。それに殿下の前で何をするほど愚かではないだろう」

 友人二人からの説得にリヒトは納得しないながらも下がり、クラルテまでの道が開いた。

「あ、あの、どうぞ」

 おずおずと小箱を差し出してきたクラルテがやや好奇心を滲ませながらこちらを伺う。
 俺は小箱を開けて蓋の裏側を確認した。
 ……ビンゴだ。
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