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王宮画家たち
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慌ただしく準備が進められていく。1ヶ月後に控えている、王宮画家たちのパーティー。そこには、画家たちが顔を広めるための場。貴族たちや画廊の主人も、パーティーに招かれている。
王宮内の広間の1つを利用して開かれるパーティーは、年に数回開かれる事もある。大規模な物は、大広間で国王をはじめ王族も参加する。
アイリスたち王宮画家居住区に勤める侍女たちに、侍従、王宮を取り仕切る侍女長たちも準備に入る。広間のシャンデリアから床。窓。壁。全ては毎日手入れされているが、さらに磨きを掛けていく。
クリスタルのシャンデリアは、光を浴びて様々な彩りを放っている。窓にはステンドグラスもあり、光が綺麗に差し込めるよう傷をつけぬように手入れする。
広間に飾られている絵画は一新され、新たな絵画に今回のパーティーのお披露目のために変えられる。
王宮画家長のトーナルが画家たちの絵画から選び、配置を決め、アイリスに指示をしていく。大小さまざまな大きさの絵画。
ブリューワー派絵画を主流としている王宮画家たちの絵画は、静物画で揃っている。果物が計算された構図で描かれ、背景は落ちついた色になり果物が主張されている。また、花瓶に丁寧に生けられた花。テーブルに小さな布の上に置かれた果物。
全てが整然とし、落ちついている。と、アイリスは想う。
アイリスには、全て同じだった。心が揺れることも、感じることも……あの日、あの場所で観た。あのチューリップ以外。
大きな額縁に入っている絵画は、彼女ひとりでは設置が難しいため侍従がトーナルの指示で配置する。全ての絵画が設置されると、アイリスはちいさく息を吐いた。
発作を起こして以来、倉庫での仕事はないが、パーティーの準備に追われる日々に変わり内心ほっとしている。あのような状態に、人に見られたことは今までないよう気を付けて働いてきた。どんなに呼吸が乱れて苦しくなっても……ただ、何故、あのように呼吸が苦しくなるのかが? わからない。
部屋が薄暗く、閉じられた空間に居る。と、感覚が強くなると起きる。宛がわれている侍女の部屋は、窓を少し開けたり、風の強い日などは扉に掛け鍵をして少し扉を開けて完全に締めない。掛け鍵があるのは、幸いだった。
「アイリス。設置はこれで全て終わったから、休憩しなさい」
「ありがとうございます。トーナル様」
お辞儀をして広間から去り、侍女たちの休憩場所へと向かった。王宮内で開かれるため、時折、王宮侍女たちへの挨拶や貴族への礼節を教わってきた通りに行った。
形通りの、挨拶。それ以上でも、それ以下でもない。
休憩場所では、他の侍女たちが招かれる貴族たちの噂話や初めて参加する侍女は先輩侍女からパーティーの様子を聞いては浮き立っていた。
ただ、流れるように話しが右から左へと流れる。
「ねぇ、あなたはどう?」
「あなたよ、えぇっと……トーナル様の指示に従って絵画の……」
「わたし、ですか?」
「えぇ、そう」
「アイリス、です。その、どうというのは?」
「ごめんなさい。名前を覚えてなくて……パーティーよ!! 素敵な殿方たちがたくさんいらっしゃるのよ?」
「そう、なんですね……」
「……あぁ……えぇっと……」
「特には。ただ、無事に終わればと」
「……そ、そう……」
少しの沈黙ののち、その場にいた数人の侍女たちは「じゃぁ持ち場に戻るわ」と言い残し去って行った。何度か声を掛けられ、話しをしてもこの状態でいつも終わる。
結局、この半年で名前を覚えられたことはない。アイリス自身、彼女たちの名前は覚えていったが相手は覚えていない。仕事で名前を呼ぶのに困るため、覚えたが……そこで終わる。
