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女神様を泣かせてしまいました……
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バイト先から、ハロルドは逸る気持ちを抑えながら走った。
女神さまに、喜んで貰える! あの愛らしい笑顔が見れる! また、優しく頭を撫でてくださる! あの、あの……。女神様への溢れる気持ちが、どんどんとわき水のように出てくる。
「女神様ぁーーーーー!!」
ハロルドは、女神様と叫びながら走っていた。全力疾走で、掛けているが、規格外の走りなので、周りは……男の雄叫びだけが、耳に残っていく。
この国にきて、少し体力の落ちたハロルドは、少し息を整えて女神様の部屋の前で給料袋を抱きしめた。
彼女から預かっていた合い鍵で、鍵を開ける。
シッ……ンッ……
部屋の中は薄暗い。夜目がきき、耳の良いハロルドは、薄暗い中でも女神様が居ることは分かった。
「た、ただいま戻りました!!」
ハロルドは、女神様に届くように声を出した。
奥のソファがある場所から、小さな身体がピクリと動く。彼は靴を脱ぎ、ソファの傍へと駆け寄った。
ソファの傍から女神様の花の匂いがした。
「女神様? ただいま戻りました!!」
「は、ろ、る、ど……さ、ん?」
「はい!!」
「ハロルド……さん?」
「? はい!! 女神様!! ご報告が」
ぎゅうっと、抱きしめてられている。女神様が、俺に、抱きついている? 何故だ? バイトの話しを王子から聞いたのだろうか? しかし、王子には何も言っていない。
「め、女神、さま?」
「ハロルドさん、ハロルドさん……」
彼女は、ハロルドの名前を何度も呼び、抱きついたまま。だんだん、声が震え涙声になっている。
俺は、女神様に喜んで貰いたい……。この袋を見せたら、喜んで貰える!!
「女神様? あの、その……」
ハロルドが何度も声を掛けても、彼女はハロルドから離れない。やっと、顔を向けてくれたと思うと……涙で瞼が腫れていた。
「……女神……様? もしかして、泣いて……」
俺は、女神様を……泣かせてしまった?
愕然としている男の頬に女の手が触れる。
ドクン……ドクン……
静まりかえった部屋に、2人の呼吸だけが聴こえてくる。心臓の高鳴りがする。
触れた手は少し冷たくなっていた。すっと離れたと思った。その後、彼女は首元に顔を埋めて抱きついた。さっきは、正面から胸元に顔を埋めていたのが、どんどん近づく彼女の顔。彼女の小さな呼吸が、首元で囁く。
「ハロルドさん……帰ってきてくれた……」
ドクッドクッ……
心臓の高鳴りかたがおかしい。女神様に、なぜ、このような高鳴りを覚えているのか?
