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プロローグ
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グリステル領は、バウム王国の北西地区の小さな領地で乾燥地帯。これといった特産物もなく、困窮する領民と領地を代々治めてきているグリステル伯爵家。
共倒れしそうになることが今までに数えきれない程あったが、その度に、伯爵家は領民と知恵を出し合い乗り切ってきていた。そして、現グリステル伯爵家の当主も同じように日々領民と共に苦労を惜しまずにし、それは彼の妻や子供たちも同じだった。
「メイ? 今回の綿のできはどうかしら?」
「とても良いできなんです!! それに、お爺様の代に始めた蚕による絹糸もとてもとても……それは素晴らしい出来で!!」
「ふふっ、本当にうれしそうね?」
「あぁ、お前たち!! 口先だけでなく手も一緒に動かすように!!」
「「はい、お父様」」
くすくすと笑いあいながら、収穫された綿の出来具合いや絹糸の状態と量を帳簿に記していく。絹糸は、そのまま出荷するのではなく染料で染めていく。一部は、グリステル家の奥方たち始め領民の中で選りすぐりの刺繍を会得した女性たちが布地に刺繍を細やかに施したり、レース編みをしていく。
染料に染める考えを出したのは、グリステル家の次女。メイリーン・グリステル。布地に刺繍を施したり、レース編みを編み上げ特産として出すことにしたのは、メイリーンの姉、セイラ・グリステル。
2人の母、マリスは出来上がりの状態を検品している。その出荷準備のための帳簿付けは、父、ゲイツ・グリステル伯爵。バーセン大伯爵、つまり、蚕の生産を考えた先代は健在だが伯爵の領地運営の補佐的な役割に周り実際は娘婿のゲイツに任せてご隠居生活を満喫している。
マリスとゲイツは、伯爵位とは言え他の伯爵位たちよりも清貧な生活暮らし。かと言って、貧しいという事に嘆いているわけでもなく、日々、どうしたら領民たちがこの領地で安心して暮らせるかを考えていくのに必死でいる。
メイリーンは、その毎日に満足し、社交界への顔出しもデビュタントの1度きり。【名ばかり令嬢】と揶揄されても、デビュタントの日は、最後までパーティーを過ごした。パートナーが父だったのを、より周りは『婚約者すら見つけることができない貧乏伯爵家』と。
デビュタントが16歳。その日から4年。お茶会すら呼ばれた事がないメイリーン宛に、1通の招待状が届いた。
それが、彼女の今までの生活をめまぐるしく変えていくものになろうとは……予想だにしていなかった。
1通の招待状は、赤い蝋に鷲の紋様家門の印。バウム王国内で、鷲の紋様家門を許されているのは、シュバルツ公爵家のみ。王家の家門に近く、公爵家の先代は国王の妹が嫁いでいる。その息子が現・シュバルツ公爵のクロイツ・ゲルト・シュバルツ公爵。父に聴いた話によると、貴族会でも国王が参席していても『国王が相手でも、意見すべきところは遠慮はないが配慮は怠らない。若くして公爵位を継いだ男だが、とても良い人物だ』と。祖父も何度か会ったことがあるようで、父・ゲイツと同じ意見だった。
――メイリーン・グリステル侯爵令嬢――
初めての手紙で、無作法と思われるのを承知で筆をとり、メイリーン嬢にお願いをしたい。
あなたが社交界にあまり顔出しされないのも、自身も同じだが。一度、直接話しをして頼みたい事がある。
不躾な内容と思われるだろうが……このようにしか手紙を書くことが出来ないので、先に謝っておきたい。
グリステル領への訪問と、君との茶席の場をお願いしたい。
領地への訪問は、1週間後になる。