ふと、マーブル侍女長の言葉を思い出す。「人との関係を作ろうとしていない」と。仕事に支障がないのであれば、問題ないと思ってきたが心にしこりが残る。
パーティーの日が近づくにつれ、会場に設置している絵画の手入れも美術回廊の手入れと併せて加わった。倉庫の絵画の手入れは、王宮画家居住区に入って間もない画家が数人で行っている。
画家自身にも、絵画の勉強にもなるからとトーナル氏は言ってくれている。実際、アイリスが勤めに入るまではその状態だった。ただ、絵画の数が増えていき人手が足りず侍女のアイリスが加わったのだ。
画家が、絵を描くだけで自身の絵画の手入れを怠ればせっかく日の目に出る機会を逃す。画廊で保管するにしても、画廊では手入れも怠らない。画廊に繋がるまでの間も、手入れは必要なのだから。
鮮明な紅の林檎。檸檬の鮮やかな黄色。
ガーベラを並べ生けている花瓶の絵画。花を主役にし、花瓶は控えめに描かれているが花瓶の紋様は丁寧にはっきりとしている。
花と手紙、ペン軸のついたペンとインク壺が並んだ文机の絵。
王宮や貴族の日常の一部が切り取られているようであるが、それは日常ではなく絵として成り立っている。絵として成り立っているからこそ、貴族たちは屋敷の中に飾るのだ。美術回廊を満たし、貴族間の交流の話題として。
絵画は彼らの必要な教養でもある。侍女で知っていればいいのは、手入れで必要不可欠な絵画の知識。そう、アイリスは思っている。 パーティーは、画家たちが名前を売るだけ。と。
王宮画家たちは、パーティーが近づくと意気揚々とする者とそうでない者と様々だった。なかでも、「面倒だ」とはっきり顔にも態度にも出しているのがモーネス。
画家として、実力はあるとトーナル氏も認めてはいるが衝突が絶えない。先日も、衝突したばかりだった。同じ王宮画家でモーネスの友人でもあるヴォルフからすると、「いい加減にして欲しい」と言われる。
モーネスは「譲れない」「分からず屋だ」とトーナルを批判するような言い方はするが、絵画に関しての真摯な意見を交換できる数少ない人だとヴォルフには話した事がある。
先月、絵画倉庫の前廊下をたまたま通りかかった時のことをふと思い出した。あの侍女は酷く怯え、呼吸が落ちついても自分の手を離さなかった。
お陰で、マーブル侍女長に「あら、貴方という偏屈にも好かれることがあるのね」と言われた。言い方はイヤだったか、表情は優しく柔らかかった。マーブル侍女長と、フォ・トーナルが夫婦というのが未だに信じられない。あの偏屈に、あの優しい侍女長。
パーティーに着る正装の服を選びつつ、鏡の前で難しい顔をしながら思い出していた。
あの侍女は、あの後、大丈夫だろうか?
「どうした? さっきから、鏡の前で服と睨めっこしているかと思ったが……変な顔ばかりして」
「んっ? そんなに変な顔だったか?」
「あぁ、面白いほどに」
「お前に言われるなら、余程だろうな?」
ヴォルフは同じように服を選びながら、「お前に言われたくない」と笑顔で言う。
王宮のパーティーは何度参加しても慣れない。派手なのにも関わらず、相手との話しはまるで【なぞなぞ】なのだから。貴族階級での会話の作法でもあるが、互いのプライバシーを尊重するソンラル王国周辺諸国では、会話が【なぞなぞ】で長引くと失礼になる。なんとも難しい。
パーティーは落ちついているかと思えば、華やかでダンスもあるため楽団がくる。
貴族たちは幼い頃より、この礼節とプライバシーを尊重する作法の中で育ち教わってきている。会話の言葉ひとつで、階級が分かるほどに。
夕食のディナーひとつでも、デザートを間違えば階級が分かる。そういう世界なのだ。王宮画家たちも、教育校から芸術校に入学すると礼節も学ぶ。
画家として貴族との関わりがないとも言えないからだ。数年に及ぶ画家としての学びと同時に、礼節やマナーの授業は卒業するまで続く。
