チューリップと画家

中村湊

文字の大きさ
15 / 15

エピローグ

しおりを挟む
 モーネスがアイリスにプロポーズしてから半年して、2人は王都近くのフルフィルメント侯爵の所領に住まいを移した。そして、所領内の小さな教会で結婚式を挙げた。それは、とても小さな挙式だったが、アイリスが【大切】にしている人々と一緒に居られる時間でもあった。
 侯爵は、挙式を挙げた教会にアイリスの両親の墓石を建てアイリスがいつでも訪れる事が出来るように取り計らった。

 「お前が俺の結婚式の日に……ハルに子供ができたって……初耳だ、俺は」
 「いや、なに。お前の式の準備には顔出ししていただろ?」
 「だからな……俺たちの結婚式準備で来ていて……子供ができましたって、あるか?!」
 「別にいいだろう、ハルとは夫婦なんだ」

 男2人で話していたのは、結婚式準備に来ていたヴォルフとハルの間に、子が出来ていたことだった。それも、式の準備に半年近く所領の家を借りて過ごしていた新婚夫婦。あり得ない話ではないとはないだろうとは、モーネスは思ったが自分の結婚式に友人の妻が身重でいるという不思議な光景ができていた。

 「モーネス、わたしは孫の顔が早く見たくて仕方ない」
 「侯爵……少々、気が早いのでは? わたしたちは、今日、式を挙げたばかりですし……」
 「わたしと、亡き妻は、それはもう……」
 「旦那様、アイリス様がいらっしゃる前では控えたほうが良いかと……刺激が強すぎますし」
 「んんっ!!……つまりは、家族はたくさん居ると楽しいからなぁ……モーネス君!!」

 酷く期待に満ちた目で、初老になり始めた男性のフルフィルメント侯爵は、瞳を輝かせてモーネスに言った。モーネス自身、フルフィルメント侯爵家に初めて訪れ、彼女と重ねた日以来……手を繋いだり、口づけをする以外、していない。つまり、本当の意味での初夜は、今夜となる。
 彼自身も、期待がある。あの日の彼女を忘れたわけではない。
 そして、初夜の夜、ハルはアイリスへのプレゼントを渡しており。それをきちんと身につけ纏った彼女を観たモーネスは、彼女に夢中になった。ベッドの上で恥じらいつつ身に纏っていたモノを少しずつ取り、愛し尽くしていく……。一度味わった彼女の愛おしさは、とどまることがなかった。

 アイリス自身、この上ない浮遊感と満たされていく感覚に涙した。彼の優しい手と、眼差し。絵筆をとり、自分をスケッチする時の柔らかな瞳と、激しい愛おしさを隠さない瞳。柔らかく、強く、激しく……どれも、欠けてはならないアイリスの感情を新たにつくっていくものになっていった。


ーー数年後ーー

 「「とうさまー、かあさまー」」
 「父様と母様は逃げないから、そんなにっ!!」
 「「わっ!!」」
 「ほらっ、手を出して?」

 丘の上でデッサンをしていたモーネスは、走ってくる双子の息子と娘、それを後から追いかけ面倒を見る2人の2つ上の息子。モーネスの傍に居たアイリスは、ゆっくりと子供たち3人のところへと行き柔らかな笑顔を向けている。
 出逢った時の彼女は、【欠けている侍女】と言われていたが。今は、【愛おしい妻】であり、【なくてはならない女性】であった。子供たちにとっては、母が昔笑いもしなかったというのは信じて貰えないくらいだ。
 モーネスの描く絵には、日々の家族の絵や、所領の人々の姿が増えていった。その絵画は、フルフィルメント侯爵により美術館に展示されたり、王宮画家たちの手本ともなっていった。
 所領の家で、アイリスは満たされていく感情を日々感じている。

 いつかは、父と母のように、子供たちや愛する夫のモーネスと別れる日がくるとしても……アイリスは、愛するという感情を再び得られた喜びとそれを取り戻すきっかけを作ってくれたモーネスを愛さずにはいられなかった。
 ただ、ただ、この愛する人たちとの生活を……最期の日まで……供にありたいと、空を仰ぎ見た。

 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...