急な連絡で申し訳ない。
――クロイツ・ゲルト・シュバルツ――
用件のみを伝える、短い内容と。綺麗な柔らかな文字の筆跡。ふわりと涼やかな湖の香りを感じる便箋。
手紙が届いて、1週間後、彼は荷を後ろに取り付け馬車と護衛騎士4人と専属執事、彼の弟であるアダ―トン・ゲルト・シュバルツとやってきた。
華美な造りや飾りはない、落ち着いた樹の頑丈な造りと鷲の家門のある馬車。護衛騎士の騎士服も、落ち着いたモスグリーンの隊服。
クロイツは、逞しい鍛えられた身体に黄金色の髪に、蒼い瞳。180cmは超える身長に、南部よりの強い陽射しの為か日焼けした健康的な肌。彼の身体を覆う服は、落ち着いた黒地に蒼のボタン。白いシャツに短い蒼のタイを結んでいる。逆に弟のアダートンは、黄金色に茶色交じりの髪の毛に、蒼い瞳。文官だが、クロイツも身体を鍛えているが細身で筋肉質で長身。兄とほぼ同じ身長だった。アダ―トンは落ち着いた翠の文官服。文官服は長めのワンピースの様なものに横にスリットがはいっており、白いズボンを履く。
後ろから控えてやってきた執事は、護衛騎士も兼ねているらしくモスグリーンのスーツだった。
大侯爵のバーセン、ゲイツたちは、メイリーンを伴い彼らを出迎えた。メイリーンは、グリステル領で最近試みている絹糸で作った刺繍を施したドレスを纏った。紅色交じりの黒髪に、黒い瞳。白い肌が、落ち着いた紅と蒼糸や翠糸の刺繍レースのドレスが似合っていた。姉のセイラも、黒髪に黒い瞳で落ち着いた翠に白い刺繍を施したドレス。
クロイツは、社交界でデビュタントの姿を1度きりだけ観た彼女がこのような美しい淑女へと変わっていたことに驚きを隠せず、同時に、心臓が早鐘をうち何とも言えない心持ちになった。気が付くと、メイリーンの前に行き、手を優しく取り手の甲に口づけをし挨拶をしていた。セイラの前には、アダ―トンが挨拶をした……兄と同じく、彼女の手の甲に口づけをして。
両親はハラハラし、バーセンは口許を緩ませ何やら嬉しそうだった。
共倒れしそうになることが今までに数えきれない程あったが、その度に、伯爵家は領民と知恵を出し合い乗り切ってきていた。そして、現グリステル伯爵家の当主も同じように日々領民と共に苦労を惜しまずにし、それは彼の妻や子供たちも同じだった。
「メイ? 今回の綿のできはどうかしら?」
「とても良いできなんです!! それに、お爺様の代に始めた蚕による絹糸もとてもとても……それは素晴らしい出来で!!」
「ふふっ、本当にうれしそうね?」
「あぁ、お前たち!! 口先だけでなく手も一緒に動かすように!!」
「「はい、お父様」」
くすくすと笑いあいながら、収穫された綿の出来具合いや絹糸の状態と量を帳簿に記していく。絹糸は、そのまま出荷するのではなく染料で染めていく。一部は、グリステル家の奥方たち始め領民の中で選りすぐりの刺繍を会得した女性たちが布地に刺繍を細やかに施したり、レース編みをしていく。
染料に染める考えを出したのは、グリステル家の次女。メイリーン・グリステル。布地に刺繍を施したり、レース編みを編み上げ特産として出すことにしたのは、メイリーンの姉、セイラ・グリステル。
2人の母、マリスは出来上がりの状態を検品している。その出荷準備のための帳簿付けは、父、ゲイツ・グリステル伯爵。バーセン大伯爵、つまり、蚕の生産を考えた先代は健在だが伯爵の領地運営の補佐的な役割に周り実際は娘婿のゲイツに任せてご隠居生活を満喫している。
マリスとゲイツは、伯爵位とは言え他の伯爵位たちよりも清貧な生活暮らし。かと言って、貧しいという事に嘆いているわけでもなく、日々、どうしたら領民たちがこの領地で安心して暮らせるかを考えていくのに必死でいる。