「たくっ、毎回思うが……パーティーの正装は派手だろ? あんなにマナーを重視してるのに……矛盾してないか?」
「モーネス……それ、身も蓋もない話しだよ」
「……だな……」
「まぁ、とりあえずは。貴族の方々にも俺たちの名前くらいは覚えて頂こう」
「わかってる」
何が楽しくてパーティーに参加するのか? と考えても、王宮画家として王宮居住区に住む限りは王宮でのパーティーは余程で無い限り免除されない。
ダンスは強要されないが、貴族たちへの挨拶と会話による交流は必要とされている。パーティー会場に自分たちの絵画が飾られているので、自分の名前を覚えて貰い絵も印象づけるためでもある。
絵画が教養のひとつとして国立芸術校も設立されて運営も無事めでたいが、それも貴族たちの出資のお陰でもある。自分の生活もかかってくる。
「今回はこっちにするか……わりと落ちついているしな」
「あぁ、俺もこっち。派手なのは苦手」
「「……だな……」」
互いに苦笑いし、落ち着きのある色合いと刺繍の服を選んだ。これでパーティーが盛大になってくると2人は更に沈む。「あんなお祭りみたいなパーティーでマナーと礼節護り続けるって」と零すばかりに。
ヴォルフは今は王宮画家だが、家柄は悪くなく剣を扱うことができ毎朝の鍛錬を木刀で行っている。そのため、画家にしては体軀がしっかりとして引き締まっている。端正な顔立ちで涼しい顔をしながら、丁寧で柔らかい筆遣いをし色鮮やかな落ちついた絵画を描く。その違いに、最初は驚いたが今やモーネスとは意気投合し遠慮無い物言いをする。
モーネスもヴォルフも服選びを終え、食堂へと脚を運ぶと何人かの侍女が話しているのが耳に入った。
「あのさっきの、えぇっと……あの侍女の名前……」
「アイリスだっけ?」
「そうそう、パーティーの話ししたら。『無事に終われば、と』ですって!!」
「あんなに素敵なパーティーなのによ!! 可笑しくない?」
「見たこと無いのかしら? あぁ、きっと絵画の手入れしか任されないからよ!!」
誰も通ってこないと思っていた侍女たちは、2人の男性の足音に気がつかないで話していた。
モーネスは正直、腹立たしかった。
俺だって、あんなパーティーは出たくないぞ? それのどこが可笑しい。
「君たち、少々口が過ぎるぞ」
「「えっ?! し、失礼しました!!」」
侍女たちよりも背の高い男が2人。1人はがっしりとし鍛え抜かれた体軀に柔やかだが笑っていない瞳。もう1人は身体の引き締まった体軀に冷たい瞳。
2人が後ろからやってきたことに気がつき、モーネスが放った言葉に驚き慌てて去って行った。侍女の噂好きは見知っているが、こうも同僚の侍女を貶めるような言い方は好きでは無い。
それこそ、マナーがなっていない。
相手を貶めずに言うのがマナーという、難しい会話のマナーだが。それが出来てこそ、王宮の中で働いて貴族たちの傍に仕えているという事ができる、ことでもある。
「相手を貶めるような言い方は、マナーに反する」
「マナーと礼節学んでいて、本当良かったよ」
「あの授業は地獄だったけどな」
「まぁ、モーネスは毎回死んでるようだったな。魚の目になってた」
国立芸術校の授業で、確かに毎回魚の目のようだとヴォルフに言われた。喩えとして。
貴族の子で芸術校に入学している生徒も多く、その者達は教育校から入学した生徒とは階級が違うという雰囲気があった。事実、そうなのだから仕方ない。
侍女たちの会話に出ていた、アイリスという侍女の名前。絵画の手入れをしている、と言っていた。もしや、あの日、倉庫で過呼吸を起こした侍女だったのかと。
今は、パーティーに向けての準備の仕事が出来るまでになったのかとモーネスは安心した。
「なんだか今日のお前の顔は忙しいな?」
「んっ? なんだ?」
「まぁ、面白い程に……俺は喜ばしいが」
「……よく分からないが……」
「良いことだ。俺にとってもな」
「……?……」
