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プロローグ
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美術回廊ーー
アイリスは、いつもの様に侍女長から頼まれた美術回廊の掃除をしていた。回廊には、様々な画家の絵画が飾られており彼女にとっては代わり映えのない景色。
その日、1枚の絵が目にとまり彼女の心を揺さぶった。暗めのグレーに近い背景のみに、花瓶に無造作に生けられたチューリップの花の絵画。無造作なのは、画家の意図なのか? わからない。ただ、その静物画からは、力強い何かと熱がひしひしと伝わってくる。
「……すごい……」
そのひと言がポツリと出て、絵画が脳裏に焼き付いて離れなくなった。
数日後、アイリスは教育校を卒業して10歳頃から勤めていた貴族の屋敷から推薦もあり王宮の侍女として勤めることとなる。
19歳の年になっていた。この年頃の侍女は、だんだんと異性との交友を持ち恋人と付き合う事も多い。しかし、アイリスは異性と付き合うという気持ちはなかった。
教育校に入る年齢の時には、両親は亡くなって教会の保護を受けながら育った。両親の親戚は、見つかることがなかった。ソンラル王国や周辺国では、出産後に子どもの戸籍が作られ教育も医療も充実してきている。
ただ、1人の彼女にとっては、働いて寝食が得られる場所が大事だった。
「あなたがアイリス・フォグね?」
「はい」
「白い霧とは……まぁいいわ。前に勤めていた貴族の推薦状によると、美術回廊の手入れを1人で任せられる程……と。美術品、特に絵画に関する知識は?」
「絵画に関しては、手入れで気を付ける点を存じております」
「……いいわ。あなたには、画家居住区での侍女の仕事を命じます」
「かしこまりました」
「後は、王宮画家長のフォ・トーナル様が受け持ちます。トーナル様の命に従うように」
「かしこまりました」
その後、王宮の画家居住区の侍女として配属され2年が経った。画家たちの身の回りの世話、絵画の保管。特に、絵画の扱いについては、トーナルから徹底的に仕込まれた。
直接光を当てるのは控える、湿気の多い場所は気を付ける。画家達のアトリエに、許可なく入らない……覚えることは、とても多かった。
アイリスにとって、それは貴族の屋敷で侍女としての仕事をしていたのと変わらない……と、思っていた。あの日、またチューリップの絵画を描いた画家と出逢うまでは……。
「お前の絵は、トーナル様を怒らせてばかりだな? モーネス」
「怒らせたい訳ではない……ただ、あのチューリップはやり過ぎたとは思っている」
「無造作すぎだろ? いくら、自分がそうだと言えど」
「ヴォルフ、何が言いたいんだ?」
「いや、チューリップにモデルが欲しいとかって。何言い出すんだって」
「人物をいれて、何がいけないんだ?」
美術保管室の外の廊下から、画家2人の声が漏れ聞こえアイリスは扉を開けていた。
「えぇっと、君? どうかした?」
「あっ、いえ……チューリップの絵画が……」
「観たことある?」
「以前、勤めていた屋敷で拝見しました」
「で、どう思った?」
「……どう、とは?」
「んー、心が熱くなったとか?」
「よせ、ヴォルフ。彼女が困っているだろう」
「心が初めて揺さぶられました」
「初めて?」
「本当かっ!!」
がっしりと両腕を掴まれ、モーネスと言う画家の男の瞳は輝いていた。初めての理解者を、得られたような嬉しさと何か熱い眼差しを……。
異性がここまで近づいた驚きと、あの絵を描いた画家と出逢えた驚き。鼓動が高鳴り、アイリスは顔を紅潮するまで赤らめていたのに彼の瞳からそらすことが出来なかった。
その出逢いの日を境に、アイリスは初めての感情を覚えた。
アイリスは、いつもの様に侍女長から頼まれた美術回廊の掃除をしていた。回廊には、様々な画家の絵画が飾られており彼女にとっては代わり映えのない景色。
その日、1枚の絵が目にとまり彼女の心を揺さぶった。暗めのグレーに近い背景のみに、花瓶に無造作に生けられたチューリップの花の絵画。無造作なのは、画家の意図なのか? わからない。ただ、その静物画からは、力強い何かと熱がひしひしと伝わってくる。
「……すごい……」
そのひと言がポツリと出て、絵画が脳裏に焼き付いて離れなくなった。
数日後、アイリスは教育校を卒業して10歳頃から勤めていた貴族の屋敷から推薦もあり王宮の侍女として勤めることとなる。
19歳の年になっていた。この年頃の侍女は、だんだんと異性との交友を持ち恋人と付き合う事も多い。しかし、アイリスは異性と付き合うという気持ちはなかった。
教育校に入る年齢の時には、両親は亡くなって教会の保護を受けながら育った。両親の親戚は、見つかることがなかった。ソンラル王国や周辺国では、出産後に子どもの戸籍が作られ教育も医療も充実してきている。
ただ、1人の彼女にとっては、働いて寝食が得られる場所が大事だった。
「あなたがアイリス・フォグね?」
「はい」
「白い霧とは……まぁいいわ。前に勤めていた貴族の推薦状によると、美術回廊の手入れを1人で任せられる程……と。美術品、特に絵画に関する知識は?」
「絵画に関しては、手入れで気を付ける点を存じております」
「……いいわ。あなたには、画家居住区での侍女の仕事を命じます」
「かしこまりました」
「後は、王宮画家長のフォ・トーナル様が受け持ちます。トーナル様の命に従うように」
「かしこまりました」
その後、王宮の画家居住区の侍女として配属され2年が経った。画家たちの身の回りの世話、絵画の保管。特に、絵画の扱いについては、トーナルから徹底的に仕込まれた。
直接光を当てるのは控える、湿気の多い場所は気を付ける。画家達のアトリエに、許可なく入らない……覚えることは、とても多かった。
アイリスにとって、それは貴族の屋敷で侍女としての仕事をしていたのと変わらない……と、思っていた。あの日、またチューリップの絵画を描いた画家と出逢うまでは……。
「お前の絵は、トーナル様を怒らせてばかりだな? モーネス」
「怒らせたい訳ではない……ただ、あのチューリップはやり過ぎたとは思っている」
「無造作すぎだろ? いくら、自分がそうだと言えど」
「ヴォルフ、何が言いたいんだ?」
「いや、チューリップにモデルが欲しいとかって。何言い出すんだって」
「人物をいれて、何がいけないんだ?」
美術保管室の外の廊下から、画家2人の声が漏れ聞こえアイリスは扉を開けていた。
「えぇっと、君? どうかした?」
「あっ、いえ……チューリップの絵画が……」
「観たことある?」
「以前、勤めていた屋敷で拝見しました」
「で、どう思った?」
「……どう、とは?」
「んー、心が熱くなったとか?」
「よせ、ヴォルフ。彼女が困っているだろう」
「心が初めて揺さぶられました」
「初めて?」
「本当かっ!!」
がっしりと両腕を掴まれ、モーネスと言う画家の男の瞳は輝いていた。初めての理解者を、得られたような嬉しさと何か熱い眼差しを……。
異性がここまで近づいた驚きと、あの絵を描いた画家と出逢えた驚き。鼓動が高鳴り、アイリスは顔を紅潮するまで赤らめていたのに彼の瞳からそらすことが出来なかった。
その出逢いの日を境に、アイリスは初めての感情を覚えた。
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