番としか子供が産まれない世界で

さくらもち

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1話

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「ニーナ!このクズが!!!」
早朝から私の仕事である庭掃除に朝食の下ごしらえの手伝いをやっと終えて朝食にありつけると思った矢先に呼び出されたので急いで向かったのに一言目からの罵倒。
これがこの男からいつも始まるセリフなのでニーナは麻痺している。
「お呼びと伺いました。」
何を言っても怒られるだけなので事実を端的に伝えるようになっているのは仕方がないことだろう。
「チッ、可愛げのない」
「申し訳ございません。」
頭を下げているので見えないがきっと歪んだ顔で見ているのだろうと私は冷めた心でぼんやり思う。
「アイシャのドレスを台無しにしたそうだな。」
この男の次女であるアイシャは美少女だ。
「身に覚えがございません。」
美少女だがかんしゃく持ちのアイシャは自分でダメにしたドレスを私のせいでダメになったと何度か父親に言いつけて私が怒られるのを繰り返している。
この男からしたら私もアイシャも実の娘のはずなのに産まれた時の見た目の序列が私は低く人前に出すことは家の恥らしい。
世間体というものが悪い為に私は病弱と言うことになっているらしく他の使用人達がこっそり話しているのを聞いてやっと知った事で基本的には私には世間というものを知る術は与えられていない。
父親は伯爵様と呼ばれている事、貴族と平民が居ること、私は貴族の娘として失敗作である。
など断片的な事は父親の暴言から知ったことだ。
使用人には優しくしてもらえるが私を庇ったり余計なことを教えようとするとクビにされてしまうからみんな私には仕事を教えてくれる時だけしか近寄ってこない。
時々私のことを気づかないで話している時に知らない事を知れるくらいだった。
「聞いてるのか!」
否定しても私のせいにされるからつい考え事をして、話を聞いていなかったら張り飛ばされてしまった。
暴力も珍しくないので痛いが我慢できない程でなかったのは良かった。

「ともかくアイシャには近寄るなと何度も言っているだろう。次近寄ったら追い出してやる。」
言いたいことを言い終わると部屋から追い出される。
アイシャには私からは近寄ることはしない。

「くすくす、早く追い出されてしまえばいいのに。」
廊下に出るとせっかくの綺麗な顔を歪めた笑顔で私を嘲笑う。
「そのために私のせいにしたの?」
「当たり前でしょ?なぜあなたを家に置いておくのか私には理解出来ないわ。」
私も産まれた子供に序列を付けてこうも差別するのは理解出来ないがこれが当たり前の事らしいので受け入れるしか私には選択肢が無い。
「そう…」
「惨めったらしい女が姉である私の気持ちも知らないでとっとと自分から出ていけば良いのに。」
「…………」
私はここを出たら生きていけない。
何も出来ないし何も知らないから。

「ふん!とにかく目障りなのよ!」
私が何も言えずうつむいていると飽きたのか言い捨てて去っていく。
どうしたら私もアイシャのように娘として育てて貰えたの?と何度も考えたことがあるけど答えはいつも出ない。
以前使用人の会話で父親や母親がなぜ私を嫌うのか理解できないと話している人がいたけど先輩にクビになりたくないならそれ以上は言わない方がいいと言われていた時に私に対する両親の嫌悪感は異常な事だと言うのは知ることが出来た。
母親は近寄る事さえおぞましいと言い放ち、いつもすぐ立ち去ってくれるから父親やアイシャよりは気が楽だと思ってしまう。
後は【番】という存在に早く会いたいと話している使用人は多かったので、番ってどんな存在なんだろうと、いつか誰か教えてくれる事があるといいなと思ってしまう。

そんな私にとって代わり映えしない日々がある日突然終わりを告げた。

後で知った事だが栄養状態が悪く、成人と見なされる番ホルモンが人より遅くやっと出るようになったとき私を取り巻く環境がガラリと変わった。
1つ歳下のアイシャは15歳の時から出ていたそうだけど、19歳の私がようやく出たのだ。

