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第ニ章

アルバァ 第5話

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 「どうぞお入りください。」

 今まで通行人には無愛想でメンドくさそうな顔をして形式的に「入ることを許可する。」くらい言っていない門番が急に愛想笑いを浮かべながら恭しく話しかけて来た。
 なんか色々と言っているが、フリーズ状態の僕にはそれがあまり頭に入らなかった。

 たった今心の中でコルネーリオさんたちと別れを告げて脱走しようとしたのに、なぜか歓迎?されている。

 内心では慌てふためくことこの上なしの状態だが、こっちも伊達に長い間接客業をしてきた訳ではない。幾ら内心が慌てていようと外面に出す程バカではない。ずっと笑顔をキープしている。

 それも今は崩れそうではあるが……

 僕はどうして良いかわからず呆然としていた。しかし外見はあくまでも笑顔。しかも話しかけても何も返事をしない。
 これを世間一般は『ガン無視』と呼ぶ。門番はそれを僕の不興を買ったとみなしたのか慌てだした。

 事態は更なるカオスに突入した。









 フリーズ状態の僕は固まっていたが、幸いしてコルネーリオさんはまだ正常な思考能力を保持していた。
 上手いこと門番と掛け合って、無事に検査を通った。

 全く持って意味不明にロナンに入ってしまったが、その後にちゃんとコルネーリオさんから説明を受けた。

 その四角い機械みたいなやつはいわば戦闘力を測定するものらしい。測定と言っても明確な数値を出せる訳でもない。

 使い方はこんな感じである。

 まず、誰かにこの機械に触ってもらう。その時にこの機械はその者の力を測定し基準として登録される。その基準を超えない場合は白く光り、それを超えた場合は黒く光る。

 最初は本当にこれだけの機能だったが、どうやら王国に仕える『双黒の賢者』という方がこれに改良を加えて犯罪者には灰色に光るようにしたらしい。その時に正式名称を『身分検査機』と改めたとのこと。
 どういう基準で犯罪者と定めて灰色に光るのかは僕には不明だが、そう言われてみればなるほど納得がいった。
 犯罪者が町に入ろうとしているなら捕まえて当然だな。金貨の袋を渡して入れるのなら効果の程は考えさせられるが。
 しかし、その機械は冤罪を出さないのだろうか?万が一に誤作動を起こしてそうではない者を捕まえることになったらどうなるのだろう?

 まぁ、どういう仕組みをしているのかわからないし、一市民………ですらないかもしれない僕がとやかく言うのも変な話だろう。
 と言うより、僕の立ち位置はどうなるだろう。考え方によっては不法入国者。犯罪者にしか見えない。灰色に光らなかったのは僕がギャグ神に貰ったこの力のおかげだろう。



 そして、僕がどうして町に入れたかと言うとやはりこの機械のおかげだ。
 この町『ロナン』は隣国の『スペクリア十公同盟』との国境すれすれに位置している。表向きは貿易の為に建設され、実際ここは確かに物流の中継地点として栄えているらしい。
 しかし、それはあくまで表向きであり、真の意味は有事の際に要塞都市としても活用することにある。

 故に、ロナンには国が選んだ『四大騎士』の内の『バナルグ』という騎士が国から派遣されている。この町の身分検査機の基準も彼の戦闘力を基準としている。

 説明を聞いて時、だったら尚更僕は危険人物扱いを受けるのではないかとも思ったが、それもコルネーリオさんの続く言葉で杞憂に終わった。

 流石はハイファンタジーの世界というべきか、この世界は強者と弱者(一般人)の力の差が半端なかった。
 『四大騎士』レベルにもなれば一騎で一万の下級兵士を屠ることも簡単らしい。僕はそんな怪物を凌駕する程の力が測定されているから、阻むこと自体が無駄という認識になっている。

 それどころか、僕の機嫌を損ねないように最初に会った門番の人が慇懃を尽くして僕を城主館に案内してくれている。実情としては僕の監視も兼ねているだろう。
 
 なんでも、僕がここにきたタイミングもすごかった。王国の最強戦力の『四大騎士』と『スペクリア十公同盟』の最強戦力の『十大戦士』が両国の友好関係を確かめる為に四日間に渡って宴会を開く。
 今日はその三日目。僕も『旅の強者』という位置付けで半ば無理矢理に招待された。日本の一般人の性格上、手厚く歓迎されると断れない性格だから仕方ない。
 精々面倒ごとが起きないように祈り続けるとしよう。

 お願いをすれば結構色々と承諾してくれるにも心あたりはあるからな。










 にしても、『双黒の賢者』と言うのはどこか聞いたことのある響だな。
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みんなの感想(1件)

ジェラルド・R・フォード

発想が面白い

ニコニ
2018.06.17 ニコニ

感想をありがとうございます。
まだまだ拙い文章ではありますが、これから腕を磨いていく予定ですので、ご期待ください。

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