異世界騎士の忠誠恋

中村湊

文字の大きさ
9 / 23

スマホ? それは何です?

しおりを挟む
 親父殿から「お前、スマホ持っていないのか?」と言われた。スマホなるものが分からないハロルドは、バイトが終わって帰ると王子に尋ねた。

 「あっ、これだよ」
 「ふむ、この鏡みたいなのが……うわっ?!」
 「あっ、コレね。ここが、承認ボタンで……」

 フリードは、ここに来てバイトを始める前に買ったという。お金はアヤネ殿に立て替えて貰ったと。
 ハロルドは、スマホがないとバイトの変更の連絡ができないと親父殿に言われ買うことを考えた。しかし、どこで売っているとかがさっぱり分からない。
 帰ってきた女神様に相談してみよう!! ということになり、掃除を済ませ玄関で待つ。

 「ただいま」
 「お帰りなさい!! 女神様!!」

 あの日以来、ハロルドは玄関で待つことにしている。帰ってきてすぐに彼女に分かるように……。
 ぎゅぅと彼女が抱きつくようになった。
 顔を少し彼の胸に埋め、何かを確かめるように……。

 ドクッドクン……

 「ハロルドさん……」
 「はい!!」
 「ハロルドさん」

 女神様は自分の名前を何度も呼んで、抱きしめてくれる。ハロルドも、それがまた日常になってきているが……心臓が持ちそうにない。
 女神様が、女神様が!! 心臓がどんどん早鐘をうつ。が、我慢がぁ!! これ以上は、これ以上は!!
 ハロルドのなかで、我慢? の限界にきていた。

 「めっめっめめ、めが、めがぁめがみさまっっ!!」

 そう言うと、ハロルドは頭から煙を出しているかのように床にへたり込んでいた。
 連日、帰宅した女神様に抱きしめられ続け。そして、夜も「一緒に寝て欲しい」とわれて同衾どうきんする状態。ハロルドは、忠誠を誓った女神様に望むことを叶えたい一心だったが……さすがに同衾はと躊躇ためらった。一緒の寝室で、別々の布団で寝てはいたものの、「傍にいて」と何度もお願いされ、折れた。
 
 「めが、めがみさ、ま……女神様ぁ」
 「ハロルドさん」

 そんな状態のハロルドにも、彼女は抱きしめたままでいる。フリードは、その状態を聴いて「なに、イチャコラしてんの?」と変な目で見られた。
 イチャコラという言葉の意味が分からない。ただ、コノ状態が連日続いたハロルドの限界がきていた。

 頭の限界を鍛錬で鎮めたハロルドは、何とかスマホの話しができた。

 「という訳なのですが……」
 「そうだよね。私もハロルドさんと連絡したい時あるから……明日は、お休みだからスマホ買いに行こう?」
 「はい!!」

 ハロルドは、再び……夜の我慢大会になった。

 スマホを買ってくれた女神様に感謝し、操作を少し教わる。そして、女神様の番号とメッセージのやりとりできるようにもしてくれた。

 「これが私の番号で、こっちがフリードさんと綾音ちゃん」
 「ふむ……女神様の番号と文字のやりとりはコレですね?」
 「うん。文字は……ひらがなとカタカナでもいいよ。言葉の間にこの空欄をいれて……」

 ピロン

 【ハロルドさん こんにちは】
 【めがみさま ありがとう】

 「うん、そうそう」
 「おぉ!! これはいいです!!」
 「これで、バイト先の連絡貰えるね?」
 「はい!! ありがとうございます!!」

 久し振りに、女神様の笑顔を見た気がした。
 あぁ、勘違いだったのだろう。女神様は、俺にいつもこんなにも愛らしくて……愛らしい? なぜだ? 女神様だぞ?

 「ハロルドさん?」 
 「いっ、いえ……その……笑顔が愛らしく……」

 な、なにを言って。俺は。
 言ったことが失礼だったと謝ろうとしたが、こちらに向けた彼女の笑顔が。ハロルドの心臓をさらに高鳴らせた。
 
 ピロン

 【うれしい】

 ドクッ、ドクッ……

 全身の血が一気に巡る。なにか違う感情も、忠誠とか、今まで違うものを……。
 
 「ハロルドさん……一緒にいて?」
 「……はい……」

 彼女の言葉の深い意味とか、もう考えられない。最近、深まっている彼女からの抱擁ほうようが嬉しく、女神様からの祝福だとしか考えないようにしている。
 もう、俺は、俺は……俺には女神様だけだ……女神様の傍を離れたく、ない。
 その日、初めてハロルドは彼女を抱きしめ返した。小さくて、自分の力を入れ間違えると折れてしまいそうなくらいで。とても、愛おしくて、柔らかくて、温かくて……。彼女の花の匂いに、もう、頭の思考が追いつかない。
 ただ、彼女が抱きついてくれば、抱きしめ返す。それを繰り返していくようになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

聖女は秘密の皇帝に抱かれる

アルケミスト
恋愛
 神が皇帝を定める国、バラッハ帝国。 『次期皇帝は国の紋章を背負う者』という神託を得た聖女候補ツェリルは昔見た、腰に痣を持つ男を探し始める。  行き着いたのは権力を忌み嫌う皇太子、ドゥラコン、  痣を確かめたいと頼むが「俺は身も心も重ねる女にしか肌を見せない」と迫られる。  戸惑うツェリルだが、彼を『その気』にさせるため、寝室で、浴場で、淫らな逢瀬を重ねることになる。  快楽に溺れてはだめ。  そう思いつつも、いつまでも服を脱がない彼に焦れたある日、別の人間の腰に痣を見つけて……。  果たして次期皇帝は誰なのか?  ツェリルは無事聖女になることはできるのか?

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

処理中です...