メイリーンは、その毎日に満足し、社交界への顔出しもデビュタントの1度きり。【名ばかり令嬢】と揶揄されても、デビュタントの日は、最後までパーティーを過ごした。パートナーが父だったのを、より周りは『婚約者すら見つけることができない貧乏伯爵家』と。
デビュタントが16歳。その日から4年。お茶会すら呼ばれた事がないメイリーン宛に、1通の招待状が届いた。
それが、彼女の今までの生活をめまぐるしく変えていくものになろうとは……予想だにしていなかった。
1通の招待状は、赤い蝋に鷲の紋様家門の印。バウム王国内で、鷲の紋様家門を許されているのは、シュバルツ公爵家のみ。王家の家門に近く、公爵家の先代は国王の妹が嫁いでいる。その息子が現・シュバルツ公爵のクロイツ・ゲルト・シュバルツ公爵。父に聴いた話によると、貴族会でも国王が参席していても『国王が相手でも、意見すべきところは遠慮はないが配慮は怠らない。若くして公爵位を継いだ男だが、とても良い人物だ』と。祖父も何度か会ったことがあるようで、父・ゲイツと同じ意見だった。
――メイリーン・グリステル侯爵令嬢――
初めての手紙で、無作法と思われるのを承知で筆をとり、メイリーン嬢にお願いをしたい。
あなたが社交界にあまり顔出しされないのも、自身も同じだが。一度、直接話しをして頼みたい事がある。
不躾な内容と思われるだろうが……このようにしか手紙を書くことが出来ないので、先に謝っておきたい。
グリステル領への訪問と、君との茶席の場をお願いしたい。
領地への訪問は、1週間後になる。
急な連絡で申し訳ない。
――クロイツ・ゲルト・シュバルツ――
用件のみを伝える、短い内容と。綺麗な柔らかな文字の筆跡。ふわりと涼やかな湖の香りを感じる便箋。
手紙が届いて、1週間後、彼は荷を後ろに取り付け馬車と護衛騎士4人と専属執事、彼の弟であるアダ―トン・ゲルト・シュバルツとやってきた。
華美な造りや飾りはない、落ち着いた樹の頑丈な造りと鷲の家門のある馬車。護衛騎士の騎士服も、落ち着いたモスグリーンの隊服。
クロイツは、逞しい鍛えられた身体に黄金色の髪に、蒼い瞳。180cmは超える身長に、南部よりの強い陽射しの為か日焼けした健康的な肌。彼の身体を覆う服は、落ち着いた黒地に蒼のボタン。白いシャツに短い蒼のタイを結んでいる。逆に弟のアダートンは、黄金色に茶色交じりの髪の毛に、蒼い瞳。文官だが、クロイツも身体を鍛えているが細身で筋肉質で長身。兄とほぼ同じ身長だった。アダ―トンは落ち着いた翠の文官服。文官服は長めのワンピースの様なものに横にスリットがはいっており、白いズボンを履く。
後ろから控えてやってきた執事は、護衛騎士も兼ねているらしくモスグリーンのスーツだった。
大侯爵のバーセン、ゲイツたちは、メイリーンを伴い彼らを出迎えた。メイリーンは、グリステル領で最近試みている絹糸で作った刺繍を施したドレスを纏った。紅色交じりの黒髪に、黒い瞳。白い肌が、落ち着いた紅と蒼糸や翠糸の刺繍レースのドレスが似合っていた。姉のセイラも、黒髪に黒い瞳で落ち着いた翠に白い刺繍を施したドレス。
クロイツは、社交界でデビュタントの姿を1度きりだけ観た彼女がこのような美しい淑女へと変わっていたことに驚きを隠せず、同時に、心臓が早鐘をうち何とも言えない心持ちになった。気が付くと、メイリーンの前に行き、手を優しく取り手の甲に口づけをし挨拶をしていた。セイラの前には、アダ―トンが挨拶をした……兄と同じく、彼女の手の甲に口づけをして。
両親はハラハラし、バーセンは口許を緩ませ何やら嬉しそうだった。
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