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第一章

イトネン 第3話

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「え~と、怖がらせすぎました?」
 さっきまでの存在感が嘘のように、またいつものようにどこか抜けた顔になって、喋り出した。
「いや~、最近扱いがあまりにぞんざいですから、だからすこ~しだけからかおうとして……
 やっちゃいましたね。ハハハ………」
 そう言って苦笑いする、本当に悪ふざけ程度のことつもりだったみたいだ。
「本当にちょっとしたイタズラのつもりだったんですよ。普通の第五級神なら、これは冷やっとする程度のドッキリなんですけど…
 あなたの場合、ちょっと特殊なんですよ。信者ゼロで、精神もさほど強くない、私が神格を与えただけのもの。つい加減を間違いました。」
 目に見えるほどしょんぼりしてる、項垂れて犬耳の幻覚が見える。今、この情景を誰かに見せるれば九割こっちが悪者と思うだろう。いじめられたの、僕なのに……

「それにしても変ですね。あなたがいくら豆腐メンタルだろうとここまでならないはず、ましてや一部とはいえ、私の力を知りながらギャグ神と言うほどの猛者。
 何より私の計算がこうも外れることなどほぼありえません、それこそ私が管理する世界が皆崩れてしまうほど。耄碌してしまったのでしょうかね…」

「前半の根拠が納得できないので、きっとあなたが耄碌してしまったのでしょう。もう遅いかも知れませんが、一度医者に診て貰った方がいいですよ。」

「認めたくないのでさっきの話を続けます。」
 そう言って、明後日の方向に向かって喋り出した。
「武力を以って挑戦することで至高神になったのは一柱だけです。『種族』の力が強いためその種族の長が至高神になったのが三柱、それ以外の三柱は別の方法で至高神になりました。羨ましくなんてありませんよ。」
 そこまで言うなら僕もツッコまない。
「『賜与至高神』と『契約至高神』は分かりやすいエリートですね。第二級神の時にとんでもなく仕事が出来てたから創世主から称号を貰った、今は昔を超えてさらに仕事をしています。『開拓至高神』は創世主を超えるほどの世界を創る技術を編み出したので、その功績で称号を貰った。私の場合は称号のとおり、しょうもないほど堕ちてしまったので、それで至高神になりました。
 このまま階級を上げればいつかなれるかも知れませんし、とんでもない研究をするのも一つの手。私のは参考にしない方がいいですね。」

 情報を消化するため、しばらく沈黙の間が空いた。

「そもそも至高神というのは何をするのですか?」
 それが分からないと話が進まない、進めてはいけない気がする。苦労の塊のようだったらこっちが願い下げだ。

「特に何も。緊急事態がない限り、定期会議にでるだけです。創世主直々の指示があればそれをやるだけで、それも滅多にありません。エリートニ名は別ですが。
 そう、至高神という位は本来、世界を支える最低限の仕事をこなせば、神々の上に立つ、ただ美味しいだけの職でした。本来は……」
 一瞬で顔が歪み、昏い笑みを浮かべる。
「それがどうしてですか!?なんてこんなにも仕事が多いんですか!?
 ヒグチさん!質問です!」

「は、はい!」
 その気迫に迫られてただおどおどするしかなかった。

「十割る八はなんでしょう!?」

「えっと、1.25…」
 簡単な問題に戸惑う。

「そのとおり!八柱で分配してやれば一割程度!でもどうして先輩たちは九割くらい押し付けて来たんですか!!新神いじめですか!!?
 なんとか六割にしたんですけど、って結局半分超えてんじゃないですか!!」
 話が見えて来た、要するにギャグ神はやはりとも言えるいじめを受けていた。以上。
 当然のことになぜ怒るのか。全く分からない。
「あなたまでいじめるんですかぁぁぁあ!!?」

「前は違ったんですけど、大戦で使える神は殆ど死んでしまって、仕事が一気に増えたんです。
 馬鹿な方が仕事をやると世界が崩れかねないので、馬鹿なのをいいことに、仕事を押し付けてないと踏んだんでしょうね。
 魔族至高神と『開拓至高神』の二柱とエリート神二柱を合わせてやっと四割やれるんですもの。それも私が確認しながらやっているので、全部やってるようなものですよ。」、
 ギャグ神は深くため息をついて、黄昏ていた。
 神といえど悩みはあるらしい。それもサラリーマンのような感じの。

「では、僕を神にしたのは将来仕事を分担してほしい、という考えがあるからですか?」

「いえ、特には。私があなたを神にしたのは面白いからやってみた、深い考えがあった訳じゃありません。
 至高神が集まっても半分いかないのに、そんな無理難題を押し付けませんよ。」
 ギャグ神は意外と常識があったようで、思わずきょとんとした。少し見直した。

「私がメッチャ強いところはスルーですか、まぁいいです。さて、至高神の話を終わらせて、今のあなたの話をしましょう。」
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