今日は友人のヴォルフにおかしな言い方をされるばかりだったが、嫌ではなかった。逆に、笑顔で喜ぶ顔の友人を見れてモーネスは良い日に思えた。
絵の、俺の絵の、変わるきっかけがあるのかも知れない……。
王宮内の広間の1つを利用して開かれるパーティーは、年に数回開かれる事もある。大規模な物は、大広間で国王をはじめ王族も参加する。
アイリスたち王宮画家居住区に勤める侍女たちに、侍従、王宮を取り仕切る侍女長たちも準備に入る。広間のシャンデリアから床。窓。壁。全ては毎日手入れされているが、さらに磨きを掛けていく。
クリスタルのシャンデリアは、光を浴びて様々な彩りを放っている。窓にはステンドグラスもあり、光が綺麗に差し込めるよう傷をつけぬように手入れする。
広間に飾られている絵画は一新され、新たな絵画に今回のパーティーのお披露目のために変えられる。
王宮画家長のトーナルが画家たちの絵画から選び、配置を決め、アイリスに指示をしていく。大小さまざまな大きさの絵画。
ブリューワー派絵画を主流としている王宮画家たちの絵画は、静物画で揃っている。果物が計算された構図で描かれ、背景は落ちついた色になり果物が主張されている。また、花瓶に丁寧に生けられた花。テーブルに小さな布の上に置かれた果物。
全てが整然とし、落ちついている。と、アイリスは想う。
アイリスには、全て同じだった。心が揺れることも、感じることも……あの日、あの場所で観た。あのチューリップ以外。
大きな額縁に入っている絵画は、彼女ひとりでは設置が難しいため侍従がトーナルの指示で配置する。全ての絵画が設置されると、アイリスはちいさく息を吐いた。
発作を起こして以来、倉庫での仕事はないが、パーティーの準備に追われる日々に変わり内心ほっとしている。あのような状態に、人に見られたことは今までないよう気を付けて働いてきた。どんなに呼吸が乱れて苦しくなっても……ただ、何故、あのように呼吸が苦しくなるのかが? わからない。
部屋が薄暗く、閉じられた空間に居る。と、感覚が強くなると起きる。宛がわれている侍女の部屋は、窓を少し開けたり、風の強い日などは扉に掛け鍵をして少し扉を開けて完全に締めない。掛け鍵があるのは、幸いだった。
「アイリス。設置はこれで全て終わったから、休憩しなさい」
「ありがとうございます。トーナル様」
お辞儀をして広間から去り、侍女たちの休憩場所へと向かった。王宮内で開かれるため、時折、王宮侍女たちへの挨拶や貴族への礼節を教わってきた通りに行った。
形通りの、挨拶。それ以上でも、それ以下でもない。
休憩場所では、他の侍女たちが招かれる貴族たちの噂話や初めて参加する侍女は先輩侍女からパーティーの様子を聞いては浮き立っていた。
ただ、流れるように話しが右から左へと流れる。
「ねぇ、あなたはどう?」
「あなたよ、えぇっと……トーナル様の指示に従って絵画の……」
「わたし、ですか?」
「えぇ、そう」
「アイリス、です。その、どうというのは?」
「ごめんなさい。名前を覚えてなくて……パーティーよ!! 素敵な殿方たちがたくさんいらっしゃるのよ?」
「そう、なんですね……」
「……あぁ……えぇっと……」
「特には。ただ、無事に終わればと」
「……そ、そう……」
少しの沈黙ののち、その場にいた数人の侍女たちは「じゃぁ持ち場に戻るわ」と言い残し去って行った。何度か声を掛けられ、話しをしてもこの状態でいつも終わる。
結局、この半年で名前を覚えられたことはない。アイリス自身、彼女たちの名前は覚えていったが相手は覚えていない。仕事で名前を呼ぶのに困るため、覚えたが……そこで終わる。
ふと、マーブル侍女長の言葉を思い出す。「人との関係を作ろうとしていない」と。仕事に支障がないのであれば、問題ないと思ってきたが心にしこりが残る。
パーティーの日が近づくにつれ、会場に設置している絵画の手入れも美術回廊の手入れと併せて加わった。倉庫の絵画の手入れは、王宮画家居住区に入って間もない画家が数人で行っている。