愛らしい表情は曇っている。ずっとハロルドの名を呼び、「帰ってきた」「ハロルドさん」「傍にいて」と何度も言い続ける。
落ちついてきた彼女は、彼に風呂を勧めてご飯の用意もしてくれた。
以前と同じ日常が、また送れる。と、ハロルドは思っていた。
バイトへは、女神様の作った弁当を持って行き仕事が終わると部屋へ戻り彼女が帰ってくる前に部屋の掃除をした。
1ヶ月過ぎ、バイトにも慣れてきていた。
「それでですね、女神様!! 親父殿は本当に素晴らしい方なのです」
「うん……すごいね」
仕事で親父殿や若殿、他の仲間とした仕事の楽しさを語っているハロルド。それを聴いてくれる女神様。
何故だか、女神様は俯いて、こちらの顔をみてくれない。見てくれても、何だか……以前、見せてくれた愛らしい笑顔はなかった。
その日は、仕事がやや遅れていた。親父殿でも難しい作業だったのか、若殿とあぁだこぅだと議論している。夕方になり、一旦引き上げし明日へとなった。
「おぅ、坊主。アレからどうだ?」
「……?……」
「お前さんの女神様だよ?」
「はぁ……女神様は、いつもと変わらない……かと」
「変わらない? ソレはないだろ、昨日もバイト代入ったのにか?」
「えぇ、女神様は慈悲深いので。バイト代はいらないと」
「……そうか……まぁ、今日は遅くなってるから、早く帰ってやんな!!」
ハロルドは、いつもより遅いからと、全速力で走って行った。
先に帰っていた歌音は、ハロルドが帰ってきていない事に強い不安を持っていた。
「あっ、綾音ちゃん!!」
「歌音……どうし……」
すでに涙でいっぱいの歌音は、「ハロルドさんがいない」と泣きじゃくっている。たまたま綾音は早く帰っていたが、1ヶ月前のことで歌音がかなり取り乱していたのを知っている。
あの日、歌音が取り乱して「帰ってこない」と言って泣き続けていたこと。両親が、歌音と喧嘩をして交通事故で帰ってこなかったあの日。
「大丈夫。ねっ、歌音、落ちついて」
「帰ってこない……どうしよう? 帰ってこない」
はぁはぁと息を切らせた、歌音を泣かせた張本人。ハロルドが帰ってきた。
「女神様、遅くなりました!!」
帰ってきた男を見ると、歌音は抱きついて「帰ってきてくれた」と何度も言いハロルドの傍から離れようとしなかった。
ハロルドはこんなにも自分の帰りを待ってくれていた事への方に、考えがいってしまい「戻ってきました!!」と嬉々として言っていた。
歌音が離れないので、彼は「失礼します」と言い、抱き上げて部屋へと戻った。
そして、綾音から久し振りの正座での鉄槌を受けた。フリードも……。
フリードは、「アヤネちゃん~」と声をあげていた。
騎士は、この王子オカシイだろ? と思った。
綾音は、この騎士自分のしたこと分かってんのか? と。
歌音は、ハロルドさんが帰ってきた と。
皆、それぞれ、違うことを思っていた。
女神さまに、喜んで貰える! あの愛らしい笑顔が見れる! また、優しく頭を撫でてくださる! あの、あの……。女神様への溢れる気持ちが、どんどんとわき水のように出てくる。
「女神様ぁーーーーー!!」
ハロルドは、女神様と叫びながら走っていた。全力疾走で、掛けているが、規格外の走りなので、周りは……男の雄叫びだけが、耳に残っていく。
この国にきて、少し体力の落ちたハロルドは、少し息を整えて女神様の部屋の前で給料袋を抱きしめた。
彼女から預かっていた合い鍵で、鍵を開ける。
シッ……ンッ……
部屋の中は薄暗い。夜目がきき、耳の良いハロルドは、薄暗い中でも女神様が居ることは分かった。
「た、ただいま戻りました!!」
ハロルドは、女神様に届くように声を出した。
奥のソファがある場所から、小さな身体がピクリと動く。彼は靴を脱ぎ、ソファの傍へと駆け寄った。
ソファの傍から女神様の花の匂いがした。
「女神様? ただいま戻りました!!」
「は、ろ、る、ど……さ、ん?」
「はい!!」
「ハロルド……さん?」
「? はい!! 女神様!! ご報告が」
ぎゅうっと、抱きしめてられている。女神様が、俺に、抱きついている? 何故だ? バイトの話しを王子から聞いたのだろうか? しかし、王子には何も言っていない。
「め、女神、さま?」
「ハロルドさん、ハロルドさん……」
彼女は、ハロルドの名前を何度も呼び、抱きついたまま。だんだん、声が震え涙声になっている。
俺は、女神様に喜んで貰いたい……。この袋を見せたら、喜んで貰える!!
「女神様? あの、その……」
ハロルドが何度も声を掛けても、彼女はハロルドから離れない。やっと、顔を向けてくれたと思うと……涙で瞼が腫れていた。
「……女神……様? もしかして、泣いて……」
俺は、女神様を……泣かせてしまった?