番ホルモンは番以外にもわかるものらしく、近くに寄ると気づくものらしいが私は今まで番ホルモンが出ていなかった為に他人のホルモンも認識出来ていなかった。
そして問題が起こってしまったとの事で発覚する。

あんな恐ろしい思いは二度としたくない。
アイシャの番に襲われかけたのだ。
番同士以外は子供が出来ない世界で浮気という概念は本来無い。
神の導きで25歳までには番に出会えて皆子を成している。
私は知らなかったが彼のところはアイシャの番ということだけは知っていたのだ。
襲われた事は何をされるかは分からなかったけどとにかく怖いとしか思えず必死で抵抗していた時に、よりによってアイシャに見つかってしまった。

「この女が変な番ホルモンを出して惑わしてきたんだ!」
アイシャの番はそう言って居た、!
私はその時はなんの事か全く分からず破られた服を必死で握りしめて居た。
「そんな訳……番ホルモンが出ているわ。そこのお前たち!」
アイシャの騎士たちが少し離れた所から近寄ってくる。
今、男の人に乱暴にされかけた私には恐怖でいっぱいだ。

「番ではないはずなのに番のように感じられます。」
「私も同じように感じます。」
騎士たちの言葉は私には理解出来なかったが、アイシャにはわかったらしい。

「穢らわしい!番以外を惑わすなんて!」
とにかくその場に居たらダメだと頭の中でそう感じる。
「そこのメイド!この女を閉じ込めて見張っていなさい!」
アイシャは今度は近くで遠巻きに見ていたメイドたちに命令して彼女たちが近寄ってくるが、咄嗟に走り出した。

「あ!お前たち捕まえなさい!」
騎士とメイドが追いかけてくるが毎日庭掃除している私にはみんなの知らない隠れ場を知っている。
ひたすらそこを目指して身を潜め追っ手をやり過ごすことができた。
ひたすら夜が更けるのを待って私を探す人達が寝静まったのを確認してから茂みから出る。
身を潜めている間にずっと考えていた。

この家から出ても生きていけないと思ってたし未だにそう思う。
でもこのままここにいてもまた男の人に襲われてもっと怖い事が待っている気がする。
だからここに居るよりは外の世界に出てみようと思う。
ここからほど近くの壁に使用人用の出入口があることは知っているからそこから出れればいいんだけど。

出入口には人影があったが、月明かりで見えた姿はいつもこっそり助けてくれていた厨房係のマイサだ。
「マイサ?」
ここでずっと隠れている訳にもいかないので小さな声で声をかけてみる。
どうかマイサが敵でありませんようにと祈りながら。
「ニーナ?無事だったかい?!」
良かった、マイサは敵ではなかった。
身体の力が抜けそうになる。
「なんとか無事みたい」
「良かったよ、とにかく急いで逃げな」
近くに置いてあった布袋からマントを出して羽織らせてくれた。

「ニーナ、あんたは特異体質かもしれない。」
「特異体質?」
「そう、本来なら産まれた時点で王宮に保護される事になるんだけど伯爵様は家の恥とニーナの事を隠したんだよ。」
「よく分からないけど私はどうしたらいいの?」
「扉を出たらこの香水をぶっかけてから右へ進んでから見えてくる王宮を目指すんだよ。王宮は街から見える」
「わかった」
「それから王宮の門の前で自分が特異体質かもしれない、と伝えるんだ。」
「特異体質ってすごいの?」
「それは分からない、とにかく王宮に行ったら説明してもらえるはずさ」
特異体質ってなんなんだろうとついいつもの癖で考え事をしてしまうが、
「それより早く行きな!ここにいると捕まっちまうよ」
布袋を押し付けるように渡され我に返る。
「うん、マイサありがとう」
「元気でね」

マイサの言う通り門の外の木陰で香水をふりまいてひたすら右へ進む。
しばらくすると遠目に屋根裏から見た事のある王宮が見えたのでそれを目印に歩く。
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