画家自身にも、絵画の勉強にもなるからとトーナル氏は言ってくれている。実際、アイリスが勤めに入るまではその状態だった。ただ、絵画の数が増えていき人手が足りず侍女のアイリスが加わったのだ。
画家が、絵を描くだけで自身の絵画の手入れを怠ればせっかく日の目に出る機会を逃す。画廊で保管するにしても、画廊では手入れも怠らない。画廊に繋がるまでの間も、手入れは必要なのだから。
鮮明な紅の林檎。檸檬の鮮やかな黄色。
ガーベラを並べ生けている花瓶の絵画。花を主役にし、花瓶は控えめに描かれているが花瓶の紋様は丁寧にはっきりとしている。
花と手紙、ペン軸のついたペンとインク壺が並んだ文机の絵。
王宮や貴族の日常の一部が切り取られているようであるが、それは日常ではなく絵として成り立っている。絵として成り立っているからこそ、貴族たちは屋敷の中に飾るのだ。美術回廊を満たし、貴族間の交流の話題として。
絵画は彼らの必要な教養でもある。侍女で知っていればいいのは、手入れで必要不可欠な絵画の知識。そう、アイリスは思っている。 パーティーは、画家たちが名前を売るだけ。と。
王宮画家たちは、パーティーが近づくと意気揚々とする者とそうでない者と様々だった。なかでも、「面倒だ」とはっきり顔にも態度にも出しているのがモーネス。
画家として、実力はあるとトーナル氏も認めてはいるが衝突が絶えない。先日も、衝突したばかりだった。同じ王宮画家でモーネスの友人でもあるヴォルフからすると、「いい加減にして欲しい」と言われる。
モーネスは「譲れない」「分からず屋だ」とトーナルを批判するような言い方はするが、絵画に関しての真摯な意見を交換できる数少ない人だとヴォルフには話した事がある。
先月、絵画倉庫の前廊下をたまたま通りかかった時のことをふと思い出した。あの侍女は酷く怯え、呼吸が落ちついても自分の手を離さなかった。
お陰で、マーブル侍女長に「あら、貴方という偏屈にも好かれることがあるのね」と言われた。言い方はイヤだったか、表情は優しく柔らかかった。マーブル侍女長と、フォ・トーナルが夫婦というのが未だに信じられない。あの偏屈に、あの優しい侍女長。
パーティーに着る正装の服を選びつつ、鏡の前で難しい顔をしながら思い出していた。
あの侍女は、あの後、大丈夫だろうか?
「どうした? さっきから、鏡の前で服と睨めっこしているかと思ったが……変な顔ばかりして」
「んっ? そんなに変な顔だったか?」
「あぁ、面白いほどに」
「お前に言われるなら、余程だろうな?」
ヴォルフは同じように服を選びながら、「お前に言われたくない」と笑顔で言う。
王宮のパーティーは何度参加しても慣れない。派手なのにも関わらず、相手との話しはまるで【なぞなぞ】なのだから。貴族階級での会話の作法でもあるが、互いのプライバシーを尊重するソンラル王国周辺諸国では、会話が【なぞなぞ】で長引くと失礼になる。なんとも難しい。
パーティーは落ちついているかと思えば、華やかでダンスもあるため楽団がくる。
貴族たちは幼い頃より、この礼節とプライバシーを尊重する作法の中で育ち教わってきている。会話の言葉ひとつで、階級が分かるほどに。
夕食のディナーひとつでも、デザートを間違えば階級が分かる。そういう世界なのだ。王宮画家たちも、教育校から芸術校に入学すると礼節も学ぶ。
画家として貴族との関わりがないとも言えないからだ。数年に及ぶ画家としての学びと同時に、礼節やマナーの授業は卒業するまで続く。
「たくっ、毎回思うが……パーティーの正装は派手だろ? あんなにマナーを重視してるのに……矛盾してないか?」
「モーネス……それ、身も蓋もない話しだよ」
「……だな……」
「まぁ、とりあえずは。貴族の方々にも俺たちの名前くらいは覚えて頂こう」
「わかってる」
