スマホから始める魔界冒険

ニコニ

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スマホは偉大なり

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 二日目の朝、全身がヘトヘトの状態で小沼はアルダスの実験室に連れていかれた。昨日は観察する暇も余裕もなかったが、この実験室は中々広い、テーブルの上には色んな薬品や用途不明な道具が所狭しと置いてある。

 アルダスの前だからなのか、さっきまで小沼に向かってデカイ顔をしていたスリは恭しく振る舞い、アルダスは手を振ってスリの止まることを知らないお世辞を中断させた。

 「腹は減ったのか?」

 そう聞いてきたアルダスの顔を、小沼は心の中で百回以上ボコボコにして頷いた。

 「丁度いい、これを試してみなさい。」

 アルダスは『良からぬことを企んでいるオーラ』を全開させて緑色のドロドロとした液体が入った瓶を取り出した。それもプクプクと白い湯気を出している状態で。
 それをみた小沼は全身が鳥肌がたち、直ぐにさっきの軽はずみの答えを後悔して頭を横に振った。

 隣にいたスリはそれを見るや否や小沼の頭をを一発殴り、蹴倒してボコボコにした。

 「もういい、取り敢えず半分を試しに飲ませてみろ。」

 小沼は仕方がないと諦め、吐き気を無理やり押さえ込んでこの気持ち悪いポーションを一本分飲み干した。幸いなことに舌にほぼ触れずに腹に流し込んだから、味からの精神ダメージは少なかった。

 暫く経ってようやく小沼はアルダスが何を企んでニヤニヤしているのかがわかった。腹がどんどん熱くなって、痛みの波が押し寄せてくる。
 彼はこの痛みに覚えがあった。なのだから。

 この時、あが再び脳内に響いた。

 『正体不明な物質を発見、『解毒』開始しますか?』

 『吸収可能な物質を発見、『吸収』を開始しますか?』

 これもまたの声である。

 彼の前に一台のスマホが現れる。けれども、それが見えるのは小沼だけのようだ。画面が光り、ホームが映る。

 手は実験室に来る前に縄で縛られた。手は使えない。他にスマホ画面を押す手段がなかった小沼はイモムシ行進でそれに近寄り……





 ……舌で『解毒』と書かれたアイコンを押した。

 『只今から『解毒』を開始します』

 『只今から『吸収』を開始します』

 その瞬間に痛みは軽くなり、呼吸の自由も徐々に戻ってくる。それに安堵するのも少しの間のみ、は次の知らせを届ける。

 『正体不明な物質は『解毒』により『使用可能エネルギー』に変換されました。システムのスタートアップに使用しますか?』

 (意味はよくわからないけど、とりま使用します)

 敬語で心の中で独り言を呟き、舌でホーム画面に光っている『はい』を小沼が押そうとした時、勝手に『はい』が押された。

 そこで小沼はあることに気づく、心の中で『解毒』を選択。

 『既に『解毒』が使用されています』



 (……)



 (…………)



 (…………………)



 (何も舌を使って押さなくたっていいじゃねぇか!!)

 彼が心の中で一人漫才をしている時に、アルダスは興味津々に小沼をじっと観察していた。

 『薬剤師』という職業はこの世界ではかなり敬われている職業の一つである。
 戦士と傭兵は登り詰めれば当然尊敬されるし、魔術士と召喚術師は言わずもがな、あっちこっちで引っ張りだこの存在である。

 但し、前者はあまりにも数が多く、戦績と武功を相当積み重ねなければならない。後者は先天性の素質を重視するので、数は少ない為に適正があれば出来が悪い者でも多少は大事に扱われる。

 しかし、薬剤師は全く別物である。才能が関係ないとまでいかないが、そのかわりに知識の絶対量と種類がとても重要である。数十年もの間に渡り書簡と資料に浸り、更にそれ以上の時間をかけて実験と検証を繰り返す。それで漸く薬剤師と自称出来得る程の知識を集めることができる。

 この時代では即戦力が重要視されることが多い為か、戦闘力が低い上に長時間の下積みを必要とする薬剤師はあまり人気な職業ではなかった。それでも、愚か者とイカレ以外にその実用性を認めない者はいなかった。
 むしろ、数が魔術士よりも遥かに少ないからそれ以上に尊敬を集めることが多い。





 アルダスは天才だった。ダークエルフは寿命が長く、手先も器用なのだから様々な職業に適正がある。アルダスはその中でも一際目立つ程に優秀で、下積み時代を普通の半分以下で終わらせた。
 だからなのだろう、本来ならその期間に作っておくべきコネやパイプをあまり作らなかった。それどころか自分以外は全て凡百なグズと考えて疎遠にしてきた。自分が弟子入りした師のこともそう遠くないうちに超えられると信じて疑わなかった。

 だからなのだろうか、彼は下積みを兄弟子の誰よりも早く終わらせ、弟弟子の誰よりも遅くに就職先を見つけた。

 しかし、自分の間違いを認めたものの、彼は自分がこんなところで燻ってて良いものとは思わなかった。
 そんな時、如何にも面白そうな実験台が転がり込んできた。彼は何か実績を出すには最適だった。
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