悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

文字の大きさ
117 / 142
八頁 愛国のナスタチウム

109話 手掛かりは……

しおりを挟む
※人体関連でさらっとグロ描写が入りますのでご注意ください。

--------------------


 全身黒づくめの格好をした集団に取り囲まれ剣やら杖やらを向けられている現状に俺はそっとため息をこぼした。シュヴァリエになって短期間の間によくまあここまでハードイベントが頻発するよな。普通はさもっとこう……間を空けるものじゃないの? ただでさえ馬車移動って疲れるのに余計なおまけを寄越すんじゃねえっての!

「殿下! どうしますか?」
「殲滅してください。ああ、できるだけ生け捕りにするように」

 捕縛して情報を吐き出させるってことね。これもゲーム通りで助かったけど……この後の展開はどうなるかな。もっともわざわざ覆面をしているということは顔すら知られるのが面倒だと言っているようなものだ。元々そういう連中かあるいは顔がすでに知れ渡っている連中かのどっちかだろうな。使い捨てならわざわざ覆面をする必要はないんだから。
 とにかく話は目の前の黒子たちをとっ捕まえてからだな。

「制圧ということは剣を抜いてもいいんですよね?」
「ええ、許可します」

 王族であるエヴェイユがいる以上近衛騎士でもない者が帯剣することはできないがマジックバックに入れて持ち歩くことは許可されている。全員が素早く剣を抜き持っていない者は魔法で対抗する。しかし相手も相当手練れのようでなかなか捕まらない。

「面倒だな」

 俺は懐から小瓶を取り出し数人で固まっている黒子に近づき中身をぶちまけた。途端にその場に倒れ込む刺客たち。突然一斉に倒れた仲間を見て一瞬動きを止めた刺客たちの隙を逃さず学生たちは制圧していく。……なるほどね。やけに武闘派な家柄の子息令嬢ばかりだと思っていたけどこういうことも想定されていたってことか。説明会の後に呼び出されて少しばかり話があったけど、まさかあの時からこうなることがわかっていたのか?
 刺客全員が地面に転がり起き上がる様子がなくなったことを確認して武器をしまう俺にアウルが近づいてきた。

「シュヴァリエあれは一体なんだ? 君のことだから何かを使ったんだろ?」
「あれはただの麻痺薬だ。何かあった時のために相手を無力化できる手段は多い方がいいからな。粉だと無関係な者にも被害が及びかねないから液体にした」

 外だとわずかなそよ風でも飛んでいくし室内でも人が動けば空気も動く。そんな状態で粉薬は使わない。周りが全員敵だって言うなら使っただろうが。

「……本当に用意がいいな」

 俺はゲームでこうなることを知っていたからな。そりゃ対処方法は用意しておくさ。それに俺は他の人と違って無属性だから魔法は使えない。

「シュヴァリエ様! 無駄話をしていないで捕縛に協力してください」
「わかっている。いちいち口を挟む」
「全員刺客から離れて伏せろ!」

 俺が言い終える前に突如アウルが切羽詰まった声で叫ぶ。直後、刺客の体が燃え上がり奴らは絶叫を上げた。肉の焦げる匂いがあたりに広がり、俺たちは鼻を覆う。そして奴らの体が完全に黒焦げになる頃。

 バアァンという破裂音と共に刺客たちの体が爆散しあちこちに人の体であったものと血液が飛び散った。その光景に何人かが堪らず嘔吐き地面に座り込む。俺もその場から距離をとった。吐くまではいかないが、これは無理だわ。

「……なんてことだ」
「酷いことをする」
「殿下、大丈夫ですか?」
「……ええ。問題はありませんが……」
「証拠隠滅されたな」

 さて、そいつはどうかな。
 俺は取り出したハンカチで口と鼻を覆い刺客たちがいた場所に近づく。

「シュヴァリエ! 離れろ!」

 そう言われて大人しく引き下がるわけないだろ。それに証拠隠滅と言ったが俺は奴らの体が燃え上がった一瞬、奴らの胸元に影ができたのを見たんだ。
 彼らの灰が残った場所を調べると黒焦げになってはいるものの明らかに宝飾品と思しき物があった。それはとても見覚えのある物で。見間違えるはずはない。ファルカタでヌカヅキを黒焦げにしかけた、あのネックレスだ。ただし今回の炎はヌカヅキの時の比ではない。もっと激しく燃える時間も極端に短かった。前回から改良したのかそれとも……。

「何か見つけたのか?」

 近づいてきたアウルに無言で見せるとそれが何かわかったらしく眉間に皺ができた。

「なるほどな」

 アウル自身もよく見覚えのあった忌々しいネックレスがここにある。つまりヌカヅキを使って俺を殺そうと目論んだ連中の仕業というわけだ。

「それはなんですか?」

 俺たちの様子が気になったのかエヴェイユとリヒトも近づいてきた。クラルテも来るかと思ったが彼は地面にうずくまってしまった人たちの背中をさすって回っていた。ちょうどいい。この話はクラルテが聞く必要はないし聞かないほうがいいだろう。

「……ファルカタで起きた事件の報告を憶えていますか?」
「ええ。それがなにか?」
「その報告で上げた装飾品をこの者たちが身に着けていました」
 
 そう言うとエヴェイユとリヒトの顔色が変わる。

「そういうことですか。ですが前回と違って形は残っているんですね」
「そのようです。このような危険物を持って他国に行くことはできませんし即達(※誤字にあらず)を使って魔塔主のところへ送りましょう」
「それがいいでしょうね。シュヴァリエ公子頼めますか?」
「はい」