何が楽しくてパーティーに参加するのか? と考えても、王宮画家として王宮居住区に住む限りは王宮でのパーティーは余程で無い限り免除されない。
ダンスは強要されないが、貴族たちへの挨拶と会話による交流は必要とされている。パーティー会場に自分たちの絵画が飾られているので、自分の名前を覚えて貰い絵も印象づけるためでもある。
絵画が教養のひとつとして国立芸術校も設立されて運営も無事めでたいが、それも貴族たちの出資のお陰でもある。自分の生活もかかってくる。
「今回はこっちにするか……わりと落ちついているしな」
「あぁ、俺もこっち。派手なのは苦手」
「「……だな……」」
互いに苦笑いし、落ち着きのある色合いと刺繍の服を選んだ。これでパーティーが盛大になってくると2人は更に沈む。「あんなお祭りみたいなパーティーでマナーと礼節護り続けるって」と零すばかりに。
ヴォルフは今は王宮画家だが、家柄は悪くなく剣を扱うことができ毎朝の鍛錬を木刀で行っている。そのため、画家にしては体軀がしっかりとして引き締まっている。端正な顔立ちで涼しい顔をしながら、丁寧で柔らかい筆遣いをし色鮮やかな落ちついた絵画を描く。その違いに、最初は驚いたが今やモーネスとは意気投合し遠慮無い物言いをする。
モーネスもヴォルフも服選びを終え、食堂へと脚を運ぶと何人かの侍女が話しているのが耳に入った。
「あのさっきの、えぇっと……あの侍女の名前……」
「アイリスだっけ?」
「そうそう、パーティーの話ししたら。『無事に終われば、と』ですって!!」
「あんなに素敵なパーティーなのによ!! 可笑しくない?」
「見たこと無いのかしら? あぁ、きっと絵画の手入れしか任されないからよ!!」
誰も通ってこないと思っていた侍女たちは、2人の男性の足音に気がつかないで話していた。
モーネスは正直、腹立たしかった。
俺だって、あんなパーティーは出たくないぞ? それのどこが可笑しい。
「君たち、少々口が過ぎるぞ」
「「えっ?! し、失礼しました!!」」
侍女たちよりも背の高い男が2人。1人はがっしりとし鍛え抜かれた体軀に柔やかだが笑っていない瞳。もう1人は身体の引き締まった体軀に冷たい瞳。
2人が後ろからやってきたことに気がつき、モーネスが放った言葉に驚き慌てて去って行った。侍女の噂好きは見知っているが、こうも同僚の侍女を貶めるような言い方は好きでは無い。
それこそ、マナーがなっていない。
相手を貶めずに言うのがマナーという、難しい会話のマナーだが。それが出来てこそ、王宮の中で働いて貴族たちの傍に仕えているという事ができる、ことでもある。
「相手を貶めるような言い方は、マナーに反する」
「マナーと礼節学んでいて、本当良かったよ」
「あの授業は地獄だったけどな」
「まぁ、モーネスは毎回死んでるようだったな。魚の目になってた」
国立芸術校の授業で、確かに毎回魚の目のようだとヴォルフに言われた。喩えとして。
貴族の子で芸術校に入学している生徒も多く、その者達は教育校から入学した生徒とは階級が違うという雰囲気があった。事実、そうなのだから仕方ない。
侍女たちの会話に出ていた、アイリスという侍女の名前。絵画の手入れをしている、と言っていた。もしや、あの日、倉庫で過呼吸を起こした侍女だったのかと。
今は、パーティーに向けての準備の仕事が出来るまでになったのかとモーネスは安心した。
「なんだか今日のお前の顔は忙しいな?」
「んっ? なんだ?」
「まぁ、面白い程に……俺は喜ばしいが」
「……よく分からないが……」
「良いことだ。俺にとってもな」
「……?……」
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絵の、俺の絵の、変わるきっかけがあるのかも知れない……。
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