番としか子供が産まれない世界で

さくらもち

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2話

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薄暗い夜道を一人で歩くのは孤独で、家から離れてからせめて日が昇るまで隠れられる場所はないかと思っていると、だいぶ王宮が近くなったのを感じられる頃に、ようやく庭園のようなひらけた場所に出る。

手入れの行き届いている庭園にあるベンチにはボロボロの私が座ると怒られるだろうなとぼんやり思いながら花壇のわきにある茂みに身を潜める。
気の緩みからか気づくと寝てしまっていた。


「おい!起きろ。」
口調は強いが優しく肩を叩かれて自分が寝ていたことに気づくが、目の前の人物は私を疑うような目で見ている気がする。
「あっすみません。」
「こんな所で寝るなんて何を考えているんだ。それになんだその臭いは、臭いぞ?」
臭い?確かにいい匂いとは言えないけど色んな花の匂いを混ぜたように感じるだけだよね?

「えっと、私王宮に行って言わないといけないことがあるんです。」
何を話していいのかも分からず相手を警戒もせずに目的を話してしまう。
「王宮?なんの用でいくんだ?」
「えっと、とにかく王宮に行ってから伝えるようにって言われてるので……」
さすがに特異体質の事は王宮に着くまで話さない方がいい気がする。
「その格好で行く気か?」
そりゃこんなボロボロなのはどうかと私でも思うけど、これしか服がないから仕方がないもの。
「これ以外の服を持っていないので」
「はぁぁぁ、私は第1騎士団アンジェリカ・ルーブェンスだ。」
綺麗な人だなと思ってたけどアンジェリカって女の人の名前だよね?
騎士様の服がとっても似合ってて女の人とは気づかなかったな。
「あ、ニーナです。」
急に自己紹介されて咄嗟に名乗ってしまったけど、
「申し訳ないが持ち物を見せてもらえるか?」
そういえばマイサは何を入れてくれたんだろう。
「はい」
特に袋の中身を隠せとは言われていなかったし、素直にアンジェリカに渡す。
「失礼」
袋の中から使用済みの香水瓶と1枚のハンカチが出てきた。
「あ、それ」
ハンカチに刺繍されていたのは伯爵家の家紋だ。しかも私が刺して失敗したやつ。
「家紋だな、見覚えがないが後で調べればわかるだろう。」
「ランドール伯爵家の家紋って聞いています。」
ランドール伯爵家の汚点とよく言われていたのでそれは覚えている。
「ランドール伯爵家?あー地方領主なのにいつも王都にいるあの。」
地方領主?よく分からないけど確かにいつも王都の家にいたのは間違いない。

「それで?なぜニーナがランドール伯爵家の家紋の入ったハンカチを持っているのか説明できるかな?」
「家から逃げる時に持たされた荷物の中身だったのでなぜ入っているのかは分からないです。」
マイサはなんでこのハンカチを入れたのかな?
刺繍に失敗してアイシャにやり直しさせられた時のハンカチをこっそりマイサにあげたヤツだと思うんだよね。
「家から逃げる?ニーナはなにか犯罪を犯したのか?」
「いえ、妹の番に服を破られて妹が怒ってたので逃げ出しただけです。」
「は?妹の番に服を破られた?そんな馬鹿な!」
「実際この服を破られてます。」
マントをめくって破れている服を見せる。
「確かに」
「逃げる時にこの袋を持たせてくれた人が王宮に行ってある事を伝えるようにって教えてくれたので行かないといけないんです。」
「事情はわかった。マントの下も武器等も無いようだしひとまず私と王宮に向かおう。」

アンジェリカが乗っていた馬に乗せてもらい王宮へ連れて行ってもらえるようで良かった。


アンジェリカに連れられて行った王宮でまず使用人の寮に連れていかれ湯浴みと着替えをさせてもらえた。
すぐに着れそうな服がメイド服しかないとアンジェリカは申し訳なさそうだったけど、こんないい服は初めてとはしゃぐと複雑そうな顔をされてしまった。

「それでニーナは『特異体質』についてはなしをするつもりだったのかな?」
寮の応接室でお茶を出してもらい出がらしではない紅茶を初めて味わっているとアンジェリカに聞かれる。
「え?そうです!なんでわかったんですか?」
「香りだよ、湯浴みをしてさっきの臭いが無くなったとたん君の香りが変わって同性でも大切にしたいと思わせる香りだからね。」
「あのー、特異体質ってそういう事になる事なんですか?」
マイサには詳しく聞いている時間がなかったもんね。
「知らないでいたのか?」
「昨日初めて番ホルモンが出たらしくて、番ってのもよく分からないし。」
「なっ!」
この世界で番のことを知らない人間がいるなんて考えられない、それが常識だ。
「親には嫌われてて使用人達も仕事を教えてくれる事しかしなかったから。」
何が普通であるかも知らない。
「とりあえずニーナには会って欲しい人が居るんだ。」
「はい」
疲れているだろうからって空いている使用人部屋で寝ていていいと案内されたけど私がいた部屋とは全然違う素敵なお部屋のふかふかなベッドで直ぐに寝てしまった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その頃

「団長、あの方の番が見つかったかもしれません。」
ニーナを寮から移すのに男に合わす訳にはいかず女性騎士を扉の前と寮の外に数人配置してアンジェリカは騎士団総団長執務室にノックもそこそこに飛び込む。

「アンジェリカ!ノックをして返事を待てといつも言っ……、今なんて言ったのか?」
アンジェリカの叔父にあたる総団長がいつもろくにノックをしない姪に文句を言いかけたがそれより大事なことを言っていることに気づく。

「かの方の番かもしれない女性を保護しました!」
ドヤ顔のアンジェリカ
「は?保護?」
国を挙げて探していたかの方の番が見つかりしかも保護とはどういう事なのか?
「はい、かの方以外の男を近寄らせるわけにいかないと判断し今は使用人女子寮の一室に保護し、女性騎士に護らせています。」
他の男に接触させないようにした判断は間違っていないが、なぜ使用人の寮なのだ……

「ひとまず保護の経緯を説明しろ。」
気を取り直しアンジェリカの話を聞くと見つけたのがコイツでよかったとそして使用人の女子寮に連れて行ってある意味正解だったのかもしれないと思えた。

「アンジェリカはその番候補の女性の傍で警護にあたれ、私は陛下に報告に行ってくる。」
「承知!」
そう颯爽と去っていく姪はどう見ても優男でしかなかったが、急ぎ陛下に先触れを出し報告せねばと自身も執務室を後にするのだった。

かの方の番が生まれていたのは10年近く前には判明していたが、大抵はその前に候補者は保護され王宮の離宮で育てられているが、今回は保護されていなかった為王宮の要職につく者たちは慌てて年頃の娘のいる各家庭に通達を出していたのに見つからなかったのだ。
【我が子の匂いが好きになれない子がいた場合は王宮にて保護をする。まだ保護されていない者がいる場合は速やかに報告せよ。】
そう国王の名において通達されたのにも拘わらず隠した家があったのは知っていた。
どこの家が隠していたのかと思えば候補から外していた家が隠していたとは盲点であったが、陛下の通達に逆らったのだからきっちり裁きを受けてもらう必要がある。
もっともかの方の怒りの方が大きいだろう。
番紋が浮かんだのに番が保護されず見つからないことにかなり苛立ちと怒りを抱いていらっしゃったのだから。

案の定陛下とかの方に報告したところお二人の怒りはかなりのものだった。
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