 そうして俺は魔塔主の元に送ろうとして手を止める。

「シュヴァリエ?」
「……いや、これを魔塔主の元へ送った直後に爆発、ということにはならないよな?」

 俺の発言に皆が息を飲んだ。黒焦げではあるが形に崩れや欠けは一切見当たらない。本当に証拠隠滅をするなら前回のように塵にしているはずだ。だけど不自然すぎるほど綺麗に形を保っているとなれば何かしら別の意図があると考えたほうがいい。

「……ならばどうするつもりですか?」

 ……俺はしばらく考えた後マジックバックから小さな麻袋を取り出す。ていうか最初からこれを取り出していればよかったな。

「それは……」
「魔術の組み込まれた袋です。内側に魔法無効の陣が組み込まれています。できればここで取り出したくはなかったのですが……」
「よくそんなものを持っていましたね」
「ファルカタでの出来事以降持ち歩くようにしていました」
「なるほど……」

 それ以上は聞いてこなかったエヴェイユだが……なんだろうこの得体のしれない感じは。な~んか思いついたりしたわけじゃないですよね? 
 俺はそんなエヴェイユから視線を外しネックレスを袋にしまって立ち上がった。

「それでこの場はどうするおつもりですか?」
「……そうですね。このままにはしておけませんから土属性と火属性を持っている者たちで埋葬をお願いします」

 まあそうなるよね。いくら襲撃者とはいえ死者となった以上は埋葬し弔いを捧げる。どのような罪人であろうとも罪を犯したのは生者であり死者に罪はない。死は神よりすべての命へ与えられた唯一の平等であり生前の本人の同意なく死者の尊厳を傷つけることはツヴィトークでは重罪だ。死者冒涜罪。こういう世界でこの法律があるのはかなり珍しいんじゃないだろうか。それにこの国では土葬が禁じられており土葬もまた死者冒涜罪に該当するのだ。だから土葬文化を持つ国とは一切交流を持っていないしその国の人間の入国も赦していない。現代日本だと差別だなんだという声があがるかもしれないがむしろこれは相手に配慮した法律だと俺は思っている。だって火葬を死者への冒涜だと思っている人たちにとっては苦痛だろ? だからと言って我が国の法律を変えろ、土葬を認めろなんて余所者に言われるのもご免だ。郷に入っては郷に従え、できないのなら来るな。ただそれだけなんだから。変えろだなんだと言われたってじゃあ自国にお帰りくださいで終了だ。それで差別だって騒いでいる連中はただ自分の我儘を通したいだけ。そんなお子様以下の感性の持ち主なんて相手にする価値はない。
 なんて思考を飛ばしているうちに埋葬が終了する。

『生を終えし御魂に安息をお祈りいたします。どうか汝の背負いし業が汝を満たしし喜びと共に神の祝福を賜り再びこの御世の地にて芽吹かんことを』

 弔いの詞を終えて俺たちは再び馬車に乗り込んだ。ちなみにさっきの言葉はゲーム内でも出てきたもの。言葉が詞なのはシナリオライターさんの趣味らしい……楽しそうで何よりですよ。

「それにしてもアーダに向かう道中でこんなことが起こるなんて……なにか嫌な感じがする」

 さっきよりもどんよりと重くなった馬車の中でクラルテが震えながらそう呟いた。クラルテの顔色は大分悪く先ほどの光景がよほど衝撃的だったらしい。むしろけろっとしている他三名がおかしいのか。つーかリヒトよ。お前も平気そうなのはなんでよ。

「そうだな。俺もどうにも胸騒ぎがする」
「私もです。何も起こらなければいいのですが……」

 クラルテの言葉を聞いたアウルとエヴェイユも同調した。俺はそっと窓の外に目を向ける。向こうの景色は今後を暗示するかのようにどんよりとした雲に覆われていた。

しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

婚約破棄をしておけば

あんど もあ
ファンタジー
王太子アントワーヌの婚約者のレアリゼは、アントワーヌに嫌われていた。男を立てぬ女らしくないレアリゼが悪い、と皆に思われて孤立無援なレアリゼ。彼女は報われぬままひたすら国のために働いた……と思われていたが実は……。

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

姉の代わりに舞踏会に行ったら呪われた第三王子の初恋を奪ってしまった

近井とお
BL
幼少期、ユーリは姉によく似ていることから彼女の代わりに社交の場に出席することが多々あった。ある舞踏会の夜、中庭に姿を眩ませたユーリに誰かがぶつかってくる。その正体は呪われていると噂の第三王子であったが、ぶつかられたことに腹を立てたユーリは強気に接し、ダンスを踊った後、彼を捜している気配を感じてからかいながら立ち去る。 それから数年後、第三王子は初恋の令嬢を探し始めたが、それはユーリに違いなく……。 初恋の相手を捜す第三王子×軽口令息

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

愛してると泣かれても迷惑です〜お姉様の身代わりに冷徹公爵へ嫁ぐ〜

恋せよ恋
恋愛
「この香りは、彼を共有する女たちの『印』だったのね」 ロレンタ侯爵家の次女ジュリアは、初恋の婚約者マキシムに 愛されていると信じて疑わなかった。 しかし、彼が彼女に贈った「特注の香水」を纏っていたのは、 ジュリアだけではなかった。 学園の親友。そして、隣国へ嫁ぐはずの自慢の姉、サンドラ――。 「会ってくれないならジュリアにバラすわよ」 女たちの脅迫に屈し、私への謝罪の裏で密会を繰り返すマキシム。 すべてを知った日、ジュリアは絶望の中で凛と立ち上がる。 愛を失い、人間不信に陥った少女。 裏切った者たちには地獄を、高潔な乙女には真実の愛を。 最悪の初恋から始まる、逆転婚姻ファンタジー! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

処理中です...