愕然としている男の頬に女の手が触れる。
ドクン……ドクン……
静まりかえった部屋に、2人の呼吸だけが聴こえてくる。心臓の高鳴りがする。
触れた手は少し冷たくなっていた。すっと離れたと思った。その後、彼女は首元に顔を埋めて抱きついた。さっきは、正面から胸元に顔を埋めていたのが、どんどん近づく彼女の顔。彼女の小さな呼吸が、首元で囁く。
「ハロルドさん……帰ってきてくれた……」
ドクッドクッ……
心臓の高鳴りかたがおかしい。女神様に、なぜ、このような高鳴りを覚えているのか?
愛らしい表情は曇っている。ずっとハロルドの名を呼び、「帰ってきた」「ハロルドさん」「傍にいて」と何度も言い続ける。
落ちついてきた彼女は、彼に風呂を勧めてご飯の用意もしてくれた。
以前と同じ日常が、また送れる。と、ハロルドは思っていた。
バイトへは、女神様の作った弁当を持って行き仕事が終わると部屋へ戻り彼女が帰ってくる前に部屋の掃除をした。
1ヶ月過ぎ、バイトにも慣れてきていた。
「それでですね、女神様!! 親父殿は本当に素晴らしい方なのです」
「うん……すごいね」
仕事で親父殿や若殿、他の仲間とした仕事の楽しさを語っているハロルド。それを聴いてくれる女神様。
何故だか、女神様は俯いて、こちらの顔をみてくれない。見てくれても、何だか……以前、見せてくれた愛らしい笑顔はなかった。
その日は、仕事がやや遅れていた。親父殿でも難しい作業だったのか、若殿とあぁだこぅだと議論している。夕方になり、一旦引き上げし明日へとなった。
「おぅ、坊主。アレからどうだ?」
「……?……」
「お前さんの女神様だよ?」
「はぁ……女神様は、いつもと変わらない……かと」
「変わらない? ソレはないだろ、昨日もバイト代入ったのにか?」
「えぇ、女神様は慈悲深いので。バイト代はいらないと」
「……そうか……まぁ、今日は遅くなってるから、早く帰ってやんな!!」
ハロルドは、いつもより遅いからと、全速力で走って行った。
先に帰っていた歌音は、ハロルドが帰ってきていない事に強い不安を持っていた。
「あっ、綾音ちゃん!!」
「歌音……どうし……」
すでに涙でいっぱいの歌音は、「ハロルドさんがいない」と泣きじゃくっている。たまたま綾音は早く帰っていたが、1ヶ月前のことで歌音がかなり取り乱していたのを知っている。
あの日、歌音が取り乱して「帰ってこない」と言って泣き続けていたこと。両親が、歌音と喧嘩をして交通事故で帰ってこなかったあの日。
「大丈夫。ねっ、歌音、落ちついて」
「帰ってこない……どうしよう? 帰ってこない」
はぁはぁと息を切らせた、歌音を泣かせた張本人。ハロルドが帰ってきた。
「女神様、遅くなりました!!」
帰ってきた男を見ると、歌音は抱きついて「帰ってきてくれた」と何度も言いハロルドの傍から離れようとしなかった。
ハロルドはこんなにも自分の帰りを待ってくれていた事への方に、考えがいってしまい「戻ってきました!!」と嬉々として言っていた。
歌音が離れないので、彼は「失礼します」と言い、抱き上げて部屋へと戻った。
そして、綾音から久し振りの正座での鉄槌を受けた。フリードも……。
フリードは、「アヤネちゃん~」と声をあげていた。
騎士は、この王子オカシイだろ? と思った。
綾音は、この騎士自分のしたこと分かってんのか? と。
歌音は、ハロルドさんが帰ってきた と。
皆、それぞれ、違うことを思っていた。
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